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2、私に求めるものが、私でなくてはならない理由がありますか?

「何、ヴィスが来るって?」

 はい。お知り合いですか?

「知り合いっていうか、まぁ、腐れ縁みたいなものかな、アイツとは」

 ……ずいぶん、嬉しそうですね。

「年賀状くらいは出してたけど、あいつも俺も出不精だからな。それほど遠くに住んでるってわけでもないんだが、直に会うのは三年ぶりくらいになるのかな?」

 女性、なんですよね?

「俺に女の知り合いがいたら、そんなに変か?」

 変じゃありません、けど。

「それなら、なんでそんなに目を丸くしているんだ?」

 お姉さんとか、妹さんだとか、そういう血縁者ならまだ納得出来たのですが。

「失礼なやつだな」

 すみません。

「まぁいいや。俺がもてないのは事実だし。それより、飯にしよう」

 はい、食事の支度は出来ています。

 ところで歓迎の用意はどうしましょう?

「ヴィスのことなら気にしなくていいぞ。あいつは用が済んだらとっとと帰っちまうタイプだからな。茶の一杯でも出しときゃいいさ。すまん、醤油とってくれ」

 いえ、ヴィスコンティさんの事もですが、私のお友達も一緒に来ることになってるんです。

 えーっと、はい、お醤油です。

 一応デミグラスソースと中華あんはかけてあるんですけれど……。

「タマゴ焼きには醤油かけるに決まってるだろう。 ん? ああ、友達ってさっき端末で話してた子か?」

 はい。ディエンテッタさんと言います。

「なんだ。ヴィスんとこのやつだったのか。しかし、あいつが助手雇うとも思えないがなぁ」

 ディエンテッタさんは助手じゃありません。ヴィスコンティさんはディエンテッタさんの母親だそうですから、おそらく娘、ということになると思います。

「あいつの子供ねぇ。いつの間に結婚しちまったんだろう」

 残念でしたね、コウさん。

「別に。あいつとはそういう関係じゃないからな。うまかった、ごちそうさん」

 おそまつさまです。片付けますね。

 あ、お茶どうぞ。

「おまえの友達の歓迎の準備なら、好きにやっていいぞ。子供なら、お菓子かなにか用意してやれよ」

 はい。ケーキでも焼こうと思います。今から焼いて間に合うでしょうか。

「……ちょっとまて、端末で話してたんだよな? 電話じゃなくて」

 はい。

「最近の幼児はパソコン扱えるんだな……」

 あの、ディエンテッタさんは、幼児ではないと思います。話した感じだと十歳前後くらいの感じでしたが。

「ヴィスの子供だとしたら、多めに見積もったとしても三歳くらいのはずだぞ。三年前に会った時にはアイツにガキなんていなかったからな。だいたいあいつはそんな大きな子供がいる歳じゃないぞ」

 ヴィスコンティさんって、お若いんですか?

「確か今年で二十四だったはず。十代のうちに産んでたのなら可能性は無くは無いが……」

 必ずしも、実の子供とは限りませんよね。母親代わり、ということかもしれませんし。

「そうだな。まぁ、会えば分かることだ」

 ちなみに、何をされている方なんですか?

「俺と似たようなもんだ。錬金術士といえばだいたい想像つくだろ?」

 はぁ、コウさんと同じということは、詐欺師なんですか?

「……おまえは自分の創造主に対してなんちゅうことをいうんだ」

 冗談が分からない人は、もてません。

「笑えないのは冗談とは言わない。だいたい俺は発明家だ! なんで詐欺師になる?」

 絵空事で他人からお金をもらう点では、詐欺師と変わりありません。

「悪かったな! 理論だけで、実用品が少なくて」

 まぁ、私は完璧ですけどね?

「いってろポンコツ」

 あなたが作ったんですよ? 私がポンコツならコウさんはへっぽこです。へっぽこぴーのぷぅです。

「なんだそれは?」

 なんとなく、言ってみただけです。ぷぅ。

「粗大ごみって、電話しなきゃ持って行ってくれないんだよな?」

 いえ、電化製品はメーカーか電器屋に引き取ってもらわないとだめです。直接持っていっても処理場では受け取ってもらえません。この場合、私を処分したかったら、コウさんが自分で私を分解して、分別してから、処理場にもってかなきゃいけません。

「……そんなめんどくさいことする気力はないぞ?」

 私もそんなことはされたくありません。

「お互い利害が一致したところで仲直りするか?」

 許してあげます。

「許されてやる」

 ところで何の話をしていたんでしたっけ?

