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悪役令嬢は存在しないけど、ヤンデレのせいで死にそうです。

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/05/08

 絶対絶命。

 なんでもっと早く思い出さなかったの?


 目を覚ますと、監禁されてました。

 誰に?

 えっと弟にです。

 義理の弟だったノエに。


 父の再婚相手の連れ子だったんだけど、再婚相手の女性が別の男と逃げてしまって、置いていかれていった子。

 親戚は育てる必要はないと言ったんだけど、私たちは引き取った。

 弟は、彼のお母さんに似ていて、とても美しい子だった。

 だけど、このお母さん、虐待していたみたいで、彼女が家から逃げた後に、彼の体を診断した医師が教えてくれた。

 心を閉ざしていたけど、一緒に生活していくうちに打ち解けていった。


 ……これがよくなかった。

 でも、突き放すわけにもいかないから、私は姉として彼に接していたつもりだけど、彼は違ったらしい。


 婚約者ができる度に、なぜか寝取られたり、事故にあったりと、婚約解消を何度もされた。

 その内、婚約すらできなくなって、どうしようと悩んでいると、弟が名乗り出た。

 いやいや、弟だから、無理と思ったら、学校の理事長の養子になって、結婚を申し込まれた。

 父は苦笑い。

 私は唖然。

 私は十五歳、彼は十四歳だから、考え直したほうがいいって、断った。

 だって、彼はとても綺麗で聡明な人だ。

 理事長の養子になれば、更に彼の将来は有望で、男爵令嬢である私に構うのがもったいない。

 父も同じ意見で、私たちは彼に諦めてもらおうとした。

 あと、多分、私を好きだっていうのも錯覚だって話した。

 多分、愛情の履き違えだ。

 時間が経って本当に好きな人が現れるだろうと、私も父も考えていた。


 そうして一年が過ぎて、私は十六歳。

隣国から留学してきたちょっと変わった人に、なんだか好かれた。

 それだけじゃなくて、なんか、変に好かれた。

 意味わかんない。


 結婚も申し込まれて、迷ってるうちに、ある日滅茶苦茶思い詰めた感じのノエに誘拐されて、監禁されてしまった。


 何が原因かはわかんないけど、前世?の記憶を思い出して、私は今の状況を悟った。

 私は乙女ゲームの世界に転生していた。


 私はヒロイン。

 悪役令嬢なんて存在しない正統な乙女ゲームの世界の。

 だけどヒーローのキャラが個性的過ぎる奴。

 弟ノエはヒーローのその内の一人、ヤンデレ担当だった。


 もっと早く思い出していたら……。

 色々フラグがあったんだけど、全部立ててしまった。


 綺麗な弟、なんていうか危険な色気たっぷりに私を見つめている。

 恍惚とした表情にも見える。


「あ、あのね。ノエ。私は絶対にあなた以外とは結婚しないから、安心して」

「ジュリア。あなたは僕の想いなんて気のせい。好きな人を見つけて幸せになって、と言いましたよね?僕のことなんて好きじゃないんですよね?」

「そんなことないわ。あなたのことは大好きよ」


 ただし、弟として。

 だけど、殺されないために嘘をつくしかない。


「嘘だ。嘘。あなたは僕のことを弟としか思っていない」


 ノエは騙されてくれなかった。

 だって、弟にしか思えないもの。

 でもとても大切な弟。

 私の事しか見えていない。

 だって、彼が傷ついている時、一番近くにいたのが私だから。

 刷り込みと同じ。 

 だけど、それは異性に向ける愛情とは違う。


「……そうよ。私はあなたを弟としか思えない。だけど、それでも一番あなたが好きよ。それは間違いないわ。こうしましょう。私はずっとあなたの傍にいる。だけど、私以外にも目を向けて」

「そんなことできるわけない。だいたい傍にいてくれるなんて、嘘でしょ?」

「本当よ。約束する」

「信じない」


 結局、ノエは信じてくれず、私は鎖につながれたまま。

 毎日私は彼を説得しようとしたけど、彼は言う事を信じてくれない。

 頑固すぎる。

 

 私はこのまま一生、部屋で過ごすのかなあ。 

 どんな終わりだったかな。

 ヤンデレルートを思い出してみる。

 嫉妬に狂った弟に殺され、弟も自殺。

 それが最後だった。


 それに比べれて生きてるだけまし。

 だけど、部屋の中だけって本当に退屈。

 本を読むのも飽きてきた。

 太陽の光を浴びたい。

 どうしたら弟はわかってくれるだろう。

 

 どれくらいたったのか、私はもう説得するのを諦めた。

 弟と話すのも。

 

