敵対するということ - 2047/10/05 - / Reason for existence
どうも、スバルです。前回の投稿が2/20とかなり間が空いてしまった……本当なら3/1に投稿予定だったんですよ!? スケジュール管理の甘さと忙しさが恨めしい……。ですので、本文で3/1とか言っているメタ視点キャラが居ますがまぁ……彼女はそういう間違えしますし? 別に……? 仕様ですからね……うん……ごめんなさい。
彼女の名前は赤井ゆの。数多の世界線を又にかけ望みの世界を手に入れるまで足掻き続ける時間遡行者。目的の過程に世界を救うことが含まれている。相棒は高階海斗。死してなお歩み続ける世界線放浪者。正義の味方を夢見る少年。能力の最高峰LEVEL9の一人、柚木なぎさ。天才だらけのグループでも異彩を放つ感性を持つ小説家。そしてもう一人、愛すべきバカ。中村信也。バカと天才は紙一重と言うけど、彼はバカ寄り?
「やーやー。こんにちは、お兄ちゃん・お姉ちゃん。この導入はどうかな? みんなの佐々木葵ちゃんだよ。調子はどう? 今日は3月1日。2月29日はあなたのいる年(投稿時)も2047年もないんだよ。来年(2048年)はあるみたいだけど。2月29日生まれの人は4年に一度の誕生日って面白いよね」
目の前の少女はそんな言葉を言い出す。その少女は見知った人物であるが、同時に厄介な能力を有する敵対人物であることを知っている。小学生と思われる姿であるものの、彼女の実年齢ははっきりしていない異様と言える存在だ。
「……なんてモノローグを想像したんじゃない? まぁ、このモノローグも私が設定したんだけどね」
さて、話をしようよ。もちろん、私が一方的に話しかけるだけだけど……。
「なんで私が今、このタイミングで貴方たちに接触したのか気にならな~い?」
意味が無ければそうしないからね。
「能力すらないよわよわなみんなが察しがいいのか悪いのかは私からはわからないから簡単に言うとね。知るべき情報があるってこと」
なんでそんなことをする必要があるのか? って思うでしょ? ね? もちろん、必要だし理由があるんだよ。この世に無駄なものなんて何一つとしてないのだから。
「私は監督側の人間だから、貴方たちの重要性をよく理解している。この世界は”見られることによって価値が上がる”からね。ザコザコお兄ちゃんお姉ちゃんに首を垂れるのは屈辱的だけど仕方がないよね」
文字通りの意味だよ?
「さて、私が言うべきことは『高階海斗という存在を信じるな』かな? もちろん、彼の言うことは言葉や思考は信じていいよ。ただ、行動は信じないで」
あとは、赤井ゆのや結城希の精神は絶対に真似しちゃダメってことかな。まぁ、ここにいるお姉ちゃんやお兄ちゃんはそういう分別がつくだろうし言う必要はないと思うけど念のためにね?