「俺も忘れた。まぁ、なんだ。俺は部屋で作るものがあるから、何かあったら声かけてくれ」

 たまにはお金になるものを作ってくださいね?

「おまえを量産したって買うやつはいないだろうしな。ふはは」

 ……。

「どうした。冗談の分からないやつはもてないんじゃなかったのか?」

 客観的に見て、私のような人形には様々な用途があると思うのですが、コウさんは私を商品化する気はないのですか? 市販品には私のような完全自律型の人形はありません。どこかのメーカーにでも売り込めば、相当な値段で買い取ってくれると思います。

 仮にコウさん自身がオーダーメイドで少量の受注生産をするとしても、億単位の利益が見込めるのでは無いでしょうか?

 なぜ、私を商品化されないのですか?

「……悪いが、おまえみたいな人形は売れないよ。今は人工生命体が出回ってるからな」

 やっぱり、生身の方が売れますか?

 生身の方が柔らかそうですし。ぷにぷに。

「おまえがどういう用途を想定してるのか知らんが、人工生命体なら整備調整の手間が少ないからだよ。自動人形は芸術品でもあるし、メンテに金がかかるからな。専用の業者にかかる費用を考えたら、運用にかかる値段の桁がひとつかふたつは違うからな。同じ用途で使うなら、人工生命体のほうが経済的だぞ。パソコンの代わりに使うか、メカフェチでない限りは自動人形を使う理由は無いだろう」

 でも生き物は言うこと聞くとは限りませんし、プログラムでコントロール出来る人形の方が汎用性は高いと思います。

「俺の言うことを素直に聞いたことが無いくせに、よくそんなことを言えるな」

 あくまで一般論です。

「人工生命体は簡単な術式で縛れるから、プログラムを打ち込む方が面倒だぞ? だいたい基本設計に無い行動は出来ない人形よりは、人工生命体の方がはるかに汎用性は高いだろう? 人型であれば、基本的に人間に出来ることなら何でも出来るわけだからな」

 ……それなら、なんで私を作ったんですか。家事くらい、その人工生命体にだって出来るんでしょう?

「いっちょまえに、自分の存在理由が気になるか?」

 あたりまえです。ただなんとなく、でこの世に生み出されたら、何のために生きているのか分かりませんから。

「普通の人間なら、いちいちそんなこと考えたりはしない。いや悩むやつもいるかもしれんが、父親と母親がやることやった結果生まれる以上の意味なんかないだろう?」

 私は、コウさんがやることやった結果生まれたのですか……? なんだか生きる気力が失せてきたような気がします。

「生きる、か。おまえがなんでそんなに自由に考え、喋ることが出来るかわかるか?」

 そういう風にコウさんが作ったんでしょう?

「違う。それはおまえに心があるからだ」

 ……面白いことをいいますね? 私は歯車やバネで作られた、ただの自動人形に過ぎません。私がわたしだと思っているものは、ただのプログラムに過ぎないのでしょう?

「おまえがただのプログラムに過ぎないのなら、おまえは自分が何者かなんて考えたりしないさ。おまえがおまえだと思っているものはプログラムじゃない。俺が歯車やバネで身体を作ったからおまえは自分を自動人形だと思っているに過ぎない」

 私は人形ではないのですか?

「おまえはただの自動人形じゃない。複製も出来んし、ある程度以上壊れたら修復も出来ん。おまえをおまえたらしめているこころはひとつしかない。それはデータではないから複製も修復も量産も出来やしない」

 話を聞いていると、私の存在自体がやたらと胡散臭くなってくるのですが。

 では、そもそもどうやって私を作ったんですか?

「人間にだってあるかどうかは科学的に証明されていないシロモノだぞ、こころってのは。どうやって作ったのかなんて説明できるか」

 ……まさか、偶然できちゃった、ってやつですか?

「失礼なことを言うな。ちゃんと作ろうと思って、その通りのものが出来たんだから、偶然じゃないぞ?」

 再現できないのなら、偶然と一緒です。

「確かに、同じ製法でもう一度やってみてもおまえと同じになる可能性はかなり低い」

 認めましたね。

「心を生み出せないという意味じゃない。時間と手間はかかるが、おまえと同じような完全自律型の人形は作れる。ただし、それは絶対にキィではない、ということだ」

 同じ製法で同じものが出来ない……?

