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月焦の契り ~竹取物語後日譚~  作者: かやたぼ
第三章 天下動乱編
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第二十七話 炭売、深淵を渡る

 場面は地球。


 先の戦闘で防衛軍側は七体もの守備機兵を鹵獲。

 小破が二機、大破が一機。地球防衛軍の損害は巳の隊の二機が小破のみ。

 想定以上の戦果である。


 しかし、これで戦力差が縮まったわけではない。


 さらに先ほどより、艦船の数隻がより低空に位置し、挺進の構えを見せてきている。

「ウタ!陣容を変えるぞ!俺が艦隊の警戒に当たる!」


「了解、全軍通達。卯の隊は本陣、他の隊は上空の敵軍飛車周辺に待機、イロハの現地指示に従ってください」


 敵が降下してきた以上、妨害干渉による目くらましは効果がない。敵軍は確実に急所を狙い攻撃してくる。これに対応すべく、防衛軍は防御特化の陣形に移行する。


 ……ところが、敵軍の狙いは別のところにあったようだ。


 第二波となる侵攻軍が地表に迫っていた。


 通信兵が巳の隊からの通信を受け取る。


「巳の隊から報告!巳の隊上空に敵機軌道変更。守備機兵二十機です!」

 守備機兵二十機が落下傘を広げ、巳の隊上空へ降りてくる。


「本陣側へ下がりながら戦線維持!先ほどより数は多いが、耐えればすぐ援護が来る!」

 炭売が指示を出す。先ほどの戦いで自信と実戦経験を得て、部隊は水を得た魚のように躍動している。


 イロハは低空に構える敵艦隊の警戒にあたっていた。

「何が狙いだ……なぜ巳の隊を狙ってきた?確かに消耗はしているが、軽微」


 いくら油断があるとはいえ、天人が無策で兵力を投下するとは考えにくい。陣容を把握した今なら、投下地点は急所……補給路や本陣のはず。


 不気味な怖気が走る。


「右大将!ここを頼む、守備機兵は残していく!」

 返事を聞く間もなく、イロハは巳の隊の待機地点に向け猛然と駆け出した。



 敵部隊が地表に接近する。

 その時、大破していたため投棄されていた守備機兵の回路が起動した。


 守備機兵隊の数機が、背中から爆炎を噴射し、空中から巳の隊の背後へ回る。その他の守備機兵も、先ほどと全く異なる洗練された隊列で巳の隊に取りつく。


 イロハが叫ぶ。

「囲まれるな炭売!やつら情報を共有したかもしれない!」


 伝達した時には、既に巳の隊は包囲されていた。守備機兵が巳の隊に向け銃撃を重ねてくる。

「耐えろ!隊列を崩すな!」

 炭売が檄を飛ばす。巳の隊は整然と置盾を並び構え、銃撃に対抗する。しかし、ほんのわずか、崩れとも言えないほどの綻びが生じたことろに、守備機兵が一斉に押し寄せる。


「させるか!」

 炭売は自軍の急所を察し、先回りして援護する。


 守備機兵の波状攻撃が巳の隊に襲い掛かる。守りが崩れたところに銃撃、再び波状攻撃。緒戦と全く異なる、統率された動き。絶え間のない攻撃に、隊員たちが限界を迎え、一機、また一機と銃撃の標的になっていく。


「副隊長!このままでは……」

「耐えろ!すぐに救援が来る!」

 ……その時、味方機の援護に向かおうとした、炭売機の左舷腕盾が跳ね上げられる。


「なっ……!!」


 その先に見えたのは、機銃を構えた守備機兵———銃口の奥に潜む深淵が、炭売の瞳に映り込む。


 ……全身を寒気が突き刺す。

 視界に映る全てが、ゆっくりと、ゆっくりと動いていた———脳裏に、幼少期に見た、おびただしい死体の山が浮かぶ。


 死。炭売に死の影がまとわりつく―――



 ———刹那、守備機兵の横っ腹に何かが激突し、炭売を睨んでいた銃口は左方に弾けた。機銃から放たれた銃弾は逸れ、巳の隊を囲んでいた守備機兵に着弾する。突然の同士討ちに、守備機兵の動きが固まる。


