第二十二話 田人、月見て思う
かぐや姫処刑までと五月———竹取の翁の屋敷、格納庫
「これでよし。装置、どうだ?」
「問題ありません。訓練データ同期します」
田人が昏睡していた間に、イロハによってツクヨミの操縦機器へ装置が統合されていた。田人の身体的負担を軽減すべく、イロハ協力のもと無人状態での突入訓練環境調整が続けられていた。動作、機体、防護服。
時間は限られてはいるが、その中でも改善できる点が判明していく。
昏睡から回復した田人が、約一ヶ月ぶりに格納庫へ姿を現した。
その田人へ、装置が機体の改善点を伝えている。
「……と、これで圧力の影響はさらに半減されます」
「すごいな……助かった」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、じゃないぞ装置。こいつは危ういんだ」
イロハが会話に割って入った。田人にはきちんと釘を刺しておかねば、何をしてしでかすか分からない。
「万全になるまで搭乗訓練は禁止だぞ。田人も……」
「わかっている。心配かけた」
「わかってるのか本当に……お前にはもう、信用など微塵もないからな」
「すまない」
「まぁいい。これで本当に完成したと言えるな。よく頑張った」
「頑張ったなど。かぐや様は二十年も力を尽くしたのだ。それに比べれば……」
イロハは軽く首を横に振った。
「あのなあ、その暗い感じももうやめてくれよ。素直に喜ぶとかしたらどうだ?」
「喜ぶなど。かぐや様を救い出すまでは」
「お前の想い出の中のかぐやは、全部そんなしかめっ面をしているのか?」
「いや……」
イロハが深いため息をつく。
「俺だってな、軽口をたたいて茶化しているが、これはあえてなんだぞ」
負い目のある田人は反論もせず、うつむいたままイロハの話を聞いている。この場にイロハへ異議を唱えようとする人物は不在だった。
「申し訳ないって思うかもしれんが、別に笑ったっていいはずだ。せめて、出発の時ぐらいは笑顔でいろよ」
「……ああ、努力する」
「……あとさ」
「何だ?」
イロハは鼻の頭を掻きながら、照れくさそうに言う。
「こいつにも名前、付けてやってくれよ。こいつだけ、ずっと『ソーチ、ソーチ』って呼ばれているからさ。田人はこれからこいつと命運を共にするんだ。その相棒の名前が装置じゃ味気ないだろ」
「名付け……か……そういうのは苦手なんだが」
「そこは問題ない。全く期待していないから、気楽に考えろ」
田人は空を見上げる。
———今、何をしているのですか。息災であられますか。
ああ、せめてこの、この想いだけでも、届けられたのなら———
「カグラ……カグラはどうか」
「カグラ。その由は?」
「いや、なんとなくだ」
イロハが噴き出す。笑っては悪いと思いつつ、堪えられず、腹を抱えて笑い出す。
「……何だ、その、なんとなくってのは」
「いえイロハ。カグラ……とても良い名です。気に入りました!」
「そうか?装置がそういうならまぁ、タビトにしては良い方か。へへっ、そういうことなら決まりだな!」
「よいのか?」
「はい、とてもうれしいです。名があるということは、こんなにもうれしい事なのですね。タビト、ありがとうございます」
田人は少し照れくさそうに、また、空を見上げた。
澄み切った青空に、真白な上弦の月が浮かんでいた―――
◇ ◇ ◇
空に浮かぶ月は どれほど遠くにあるの
夜の静寂しじまに あなたを思う
共に過ごした日々は 遠い憧れ
ひかりに包まれて あなた見失う
過酷な運命が あなた 待ってるでしょう
どうか負けないで 生き抜いていてほしい
今宵の月は おぼろげに消えいりそう
弱く 弱く
あなたの元へ 届くのか不安になるよ
声を 聞かせて
この想いだけでも 飛んで行けたのなら
あなたの温もりが みんなを繋いだの
奇跡を信じると あなた泣くから
あなたがくれた この翼 はためかせて
どんな 場所へも
大丈夫だって 僕の意地を受け止めて
瞳 見つめて……
僕の心は すでに決まっている 迷わない
傷ついたって 報われなくたって
もう何も 怖くはない———
見上げた月は まるで僕ら照らすように
光 たたえて
あなたの元へ 届くって信じている
今こそ……
あなたがくれた この命 輝かせて
会いに いくから
頑張ったねって 僕の意地包み込んで
笑って……
月の光が 未来を 照らしてく———
後書き
遂に、装置に「カグラ」という名前が付けられました。田人は「神楽」や「かぐや」から連想した、ということでしょう。濁していますが。
いよいよ飛び立ちの時です。
次回をお楽しみに。
装置 ・・・ かぐやが月から送られた部品で組み立てた万能システム。このシステムの頭脳の部分が三分割され、イロハとウタの頭脳になっています。
詩 ・・・ 神にささげる神楽のように、田人が月に向けて思った詩を表現してみました。
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