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月焦の契り ~竹取物語後日譚~  作者: かやたぼ
第三章 天下動乱編
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第三十話 蒼天、掻き曇る

 ―――場面は地球


 防衛軍と侵攻軍による地上の戦闘は五日目に突入していた。


 イロハ率いる連合隊と天人の軍隊による野戦が行われている。戦力は拮抗しているが、天人側の軍略がイロハの指揮を上回り、押し込まれる形となっている。


「このままでは!」


「退却だ!」

 兵士達が退いていく。天人側は追撃の様相も見せず、同様に隊を退いていく。


「損傷報告!」

 陣営まで引いた隊員達が損害報告を行っている。損傷は軽微だが、疲れの見える兵もいる。


「しかし巧みな用兵だな。これで勝ち一つ、負け三つ」


「感心している場合じゃないぞ大将……こちらの考えを見透かされているみたいだ」


「そのようだな。イロハの戦術は合理的すぎるのかもしれん」


 ニコス率いる兵団は実に屈強で統制が取れている。

 敵が繰り出している兵力はこちらと五分。

 唯一の勝ちも、都々弥率いる亥の隊が異常に突出し前線に繰り出し、虚を突かれた敵陣が崩壊したことで、もたらされたものであった。


 ただし、敵軍は亥の隊を衛生兵とみて庇護したわけではない。

 攻撃をしたがすべて躱されてしまったのだ。


 優雅に搭乗機兵を操り、持てる兵器で急所を的確に射貫いてくる、戦場の鬼神が率いる精鋭攻撃隊、それが敵側の評価である。

 鎮痛剤を打つ姿を見ては、奴につかまれば血を吸われるぞと噂され、敵軍の恐怖の対象となっていた。


 イロハが思い悩む。

「一体どうすれば……」

イロハの性格的に、自分の未熟のせいで味方を危険にさらすのは我慢がならないからであろう。


 右大将が声をかける。

「相手はこちらの突力を躱し、隙を縫いて潮のごとく押し寄せる。動きを見透かすやに見せて、実は俊敏に対応している。まさに水の構え」


「水か……水に対抗するには……」


「然り。堰き止めずして、敵が勢いを増すに任せ、濁流としてしまうのはどうだ。渦中は烈しけれど、こちらの兵も根性は引けを取らんぞ」


「やってみるか……」


 ◇ ◇ ◇


 一方、侵攻軍、上空の旗艦内―――


「もう五日も経っていますよ!」


「はい……何度もあたっているようですが戦力が拮抗しているためか、攻めあぐねているようで……」


「私には手を抜いて、時間を稼いでいるようにしか見えませんが……皇后に何と報告すれば……そろそろ式典が終わってしまう頃でしょう。そうなれば誤魔化しが効きません」


「物資の追加要請も検討せねば……」


「そんなことをすれば、無能を自ら認めるようなものでしょう……例の妨害干渉はどうなりました?」


「それが……こちらの暗号はすぐ解かれ、さらに強力な暗号を返されたそうで……」


 通信兵が割り込む。

「緊急!親衛隊からです。月の都にて反乱軍が出現、戦力を一部帰還させ月外周の哨戒にあたれとのことです」


「反乱軍?おびき出すとは聞いていましたが……なぜ帰還を?」


「何と返しましょうか?」


「もちろんこちらの攻略は順調、帰還に応じると返してください……いや待ってくださいよ……この侵攻の遅延、失態を責められてはただでは済まない……この軍勢があれば私が月を……」


「お辞めください、この通信自体、モルテ殿の野心を試す御考えの内だとしたら……」


「た、確かに……」


「お言葉ですが……不明軍出現という事態、それが攻略の遅延を招いているという事実、決して失態などではありません」


「皇后からは、この戦力をもって帝国の威光を存分に示せとのお達しだったのです。どんな手合いが現れたとして、てこずっているなどと広まっては……この私が帝国の権威を落としたと責任を負わされる」


「……これまでの調査報告では、この周辺区域に他の軍勢の存在はないとのこと。これより全軍を投じ、一気に制圧してしまいましょう」


 モルテは思案する。この戦果を以って月に帰れば、よくも帝国に、私の顔に泥を塗ったなと、アシャディから激しい誹りを受けるのであろう。

 自分が生き残るために、何をするべきか……


「良いことを思い付きました。爆撃してしまいましょう」


「爆撃、ですか……?」


「そう。不明な軍勢を相手に危険を冒す必要もない」


「しかし、現地の調査は……」


「この状況です。不明機が存在したため、やむを得ず無差別爆破した。これ以上の理由はないでしょう」


「わかりました。では撤退指示を出します」


「いや、このままです。撤退を気取られれば敵にも逃げられる」


「しかし……」


「……不明な軍はニコスの企み、結託して帝国に反旗を翻した……私は船団を良く導き、それを退け、勝利を収めた……敵は証拠隠滅のために自爆……大体、実際にモルテは提督である私の命に背き攻略を遅延させたのですから」


