第二十話 うた、母を思う
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……裕福ではなかったけど、幸せな暮らしでした。研究に明け暮れる日々。この技術が実用化できれば、人々の暮らしはもっと素晴らしいものとなる……そんなことを思っていたら、悪化していく体の不調を、あなたに伝えられなかった。論文を書き上げたあの日。高熱、全身麻痺。目を覚ました時、あなたは泣いて謝っていた。悪いのは私なのです。病名は「月死病」。月への移民だけが発症する、予後不良の病気。
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あなたはいつも傍にいてくれた。今までの研究を放り出して、医学を極めると言う。お願い、私のために、夢を断つのはやめて。調子がいい日は、実用化にむけた理論を、記録に残しましょう。それが私の使命なのだと、今は感じます。
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私が寝ている間に、姫様がいらっしゃったという。「探したわよ」と怒られて、「すばらしい論文だった」と褒められたと、あなたは嬉しそうに言うのです。姫様は月死病の研究を約束してくれたと。一目お会いしたかった。とても元気をいただけるから。
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王家が事故に遭われたという。天よ!どうして姫に、仁慈の人に、このような災いが降りかかるのですか。あの健気で気高い振る舞いを思い出す度、心が震えるのです。
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何ということでしょう……移民があの事件の首謀者だと!これで、月死病の研究は止まるでしょう……最後の希望は潰えてしまった。
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移民への風当たりがますます強くなる。進んでいた研究が白紙になってしまったと、世渡りが下手で申し訳ないとあなたは言う。きっと違うのでしょう。移民の研究が、移民の妻を持つ研究者が、世間では認められないということでしょう。
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突然、ノクトーから文が届く。あの後、貴族に奴隷として渡されていたと。よくぞ勇気をもって、伝えてくれました。あなたは私の誇りです。
他にも、横領、武器の密輸、逃亡者による傭兵団の組成。さらには、今回の事件の真相まで!なんと卑劣な。これらは全て、私の記録と符合する。姫に災いをもたらそうとする存在を許すことはできない。
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私たちの仮説が正しければ、より高性能な回路が作成できる。その実用が、何よりの実証となりましょう。この命を懸けて、完成させる。それ迄は、死ぬことは出来ない。今は復讐を忘れ、姫への恩義を果たすべきと言い聞かせる。
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薬はもういらないと駄々をこねて、またあなたを困らせてしまった。でも、今は効果があるかわからない薬にお金をかけるより、この子に、この装置に賭けたい。困らせてばかり、私も悪い女なのだろう。
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遂に、遂に完成した。この子を見せれば、皆、あなたの功績を認めるしかない。良かった。あなたに出会えて、本当に良かった。
出会ってからもう、十年が経とうとしている。
この使命が、私をここまで生きながらえさせたのでしょう。
あなたにはきっと、際限ない栄誉が訪れる。
これからはどうか、自由に生きて欲しい。
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王宮で謀叛が起こったという。守備機兵の浸食。暗部の懐柔。これはあの女の仕業ではないのか!許さない!
星の人々の、弟の、姫様の希望を、愛する人の未来を、返しなさい!
悔しい。もう体がほとんど動かない……
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知られてしまった。あなたは私ような、醜い復讐心に囚われてほしくなかった。平穏に、美しく……私のことなど忘れ、自由に生きて欲しいのです。ノクトー、どうか、あの人を守って。
あなた……あなたの未来を願って……
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かぐや姫処刑まで、あと半年―――竹取の翁の屋敷、研究室
竹取の翁の屋敷、離れの地下にある、薄暗い研究室。動力補給装置に繋がれていたウタが目を開いた。
「今のは……夢の続き……」
「お目覚めですか、ウタ」
「装置、おはようございます。今、夢の続きを見ました」
「夢。以前から、四年以上時間が空いていますが。続きであると?」
「続きであると断定します。早速、ツヅミに伝えなければ」
「わかりました。では、その前にまず休眠中の進捗と今後の処理作業を共有します」
「ありがとう、装置」
そこへ、イロハが入室してくる。
「ちょうどよかった。例の、ツクヨミの件だ。装置、予定より早いんだが、ツクヨミの従手を頼みたい」
「わかりました。問題ありません」
「助かる。ただ、そうなると、ウタも負担が増えることになるが」
「こちらも問題ありません。実施しましょう。しかし、何故今?」
「田人だ……あいつ、歯止めが利かなくなっている。このままじゃ飛び立つ前に」
「……きっと命だって投げ出してしまう」
「ん?ああ……だが、装置なら助けてやれるはずだ。あとウタ、さっきの話。俺と装置にも共有してくれ」
「興味があるのですか?」
「べっ、別に……そんなの、ないけど……」
「そうですね。我々の母の想い出なのですから、共有しなくては」
ウタは語る。運命に翻弄されたヴィスペラ星の女性の苦悩と希望を、愛と憎しみを、絶望と失望を……
「……以上です」
「なるほど……なんたらの君はその後、謀叛軍に入り込み、敵の幹部を失脚させ、内部から組織崩壊を目論み……」
「今のは?」
「いや、わからん。俺の記憶なのか推測なのか……まぁそんなことはいい。いよいよ大詰めだ。装置、ウタ。あいつらを、この星を、そしてかぐやを、絶対に助けるぞ」
「はい!」
「はい!」
「へへっ。一度こういうのやってみたかったんだよな」
照れくさそうにしているイロハ。それを微笑ましく見ているウタ。
「懐かしいな……かぐやのやつ、まさか、助けに行こうとしているなんて知ったら驚くぞ」
「そうでした。イロハ。ツヅミは今、どこにいますか?」
「ああ……多分というか……田人のところだろう」
ウタは頷き、ツヅミがいるであろう救護室へと駆けていった。
後書き
以前にも出現したウタの夢の続きがメインの会です。開発者の冷静と怨嗟、そして、夫への愛が如実に語られています。
そして、この女性たちが開発したものが、装置、イロハ、そしてウタの元となっている。
なので、彼らにとって開発者は母、なのですね。
さて、ウタは、うまくツヅミに夢の内容を伝えられるのか……?
次回もお楽しみに!
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