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華の龍とモブの巫女。〜華国後宮小話〜  作者: 友坂 悠


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序 【告白】

いつもありがとうございます。

某所で、倒叙ミステリー×中華後宮 だなんてお題のコンテストがあって、ついつい面白そうだと思って書き始めちゃいました。

現在三万字ほど書けていて、ラストまでのプロットはできている状態なのですが、コンテストが始まってしまうのでこちらでも公開していくことにします。

今までとちょっと違ったお話ですが、お楽しみいただければ幸いです。


ちなみに、舞台となっているのはわたしがいつも書いている「帝国」と同じ世界で、その中で説明されている、東方にある、龍が住まうという華国、です。もちろん魔法もでてきます。基本、おんなじ魔法理論ナノデス。


では。よろしくおねがいします。

 “わたくしがこんなことをしているだなんて、絶対にバレてはいけない”


 もちろん細心の注意は払っている。


 今、わたくしの寝所には身代わりのお布団がまるまって寝ている。

 薄絹のとばりの向こう、灯りを落とした部屋を外から覗いただけであれば、わたくしがこうして抜け出してきているだなんてわからないだろう。


 いつもなら、わたくしのそばには数人の女官が控えている。

 夜半に喉が渇いたといえば白湯を運び、衣擦れの音にも気を使う。

 眠れない夜には、眠気を誘う香をさりげなく焚いてくれる。


 それが後宮の妃というもの。

 わたくし、柳花蓉には“自由”は無い。


 だからそれを、なんとかして巧みに逃れる術を、考えたのだ。


 今夜、この花蓉宮に勤める女官は最小限だけ。

 女官長には老いた母の見舞いを勧め、他の者たちにもそれぞれに一人づつ話し、里帰りを勧めた。

 誰もがみな、まさか全員一度に宮からいなくなるとは思ってもいない。


 それでも、下働きの下女は数人残っている。

 彼女たちには帰る場所はないし、流石に全く人がいないのも不自然すぎる。


 だから、今宵は酒と菓子を下賜した。


 日頃の働きへの褒美だと。皆で宴会でも開くといい、と。



 胸が痛まなかったといえば、嘘になる。

 けれど。

 今夜だけでいい。今夜一晩だけ、本当の一人になりたかった。

 わたくしの姿が誰にも見咎められることなく、そして。


 わたくしは、やっと、計画を実行に移したの、だった。




 着物は女官が着るようなものを選び、その上から黒の外套を羽織った。


 人気の無い回廊を、朱塗りの欄干を頼りに進む。

 初秋の、気持ちのいい風が肌の上をなぞる。

 緊張してうっすらと汗をかいていたようだったけれど、それもこの風で引いてくれたようだ。


 やがて、花蓉宮の宝物庫にたどり着いた。

 ここまでは誰にも見咎められていない。

 周囲をこっそりと確認し、震える手で鍵に手をかけた。


 中には、数多の宝物が置かれている。

 龍を象った黄金の置物の、その目がギロリとこちらを見た、気がした。

 ごめんね、あなたの宝玉、いただいていくわね……。

 心の中でそう謝って、その龍に守られているかのような背後の古めかしい桐の箱を手にするわたくし。

 人の頭ほどの大きさのその箱は、手に持つとずしりと重い。

(この重さを知るものだったら、動かせばすぐ気がつくでしょうけど……)

 幸いにももうしばらくすれば陰干しの日がやってくる。

 だから――。


 空になった桐箱はそのまま戻し、箱の中にあった宝玉、白銀に輝く龍玉を胸に抱えて、宝物庫を出る。


 後はこれをあそこに納めるだけ……。


 外を歩けば夜間巡回の宦官に見咎められないとも限らない。


 だから、こうして新月の夜を選んだのだ。


 布で巻いた龍玉を胸に抱きしめ、人目を忍んで目的地まで歩く。


 たどり着いたのは後宮の最奥。忘れ去られた宮の手前に鎮座する、古い祠。


 その祠の奥に、龍玉をそっと隠して。




 ふうっと息を吐いて、来た道を戻る。


 今日はこれだけ。これだけでいい。


 後は……。


 正当な持ち主に、この龍玉が渡ってくれさえすれば、それでいい。


 そう願って。

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