「巳の隊!隊列!構え!」

 号令がかかる。

「援軍まで時間を稼ぐぞ!陣頭は我が出る!損傷した機体を守れ!」

「たっ、隊長!」

 そこに現れたのは桑麻呂であった。



「遅くなった!すまない!皆よく耐えてくれた!」

 隊員から歓声が上がる。桑麻呂が文明酔いを克服し、戦線に復活したのだ。


「スミレ!奴らの狙いは汝のようだ!少し下がっていろ!」

 桑麻呂はこの場へ駆け寄る際に、守備機兵が炭売を標的にしていることを直感的に読み取った。

(恐らくは一騎当千の活躍でもして敵軍に脅威と認識されたのだろう)


 有人機は、仲間を見捨てない。味方を庇わせ、隙を作らせる……その守備機兵の合理的かつ冷酷な狙いを見抜き、間一髪、守備機兵に体当たりしたのだ。


 しかし、炭売からの反応はない。

 自分の死を悟ったその状態のまま、呆然としていた。


「しっかりしろ!伝えたいことがあるのだろう!?生きて生き抜いて、自身の口から伝えるのだ!」


 炭売は死に直面し、自身の中にある死にたくないという強い願いに気付いた。

(覚悟が鈍っていたのか。自分は弱くなってしまったのか)


「まぁ、その……なんだ……我が守ってやる……我も汝に、この戦いの後に伝えたいことがあってだな……」


(……あの時とは違う。失いたくないもの、たくさんの絆、それらが生を渇望している。恥ずべきことなどではない)


