表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月焦の契り ~竹取物語後日譚~  作者: かやたぼ
第二章 月の姫処刑編
20/35

第十九話 帝、名を賜う

かぐや姫処刑まで、あと一年———竹取の翁の屋敷、飛車工房


 帝に謁見した時より六年が経過。田人は勇壮な青年となっていた。

 周囲の人間からは蔵人(くらうど)様と呼ばれている。これは、帝から、大事なものを管理するという意味で「蔵人」という官職を賜ったものだ。


 イロハからは、

「おーい田人。あれっ!?失礼しました!クランド様?あーっ!クラモチ様か!」

 などとからかわれているが、当の本人は官職に一切興味がないため、

「悪いが、後にしてくれ」

 とつれなく、からかいがいが無いと不評を買っている。


 そんな田人が官職を賜ったのは、今や右大将となった頭中将の手回しであった。

 田人が官職に興味がなくとも、ある程度の地位があったほうが工匠なども扱いやすいであろうという心遣いである。


 そのような心遣いのかいもあってか、ついに、飛車が完成を迎えた。帝はこの飛車の完成を喜び、「ツクヨミ」と名付けた。これは日本神話の神の名であり、帝は自分の先祖である月にまつわる神から連想し、名付けたものだ。


 この日は都の大極殿にて、ツクヨミ完成の式典が行われた。

「かぐやの迎えに遣わすは、蔵人」


 帝も今度は、ツクヨミに乗らせろとも言い出さず、あっさりと田人にかぐや姫のお迎えを任せた。浮遊感への恐怖症ということもあるが、原因はそれだけではない。六年という月日は、帝の中のかぐや姫への情熱を少しずつ、鎮めつつあった。帝のかぐや姫への執心が雲散すれば、現在のような開発援助や衛士の派遣は受けられないということになる。


 ここでも奮闘したのが右大将である。彼は帝に国防の必要性を説き、時にかぐや姫の魅力を語るなどして、何とか帝の心のつなぎとめを図っていた。


 元々の家柄の良さもあったが、帝が飛車に乗った時に帯同していた貴族や武官も味方に付け、一定の派閥を成し、朝廷内の意見調整にも余念がなかった。その苦労が結実し、ツクヨミの製作がさも国家事業であるように式典を催行させた。


 さらに、帝を焚き付け、かぐや姫がこちらに向かう途中に読むための文をしたためることを提案するなど、恋心のつなぎとめも怠らない。


「桑麻呂!」

「これは父君。いかがなされましたか。そのように声高く」

「田人を見かけなんだか?」

「……見てはおりませぬ」

「戻りおったか……宴へ出て顔を広めよと申したものを」

「我も、これにて失礼いたそうかと存じますが」

「待て桑麻呂、顔を出せ。そうそうたる顔ぶれぞ。汝ももう年頃。容の良き女の噂の一つも耳に入れておくが良い。縁というのは待っては来ぬ」

「我にはそのような……」

「何だ。思い人でもいるのか?」

「その……」

「……まぁ任せるがな。よき女というのはぼやぼやしておると、たちまち他の男に取られるぞ」




「ということがあってだな……」

「そうだったのですね……しかし、二つ程、不明なことが」

「何だ?申してみよ」

「その思い人というのは誰なのですか?」

「それは聞くな……父君にせかされてはいるが、この戦が終わらなければ告げることは難しいとは思っている。天人との戦は苛烈を極め、我は命を落とすこととなるかもしれない。そうなれば、告げられぬことは心残りとなろうな……」

