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月焦の契り ~竹取物語後日譚~  作者: かやたぼ
第二章 月の姫処刑編
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第十八話 いろは、鬼神と化す

 かぐや姫処刑まで、あと四年―――竹取の翁の屋敷、地下、開発室


 薄暗い開発室に、歯車が唸る音が低く響いている。時折、大きな鉄の塊が激突したような、重厚な音が響く。

 開発室内では試作機となる兵員搭乗型機兵の戦闘試験が行われていた。

 二体の搭乗機兵にはイロハ、ウタがそれぞれ搭乗し、部屋の片隅には機体の動作情報を見ている都々弥がいる。


「よしウタ、この辺でいいだろう。どうだったツヅミ!?」

「うーん……まだ調整がいるかな。上半身の出力と脚部の剛性が合ってない……」

「そうか?感じなかったが……」


「それはイロハが無意識に調整しちゃってるから。イロハ、腕を振り上げて。ウタ、その瞬間に横から左肩のあたりを押してみて」

「こうか?……あっ!」

 押された方向に、イロハの搭乗機兵が倒れ込む。


「もう少し重心を落とすか……弾性を犠牲にしないためには……関節の可動域をもっと……」

 画面を見ながら都々弥が独り言を言っている。


 この搭乗機兵は月の技術や装置が計算した情報を元に、かぐや姫が基本設計を描いていたものだ。月の都のそれと異なり、四本の脚部を備え、関節や足底部に球状歯車機構を採用している。機動性は高いが、脚の数も多く、なかなか操作感覚が掴みにくいであろうという構造だ。材質の生成作業は想像以上に困難を極めたが、ようやく実用段階に到達しつつあった。


 都々弥が試験調整のため搭乗機兵を操縦している。その様子を見ながら、イロハとウタが話し合っている。

「実機の訓練投入は早ければ早いほどいい。やっと調整が終わりそうだな」

「この機体であれば……決戦までに百……いや、百五機は作成できるかと」

「それが限界か……あっちの十分の一ってとこか……」

「潜在能力はこちらが上回ります。後は工匠の成長次第です」

「他の手段も考えないとな……まぁ、まずは訓練か」



 ―――翌日


 地下に設置された練習場に、選抜された精兵百名と補欠が集められた。


「みんな、本日からは実際に搭乗機兵を使っての訓練を取り入れる」

 練習場の中央に、搭乗機兵が五機控えている。白銀のように鈍く輝く装甲。人の背丈の三倍はあろうかという威容。


 選抜隊は先日から操作方法を座学で学んでいたが、実際に居並ぶ搭乗兵器を見て色めきだつ。

「じゃあ炭売、乗ってみろ」

「吾が……」

 炭売は息を呑んだ。


 機体に近づき、イロハの指示に従って操縦席に座る。

 視界が開ける。地上とは全く異なる高い視点。周囲の景色が操縦席の窓から見渡せる。


「右腕を上げろ」

「歩いてみろ」

 炭売がイロハの指示通り、機体を動かしていく。


「……筋がいいな」

 見ている者たちからも歓声が上がる。

「まずはここまでやってみてくれ。体型別に並んでいる。自分の体形に合わせ並べ―――」


 搭乗機兵の訓練開始から五日が経過。

 扱いに慣れて来た。兵たちが搭乗機兵の性能に興奮している。

 新たに五機の搭乗機兵が追加された。


 搭乗機兵の訓練開始から十日が経過する。

「機兵の力に溺れるな。自分の手足の感覚を広げるんだ!」

 イロハが声を張り上げる。


 搭乗機兵の訓練開始から二十日が経過する。

 模擬刀を使用した兵士同士の組み手、銃撃訓練が始まる。

 なぜかイロハの顔が険しい……


 ―――イロハは悩んでいた。思うように練度が上がっていない、これは自分が機械人形であるから、うまく操作感覚を伝えられないためだと。もう一つ、搭乗機兵の力におぼれた兵たちの慢心、まさに文明依存の兆候を感じていた。


 搭乗機兵の訓練開始から二十一日目。

「今日は特別講師に来てもらった。熟練者同士の組み手を見てもらうのがいいと思ってね」

 今日はウタと都々弥が地下訓練場に顔を出している。イロハなりに考えた結果だ。


 イロハが機兵に搭乗する。

「では一旦、ツヅミ、搭乗してくれ」

「吾が?ああ、一旦ね」


 イロハが兵たちの方へ向き直る。

「みんないいか?これから模擬戦闘を見てもらう。上級者同士の組み手は参考になるはずだ!感じ取ってくれ」


「模擬戦闘……?」

 戸惑う都々弥に、イロハ機が模擬刀で斬り掛かる。

「隙あり!」

「ちょっ!」

 ツヅミが機体を側転飛びさせ、飛び退く。


「何すんのよ!」

「次っ!」

 イロハ機が追撃を狙う。都々弥機が咄嗟に左舷椀盾でそれを弾く。

 都々弥機は急速に下がり、壁際に据えられていた槍を掴んだ。



「ちょっと!ウタ!?」

「ツヅミはウタより操縦が数段上手なので」

「吾が戦うなんて聞いてない!」

「ツヅミなら問題ありません。ウタは戦闘より、計算が得意なので……骨は拾います」


 イロハ機が踏み込む。刃が走る。

 都々弥機が跳ねる。床を蹴り、横へ流れる。

 槍が振られ、刃の軌道を弾き飛ばす。


 イロハがにやりと笑う。

(ツヅミは機体を良く理解している。強みも弱みも。だから迅くしなやかだ……)