「お、おい……き、聞いておるのか!?」


「はい……ありがとうございます」


「泣かずとも……怖かったか……」


「いえ……うれしいのです。こうして生きていることが」


 陣形を整えた巳の隊に対し、守備機兵は攻撃を止めている。そこへ、イロハが、次いで周辺に配備されていた搭乗機兵たちが駆け付けた。


 イロハが大破し横たわっていた守備機兵に止めの銃撃を放つ。

「……皆、すまない。先ほどの戦闘の情報を共有された。こちらの戦力も戦法も動きも筒抜け、俺の失策だ」


「へぇ……イロハが間違いを認めるなど珍しいこともあるものだ。しかしなぜ、奴らは止まっている?」


「お前だろう、桑麻呂」


「我が? 天人が我の力を警戒しているのか」


「腰を抜かしていた奴が急にしゃしゃり出てきたたことで統制が変化し、相手は戦略を見直し中。そんなとこだろう」


「そうか」


「……何納得してるんだ」


「本当の事だからな。それに、あの醜態がかえっていい結果をもたらしたとなれば、腰の抜き甲斐があったというもの」


「おもしろくもない」


「皮肉ばかりを言うな。汝の訓練のおかげだ。スミ……隊員の、無惨にやられた姿を想像した瞬間、全身の血が沸き上がり、解き放たれたように動けるようになった」


「しかし奴ら動かないな……今が好機だ桑麻呂、奴らに気付かれないよう負傷者をツヅミの所まで下げるぞ」


「吾ならここにいるけど」


「どわっ!何でお前がこんな前線にいるんだよ!?」

 振り向くと、ツヅミは搬送装置に負傷兵が乗る搭乗機兵二機を括り付けていた。


「どこが前線かなんて知らない。吾の仕事場がここ、ってだけ」


「……今のうちに下がってくれ、機兵は引き付ける」


「言われなくてももう行くよ!スミ、しっかりね!イロハ!戦いに勝ったら頭なでてあげるから、頑張れ!」

 そう言い残すとツヅミは、負傷兵を抱え、軽快な動きで拠点へ下がっていった。


「ガキめ……!子ども扱いしやがって……しかし、やつら(守備機兵)、やはりすごいな……もっと欲しい」


 ウタから伝令が入る。

「守備機兵十機、本陣上空に軌道変更」


「桑麻呂……ここを一旦任せる。俺は本陣に向かう」


「心得た」


「なるべく損傷をさせず無力化してくれ……信じてるぞ」


「難儀なことを……まぁ、任せておけ」


 ◇ ◇ ◇


 侵攻軍の旗艦内指令室に、先行隊からの映像が送られてくる。


「映像、つながります!」

 その映像には、追加で投下した守備機兵と向かい合っている、所属不明の搭乗機兵軍隊が映る。


「何です!あの軍隊は!?」


「識別不明機です……あと、あれは守備機兵同士が争っている!?」


「何!?」


「操作を乗っ取られているようです……モルテ殿、ここは一旦態勢を整えましょう。敵側の分析をしなければ」


「馬鹿を言うな!兵器を奪われた上に撤退しましたなどと報告できるわけがないでしょう!全部、あなたたちのせいですよ!」


「しかし……」


「航空機を出しなさい!奴らを破壊するのです」


「現在、あちらの妨害干渉により自動操縦が使えません。新兵ばかりの航空隊で、この星の重力下での戦闘は……」


「役立たずばかりじゃないですか!」


「……もうすぐ解析が終わるとの報告もあります。その後すぐに」


 指令室に兵士が走り込んでくる。

「伝令、解析終了しました!誘導兵器、自動操縦、機能回復確認、利用可能です!」


「おお、では早速、出撃を!」


「了解。直掩を残し全艦航空機隊、出撃準備、狙いは敵地上戦力の無力化。無人機を先行させ慎重に攻撃してくださ……」


「待ってください!」

 通信兵が叫ぶ。


「こちらの妨害干渉暗号が解読され、さらに上書きされたと……」


「何?何の暗号を使用した?」


「いえ、戦略企画隊の演算装置による、現地生成の暗号だったと……」


「そんなはずは……それが一瞬で……」


 何が起こっているのか分らないニコスが、脇でじれている。

「何があったのですか!?私にも教えなさい!」


「いえ……それが、敵軍がとてつもない演算処理能力を持っている可能性が……」



「………ウタ!……聞こえる?ウタ!?」


「……はい、なんでしょうツヅミ」


「どうしたの!?」


「いえ、少し傍らで、計算をしていたもので」


「もう、しっかりしてよ……敵が邪魔で救護ができないの!武器をよこして」


「ツヅミ、救護隊というのは」


「わかってる!全員助けるから!」


「……了解。第九格納庫より、大弓型討伐兵器、射出します」


「ありがとうウタ!戦場に慈愛の花を咲かせてくる!」


「はい、ご健闘を……やれやれ、ツヅミの動きの方が、よっぽど計算が難しい」


 ◇ ◇ ◇


 思わしくない状況に、モルテが歯噛みする。

「そうだ!ニコスは、ニコスは何をしている!?」


「いえ……皇帝の兵は今は貴重、一人、一機たりとも欠けさすまい、と出撃を拒んでおります」


「詭弁を!着陸して地上を制圧しろと厳命を!逆らえば軍法会議、いや!反逆とみなすと伝えなさい!」


「了解」



 地表近くに滞空していたニコス率いる先行隊に、旗艦からの通信が入る。


「申し上げます艦長、提督から直ちに攻撃せよと」


「ここまでか……やむを得まい。艦を着陸させる!隊を下ろす準備を」


「了解……しかしニコス様、敵軍は我々を砲撃してきません。あの軍備で砲撃の兵器がないとは考えにくく……」


「ふむ……聞かせてみよ」


「非戦闘員の艦の存在を知っているのではないでしょうか……?あの機兵軍略を見る限り、まるで王家軍、ティークス家の用兵。守備機兵ガーディアンの存在どころかシステムの上書きまで……となると、あの軍の狙いは……」


「……試してみる価値はあるか……よし、各隊長を招集してくれ。砲手長もここに呼んでくれ」


 ◇ ◇ ◇ 


 低空に構えていた飛車がさらに高度を下げてくる。上空にあった際は知れなかったが、それぞれ一山ほどの大きさがあるではないか。


 その現実感のない敵艦の姿に、かつてかぐや姫昇天に臨場した猛者たちですら足がすくむ。


「ひるむな!砲撃に備えろ」


 右大将がひるむ兵たちに喝を入れる。


 艦隊が悠々と、屋敷横の田畑地区に轟音とともに着陸してくる。唸るように地が響き、嵐のような風が吹き、土ぼこりが舞う。

 扉が開くと、そこから兵達が次々と降りて整列する。更には搭乗機兵、守備機兵もこれに加わってくる。


 その陣容を見て右大将が声を上げる。

「む、まさか……?」


 敵の編隊は、こちらとほぼ同数の兵数、兵種となっていたのだ。


「大将!これは……!」

「ああ、そうだな。イロハにも伝えてくれ。我らの一念、天に通じたかもしれん……」


 いよいよ本格的な地上合戦が始まる……しかし、右大将はなぜか、満足げな笑みを浮かべていた。

後書き


地上における戦闘が激化。皆の運命は……


次回もお楽しみに。



いつも読んできただき、ありがとうございます!

応援よろしくお願いします!

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