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第三十三話 かぐや、帰り来る

 月の都では戦後処理が行われている。


 各地では復興作業や原状回復が開始され、戒厳令も順次解かれるなど、徐々に平穏を取り戻しつつあった。

 一部では帝国兵が抵抗を続けているが、王家側はひたすら話し合いを訴え兵たちの武装解除を待っている。


 終戦から三日後には地球に侵攻していた艦隊や難民たちの移送船も帰着し、兵や移民たちが家族との再会を喜び合っていた。


 また、今回の謀反の首謀者カンサは意識不明の重体で治療中、主格共謀者のアシャディもすでに捕らえられ、王宮内に拘留されている。これから様々な審判が彼らに下されることとなるであろう。


 ◇ ◇ ◇


 終戦から四日後——王家の谷


 ファニがお墓の前で手を合わせている。


 ファニはあの後、救護隊により病院へと運ばれ治療を受けた。体の健康状態は良好となったが、体中の傷はいえ切ってはおらず、むしられた髪の毛を隠すように帽子をかぶっている。

 まだまだ万全ではないが、本人の強い要望で退院し、その足でこの王家の谷に立ち寄っていた。


 彼女の後ろにはスーツを着た付きの者たちが、時間を気にするそぶりを見せている。


「ファニ様、そろそろ予定のお時間です……」


「ええ、お待たせしました」


「何をされていたのですか?」


「……はい。父上と母上に、私が王家の名を無くしてしまうことをお許しくださいと、報告していました」


「……報告など……そのような」


「ええ、言いたいことは分かります。亡くなってしまった人々に報告など出来るわけがない」


「恐れながら……その通り、あり得ません」


「そうですよね……私があの地にいた時、亡くなった人がまた現れたり、死んだ後の世界でまた会えるという教えがありまして。これは完全な自己満足……ただ、おかげで、少し心が軽くなったと感じます」


「非科学的です……無となるからこそ、精いっぱい生き、生きている間に話さなければならないとしか……いや、これは失礼、ファニ様の場合は」


「良いのです。今をよりよく、後悔の無いように生きる。それが大事ですよね!」


 ◇ ◇ ◇


 ファニは王宮へ送られていった。

 評議会による王宮裁判の被告人として、王宮へと召喚されていたためだ。


 被告人席に立つファニに対し、裁判官が判決主旨を読み上げる。

「被告人は王女の身でありながら、王家の教えである他文明不干渉の規律を破った。しかし、謀叛軍への対抗のために行ったやむを得なきものであり……」


 ファニはこの「他文明干渉」について、自ら審判を申し出たのであった。


 裁判では謀叛軍への抗戦や未開の文明への技術的汚染度、影響範囲などが話し合われた。ツクヨミの機体の情報や結界を通過した技術、後部座席に積まれていた帝の文などもすべて証拠として提出された。


 この裁判の結果として、ファニは王位継承権並びに王家の名をはく奪されることとなった。


 実態はむしろ、評議会はファニの対処の正当性を認めお咎めなしでとりなそうとしたものの、「新たな時代に、禍根を残したくない」と、ファニが自ら進んで廃嫡を申し出たものであった。


 王家の名を失ったファニは、その後、「かぐや」と名乗るようになった。


 ◇ ◇ ◇


 その日の午後——月の都の病院にて


 病院の一室に、かぐやの姿があった。


「目を覚まされたと聞いて……」

 ベットの横に腰かけるかぐや。その表情は微笑みに満ちている。


 彼女が眼差しを向ける人物、それは……ディランであった。

「ファニ様、このような姿勢で失礼いたします……恥ずかしながら、生きながらえてしまったようです」


「そんなことを言わないでください。あなたの機転で月の都も私も救われたのです」


「全て王女の功績です。それに、事をなしたのは妻の才気。私など……英雄であるあなたに、歪んだ価値観で恥辱をもたらそうとしただけ」


「そんなことはありません。命だけでも助けようという気持ちはわかっていましたから」


「ファニ様に許しいただけようとも、私が許せませぬ」


「もういいではないですか。潔くないのはかえって面倒です。それに、私はもう、王女ではありません」


 ディランはその言葉に対し苦虫をすりつぶしたような顔をした。本心ではかぐやが女王になるべきだと、いまだ納得がいっていない様子である。


「ディラン、ひとつ伝えねばならないことが……」


「なんでしょう」


「こちらを」

 かぐやは資料を取り出し、ディランへ渡す。


「これは……?」


「実は、月死病の特効薬が開発できそうです」


「な、なんとっ……」


 月死病とは、ディランの妻が罹患していた病である。

 かぐやは地球にて調査を進める際、月死病を古来原生の地球から持ち込まれた病原体であると突き止め、また、地上の生物が進化によりその抗体を組成していることを解析していた。その資料を王家の研究所へ提供していたのだ。