「そのような……容易に露見します」


「口裏を合わせるのです。全ての責任をニコスに。さもなければ皆が連帯責任、死罪もあり得る」


「死罪など……」


「アシャディ様を甘く見てはいけません。さらに……ニコスを排除出来れば、少しくらいの破綻はカンサ様に取りなしていただけるはず……すぐに準備をしなさい。口答えするなら、貴方もあちらの協力者と見なしますよ?家族がどうなっても良いと?」


 ◇ ◇ ◇


 艦橋で地上戦を見ていたニコスに伝令が入る。


「上空から物体接近!」


「何? 何だ?」


「これは……本隊からの爆撃です!我々も巻き込まれます!」


「何!?着弾は!?」


「もうまもなくです!」


 ニコスが血相を変える。

「全隊!上空から攻撃!全軍防御態勢!砲手は迎撃態勢を取れ!」


 血の気が引く。モルテがこれほどの暴挙に出ようとは。以前から自分がカンサに疎まれていることは分かっていたが、今回は帝国の初陣、謀殺をするほど愚かではないと、高たかを括っていた。


「ぬかった……!」




 一方、防衛側―――ウタの伝令が入る。

「緊急伝令。敵軍の爆撃です。酉の隊撃墜準備。全軍、防護体制」


 ニコス隊と対峙していたイロハ連隊の兵たちは、相手陣営の急な崩壊に、何かが起こったであろうことを既に察知していた。


「予定通りだが味方もろともとは……どれだけ愚かなんだ」

 イロハは呆れたような表情で、空を見上げる。透き通る青い空にちりばめられた禍々しい災厄。

「出番だぜ。魅せろ」


 その時、屋敷の裏山が光り輝く。秘匿の覆いを取り払い、その全容を現したのは———酉の隊である。


「撃墜対象捕捉!」

 上空に向け砲身を構える砲台が露わになる。その数、七十基。


「御帝に捧げ申す射礼(じゃらい)と心得よ!」


 ―――大気を震わす咆哮とともに、おびただしい光の筋が空に向かって伸びる。


 その様、まるで地から逆さまに神鳴りを放つ、天つ存在への反逆。その恐れを知らぬ光条は、空から降りかかる黒き災厄を撃ち貫き、爆ぜ散ずる。


 衝撃は上空に構える侵攻軍にも伝わった。


「な!何が起こった!?」


「わかりません!地表からの対空砲撃?……爆弾を破壊したものと思われます」


「ニコスか!?」


「いえ、ありえません、あの艦の砲撃ではこのような……奴ら、強力な対空砲を隠していたようです!ここに留まっていては危険です!射程からの回避を!」


「退きましょう!」




「二撃目!」

 山が震える。再び砲が放たれた。これは爆弾の残骸、そのうち大きなものを狙い撃ち、破片を細かくするため射撃。上空の艦隊は肝を冷やしただろう。しかし、呆気に取られてたのはモルテたちだけではない。


 歴戦の将であるニコスですら、茫然と空を見上げていた。

「な、なんだあれは……?あの精密さ……彼らは一体……」


「とてつもない兵器です……受ければこの艦とて無傷とは……」


 あまりの想定外の攻撃に思考をかき乱されたニコス。

 ようやっと我に返る。

「全軍に指令!爆撃の残骸から身を守るよう伝えろ!その後、艦に撤退!」


 ……視線を落とす。あの山、あの山にとてつもない砲台があったのか。なぜ使用しなかった。奥の手? 気まぐれ?


 酉の隊は、かぐや姫昇天の際に兵を率いていた高野大國を隊長とする隊であった。航空戦力の迎撃という任を負い、来る日も来る日も狙撃の訓練を行ってきた。そして天人が襲来する前日の時点から、そこに備えられた対空兵器とともに、屋敷の裏山に隠密していた奥の手。


 射程は現在の敵本隊の位置すら優に超えている。砲台は固定式のため、敵に悟られれば侵攻場所を変更され、すべてが水泡に帰す。


 ———が、酉の隊の忍耐は並ではなかった。


 天人によって刻まれた忸怩たる思いを煮やし、文字通り一矢報いるこの瞬間のために、七年間を過ごしてきた者たちであった……

後書き


高野大國の極秘任務が明らかに……

モルテの自己保身が侵攻軍に亀裂をもたらすのか……


次回もお楽しみに。


いつも読んでいただきありがとうございます。

よろしくお願いします!

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