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月焦の契り ~竹取物語後日譚~  作者: かやたぼ
第二章 月の姫処刑編
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第十四話 帝、飛車に奉る

かぐや姫処刑まで、あと六年と半年―――竹取の翁の屋敷 


 田人の元に、帝から、そろそろ飛車は出来あがったかと確認する書状が毎日のように届いていた。

「まだ工匠も集まりきっていないというのに……」

 書状を見て思い悩む田人。横からイロハが覗き込んでくる。


「良い考えがあるぞ。かぐやが使っていた飛行機があるだろ。あれを見せてやれ」

「しかし、あれは地上用のものだぞ」


 これを聞いてイロハは噴き出した。

「どうせわかりっこない。それに、これだけ催促が来ていて、何も見せないわけにもいかないだろう」

「……わかった……試してみよう」


 数日後、帝が大仰な行列とともに竹取の翁の屋敷に現れた。行列には大勢の従者や役人、さらには天人の技とやらを検分しようとする大勢の貴族が付いてきていた。


 帝が御輿から降りてくる。恭しく平伏する田人。

「かくのごとき見苦しき所へ、よくぞ御足労くださりました。」


「苦しゅうあらず。久しぶりなるな、タビト。それに、この家も懐かしく……と、もっとも、あまり覚えているわけでもないが……」


 帝は以前、まだかぐや姫がこの屋敷にいた時に、ここへ来たことがあった。


 屋敷の近くの山に狩りに行くといって、急遽、かぐや姫の部屋に押し掛けたのだ。その時、かぐや姫の袖を捕らえた瞬間、かぐや姫は光となって消えてしまった。田人が言うには、それも天人の技の一つだったという。


 一行は、飛行機の前まで到着する。

「こちらに在ります。いざ、ご覧じ給へ……」

「おお……これぞ飛車と申すものか。されば、浮くか?」

「いまだ月へは至りませぬが……これより浮かせて、御目にかけ奉ります」


 そう言うと田人は飛行機に乗り込んでいった。


「危うきゆえ、少し離れてご覧じ給へ」

 帝の傍らには、イロハが案内役としてついていた。


「はて……?」

 帝はイロハの横顔を見てふと、引っ掛かりを覚えた。

(何か昔、どこかで会ったことはなかったであろうか)と……

 しかし、見た目は完全に子供。

「汝、齢いくばくぞ?」

 と問う。


 ここで「かぐや姫の面影」に気づかれては、話がややこしくなる。それどころか、「育ったら余のところへ……」などと言われかねない。


 イロハは帝の詮索をけん制するように、

「恐れながら、吾は男にて奉ります」

 と、すげなく返した。



 田人が飛行機を起動させる。

 周囲にはすさまじい風と音が起こり、やがて、機体が徐々に浮上する。


「おお!なんという……これが飛車か。しかし、これほどうるさく、臭うものとは」

 目を輝かせている帝と対照的に、周りについていた従者は腰を抜かしていた。

 この巨大なものが人を乗せ、宙に浮くとは!と、信じがたい様子である。帝が興奮した様子で従者に話しかけてはいるが、音が大きく全く聞き取れていないようである。


 しばらく浮いた後、機体は高度を落とし始め、着陸する。



「いざ逢いに!わが身も阿弥陀のように浮かぶものぞ!」

 このようなものを見せつけられ、居ても立ってもいられないと、帝は目を輝かせながら乗りたいと言い出し、従者の制止を振り切り、後部座席へ颯爽と奉る。

 かぐや姫に会えることがいよいよ現実味を帯びてきた……嬉々として興奮が抑えられない様子である。

「いざ、参らん!」


 再度、飛行機が起動する。


 しかし、機体が浮いてみると、帝は遠ざかっていく地面におののき、襲い掛かる浮遊感に吐き気を催した。


「お……下ろせっ……!うっ!」


 みるみる顔が青ざめていく帝。田人は慌てて出力を下げる。



 着陸後も帝は全身に力が入らないようで、田人の手を借りながら、何とか地に降り立った。どうやら、帝は浮遊感が極端に苦手らしい。その場に倒れこんでしまう。


「うう……死んでしまう……」

 周りで見ていた従者も駆け寄り、大慌てで帝を介抱しようとする。


 その傍ら、イロハは淡々と帝へ酔い止めの薬を献上した。

「こちらの薬を賜ってください。飲めばおさまります」



 この一連を、頭中将は離れたところから見ていた。これまで天人や飛車を見たことが無かった貴族たちが天人の技術を目の当たりにしたことは、半信半疑であった人々を味方に引き込む良いきっかけになる。