「まだまだ!」


 間合いが詰まる。上から、横から。イロハ機の斬撃が降り注ぐ。

 都々弥機、跳躍。空中で身を翻し、槍を叩きつける。刃が逸れ、床に火花。


 着地。

 間合い、再び詰まる。


 剣と槍が、一瞬の交差。

 刃が止まる。

 訓練室に、甲高い金属音が響く。



「……このくらいでいいだろう」

 イロハがその言葉を口にするまで、選抜隊たちはその光景を、息を吸うのも忘れ、見ていた。いや、それは瞳に映っていただけ、果たして見たと言えるのか……


 都々弥が恨めしい顔でイロハを見ている。

「説明してもらおうか?」

「……しょうがないだろ、事前に言ったら変に意識しそうだし、そもそも頼んだら断りそうだし」

「だからって!」

「それより頼む。その操縦、人間のお前から、感覚をみんなに伝えてやってほしいんだ」

「いきなりそんなこと言われても……」

「頼む。兵を死なせたくない……」

「……」


 都々弥は顎に手を当て、考え込む。あのイロハが、()()イロハが頭を下げているのだ。真剣な思いに答えねばと、真剣に考えこんだ。


「みんな、聞いてくれ!ツヅミから今の操縦の技を伝える!」

 そこにいる全員が、都々弥に注目した。

「ええと……言葉で言うのは難しいんだけど……」

 炭売も固唾を飲み、都々弥を見守る。



「こう、こう、体の力をぐわっと使って、手先と足先をぎゅーんと伸ばして、すっすっすっす!て感じ!」



 イロハが絶句する。



 この試みも失敗か……そう思っていたところに、

「イロハ、吾にも組み手をお願いしたい」

 と炭売が言ってくる。他の選抜隊も続いて組み手を申し出る。


 目の色が違う。搭乗機兵への浮かれた気分がやっと抜けた。


 兵たちは、先ほどの模擬戦を見てやっと、イロハが求めている水準を思い知った。そして、あれ程巧みに搭乗機兵を操る都々弥の姿を見て、自分もあのように動かせれば……という気持ちが強く芽生えた。



「いい度胸だ……後れを取り返すため、厳しく当たるぞ!」

 その日から、訓練場に絶叫と悲鳴が絶えることは無かったという……


 救護室に運ばれてきた選抜兵からの証言によると、「鬼が……出た……」と短く言うのみで、それ以上を聞き出そうとしても震え怯えるのみだったらしい。


 ◇ ◇ ◇


「おう、補欠」

 イロハは、操縦技術はまだまだ未完成ながら、この地獄の訓練にも音を上げず、必死に食らいついてきていた青年に声をかける。


「何だその物言いは……全く……」

「武芸の基礎が生きている。足の運びと力の向き、実に理にかなったものだ。まだまだ下手くそだが」

「褒めるのか貶すのか、どちらかにしておけ」

「褒めているんだ。もっと操作を洗練させて、みんなに極意教えてやって欲しい」

「我がか?」

「いやか?」

「いや……もとよりそのためにここへ来たのだ。ぜひやらせてくれ」

「おう、少しは役に立てよ、桑麻呂」

「なっ!覚えておったのか!山猿め!」

 イロハは背を向け、手を振りながら訓練に戻っていった。


 桑麻呂は侮蔑に怒るより、むしろ、強い達成感に、顔を綻ばせていた。炭売の方をちらっと見る。

「これで……やっと恩を返せる」


 ◇ ◇ ◇


 一方、竹取の翁の屋敷、地下工房――――


 ウタが少将、高野大國を呼び出していた。


「なんだ、こんな夜更けに。しかも、こんな場所に」

「高野を見込んで……とある作戦を申しつけたいと思っています」

「我に?」

「はい、中将からの推薦だったので」


 高野大國の表情が引き締まる。彼はかぐや姫昇天の夜、天人を前に何もできなかった屈辱を、誰よりも深く刻んでいる男だった。


 ウタの背後に置いてある巨大な筒が、高野の目をくぎ付けにしていた。


「……聞かせてくれ」

後書き


イロハによる搭乗機兵の訓練が開始。決戦が迫っています。

そして、竹取物語にも登場した高野大國が何やら極秘任務を……


次回をお楽しみに!


いつも読んでいただきありがとうございます!

読んでいただけることがとても幸せです。

今後とも応援よろしくお願いします。


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