第四話 かぐや姫、宝物を欲す
———場面は帝の御前へと戻る。
帝は少年からかぐや姫の身の上を聞き、わなわなと体を震わせている。
「なんと、そのようなことが……畜生ども……余のかぐやを処刑などと!さらには穢き地などと!」
帝はふと思い当たり、頭中将へ視線を向けた。
彼はかぐや昇天の際に天人を撃退せよと、帝が竹取の翁の屋敷に派遣した人物である。中将は帝の視線に気づくと、顔を伏せ、口惜しそうな表情を浮かべた。
帝はその中将の振る舞いにて大体を察し、問うことはしなかった。
少し落ち着きを取り戻し、再び少年の方を見る。
「かぐやは、赤子の姿でこの地に流された、と。しかし、そんなことが……」
「天人は寿命すら意のままであるとのこと。しかし、赤子に戻す処置が不完全であったためか、かぐや様はほどなくして以前の姿を取り戻しました」
「確かに、すぐに大人の姿になったとは聞いていたが。そのような油断があるとは」
「実は、かぐや様に内通者がいたようで」
「ほう」
「かぐや様が発見された場所には、かぐや様の助けとなるべく、天人の技を宿す道具も置かれていたとのこと」
「......天人の道具」
「しかし、その大半は、財として翁によって売られてしまったようですが」
「……なんという不覚だ」
これを聞いていた貴族たち、たまらず帝に声をかける。
「お待ちください!このような話を……」
「良いではないか。信じがたい話であると、話し始めに申しておったぞ」
帝のすぐそばに座していた、紫紺の礼服を着た年配の貴人が少年に問いかける。
「一つよいか。以前にかぐや姫へ、求婚した方々があっただろう。かぐや姫が無理難題を突き付けおったと。あの話は、いかに?」
「はい、その時の話につきましても、かぐや様より、どのようなものであったのかと、詳しく聞いております……」
◇ ◇ ◇
かぐや姫昇天から、約十年前―――竹取の翁の屋敷にて
かぐや姫は、内通者から送られていた道具の回収に奔走し、ついに装置を組み終わっていた。
この装置は解析、演算、通信機能を備え、内通者からの通信を得られるようになっていた。
早速、通信が届く。
その内容は、月の謀反軍がこの地への侵略計画を企てている、というものであった。
かぐや姫の顔が青ざめる。
(急ぎ月に戻り、企てを止めなければ……)
しかし、かぐや姫がこの地に降りてすでに十余年が経っていたが、帰還に向けた作業は思うように進んでいなかった。
これまでかぐや姫は、王家の教えである他文明への不干渉を貫いていた。
発展途上の文明に干渉すると、かえって文明自身の発展意欲を妨げ、その文明を段階的に、破滅にまで追い込む。そのような文明依存症ともいえる過ちが、これまで多くの星で繰り返されてきた。
そのため、かぐや姫は協力者を作らずに、たった一人で、資源の調査・採掘、部品回収を続けていた。外出の際などには不在を悟られぬよう、立体投影機にて自身の姿を偽装するなどし、来る日も来る日も奔走していた。
だが、今や、状況は変わった。この地が侵略され文明自体が滅亡してしまっては、元も子もない。
帰還の準備に専心すべきか―――
はてまた、王家の同盟主に協力を要請し、この地で志のある仲間たちを集め、抗戦の準備をすべきか―――
かぐや姫は大いなる迷いの中で、逡巡していた。
一方その頃―――
世間には成長したかぐや姫の美しさの噂が広まり、竹取の翁の屋敷には大勢の男たちが、かぐや姫を妻にしたい、一目見たいと集まっていた。
かぐや姫のいる離れは厳重に垣根で囲われており、誰もその姿を見ることはできなかったため、集まる人も段々と減っていき、最終的には都でも恋愛沙汰で有名な五人の公達だけが残った。
その公達たち、凍える寒さにも、照りつける暑さにも負けず、食事も忘れてかぐや姫に恋焦がれている。
そんな折、翁がかぐや姫に話を持ちかける。翁はこれまで、かぐや姫は神仏の化身であると恐れ多く思い、婚姻を勧めることはしなかった。しかし、公達があまりにも熱心に、しつこくお願いしてくるもので、一度くらいはかぐや姫に話をしてみようと思い立ったようだ。
「少しよいか……あなたが仏様、あるいは神様の化身ではと、十分わきまえてはいるのだが。そのうえで」
「はい」
「あなたを我が子と思い、ここまで大切に大切に育ててきた。そこでどうか、頼みを聞いてくれないものか」
「何でしょうか。お父様のおっしゃることなら」
翁が顔を綻ばせる。
「ありがたいことを言ってくれます……我も七十を超え、今日明日の命とも分かりません。この世の人は、男は女とあう、女は男と合うものです。その後で家も栄えるのです。どうしてそのようなことなしにいられましょうか」
