Flashback - 18/05/2047 - / 転換期 - 2047/05/18 - / Sanatorium - 18/05/2047 - √B『すぐに避難するように呼びかけた』
私は周囲の人に避難するように呼び掛けた。もしも彼女であれば近づくのも放置するだけでも大問題だ。であれば、私の見間違えであっても逃げた方がいい。間違っていたとしたら謝ればいいだけだが避難しなけらばここにいる全員が死ぬ。
「…………………今すぐ学校から逃げて」
「え?」
「早く!」
絵美は先程と違う私の態度からその意図はわからずとも周りの人を引き連れてこの場から離れていった。私はすぐに海斗に連絡を取る。
「どうした?」
「海斗、佐々木葵が居た!」
「なんだって!? じゃあ、早く避難を!」
海斗は言いたいことをすぐに理解してくれた。佐々木葵の対処は避難以外、直接撃破しかない。
「私は彼女が事を起こす前に直接撃破する。だから、貴方は援護お願い」
「了解した。気をつけろよ?」
「うん。貴方もね?」
私は海斗にそう言って通話を切る。拳銃にサイレンサーを装着する。チャンスは一度きり。彼女の脚を狙って機動力を削ぐ。
「…………あっ」
見事命中する。彼女の右脚に弾丸は当たったがまだ嫌な予感がする。
「みぃつけたぁ」
「─────ッ!?」
彼女が邪悪な笑みを浮かべる。その瞬間に私は全身に寒気が走る。
「ひどぉい。小学生を撃つなんてあんまりじゃあないの?」
「…………」
私はその言葉を無視して手袋した手で彼女の腕を強引に引っ張って屋上に連れていく。
「ところで、なんで屋上に?」
「それはもちろん、ここなら人目につかないからよ」
私は掴んでいた腕を投げるように放つ。手袋を内側にして片方を彼女に投げつける。外側を見るとやはりというかなんというか彼女の能力が発動した形跡があった。手袋をしていてよかったと思う。
「決闘ねぇ………いいよ。調子に乗ってるゆのお姉ちゃんを完膚なきまでに叩きのめしてあげる」
彼女はどこからかルービックキューブサイズの金属を取り出す。だがそれを何か私は知っている。ルービックキューブであればどれ程よかったか。その金属を彼女が上に投げると形状が細長く伸びて形状を変化させる。緋色の禍々しい魔槍『アイフェの槍』。私の剣同様にダークマターで作られた槍だ。
「貴女……………何故、それを………」
「組織のNO.3だからね。割とやりたいことをできるんだよ。この槍は天敵でしょ?」
その槍は私を含め、所有者以外に能力が通用しない特性を有している。だからこの剣の材質まで拘った。そして、この場において時間干渉が意味を成さなくなる。投擲などをされたら…………かなりまずいかもしれない。
「ならば………こちらの方が正しいようね」
私は背中から剣を取り出す。右手の剣を彼女に向けて左手の剣を下段に構える。その瞬間、インカムから連絡が入る。
「マズイぞ! 感染が広がっている。彼女はもう捕まえたのか!?」
「感染ですって!? 私が見張って─────」
「そりゃあ、接触感染だけじゃあないからね。能力を強く出力すれば空気感染だってできるんだよ。だから……ありがとうね? ゆのお姉ちゃん?」
やられた! 私は接触感染のみだと思っていたが彼女の能力は空気感染もできたのだ。
「あ~海斗お兄ちゃんだっけ? 彼邪魔。なんか感染した人元に戻せてない?」
「私の自慢の仲間だからね。それくらいできるわよッ!」
正直、そんな能力があったのか少し驚くがそんなことは後でいい。私は彼女に向って地を蹴った。
俺は近づいてくる屍人に右手を突き出して能力を発動する。ソイツは俺の能力で元に戻るが学校全体に感染した彼女の能力はこのペースでは間に合わない。
「クソッ! なんで! なんでなんだよ!」
「いいから急げ!」
「片っ端から凍らせろ! 動きを封じるだけでいい!」
「今やってる!」
信也の能力は氷漬けにしなくても足止めにもってこいの能力だ。だが、俺の後ろについてきている柚木なぎさは…………………
「キャー! ななになになになになに!?」
「柚木なぎさ! 俺のそばを離れるな! それかどこかに隠れてろ!」
邪魔くさい。それが率直の感想だ。俺の能力の有効範囲は短い。であるのならば近くにいて欲しいものだがウロチョロされていると蚊のように本当に邪魔くさい。そんなことを考えていると目の前に剣が突き刺さる。
「この剣…………」
