やったぜ、運命のキス (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
記念リクエスト作品
企画・原案: 葵生 さま
突然だが、私は師匠のことが大好きだ。
本人の前では素直になれず、ツンとした態度をとってしまうことも多いが、心の中ではよく
『師匠、今日もかっけー(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾』とか考えている。
10年前、当時7歳だった戦災孤児のわたしを拾って「弟子にする」と宣言した師匠。
心を閉ざしていた私に嫌な顔ひとつせず、優しく面倒を見ながら『魔法』という生きる術を教えてくれた。
そんな師匠に私は次第に家族の様な情を抱く様になり、いつしかそれに異性としての恋愛感情もついてくる様になった。
だって、師匠って本当にカッコいいんだもん。
本人曰く魔力総量は多くないみたいなんだけど、経験豊富で機転がきいて、いろんな魔法に精通しているし。
ちなみに、そんな師匠に育てられた私は攻撃魔法をブッパするしか脳がないんだけど、その威力だけは中々のものだと自負している。
全くそんな気はないから固辞したけど、先日は王宮からスカウトがきたしね。
そんな、知恵の師匠とパワーのわたし。
二人一緒なら、もう何も怖くない。
暴風竜のブレスだってそよ風。キマイラだって子猫ちゃんだ。
でも、もどかしい事がある。
師匠はいつまでも私の事を『女』としてみてくれないのだ。いつまでも拾ってもらった時の私じゃないんだけどなぁ……最近は胸も膨らんできたし。
まあ、素直になれずについ『と、特別な感情なんてないですけど!師匠は恩人だし、三十路過ぎの男が今更一人になるのは寂しいだろうから一緒にいてあげてるだけですけど!』なんて子供っぽいことを言っちゃう私が悪いのはわかっている。
きっと、そんなところも師匠は全てお見通しで、だから大人扱いしてもらえないのだ。
だから今日の戦いが終わったら素直になって、一人の女として師匠に告白するんだ。二人の関係を変えるために。
今日は師匠とコカトリスって言う恐ろしい魔物を討伐する予定。だけど、負ける気は全然しない。
石化の魔術って言うのを使ってくるらしいけど、当たらなければどうと言うことはないしね。
◇◇◇
「ファン!大丈夫かファン!」
「し、師匠……よかった、師匠が……無事、で」
畜生、なんてこった。
弟子のファンが、コカトリスの最後っ屁で石にされちまった!
コカトリスの使ってくる石化の魔術は、脳も心臓も石にして人を殺す恐ろしい攻撃だ。
……まあ、72時間以内に『時戻りの魔法』っていうのをかければ打ち消せるんだけどな。
消費魔力が大きいし、ファンは攻撃特化の猪突猛進型で、すぐ油断する悪癖もあるからあえて教えていなかったが。
しかし、今のは完全に俺のミスだ。
ファンは俺を庇った結果、石にされた。
「これは、潮時ってやつかな……」
言葉にすると、ストンと腹におちた。
可愛い弟子はメキメキ実力を伸ばしていて、最近だと俺の方が足手纏いになりつつある。
ファンは、『超級攻撃魔法』を使える。
いわゆる一芸特化型の天才という奴だ。
本人は全くそんな気はないからと固辞したけど、先日は王宮からスカウトもされていた。
器用貧乏の俺とは毛色が違う。
ちなみに王宮抱えの魔法使いというのは、騎士団にガチガチに護衛されつつドラゴンやヘビーモスに超級魔法をブッパするだけの簡単なお仕事。
今みたいなフリーランスよりも安全で、休みも多く給金はずっとよく、社会的地位も高い。
「うん、ファンは俺から離れるべきだ。」
そう思う理由は、実はもう一つある。
恥ずかしいことに、最近俺はファンを『女』として見てしまうのだ。拾った時は男と間違うくらいだったのに、すっかり美人になったから。
「でも、10歳以上歳の離れた育ての親のような存在からそんな目で見られるの、ファンからしたら不本意だろうしなぁ……」
現在、思春期真っ盛りのファン。
トラウマになりかねないし、もしもファンから「うわ、師匠って私のことそんな目で見てたんですか……キモ」とか言われたら、俺はもう生きていけない。
「でも、別れるにしてもファンは義理深いからなぁ。そこをどうすっかだよなぁ……」
騎士団のスカウトを固辞したファンに『なんでいかなかったんだ?俺のことそんなに好きなの?』ってきいた時には『師匠は恩人だし、三十路過ぎの男が今更一人になるのは寂しいだろうから一緒にいてあげてるだけですけど!』とか言ってたし。
「あ、そうだ、時戻しの副作用でファンとの記憶を無くしたことにしよう。それで、もう他人みたいなものだし一緒にいる必要も無いとか言えば……」
これでもハッタリを効かせるのは上手いんだ。
罪悪感や寂しさがないかと言われたら嘘になる。
しかし、しがらみから解放して弟子を自由にしてやるのが、情け無い師匠の最後の仕事だろう。
◇◇◇
「はっ!」
あ、あれ?
