第十六話 都々弥、恋を聞く
かぐや姫処刑まで、あと六年―――竹取の翁の屋敷、作業場
現在、資源の採掘や輸送、工匠への技術的な指導などはウタが担当し、都々弥が補助をする、という形で受け持っている。月の技術と帝から提供を受けた工匠や雑徭を用いて資源の採集や加工を行い、作業場が拡張していくと、さらなる工匠を集めた。
「地形図の分析によると、ここに大規模な資源の可能性があると」
「輸送船の動力に月の技術を応用できないか?」
「現地である程度素材を選り分けられればよいのだが……」
現在、採集範囲は国外にまで広がっている。
そうなると新たな問題も発生してくる。効率と危険性、希少性と困難さ、これらをどう判断し、限られた人員をどのように配分していくか。
海を渡ってしまえば言葉も違い、帝の威光も届かない。
その日はウタと都々弥が、海を渡った場所にある新たな鉱床の調査団に同行していた。現地を確認したが、そこは原住民が神聖としている地域であり、採掘には不適切と判断した。
その帰還中、機内でウタと都々弥が会話している。
「……残念だったね」
「仕方ありません。現地の人々から神聖視されている山のようですから」
「神様を信じる気持ちも分かるんだ」
「信仰心はないので理解はできませんが、人々にとって大事なものだと把握しています。不要な摩擦は効率的要素ではありません」
都々弥が微笑みを浮かべる。
「なんかウタ、話し方がもう変じゃなくなった」
「これはツヅミのおかげです。学習の成果が出ているようです」
「ふふ、ウタが頑張ったからだと思うよ」
「ありがとうございます。かぐやの調査結果によれば、まだまだ候補地はあります。次に期待しましょう」
「そうだね。頑張ろう!」
「成果と言えばもう一つ、最近は夢を見るようになりました」
「えっ!?ウタ、夢を見るの!?」
「はい、力を蓄える際に休止しているのですが、その時に」
「ど、どんな夢!?」
「はい。男性と出会い結ばれる、という夢です」
「すごいすごい!えーっ!ウタが!?聞きたい!聞きたい!」
「では……」
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母なる星に別れを告げる時が来た。
我々の船は新天地に向かう。
眼下に広がるヴィスペラの姿もこれが見納め。
私の研究が完成していれば防げたのかと思うと、悔いが残る。
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もうじき着くという。
人々の顔が晴れる。
艦内で諍いが起こった。
粗暴な振る舞い、あの者たちは何者だ。
ヴィスペラの者ではない。
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月に到着する。
移民管理官として歓待の席に出席する。
役人が賄賂を要求してきた。
下船が一向に進まない。
我々を臣民として受け入れるのではなかったのか。
我々にもう、帰る場所は無いというのに。
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ノクトーが捕まった!
役人と揉めたという。
無事を祈るしかない。
下船は遅々として進まない。
赤子たちの泣き声がやまない。
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収容所にも弟の姿が無い。
役人たちの立ち話を盗み聞く。
あの荒くれもの共は、星間逃亡犯である可能性が出てきた。
収集した情報を克明に記録しておく。
他の星にこの有様を伝えるために。
この記録は厳重に秘匿しなければならない。
「待ってウタ?」
「何でしょうか?」
「今のは?」
「夢です」
「……思っていたのと全く違う……男性との出会いがどうとかって」
「装置にも解析してもらいましたが、これはウタの部品の中に込められた開発者の記録が出現しているのではないかと」
「ってことは……その人の日記を勝手に覗き見ているようなもの?なんか悪いな……」
「ではやめておきましょう」
「いや、今の無し!もう少け聞かせて」
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初めて月の都の表層にでる。
上空の天幕、あれが結界。
明日から役務だと言い渡された。
我々は奴隷としてこの星に来たのではない。
弟は、人々は、無事なのか。
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移民の入管において不正を指示していた人物が捕らえられたらしい。
今日は近衛団を名乗る人々が我々の護送や給仕にあたっていた。
彼らは非常に親しみやすく、敬意にあふれている。
ここに来て初めて、人として扱われた心地だ。
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月の住居事情は大変なようだ。
しばらくは相部屋と、係の人が頭を下げる。
引き離されていた家族たちが再会を喜んでいる。
移民管理の仕事はこれでひと段落だ。
しかし、ノクトーが帰ってこない。
生きていて欲しい。
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移民にはまだまだ、就ける職種が少ないらしい。
月の民ですら、仕事がない人々がいるようだ。
住居、働き口。
これだけ進んだ文明でも、このような問題があるとは。
