Belief in a just world - 22/04/2047 -
22/04/2047
私がこの学校に転校してから5日目となる今日、今まで気を張っていたものの全くと言っていいほど彼らの動きがない。水面下で事を進めているのか、壊滅したのかはわからないが正確な情報が無い以上は気を緩めるわけにはいかない。
「────であるからして、弥生時代のムラは周囲の侵略を────」
何度も聞いた内容を先生が話す。周囲のムラの侵略の防衛のために環濠集落という形態で守り、戦いに備えた。だったはずだ。…………なんかつまらなくなってきたな。私はふと窓の外の景色を見つめる。昼下がりの心地良い日差しに照らされて手前のなぎさはお昼寝タイムのようだ。グラウンドの方では体育の授業で活気溢れる声が聞こえてくる。そんな中、遠くのビルで一瞬何かが光った。なんだろう? 私は外套の胸内ポケットから単眼鏡を取り出す。距離にして約二千ヤード、黒く、冷たく、無機質なそれを見た瞬間に私は叫ぶ。
「全員、伏せて!」
地震が起きたかのように全員が慌てて机の下へと身を隠す。その瞬間、銃弾が窓を突き破ってなぎさの頭が数秒前にあった位置を通って壁へと着弾した。
「何があった!?」
文・理系で分かれていた授業であったために隣のクラスから海斗が様子を慌てて見に来た。
「事情は後、早く教室の外に!」
そう言っていると第二射目が放たれていた。やむを得ず私は外套で隠した二振りの片手剣を背中から取り出し、叩き斬ると同時に手首を捻って銃弾を受け流す。弾丸は軌道が逸れて床と壁へ着弾した。やはりと言うべきか標的はなぎさのようだ。
「いいから早く!!」
そうこうしている間に第三射目が到達する。私は銃弾を剣で床に叩きつける。人が多いと受け流すだけで精一杯だ。生徒たちは放送の指示で体育館へと避難していく。
「────ッ!?」
第四射目が到達する。この軌道は明らかになぎさでなく、私に向けられた軌道ッ!
「大丈夫か!?」
海斗が心配して近寄ってくる。
「来ないで! 誰だかわからないけど狙撃手の狙いが私に変わった。私はここで狙撃手の注意を引き付けるから貴方はみんなを連れて早く避難を!」
ギリギリで対処ができた。この状況、少しの油断も許されない。一度でも判断が遅れれば御陀仏だ。そのためにも彼にはここよりもみんなと一緒にいて欲しい。
「…………………分かった。無茶はするなよ!」
「そっちこそ!」
おおよそ二秒。二秒の間に判断を行い、弾く必要がある。遠距離からの対処…………やったことのないことだけど上等だ。
「銃弾が尽きるその最後までとことん付き合ってあげる!」
私は剣を床に突き刺し、聞いているか分からない狙撃手に向けてそう宣言した。
………………なんだアレ? 標的の状況を確認するために取り付けた盗聴器からそんなわけのわからない言葉が聞こえてきた。……………本当になんだアレ? 普通、銃弾は剣で斬れないしヤツの聞いていた能力では想定できない動きをしていた。
「時間干渉じゃあ、こんな動きできねぇぞ」
思わずそんな呟きが出た。ヤツ自身の時間を加速させる? いや、それならば何らかのアクションが発動前にあるはずだ。…………ってことはヤツ自身の身体能力?
