第十三話 都々弥、赤面す
かぐや姫処刑まで、あと六年と十月―――竹取の翁の屋敷
イロハは田人の要請を受け、第二の機械人形の作成に取り掛かっていた。
かぐや姫が機械人形の作成情報が残していたため、効率的に作業は進みおよそ一月を経て完成する。
名前は「ウタ」とした。
見た目はイロハと瓜二つだが、髪型と音声は若干変更されている。
機械人形が完成したとイロハから連絡を受け、都々弥が見物に来ていた。
「本物の人間みたい……顔はイロハにそっくり……髪はちょっと女の子っぽいかなぁ……」
ウタを見まわす都々弥。そこはかとないかぐや姫の面影と女性らしい髪形に、イロハには感じたことのなかった懐かしさを感じた。
「ツヅミ、悪いんだがしばらく、こいつの面倒を見てやってくれ。色々教えてやってほしいんだ」
「え、教えるって……イロハみたいになんでも知っているんでしょう?」
「いや、まだ学習中でな。こいつは俺とは違い、特に他人への思いやりが不得手なんだ」
「ん、聞き間違いかな……?それだとイロハに思いやりがあるように聞こえ……」
「じゃあ頼んだぞ」
「ちょ、ちょっと!」
一方的に面倒を押し付け、どこかへ行ってしまうイロハ。
「イロハめ……何が思いやりだ……」
「都々弥様、よろしくお願いいたします。不束者のウタと申します」
「よろしくね。ええと……ウタって名前はどんな意味なの?」
「すべての時間、すべての事象を表すとのことです」
「……え、うん……ま、まずは、吾とお友達になろう」
「友達、それは人との交わりにおいて最も難きもの。初学には勧められざるものと」
「いいからいいから。あとはその話し方かな……様はつけなくていいよ。ツヅミって呼んで」
「わかりました。友達、話し方の習得、様の省略。これを目標に設定。ツヅミ、よろしくお願いいたします」
「うん」
丁寧なウタの語り口に、都々弥は若干、困惑の表情を浮かべている。
「ツヅミ。では早速、ツヅミについて教えてもらえますか」
「え?」
「イロハからは、ツヅミからよく話を聞いて仕上げをしてもらえと」
「勝手に……」
「問題がありましたか」
「……まぁ、ウタは悪くないか。ここに座って話そう」
「はい」
屋敷の縁側に腰を掛ける二人。
人と話すのはむしろ好きなほうであった都々弥だが、今回は思案している。ウタはその横顔をじっと見つめていた。
「話すこと、話すことか……」
視線を空に向ける。
都々弥は物心ついた時から寺におり、孤児として育てられてきた。自分について語れと言われても、あまり思い出したくないようなことも多いようだ。どんな話をしていいのか皆目見当がつかない様子。
「吾はね、物心つく前からお寺にいて、法師様に育てられていたんだけど」
「はい」
「田んぼや畑の世話をしたり、炊事にお洗濯、法師様に手習いを教わって……法師様から褒められるのがとても嬉しかったな、って、こんな話でいいの?」
「とても興味深いです」
「そう?あとは、すぐ泣くって言われるかな、うん。ここに来るときも泣いていたし」
「はい」
「昔、まだお寺にいる頃ね、法師様が行脚でいない時に、麓の村の人が来て、労役に出なくてはならないからきび畑の世話を頼みたかったのだけどって。きっと、法師様がいたなら受けただろうって、受けたことがあって」
「はい」
「それから毎日草をむしり、水が溜まればかき出した。きびは大きく育ったんだけど……そのうち雀がたくさん来るようになって、追い払ってもすぐに来て……村の人は棒で叩けっていうんだけど、かわいそうで……きびの番は受けるべきじゃなかったのかなって、どうしようって、その時も一人泣いてた……」
「はい」
「そうしたらタビトが声をかけてくれて……雀がかわいそうって言ったら、雀はツヅミが手入れをした畑を苦労もなくついばんでいる。そのような楽を覚えさせては、かえって雀のためにならないぞって」
「はい」