「……もう一つ、なぜこの話をウタに相談しているのか、ということです。せめてツヅミに聞くなどすれば、年頃の女性の気持ちがわかろうというもの」

「汝は口が堅いだろうと思ってな。世の隅々まで知らしめたい時はツヅミに話す」


 ウタがしたり顔をする。

「……お目が高いですね。桑麻呂」

「ほう?」

「ウタは夢で恋路を見るほど男女の事に通じております、故に……」

「なっ、まさか……!?」

「はい。桑麻呂の思い人が誰か、ウタにはわかってしまいました」

「何!?」

 ウタの言葉を聞き、桑麻呂は耳まで一気に紅潮した。


「……今は告げることができず、さらに、桑麻呂のようなめでたき御人がこのように迷うようなお相手など、天地に二人とおりません」

「恐れ入った……汝に尋ねて良かった」

「しかし、険しい道となりましょう。ウタが知る限り、恋敵が二名ほどおります」

「……それがよき女に思いを寄せる者の宿命か。だが、我とて、簡単に引き下がるつもりは毛頭ない。我にとって、あの女以上はおらん……しかし、その恋敵とやらは?」

「一人目は田人。田人はその思い人のために、命すら投げ出す手ごわい男でございます」

「やはりか。昔からの知り合いであると聞いてはいたが……しかし我もあの女のためなら、命くらいやぶさるものではないぞ」

「問題は二人目」

「焦らすな……申してくれ……もう、胸が張り裂けそうだ……」

「帝です」

「な……」


 桑麻呂は絶句した。今度は顔が一気に土気色になる。


「まさか……いや、さすがであるというべきか。あれ程のよき女、帝が放っておくはずがない……」

「桑麻呂にウタが申しあげられることは一つ」


 桑麻呂の顔はすでに青ざめ、息を荒げている。これ以上、むごい現実を突き付けられては身が持たないところまで来ていた。

「ともかく技を磨くことです。生き残らねば、会って思いを告げることも叶いません。みっともなくとも、後れを取っても、とにもかくにも、勝って勝って勝ち抜いて、生きて生きて生き抜くのです」


 桑麻呂はどんなことを言われるのかとウタの言葉を歯を食いしばって聞いていたが、少し血気が戻る。

「そ、そうだ、そうだな……できることをやるしかない……ありがとうウタ!迷いは晴れた!」


 桑麻呂は、駆け出して行く。その、明後日の方向に走り出す決意に満ちた背中を見て、ウタがつぶやく。

「良いことをすると、こんなに気持ちがいいものとは……あ、転んでしまった」




 さて、ツクヨミの完成後、竹取の屋敷には轟音が響くようになった。それはあまりにも異質。臓に直接響くような、重厚で鈍い(うごめ)き。まるで地獄の鉄扉が打ち開かれたような、凄まじき情景を浮かべさせる。

 その音の正体は、田人が行っている月への突入模擬訓練による衝撃音だった。機体の最終調整のため、月の防衛機構突入時の衝撃を模擬的に発生させ、機体の改善点を探す。

 この音がする度、救護室には重症の田人が運び込まれてくる。ツクヨミは完成したとはいえ、当初にかぐや姫が内通者からの技術情報をもとに設計したような、理想通りのものとはならなかった。


 ツクヨミの機能や安全機構は十分とは言えず、操縦士に多大な負担をかける機体となっている。この前の訓練では、田人は機体の中でそのまま気を失い、すぐに蘇生処置しなければならない危険な状態であったと、イロハが田人へ熱心に注意していた。

 それでも……意識が戻るや否や、何事もなかったかのように機体の調整に取りかかり、また訓練へと向かう。その頬には火傷の痕、体には副木(そえぎ)が当てられ、指先は血が滲み、その骨もひびが入ったままという、見るに堪えぬ姿であった。


 こうなれば、「地獄の鉄扉」という言葉も、もはや比喩ではあるまい。


 その姿は、何かに取り憑かれたかのように、みずから進んで死出の道を選ぼうとする人間にしか、見えなかった……

後書き


最終局面です。田人の呪い、そして異常性。それが如実に現れるエピソード。

彼を突き動かしているのは一体……


次回も、お楽しみに。


大極殿・・・宮城にある、重要な行事を行うための施設。古代の日本における朝廷の正殿。


ツクヨミ・・・日本神話に登場する、月を神格化した神。月読。


皆さんには桑麻呂の想い人、わかりますよね……?


いつも読んで下さりありがとうございます!

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