 そして死を願い始めた。

 部屋に閉じ込められて気が狂いそうだったから。


「……信じてくれないなら、殺してもいいよ。もう薄暗い、太陽が見えない部屋にいるのはうんざりなの。時間もわかんないし」


 夜も昼もわからない。

 弟から与えれる食事で時間がを悟る。

 お腹もすかなくなってきた。


「食事ももういらないわ。お腹すかないし」

「そんな事言わないで、ジュリア」

「だってお腹すかないもの。生きてるのか、死んでるのかもわからないわ」


 窓もない部屋に閉じ込められ、私の精神は限界だった。

 部屋を出られるなら、死んでもいい。

 そんな風に考えるようにもなっていた。


「……ジュリア」

「殺してくれるの?」

「ごめんなさい」


 ノエはすすり泣く。

 そして私に抱き着く。


「ノエ、私汚いから」


 もうどれくらいお風呂にはっていないのか。

 あ、お風呂なんてなかった。

 湯あみか。

 体も拭いてない。

 最悪だ。


「汚くなんかありません。ジュリア。あなたを解放します。すみませんでした」


 そうしてノエは私の手首を繋いでいた鎖を外した。

 もの凄い腕が軽くなった気がした。

 

「父上を呼びますね」


 青白い顔をした彼は扉を開けたままにして、部屋を出ていく。


「ノエ!」


 私は嫌な予感がして、彼を追いかけた。

 彼は変な色の小瓶を持っていた。

 きっと毒だ。



「ノエ!ダメ!」


 私は駆け寄って小瓶をたたき割ろうとした。

 だけど、私よりも早く、父がそうしてくれた。


「ノエ!やめなさい」

「だって、僕はジュリアに邪な思いを抱いてしまった。その上、監禁して、こんなになるまで放置してしまった」


 父が私を見る。

 悲しそうな顔になった。


「お父様、誤解しないでくださいね。私は単に閉じ込められていただけですから」


 監禁されたのは3か月だった。

 日付がわからない私には永遠に感じられた日々。


 十七歳になった私、記憶を取り戻したせいか、なんなのか、変にモテなくなった。

 きっとおかしなフェロモンでも出ていたかもしれない。

 そういえば魅了設定がヒロインにはあったんだっけ。


 三か月の行方不明の期間が邪魔をして、私は多分結婚できないだろう。

 処女性を疑われるからだ。

 だから


「ノエ。償ってくれる?私は誰とも結婚できなくなった。だから、私と結婚して」

「ジュリア?」

「私の気持ちが信じられない?いいわよ。それで、この結婚は私を誘拐して監禁したことの贖罪と考えてくれればいいから。わかったわね?」


 男爵令嬢が伯爵子息に説教?

 あり得ない話だけど、私はノエをそう説き伏せ、私たちはまず婚約した。

 婚約者同士なので、一緒に食事をしたり、観劇を見たり。

 姉弟であった私たちの婚約は色々影口を叩かれた。

 ノエに同情する声が大半だったかもしれない。

 私を誘拐監禁したことは秘密にしている。

 だから、人々は私が無理やりノエに結婚を迫ったと思っているかもしれない。

 それでいい。

 ノエに相応しい相手が見つかれば、私は婚約を解消するつもりだから。

 いろいろなパーティにも行って、色んな人々を会った。

 ノエに色々知ってほしかった。

 だけど、彼は変わらない。


「ノエ。あの子、可愛いわよね。妖精みたい」

「そうですか?僕の方が可愛いですよ」

「そ、そうね」


 私が女の子を褒めると、なぜか対抗意識を燃やすノエ。

 ヤンデレからいい方向に言っているのかな?

 

 そうして半年たった時、私の空白の三か月について噂が立った。

 それは、ノエが私を監禁していたという話だった。

 事実だ。

 出所は不明。

 

「君が彼女を監禁したという話があるが、本当なのか?」


 突然そんなことを聞いてくる人がいて、私は嘘だと言おうとした。

 それを止めたのが、ノエ。


「本当ですよ。僕が彼女を閉じ込めてました。僕が一人占めするために」

「それは、犯罪ではないか!」


 怒ってくれた人は、確か、以前婚約したことがあった人。

 私をちらちら見ている。

 ちょっと気持ち悪い。


「ええ。犯罪です。僕は異常者ですから」


 どうしたんだろう。いったい。ノエは。


「僕は彼女が好きだ。誰にも渡したくない。だから奪われないために閉じ込めた」


 ノエの気持ちはあの時から何も変わっていなかった。

 

「……だけど、それは彼女にとっての幸せではない。だから、僕は諦めます」

「ノエ?」

「僕は犯罪者です」


 ノエ、どうしたの?

 だめよ。そんなこと言ったら。


「彼は何も悪いことはしてないわ。私は自分から閉じ込められていたの。だから犯罪ではないわ。彼のものになりたかったの」


 ノエは歪んでいた。

 だけど、今は違う。

 私のことを思ってくれてる。

 自分の気持ちを押し付けるだけじゃない。


「では、いったい」

「私も異常者ってことかしら。いいの。変わり者の夫婦として生きていくから」

「ジュリア?」

「さあ、ノエ。行きましょう」


 私はノエの手を取ると歩き出す。

 彼が戸惑っていたけど、一緒に足を踏み出して、会場の外に出た。


「どうして、ジュリア」

「ノエ。私たち夫婦になりましょう。今のあなたとなら、私、結婚したい。私と結婚してくれる?」

「ジュリア」


 悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生した私は、ヤンデレだった弟と死というエンディングではなく、結婚というハッピーエンドを迎えることができた。

 時たま、ヤンデレ要素が出てくるのでまだ要注意だけど。


(おしまい)


 

 



 

 




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