最後の鎮魂歌《ラストレクイエム》
「素晴らしい。なんと素晴らしい。これこそが、私の求めた戦争だ。例え世界中を探そうとも、これに勝る戦争を見つけることは容易くないだろう。それぐらい、この戦争は素晴らしい。何が素晴らしいかと、いちいち説明する必要があるのかい?血生臭い?それがまたいいじゃないか。死者たちの悲鳴が」
「一人で勝手に喋らないでください」
そういって、僕は師匠の言葉を遮った。師匠は最近、鎮魂歌を作ることにはまっている。
だから、今日だって雨の降りしきる中、なんとか宗教戦争の真っ只中にいるのだ。
もう、戦っている兵士たちにとって宗教などどうでもいいのだろう。ただ殺し、殺される。それが目的。だってそうだろう。あそこで戦っている人殺しの集団が、信心深いなんて到底考えられない。
どうせ、地下に埋まってる宝石やら資源やらが欲しいだけに決まっている。聖書もコーランも、彼らにとってはただの紙切れ未満なのだろう。
「君、師匠に対してそんな口を聞くな」
「だって師匠、ここには戦争を“聞きに来た”わけじゃないでしょう」
そうだ。僕たちは戦争を見物しに来たわけじゃない。見るのではなくーー
「さて、“聴く”準備を始めようか」
そう。見るのではなく、“聴く”のである。師匠が急に静かになる。それは創作の前の静けさ。
師匠曰わく、実際に人が死んでいる場所でないと鎮魂歌は作れなりそうで。
「だから、今日も宗教戦争を聴きに行くぞ」
「そのうち、先生のために鎮魂歌を作らなきゃいけなくなりますよ」
「私は不死身だ!……この世から戦争が消えるまでは」
そう。師匠は世界が平和であって欲しいと思って、鎮魂歌を作っている。
毎回、毎回。これが最後の鎮魂歌になって欲しいと想いを込めて。
だから題名はいつも“最後の鎮魂歌”
口ではあんなことを言っていても、だ。結局は師匠はお人好しで、僕はそんな師匠が好きなのだ。
「これで、今日は終わりとするか。帰るぞ」
「明日はもう、先生が鎮魂歌を作らずに済みますように……」
「ん?なんか言ったか?」
いけない。つい声に出してしまった。声には出ない、出せないけど、みんな、みんなそう思ってるはず。
即興でSSを書きました。
もしこんな未熟者にかまう時間があれば、コメントを下さい。どんなものでもいいです。本当に切実な願いです。