「あなた様はなんという……しかし、かの地にそのようなものがあろうとは……」

 目を丸くしながら資料に喰いつくディランを見て、かぐやは涙ぐむ。

「ごめんなさい……もっと早ければ……彼女を救うことが出来たのに」


 涙を流すかぐやを見て、慌てふためくディラン。

「ファニ様、誤解させてしまい申し訳ありません。いや、実は妻は……」


 ◇ ◇ ◇


 翌日――月の都、王宮、玉座の間


 かぐやは招聘を受け、玉座の間にてアン女王より直々に使命を賜っている。


 アンからかぐやに下された使命の内容は、地球においてかぐや自身が犯した「文明混じり」の原状回復。経過を観察し、何事も影響がなかったと見届るまで月に戻ることは叶わないという条件が付いていた。


 アンはかぐやを実の姉のように慕っており、自身はそれを補佐する立場でありたいと未だに思っている。その想いは代々将軍として王の軍事的補佐をしてきたティークス家の矜持でもある。

 当然、審判における継承権のはく奪にも最後まで反対したが、かぐやに直接諭され、しぶしぶ了承した。


「しかしそこまで急がずとも……まだ傷も完全には癒えていないのでしょう?」


「いえ……かの地ではもう、かなりの時間が過ぎてしまっています。急がねばなりません。女王も忙しいでしょうから、このあたりで」


「忙しいのはファニがあんなスピーチをするせいで、たくさんの盟主から連絡が……」


「いや、みな口をそろえてアンの呼びかけが心に響いたと……」

 手柄の押し付け合いをする二人。あの時に彼女たちが発した言葉は練り上げたものではなく、本心、心の根が発現したに過ぎない。そう思えば、過剰な評価はくすぐったいものでもある。


「さて、そろそろ行かねば……」


 つなぎ止めも空しく、かぐやは出発を急ぐ。


 明日はアンの即位式が予定されている。未だ月の民はファニ王女を心から慕っており、だからこそ、かぐやが月にとどまれば、これから王として民を導いていくべきアンの邪魔となってしまうと考えている。

 まるで出奔するように旅立とうとするのは、そのような理由もあった。


 しかし、アンの寂しい気持ちはまだ埋まらない。


「わかりました……ただ心して。縁が切れたわけではないのだから」


「はい」


「ファニ王女には相談したいことも山ほどあるの」


「……はい。でも私はもう、ファニでも王女ではありません」


 かぐやは王宮を後にすると、その足で宇宙船の発着場へと向かった。


 あくまでも非公開での出発となる……はずであったが……どこから情報が漏れてしまったのか、沿道に人だかりができている。


「情報の統制ができていないみたいよ……」


 民は静かに様子を見守ってくれている。歓声を上げるわけでも、引き留めるわけではない、ただ一目、見ておきたいのですという民衆の想いがひしひしと伝わってくる。

 そのような民の信愛を見ても、かぐやの決意は揺らぐことはない。


 ――宇宙船発着場

「では、行ってきます。お願いしますね」

「ふふ……こっちは任せて!行ってらっしゃい!」

「かぐや様、よろしくお願いします」

 近しい人々に見送られ、かぐやは旅立つ。月面の発着口から放たれる宇宙船が地球への軌道に乗る。彼女の目にかつて過ごした地球が映りこむ。


 ――月の都には、かつて地球で栄えた文明が争いの果てに星を汚染し、その時に月へ逃れたのが月の民の始祖であるという話がおとぎ話のように伝わっていた。

 穢き地という忌み名も、このおとぎ話の影響ではという説もある。

 そのおとぎ話によれば、月に逃れた人々は結界に籠り時を進め、母なる星の浄化を待ったという――


 ◇ ◇ ◇


 地上に到着したかぐや。地上ではあの出来事から既に五年が経過していた。


「イロハ!」


「ようかぐや。大変だったみたいだな。」


「そちらこそ」


「かぐや。お初にお目にかかります。ウタと申します」


「ええ、会えることを楽しみにしていましたよ、ウタ。イロハが色々とお世話になりました」


「はい、お世話しました」


「おい、待て!?」 


「ふふふ。イロハ、ウタ、本当にありがとうございました。感謝いたします」


「わかればいいんだ。へへっ、まさか救出に行くなんて思っていなかっただろう? かぐやの驚いた顔、さぞかし見ものだっただろうな」


「あっ……それは、ですね……」

 和やかな雰囲気で談笑する三人。イロハがウタのことを自慢している様子である。


「おっと、油を売っている場合じゃなかった」

 イロハがウタに目配せする。作業の進捗報告はウタの役目のようだ。


「あらかたの兵器や部材、残骸の回収廃棄、転送は進んでいますが」


「助かります」


「あとは記憶です」


「はい……」


 月の技術がもたらした素材や物質、技術の痕跡、道具の数々や合戦の旧址……痕跡の回収や原状回復は手段があろうとも、人の記憶は単純にはいかない。かぐや自身が記憶操作を幾度と受けた身であるから、その効果や危険性について思うところがあった。


「記憶操作は危険な技術。できれば影響が出ないような処置で済ませたいのですが……」

次のエピソードにて、いよいよこの物語は幕を閉じます……


最後までよろしくお願いします!

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