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図書館の管理員の仕事に就く。
管理員と言っても、庭園や装飾の生花の世話と清掃が主である。
蔵書は月の民しか閲覧できないそうだ。
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図書館はとても素晴らしい場所であった。月の民の子供に見つめられた。やはりヴィスペラ人は珍しいのだろうか。会釈をしたが逃げられてしまった。月の言葉をもっと練習しなくては。
「……あのー、ウタさん?」
「はい」
「その、出会いの場面から話してもらえるかな……」
「わかりました」
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ついにやってしまった……月の都の研究所、重力に関する論文。
ああ、おしまいだ。
いくつか尋問をされた。
彼は私をどうするつもりだろうか。気が重い。
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誰が決めたのかは知らないが、日記はその日の始まりに書いてはいけないらしい。
しかし、私は今日、戻ってこれないだろう。
ああ、ノクトーよ、先立つ姉を許して。
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私は今日を生きることが出来た。
この胸の高鳴り……ああ!日記は前日に書いてもよいこととした。
なぜなら、この気持ち、少しでも書き出しておかないと、頭が破裂してしまう。
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ああ、眉月の君。私がどれほど感動したか、あなたに伝わっているのでしょうか。
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彼は私を、誰もいない部屋へ連れ込みささやいた。
「ここでなら、誰にもはばかられず、思う存分」
花開く、私の研究成果。めくるめく、月の研究資料。
彼の鋭い指摘に、私の理論は慌てふためく。
こんな幸せでいいのだろうか。ヴィスペラの研究が月の技術ととけ合う。
彼は私の研究動機を聞いて、悲しげに微笑む。
そう、私は、質量を失い崩壊する、母なる星を救いたかった。
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結界は、前文明の遺構であり、既に失われた技術であると。
その技術を解析するために、彼は研究をしているという。
あれは月のレガリアと、皆が思い込んでいる。
私が見ていい資料ではないはずだ。
彼が責められるようなことがあれば、私は耐えられない。
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宇宙の収束と展開。
その圧倒的な重力の嵐に幾度となく耐えた彼らが、この宇宙に多様性を生み出している。
いかにして乗り越えたのか。それがわかれば……
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楽園は暴かれた。甘き日々は終わりを告げた。
幼き姫は、私たちの研究を素晴らしいと、私を臣民だと言ってくれた。
ああ、私はどうなってもいいのです。彼に災厄が及びませんように……
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仕事を辞める。彼に迷惑はかけられない。
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眉月の君が現われた。
幼き姫の働きかけにより、移民の権利が認められることとなったと。
彼は私の手を取り言った
「そのためには月の民の保証人が要る。
私はあなたを、妻として迎えたい」と……
ああ、幼き姫、貴方へのご恩は生涯忘れることはありません。
「……これは結ばれた……ってことでいいの?」
「はい、いかがでしたか」
「もっと、わかりやすく話してもらえると……」
「はい、ツヅミにはまだ、恋の話は早かったかもしれません。続きを見たらわかりやすく話すよう試みてみます」
「……まぁ、いいか。楽しみにしておくよ」
「はい、この話は是非、かぐやにも聞かせてあげたいと思っています。きっと喜ばれると思いますので」
「……前から思ってたんだけど」
「なんでしょうか?」
「何でウタって、かぐや様を呼び捨てにするの?イロハもそうだし、何か決まりがあるとか?」
「いえ、ツヅミがそのようにしろと」
「え……?そんなこと言ったっけ?」
後書き
月への移民の視点から、月もまた様々な問題を抱えていることが暗示されています。
日記形式で語られるウタの夢……日記の主とは、幼き姫とは、眉月の君とは(すいません、しばらく不明のまま進みます。ストレスになったらごめんなさい)
次回もお楽しみに!
・雑徭 ・・・ 日本の律令制下で、農民に課せられた肉体労働
ウタの一人称はウタのようですね。
様を省略するのは、以前ツヅミから様はつけなくていいよと言われたシーンから、です……
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
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