「………とんだバケモンだな!」
銃のモードを切り替える。一発一発ではきっと倒せないだろう。ヤツを倒さねば確実に我らの障害となる。スナイパーライフルがマシンガンのように連発していく。砲身はすぐにダメになるがこうでもしないときっと倒せない。
「………弾切れか」
空になったマガジンを見つめる。標的はどうなった? 蜂の巣のようになった教室には誰も居なかった。緋色の模様が所々に付いている。死体は何処かにあるだろう。ボスから再起不能にはしていいと言われていたが殺すなと言われていた。
「……………やっちまった?」
マズイ、殺される? そんなことを考えている時だった。
「チェック」
後頭部に無機質の冷たい金属の感触がした。これが何か知っている。この言葉を発した主を知っている。ありえないはずの、生きているはずのないその人物が後ろに立っていた。
「赤井……ゆの!?」
「えぇ」
ふふんとしてやったり、というような顔をする目の前の少女は銃を片手にVサインをしていた。
突き刺した剣を引き抜いて背中の後ろに構える。その瞬間、今まで一発一発撃っていた弾丸が連続して飛来する。しかも、ブレはほとんどなく確実に急所を狙っている。
「うわっ! ちょ!」
弾丸を寸でのところで斬り伏せる。斬った弾丸は火花を散らして壁にぶつかる。上・上・下・下・左・右・左・右。手首を捻って軌道を変える。弾丸は全て私の身体に当たらずぶつかるがこれ以上はキリがない。教室には壁に当たった衝撃で粉塵が発生してきた。丁度いい頃合いだろう。私は右手で音を鳴らして時間を止める。煙幕を相手に気づかれないように外套から取り出して設置する。タイミングに合わせてここを離脱する。
「三……二……一……」
ゼロ。時が動き出すとともに周囲の止まった弾丸が加速度的に私の方へと飛来する。手首を捻って斬り、煙幕にそれをぶつける。その瞬間に教室内は煙に包まれる。狙撃手からしたら撃ち続けた結果、自然と煙で見えなくなったってぐらいだろう。実際に今も撃ち続けているし。それならばその状況を利用しよう。
私は血糊が入ったボトルを派手にぶちまける。相手は今もなお撃ち続けている状況だ。盗聴器を仕掛けているならば今の撃ち続けている状況でこれほどの騒音を聞くのはありえない。私だって耳栓しているし。念の為に負傷して体を引き摺ったような跡もつけておこう。
そして今に至る。能力者が相手であろうとなかろうとやることは冷静に物事を見ることが重要だ。そして、相手は冷静さを失って傍にあった拳銃で私を狙い撃つ。
「ほいほいほい」
私はそれを回避しつつ、隙ができるのを待つ。…………今だ。私は外套の内ポケットから拳銃を取り出して放たれる弾丸の軌道をめがけて射撃する。『空中かちあい弾』……衝突による巨大な圧力と摩擦熱によって弾丸は瞬時に溶解し、花弁のように広がる。その一瞬のうちにもう一発撃ち込み、その弾丸の破片は相手の拳銃のバレルへと入り、ジャムらせる。
「………んなッ!?」
「遅い!」
右手の拳銃を素早くしまってその手で相手の拳銃を持つ右手に打撃を加える。映画やアニメで見るような拳銃のグリップで打撃をする行為は拳銃を壊す危険性があるから私はしない。知らないでやったことあるけど……。
「今度こそ、チェックメイトね」
相手は武器を落とし、右手首を折り戦闘不能にした。
「お前…………バケモノだな………」
「お互い様でしょう? 『弾丸操作』のジェームズ=モリスさん?」
「ッハ! 最初から何もかもお見通しってか!」
お見通しって程ではない。実際、近くに来て『なんだ貴方か』って思ったし。そもそもとして、私の能力は別に未来予知でも何でもないし……だけど、ここは……。
「『そうだ』って言ったらどうするの?」
「そうしたらお手上げだ。敵いっこないからな」
「その方が良いわね」
私は右手で銃の形を作って撃つマネをする。
「貴方の負けね」
「あぁ、俺の敗北だ」
私は敗者の命は取らない。敵であろうが、悪であろうが私はすべての命が尊いものだと思っている。
だから、命を奪うことはしないし、私が敗北させたあとに殺すものは許さない。
「ッ! 何を!?」
「いいから!」
私はジェームズに私の外套を被せる。時間がない。右手で音を鳴らす。瞬間、世界がモノクロに染まる。外套を引き剝がして彼を見えない位置に突き飛ばす。あとは、外套をもとの位置に戻せば………。
「種も仕掛けもないイリュージョン。だけど、貴方達は満足しないのでしょう?」
彼の居た位置に弾丸が飛んできた。きっと事を大きくした後始末といったところか。あと外套の損害請求はさせてもらわないと。
このビルの屋上を狙撃できる地点は二か所。荻川商事とSATSUKIコーポレーションだ。現在、荻川商事は改装工事をしている。つまりそこからはここの絶好の狙撃ポイントだ。
「見つけた」