「おい、この剣はアイツの!?」
「ゆの!」
黒い光沢を放つその剣は見覚えがある。赤井ゆののその剣。つまり、彼女に何かがあったかもしれない。大変なことになったかもしれない。俺は屋上の方に視線を向けた。
「グッ!!」
「どうしたどうしたどうしたのお姉ちゃん! もっと楽しもうよ。ダンスは殿方のエスコートなしじゃあ踊れないよ。私というプリンセスを逃さないでよ!」
出血が酷い。槍に貫かれた箇所は何か所もある。何より、彼女の能力が発動しているのかもしれない。出血だけじゃあ説明がつかない程に体が重い。それなのに対して彼女の方は私が撃った右脚にしか傷がない。つまり、彼女はほぼ無傷だ。
「あの槍…………所有者を強化する能力でもあるの!?」
「あ………気づいちゃった? まぁ、それがわかっても何の意味もないけどね?」
それもそうだ。あの槍が彼女のタネだとしてもそれに対処する術は無い。時間停止も海斗の未知の能力もなぎさの座標指定だって効きやしない。………………マズイ。思考が……………。
「出血が酷いね。もう限界? でも死ななくても私の能力は発動可能なんだよ?」
「……………ぁ」
「どうしたの? もう……………ダメになっちゃった?」
「──────────!」
思考が…………追いつかない。まとまらない。溶けて溶けて溶けて白く。青く。赤く。黒く。状況がわからない。であればその思考を統一しなければ………しなければ……………………シナケレバ。
「なにその姿は……………!」
「倒サナキャ。倒サナキャ。倒サナキャ……………」
髪ガ伸ビタヨウニ鬱陶シイ。モエル。モエル。私ノ魂ガ。ワタシノ思考ガ。私ノ信念ガ。
「来ないで……………来ないで。来ないでよ!」
「逃ガサナイ。逃ガサナイ!」
「嫌! やめて! 来ないでよッ!」
槍ガ投ゲラレル。コンナモノ些細ナコトダ。能力ガ通ジナイ? デアレバソンナモノ捻ジ曲ゲレバイイ。
「やめて!」
「ヤメナイ」
「ぐッ!」
腹ヲ蹴ル。槍ノ突キ刺サッタソノ腹ニ向ケテ私ハ弾丸ヲ打チ込ム。死ネ。コレガ慈悲ト知レ。
「やめてゆのちゃん!」
ソノ声ハコノ場ニ居ナイハズノ村雨絵美ソノ人デアッタ。
「やめてゆのちゃん!」
私は思わずそう彼女を静止する。黒く長くなった髪をした彼女か一瞬わからない少女が動きを静止したことで彼女だと分かる。しかし、彼女は静止しただけで戦意が無くなったようには見えない。
「ゆ……のちゃん?」
彼女の背に何かが展開された。それはおぞましくも神々しく純白のどこまでも清く正しく、荘厳な…………翼。
「の………能力者?」
ありえない。能力者は絶滅したはず。いや、そもそもとしてこの状況………バイオハザード状態。これが能力のせいと言わずとして何と言う。そう思って下を見る。ゾンビのように徘徊する人が急に倒れこんでその異様な腐敗したような皮膚が元に戻る。その様子に驚いて彼女の方を見る。今気づいたが彼女には多くの傷ができている。だというのに彼女の傷が逆再生のように修復されていく。彼女の能力は『時間操作』? いや、違う。あの翼の説明がつかない。正体不明の『デウス・エクス・マキナ』? きっとそれでは逆再生のような事象はおかしい。じゃあ、彼女の能力は………
「大丈夫、貴女ハ巻キ込マナイ。コレハ私達ノ問題ダカラ」
彼女はそう言って……私の目を覆い……私は意識を手放した。
「何なになになになに……何なの!? 私の玩具じゃないのお姉ちゃんは!? 何私のシナリオを外れているの!? それが私のシナリオに大きく外れているのに!」
「貴女ノシナリオニハ従ワナイ」
私ハ下ニ落チタ剣ヲ回収スル。ソシテソノ剣ヲ彼女ニ向ケル。
「私、もう無理!」
彼女ハ呼ビ寄セタヘリデ逃ゲタ。アァ…………私ハ……………勝ッタノか? 意識を取り戻した私はどういうわけか倒れ込む。
「あれ? なんで私………」
でも…………なんだか、このままでいい気がする。私はそのまま意識を手放した。
事件はいつの間にか終結した。首謀者の佐々木葵の能力は解除されその際に発動したゆのの翼。視認したのはどうやら俺と村雨絵美…………彼女だけだ。
「えぇっと………………どういう状況かな?」
「見ての通りだ」
「怖いよ! 先生と海斗くんの表情が怖いよ!」
「村雨さん……………貴女は実は特例なのよ……………だから──────」
俺と先生はそうして彼女にお願いをした。
ゴホッ…………執筆間に合わない………