 だが、このように帝が倒れてしまったのは思いの外であった。

「余計な騒動に繋がらなければよいのだが……」


 この中将の懸念は、現実のものとなる。





 ―――帝が倒れられた


 この話を吉報だととらえる者たちがいた。


 朝廷内には異例の抜擢を受けた田人を面白く思わない者たちも多い。

 それもそのはず、出自すら不明な者が能力で引き立てられることがあっては、これまで血族で作り上げてきた既得権益が脅かされてしまう。

 そんな彼ら、帝が意気(いき)軒昂(けんこう)に出で給うのを苦々しく思っていたが、帝が飛車に乗りこんで倒れられたという話を聞いて、これを機に、飛車の開発の中止を申し出て、名利のために田人を失脚させようと考える。



「―――大臣、聞きましたか?」


「ああ、飛車のことか。帝がまた、食事をとられていないと」


「やはり、あの怪しき者を取り立てるなど、間違いであったのです……あの件には膨大な費用も掛かっております」


「いかにも」


「それに聞きましたぞ。帝がかぐやに取りつかれてからというもの、大臣の御娘も、元より全く相手にされなかったのが、いよいよ見向きすらされないと」


「……今、なんと?」


「と、ともかくです!大臣から申し上げていただけないでしょうか。あの飛車の作成の取りやめを。さすれば、帝もかぐやを断念することとなるでしょう」


「一度、そのように話してみるか」



 大臣は見舞いと称し、帝に話をする機会を得た。帝は以前のように、そう、まるでかぐや姫が昇天した直後の時のように、御在所からも出ず、部屋内の御簾(みす)にこもっていた。周りの者が言うには、飛車のことを思い出すだけで、未だに具合が悪くなると訴えているという。



「……大変でございましたな。」

 帝の手元には、かぐや姫とのものと思われる文が重ねてあるのが見える。未練と思し召しか、それとも、区切りを付けようとされているのか……


「そなたにも心配をかけるな……」


「とんでもないことでございます……恐れながら、この度……飛車については、お考え直しになったほうが良いのでは」


 帝は天井を見上げる。

「……あれは恐ろしいものだった。思い出すだけでも……うっ」


「おお、おいたわしや。お命の危うきこそが大きな障害です。で、あるならばやはり……」


 帝は悲しそうな表情で、文を見つめる。

「心苦しいものだ。あれはかぐやの、月まで迎えに来てほしいという、いとあわれなる心ざまかなと思ったのだが……どうやら、思い直さねばならんようだ」


「おお!」

 大臣の声が思わず漏れる。これはいけなかった。病に伏せる帝の御前においてこのような声を出すなど、臣下の礼にもとるというもの。


 大臣は喜ばしい感情を押し殺し、心を整えた。

「……では、いかように」


「かぐやの志に、答えてやれそうもない」


「仕方のないことでございます。かぐや姫も受け入れることでしょう」


「そのように申してくれるか」

 帝の声に、少しだけ力が戻ったようだ。

 大臣は、事は成ったとほくそ笑みそうになったが、奥歯を噛みしめ、早まるなと自戒する。


「では……この度のことは……」


「ああ、他でもない。飛車だが」


「はい」



「……飛車だが……」


「……はい……」



「…………飛車だが…………」


「…………はい…………」




「かぐやに乗ってもらって、こちらへ来てもらうこととする」

後書き


危ぶまれた(?)飛車の建造計画も続行が決まり一安心。


次回もお楽しみに!


「いざ逢いに!わが身も阿弥陀のように浮かぶものぞ!」 ・・・ 竹取物語「逢事も なみたに浮ふ わか身には しなぬくすりも 何にかはせむ」をモチーフにしています。


御簾 ・・・ 高貴な人の屋敷で使わた竹製のすだれ。特に帝など、その人自身を示す場合もあるとのこと。


意気軒昂 ・・・ 元気いっぱいで、気持ちが高揚しているさま。ノリノリ。



もともとコメディリリーフであった帝がいよいよ躍動していますね。(いいのだろうか……?)

かぐや姫処刑の期日が迫る中、今後は段々と緊張感も増し、話が引き締まっていきます。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。楽しんでいただけるよう頑張ります!

応援よろしくお願いします。

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