私は単眼鏡を目から外して剣を構える。『リミテッドオーバー』…………………本来、絶対に届きうることのない範囲外の攻撃。両手で拳銃を握りしめる。震えはない。外す気さえしない。あるのは当てる自信のみ。能力を発動する。これで距離は十分。あとは当てるだけ。
「バレル、マガジン、トリガー…………オールグリーン。狙いは外さない! 調子に乗るのもそこまでだ!」
私はスコープを狙って狙撃する。二発目、バレルを狙撃。間髪入れずの射撃で相手は動揺している。流石に距離がありすぎるから追撃はできない。
「もういいわよ」
物陰に隠れていた彼に出てくるように伝える。逃げていないことを意識しながらやっていたから分かっている。
「…………………バケモンすぎるだろ……」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
私は止血用に用意していた結束バンドと紐で彼を拘束する。手首に紐を通し、その紐を私が持つ。
「さ、行くわよ」
「……………行くってどこに?」
当たり前の質問をされて私はキョトンとした顔をする。
「行くって決まっているでしょう? 警察よ」
「警察かぁ」
私は抵抗を諦めた彼を引きずることなく壊れた銃諸共、交番に引き渡した。もちろん、私の行動は発言しないように釘を刺しておいた。
校舎に戻ると雨が降ったかのように異様に濡れていた。一歩、また一歩と水溜まりで濡れてしまうの気にせず、疲労で今にも倒れそうな足を引き摺りながら私はひたすらに歩を進める。
「あと少し。…………あと少し」
視界がチラつく。平衡感覚を失う。頭痛、眩暈、様々な体調不良を身体が訴えてくる。でもまだ、進み続けないといけない。みんなの無事を確認するまでは。壁伝いで目的の体育館まで歩き続ける。扉を開ける。その瞬間、人々の恐怖と困惑のリアクションが目に映った。
「ゆの!」
海斗が近寄ってくる。倒れかけた私の身体を彼が受け止める。
「お前のおかげでみんな無事だ」
「私………勝ったよ」
「こんなに怪我をして! 心配したんだぞ!」
………………怪我? 私は疲労しているが怪我は一切負っていないはずだ。ふと、ハンカチを取り出して頭部に当ててみる。…………鮮血がベトッとついた。
「………あっ」
私はそんな情けない声を出した瞬間に視界がホワイトアウトした。
意識が混ざる。ドロドロに溶けて自分が自分でない感覚と浮遊感を感じる。このまま、身を委ねて堕ちていこうかとも思えるほどに抗いがたいものだった。そんなときに私の手が誰かに握られている感覚がした。誰だかわからない。だが、私を心配してくれている人たちがいる。そんな人たちを悲しませてはいけない。私は霧散しそうな意識を一つに束ねて覚醒する。目が覚めるとそこは知らない天井が私の視界に映った。
「…………ここは? 痛ッ!」
頭部に痛みが閃光の如く迸る。私は思わず右手で頭を押さえる。どうやら私の頭部には包帯が巻かれているようだ。数秒の時間が経つと次第に痛みが和らいでいった。
「起きたか」
海斗の声がする。彼は私の傍で本を読んでいた。手を握っていた人物は彼ではない。
「全く………心配したんだからな。いきなり倒れるわ、武器を大量に隠し持っているのに軽すぎるわ、柚木なぎさがお前のことを心配しすぎて泣き出すわ、大変だったんだぞ?」
それは迷惑をかけた。
「えと………ごめんなさい」
「謝る気持ちがあるならば、これ以降の無茶は控えてくれよ」
「それは、約束できないけど善処するわ」
「心に留めておくのと、留めていないのだと全然違うからせめて『無茶をしすぎるな』ってことを覚えていればいい」
海斗はそう言う。私はそんな彼の優しさで胸が暖かくなる。左側を見ると、なぎさが私の手を握って寝息を立てて寝ていた。
「彼女にも感謝しろよ? お前が『起きるまで看病する』ってずっと魘されるお前の手を握って心配していたのに加えて、俺じゃあできない寝汗の拭き取りもしていたんだからな」
「………見た?」
「見てねぇよ」
私は少し安堵するとともに、武器の所在が気になった。
「ねぇ、私の────」
「お前の武器ならベッド下だ。全く、お前のマントは四次元収納でもついているのか?」
私はなぎさを起こさないようにベッド下を覗き込む。うわぁ………。ベッドで隠すのが精一杯の私の隠していた武器がそこにあった。片手剣に拳銃、ワイヤー銃、水中拳銃、バタフライナイフ、単眼鏡、閃光弾、マガジンetc.仕方がないとはいえ、これを戻すのは骨が折れそうだ。
「ほいよ。水分は摂っておけよ」
海人が経口補水液を渡してくる。本当に気が利く人だ。
「ありがとう」
私はそれを口に含む。美味しい。…………いや、良くない。経口補水液は美味しいと感じるときは体調不良が原因だ。私はそれを飲み続ける。
「俺は先生に呼ばれているから一旦、離席するが…………一気に飲んで咽るなよ?」