「あう?」
「この翁が生きている限りは、このように一人でもよろしいでしょうが、いつまでもこのままとはいきません。もう何年も、熱心に屋敷にお越しになっている方々がいます。この方々に何を伝るべきか……お決めになって、お会いなさいませ」
「……状況は良いとは言えず、事情も知らぬままで、後々こんなはずではなかったとなれば、お互い悔いが残ることとなります。例えこの地で賢いとされている方であっても、深い志が無ければ」
「確かにどんなお相手かも知らぬままでは選びかねるでしょう。では、どんな相手がよいと思うのか」
かぐや姫はしばし思案する。
「……わかりました。皆様の志がどれほど深いか、その方々の中で、求める品を持参してくださる方と命運を共にしたいと思います」
「おお。それは良い考えだ」
かぐや姫は離れから数枚の紙を持ち出してくると、それを翁の前で床に広げた。翁はただただ、茫然と見つめている。
「まず一人目の方。純白の石を砕いて粉にし、極めて高い熱で焼き固める。真っ白に美しく光り、軽くても壊れにくい」
「ま、待ってくれ……なんと?わからないな……」
「では、それぞれ詳しく記した手控えをお渡ししましょう」
「おお、それは助かるな……いやいやいや、それより、この絵図は何なのだ?」
かぐや姫はその質問に、目を泳がせている。
「ああこれは……船のようなもの、でございます」
「船など作ってどうするつもりだ?」
「それは、追々……次は、東の海の果てにある島の海岸にて採れる黒石を、高温で溶かし得られる、銀に輝く、朽ちることのない素材」
「東の海の銀……船の材料のために、海を渡れと」
「三人目、炭を極めて細く、糸のごとくにしたるものを、幾重にも織り、羽衣のごとく軽やかにして火にも燃えません」
「……燃えない、布」
「四人目、海の底深くに転がる、黒き玉。内部は赤や青、黄色や白の金などが含まれます」
「……」
困惑の表情を浮かべる翁。
かぐや姫は顎に指をあて、
「あとは……この外殻の……いや、こちらの……」
などと呟いている。
「最後は……これは細かな細工にも向き、熱さにも耐え、ひかげによる病や災いも守ります。黒、赤、白が混ざる燕のような色合いの石をしており……」
「いや、待ってくれ。本当に……何のことやら……この国にある物でもありません。このように難しいことをどのように申しましょうか」
なにか閃いたような顔をするかぐや姫。
「それならば、このかぐやが直接、この図を用いて皆様にご説明します!」
「いやいや!そういうわけにはいかないのです!」
翁は慌ててかぐや姫を制止した。
「なぜ?」
「世の習いだからです……わかりました、ともかく申しましょう」
この時代、求愛する男性に女性が直接会うとなった時点で、相手を受け入れたということになりかねない。それを一遍に五人も相手にとは、もってのほかである。
(そもそも、田舎者の自分がわからないだけで、この品物の数々も公達ならすぐに思い当たるものでは……ならば、伝えてみたほうが早いだろう……)と翁は考えたのであった。
後書き
いよいよ竹取物語の有名なシーン、「無理難題編」に突入します。
ここではかぐや姫が王女の使命を果たすべく、宇宙船の材料を欲していた設定にして、翁がミスリードする(と言うか……この時代の人に伝わるわけがないのですが……この辺りも、かぐや姫の異文化性の表れと言えますでしょうか)という大胆な再話にしています。
かぐや姫が一体何を欲しているのか……素材に詳しい方はピンと来ているかもしれません。
答え合わせは次回に……お楽しみに!
頭中将 ・・・ 竹取物語にて、かぐや姫から帝に渡すよう、文と薬壺を渡された人物です。実在する律令制度上の高位官職であり、源氏物語などにも登場する役職です。
「確かに、すぐに大人の姿になったとは聞いていた」 ・・・ 竹取物語にて、かぐや姫は三か月で大人の姿となった、と描かれています。
竹やぶの財 ・・・ 竹取物語では、竹取の翁が竹やぶで金を発見し、お金持ちになった、と描かれています。実はそれが、月の都の技術のつまった機械の部品であった……という設定にしました。きっと、キラキラしていたのでしょう……その時代の人が見ても、部品などとは気付かないでしょうから……
翁にはこの後にも、コメディ・リリーフとして活躍していただきます。
公達 ・・・ 親王・諸王など、皇族の人々。竹取物語では、かぐや姫に求婚した五人の貴公子たち(石作皇子、車持皇子、阿倍御主人、大伴御行、石上麻呂足)のことを指しています。
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