「それからタビトはいろいろ考えてくれて、二人で人型を作ったり、カラスの木彫りを作ったり、それを畑に置いて……タビトは鉄で、音が出たり日の光できらめいたりする鳥よけも作ってくれたんだ。村の人はそんなの意味あるのかって言ってたんだけど」
「はい」
「それで雀がほとんど来なくなったの!それでも一、二羽は来てたんだけど、その雀を見てタビトは何て言ったと思う?」
「わかりません。教えていただけますか」
「『この仕掛けを超えてくるとは大したものだ。この雀はきびを食べるに値するぞ、存分に食べろ』って。ふふ、おかしいよね」
「はい」
「……雀をあわれな者とか邪魔者ではなく、知恵を競い合う相手だと思ってる。きっとタビトは、吾のためにしてくれたっていうより、どうすれば良くなるかって、考えることが好きなだけなんだろうけど」
「あの」
「何?」
「タビトではなく、ツヅミの話をお聞かせ願いたいのですが」
「あっ!ああ……そうだよね……でも吾の話なんか……そうだ!かぐや様!かぐや様の話をしてあげるよ」
「わかりました。かぐや、ですね。お願いします」
都々弥は気持ちを整えるように息を吐き、また話始める。
「かぐや様はね……とても綺麗で賢くて……とてもやさしくて……」
「はい」
「でも、月の人だから、ちょっと変わったところもあって。なんだかそれがとてもおかしかった」
「おかしいのですね」
「お寺の裏にはお墓があって……夜に幽霊が出るって話を聞いてから、怖くて寝れなくなった時があって」
「はい」
「かぐや様にその時の話をしたら、幽霊とはなんですかって言うの。かぐや様でも知らないことがあるんだなって。だから、怖がらせようと思って。死んだ人の魂が夜に現われて、人を驚かすんだ!って教えたの」
「はい」
「そうしたらかぐや様、『死んだ人にまた会えるなんて、なんと面白い戯れなのでしょう、ああ、もし会えたなら、どんなことを話しましょうか!?』なんて」
「はい」
「……かぐや様と話をしているうちに、ああ、幽霊っていないんだなって、気づいちゃった……人は死んだら無になる。だって、幽霊がいるなら、お父さんやお母さん、会いに来てくれるはずだもんね……なんてね、急に寂しくなって、涙が出てきて……そうしたらかぐや様が、大丈夫ですよって抱きしめてくれたの」
「はい」
「あったかかった。お母さんがいたら、きっとこんな感じなのかなって……ああ、かぐや様に会いたいなぁ……みんなかぐや様が好き。ウタもきっと、かぐや様を好きになるよ」
「はい」
「……ウタのためにも、かぐや様を助けなくちゃね。かぐや様はね、三人だけでも助かるようにって、飛車の行き先を決めていてくれたみたい。でも、飛車は、かぐや様を助けるために使うって、三人で決めたの。ウタ、力を貸して。皆で頑張れば絶対助け出せる」
「はい」
「頑張りすぎもよくないか。タビトなんか、かぐや様が月に帰ってから人が変わったみたいに飛車にのめり込んでいる……あの日から、笑ったところも見てないよ。まるで笑うことを、悪いことだと思っているみたいに」
「はい」
「吾もスミも、かぐや様に新しい命をもらえたって感謝している。でもタビトの想いはもっと特別。かぐや様のためなら、きっと命だって投げ出してしまう。ウタはタビトを助けてあげて。タビトは自分の考えをあまり表に出さないから……でも、冷たいってわけじゃなくて、意外と周りを見ていて、優しいところもあって……」
「話の途中に申し訳ないのですが、一つ質問があります」
「ん、何?」
「またタビトの話になってしまっているのですが」
「あ……」
都々弥の顔が赤く染まっていく。ウタはその変化を興味深そうに観察していた。
後書き
新たな機械人形として生み出されたウタ、そして、タビトともにかぐや姫に引き取られたツヅミのエピソードです。かぐや姫の異文化性やタビトの危うさを盛り込んでみました。
次回もお楽しみに!
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