「おまえの人格と言うか、性格は、俺が作ったものじゃないからな。俺は魂の器のようなものを作っただけで、そこに発生したこころには一切干渉していない。というか直接には手を加える手段が無い」

 私の性格って、コウさんの趣味じゃなかったんですか?

「俺は自分の作ったものにコケにされて喜ぶ趣味はないぞ。もっとも、俺の言うことを素直に聞かないからこそおまえの存在に意味があるんだが」

 ……あの、もしかして、前から薄々思ってたんですが、それってコウさんには私を制御できないってことですか?

「それが完全自立型ってことだろ? 俺にはおまえに命令を強制する手段はない。お願いする権利くらいはあると思うが……」

 そのくらいなら、認めてあげます、けど。

「一個の人格である以上、基本的におまえは自由なんだぞ?」

 ……つい、かーっとなって、コウさんをナイフでさくっ、っとやっちゃうのもありですか?

「素直に刺されるわけにはいかんが、おまえがそう考えるのを止める手段は俺にはないな」

 それじゃ、私の商品化は無理ですね。

 制御できない自動人形なんて危険な物、人間にとっては価値がないですよね?

「道具としてならそうだろう。言うことを聞かない道具に価値はない。それどころか逆らうかもしれないモノなんて、誰も買わないだろうな」

 製造物責任法に引っかかるんじゃないでしょうか?

「いやそれ以前に倫理的にかなりヤバイぞ?」

 やばいですか。

「人権問題とかあるしな。一個の人格を持った存在を所有するっていうのは、奴隷と一緒だろう?」

 人工生命体は問題にならないんですか?

 自動人形なんかより、よっぽど騒がれそうですけど。

「あっちはちょっと特殊だな。人工生命体の場合、最初から細かい規定と規制があってだな、知能や知性が抑えられているんだ。法的にはペットに近い扱いになる」

 ……初めから人間以下の存在として造られた生物なんですか。

「まぁ、基本は喋るイヌやネコだからな」

 人の姿じゃないんですか?

「人型は規制がとんでもなくきついんだよ。基本的には、ひと目で人間以外と分かる容姿やサイズにしなきゃいけない。外見が人間に近づき続ける自動人形とは対照的だな」

 自動人形は人の姿で問題にならないんですか?

「問題にするやつもいるが、自動人形ってのは生き物じゃないからな。間近で見ればすぐに作り物だとわかるし、ただの人型の道具に過ぎない、というのが一般的な見解だな。データの積み重ねによって色々な判断は出来るかもしれないが、自分の意思が無い、命令されなきゃ何も出来ないっていうのは結局のところただの道具ってことだろう?」

 ……。

 ……それじゃ、私は?

「俺は人型の道具が欲しかったわけじゃないからな」

 私は家事手伝いの道具ではないのですか?

「道具にわざわざこころなんかつけるか」

 あっても楽しいんじゃないでしょうか?

「使う方はともかく、使われる方はたまったものじゃないだろう?」

 道具なら、少なくとも存在していい理由と価値と意味があります。

 ……私は、コウさんにとって意味があるのですか?

「俺は意味の無いものを作ったりはしない」

 コウさんが私に求めるものが、私でなくてはならない理由がありますか? コウさんが新しい人形を作ったら、私は不要になったりしませんか?

「おまえはこの世にたったひとりしかいない。おまえの代わりになるものなんかないぞ?」

 私、コウさんのそばにいても、いいんですよね?

「当たり前のことを聞くな」

 ありがとう、ございます。

「ばか、泣くやつがあるか」

 私、そんな顔をしていますか?

「ぼろぼろと涙流しといて、そんな顔も何もないだろう」

 こういうときは、私をそっと抱きしめて、頭なでなでくらいはするものですよ?

「……俺はもてない男だからな。そんなことには気が回らないんだ」

 抱きしめてはくれないんですか?

「してほしいのか?」

 目つきがいやらしいので、遠慮しておきます。

「そういうこと言うんなら、くっつくな」

 自分から抱きつく分には抵抗ないんですけれど、なんででしょうね?

「俺が知るか」

 そうですね。

 すみません。しばらくこのままでいさせてください。

「……落ち着かないんだが」

 ……そういうこと言うからもてないんです。






「じゃ、俺は部屋に戻るからな」

 はい。私はケーキを焼くことにします。

「……キィ」

 なんですか?

「……愛してるぞ」

 ……ばか。

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