「大丈夫よ」
半分くらい飲み干したそれを近くの机の上に乗せる。それと同時になぎさが起きた。
「あれ? ゆのちゃん?」
「えぇ」
「…………心配……したんだからね!」
彼女はいきなり大粒の涙を流し始めた。
「銃撃されている教室に一人で残っただけでも心配だったのにフラフラになって帰ってきたんだから! 本当に………死んじゃうんじゃあないかって心配だったんだから………」
泣き続ける彼女を抱きしめて背中をポンポンと手を当てて宥める。
「………………大丈夫。少なくとも、私はこんなところで死なないわ。もちろん、貴女も海斗達もね」
私は優しく彼女に対してそう言う。これは約束であり、決意、覚悟でもある。誰も悲しませない。誰も死なせない。最良の結果を自らの手で掴み取って見せる。
「本当……?」
「えぇ。私が嘘を吐くときは胸元のボタンを弄るらしいのだけど、今は弄っていないでしょう?」
「本当だ!」
別の彼女は私の癖をよく見つけたものだと思う。私だって言われるまで一切気づかなかったし。
「なら安心だね!」
「安心なのかしら……?」
なぎさは泣き止んだ後に彼女も先生に呼ばれているようで保健室から出ていった。それと入れ違いになるように海斗が戻ってきた。帰ってきた彼は少しバツが悪そうにしているが突然、質問を投げかけてきた。
「………………………………………なぁ、お前の剣の素材って『ダークマター』だよな?」
「えぇ。そうだけど?」
私の剣は原子を観測できない未知の性質を持つ金属を使って作られたオーダーメイドの二振りの片手剣だ。あと、所有者以外の能力に耐性がある。
「お前の財力どうなってるんだ?」
「………………は?」
何を聞かれるかと思えば変なことを質問するものだ。
「ダークマターの剣ってあれだぜ? 純金製の剣よりも価値が高いんだぞ! ただでさえ、入手が難しいのにそれを丸ごと剣にするなんて………」
「…………そんなに欲しいなら貴方用に刀作ってもらうわよ?」
頼めば関の刀鍛冶に作ってもらえるだろう。私の剣は料金三倍増しで不眠不休の仕事でたった四日で送ってくれたし。
「いや、だからその金銭感覚! 前にファミレス行った時に奢ってくれたのは感謝している。だが、そのカードで何でも解決しようとするな」
「いや、必要以外は使わないのだけど。それと、私のカード見たのね」
「それは本当にすまん。偶々見てしまったんだが、柄とかじゃなくて純粋にブラックカードを初めて見たから……すまん」
「いいわよ。減るものでもないし。それに、貴方なら広めることも盗むこともないだろうしね」
「信頼してくれるのはありがたいが、そう簡単に信用するなよ……」
― 狙撃地点 ―
「それで? 面白いことって?」
インカム越しに幼い少女らしき笑い声が聞こえてくる。
「見てのお楽しみ~」
「明子さん? 現場調査だって時間が無いの。警察だって来るんだから」
そう言って右手の手袋を外す。素手で触れた屋上へと続くドアの鍵が粉微塵となって床に落ちる。
「その能力があれば無敵じゃん」
「あのねぇ。この能力は見つかったら派手になる一方なの。隠密に向かないことぐらい知っているでしょ?」
この地点から狙ったようだ。二千ヤード程の距離にある教室の窓が悲惨な状態になっていた。それにしても、スナイパーライフルを機関銃のように操って正確に当てるなんて彼の能力でないと不可能だろう。そんな能力を打ち砕いてあろうことか拳銃でそれ以上の四千ヤード程の距離のビルにいる彼を狙った狙撃手を逆に狙撃した少女。
「分かった? 赤井ゆのという少女のおかしさを」
「…………流石は赤井秀樹の娘と言ったところかな」
「化け物揃いなのかなぁ? 赤井家って」
「仮にも元上司の家を化け物呼ばわりは失礼でしょ」
「そうだね。重力操作の赤井秀樹の後釜で現MI6最強の緋山みなみさん?」
みなみと言われた人物は右手に再び手袋を着け直す。
「最強の能力がコレじゃあ、秀樹さんに敵わないよ」
どうも作者の昴ちゃんです。慣れない戦闘パートですが書きたいことはある程度詰め込めたので個人的に納得いっています。
さて、新たな情報で主人公の赤井ゆのの父親がMI6に所属していたということですが正直これは覚えていなくて大丈夫です。それ以外にやった剣で銃弾を叩き斬り、逸らすことや拳銃で四千ヤード(約3.657km)の狙撃を命中させるおかしな行動が成し遂げられたことが重要です。
(ゆのの怪我は能力の行使しすぎで脳への負担が大きかったからですね)
剣についてのことですが機能美が重要なゆのにとっては重くて無駄な機能がジャラジャラ付いているよりかは高くても能力の耐性がついて丈夫ということが何よりも優先すべきことです。
余談ですが彼女の財源はFXや株で知らないうちに大儲けしています。………………分けて欲しいですね。