私、コカトリスに石にされたんじゃ……
「気がついたか?」
ああ、師匠が何かしらの魔法で助けてくれたのか。やっぱり師匠ってすごい!
「ところで……君は誰だ。状況を説明できるか?」
「……はい?」
情報をすり合わせてみたところ、どうやら師匠は、石化を解く魔法の副作用で私との記憶だけを無くしてしまったらしい。
そんなご都合主義展開みたいな事あるのかと思ったけど、師匠は小難しい理屈を並べてそんな事あるのだと言っている。
師匠がそう言うならそうなんだろう。
理屈はよくわかんないけど、とにかくそうなっていることだけはわかった。
「き、記憶は戻らないんですか?」
「そんな事例は聞いたことがない。つまり、俺は以前の俺とは違う。もう他人みたいなものだ。以前の俺に世話になったと恩を感じてくれていたとしても、もう気にせずに、君はこれから好きに生きてくれたらいい」
なるほど……
ならば私がやることは一つだ。
「師匠、もう一つお伝えする事があります」
「なんだ」
「実は私、弟子であると同時に貴方の妻だったんです。」
「ファ!?」
「だからまた良い仲になりたいんです。でも、いきなり夫婦とか言われたら師匠も荷が重いと思うから……もう一度恋人からやり直しませんか。ア、ナ、タ?」
それは、新しい関係の構築。
記憶がなくなった?師匠の人格がそのままなら、なんの問題もありませんよ。逆に、素直な態度でやり直す絶好のチャンスまである。
嘘をつく罪悪感はあるけれど、師匠はよく『必要なハッタリはいいんだよ、終わりよければ全てよしなんだから』とか言ってたし。
きっと幸せにするから、許してちょ。
そしてこういう時は、たぶん勢いが大事。
羞恥心をアンインストールし、先手必勝の開幕ブッパだ。
「……本当か、それは」
「ホントホント」
「嘘だろう?」
「ウソチガウ、ウソチガウ」
師匠は私の事が大好きで、師匠から告白してきたんですよ?私もそれに絆されちゃって、最近は毎日ラブラブちゅっちゅしてて……
「ふざけんじゃねえ!」
「真剣だわ!」
「じゃあ今から俺にキスできるのかよキス!」
「できらぁ!」
ガチン
勢いでファーストキスを捧げてしまった。
その事に後悔はないが、勢いが良すぎたらしい。歯がぶつかってお互い悶絶する。
「な、なんて事するんだファン。流石にふざけ過ぎだぞ!毎日ラブラブちゅっちゅどころか、お前これ、ファーストキスだろうが!」
「えっ?……師匠、もしかして記憶が戻ったんですか!」
「あ!?」
戻らないはずの記憶がどうして……と訝しんでいたら師匠は、「う、運命のキスで記憶を取り戻したんだろう」と説明してくれた。
なにそれロマンチック!
理屈はよくわかんないけど、師匠がそう言うならそうなんだろう。愛の奇跡ってやつね、オーケィ!
そして、運命のキスという事は……つまりそういう事だ。どうやら私達はすでに両思いだったらしい。
やったぜ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
◇◇◇
「ねえ、おかーさん。」
「んー、どうしたのアオイ?」
今年7歳になる娘が、宮廷魔導士の妻に話しかけている。
どっちも超可愛い。
「おとーさんは、おかーさんにどうやってプロポーズしたの?」
でも、最近おませさんなんだよなぁ。
時々答えにくい質問してくるから困る。
「お父さんにはきいたの?」
「うん、でも、どーだったかなぁーって」
ファンがジト目でこっちをみてくる。
いや、本当は覚えてるけど恥ずかしいし……
遠征帰りのところにスマン、上手く誤魔化しといてくれと目で合図。
「そっかぁ……お母さんも忘れちゃったな。でも、もういっかい、おとうさんが『運命のキス』をしてくれたらおもいだすかもね〜」
うぉおおおい!?
おわり
下記のリクエストを元に執筆させて頂きました
葵生 さま ありがとうございました。
◇◇◇
年上男性の師匠(魔法とかの?)を残して、死んじゃった女性弟子が出てくるお話とか読みたいです!
何故か生きていて...!?師匠が時戻り?とかの魔法をかけてくれるんだけど、師匠自身は忘れてて...運命のキスで記憶を取り戻す!?とかの設定を僭越ながら、リクエストさせていただきます!