「それじゃあね~! 物語の結末は貴方たちが見届けるんだよ~! くふふっ」
2047/10/04
赤井ゆのという少女は最強とも言える実力を備えている。戦闘能力・精神面・素の身体能力。それら全てが上手くかみ合って彼女の存在が補強されている。しかし、そこに存在する核といえるものは彼女の能力の『逆転』である。それさえ、無ければ本来は寝たきり状態で死を待つ状態の少女だった。問題は、何故? どのタイミングで? 彼女がその能力を手に入れることになったのかだ。それを知ることが出来なければ全ての問題を解決することができない気がする。
「考え事かい?」
「あぁ。俺には考えるべきことが山ほどあるからな」
「そりゃあ、大変だな。お前は尊敬に値するよ。そんだけやって尚も足掻き続けるお前は『才能の天才』というよりも『努力の天才』と呼ぶに相応しいと思うんだがな?」
「努力なんかじゃあない。お前は一つ勘違いをしている。これは努力じゃあないんだよ。これは愛そのものだ」
「”愛”か。お前のソレは狂気とも言えるレベルだな」
「失礼だな。純愛だよ」
愛でなければこの行動は説明がつかない。たった一人の生存の未来を掴むために行動し続けるなんて……
最近、身体が鈍く感じる。まるでインフルエンザに感染した時の症状のように。だが、熱もなければそれ以外の風邪症状は発現していない。そしてそれを示すかのように思考が南極にある氷が融けた水かのように澄んでいる。それだけでなく能力の出力が高まっているように感じる。
「何かしら?」
窓側からノックするような音がする。何だろうか? ここは数十階建てのアパートの部屋。どんな理由であろうが人でないことを願いたい。ザッと音を立ててカーテンを開けると異様に大きい蝶が居た。昆虫を含めて動植物の種類については詳しくないが大きな斑点がいくつかあり、人によっては綺麗という模様があった。だがそれを見た瞬間、私は……
「ヒッ!?」
などと小さな悲鳴が口から零れた。私は大の蝶嫌いである。それも見るだけで意識が飛ぶレベルで。窓や他の入り口に関してのセキュリティー面は安心できるため、私はそのまま薄れゆく意識に身を任せて気絶した。
「それで? ゆのを気絶させたって?」
俺はすぐ来てくれという一報を受けてやってきたが、聞かされたないようがコレだった。
「俺も悪かったとは思う。虫嫌いっていうヤツはこの世界にごまんと居るからな。その中でよりにもよって蝶を選んで連絡しようとしたのは俺のミスだ。でも、見ただけで気絶って一体何があればあんなになるんだよ? トラウマか? ネタか?」
「いや、それなら俺が知らなきゃおかしい。アイツの経歴は他の世界線をも含めて把握しているからな」
「…………お前、異常だな」
復讐者にそんなことを言われるだなんて、相当異常なのだろう。
「そんなこと、とうに理解しているとも。ただ彼女が嫌がると思われることは詮索しないことにしている。でないと、変態が移ったとか言われかねないからな」
「アイツか……別に人がどうこう考えるのはいいと思うがな。行動したら別問題だが」
「そりゃそうだ」
親友の俺から見てもアイツはドン引きするレベルで変態寄りに思考が出力されるのだ。ただ、組織のNO.2のアイツよりかはマシだろう。
「それで? 伝えたかった内容ってのは?」
ソイツは地図を投げ渡してくる。嫌がらせかのように丸めたそれを留めてあるマスキングテープには剃刀の刃は付いていた。
「フッ。傷一つ付かないか。運のいいヤツめ」
「いいや、コイツのせいで死んだよ。一発、殴っていいか?」
「ダメに決まっているだろ?」
ムハンマドがそう返してくる。特段、腹は立たないが適度にこうしていないと死に対する感覚が鈍る。
「これを見てくれ」
「山奥……新潟と群馬の県境か?」
「そう。イチゴ山脈? の麓にあるんだがかつてカルト宗教の本部だった場所だ」
「越後山脈な」
俺はため息交じりにそう訂正する。米どころの越後を野菜の苺に変えられてたまるか。
「そういえば、ここは十数年前に検挙された場所だな。組織とは特に縁が無いかと言えば確定はできないがそれがどうした? 隠し施設って話か?」
「お前、やっぱり知っているんじゃないか。なら言わすとも分かるよな?」
「そりゃあ、さっき言っただろ。お前の剃刀でできた傷で死んだって。ココの地下には組織の研究所が存在するからキャンプの建前で調査に行くだろ?」
「なら今さっき起きたであろう赤井ゆのに伝えてくれ。タオル要るかって?」
タオル……? それが何を意味するのかサッパリ分からなかったが目の前のコイツがニヤニヤ笑っていることで先程の状況から考えられる可能性を導き出す。
「ちょっ!? おまっ!? てめぇ! 一体、何見たんだよ!?」
「見てねぇしそもそもとして虫を操れると言っても虫を通しての視覚共有なんざ出来ない。そういう情報も入ってきてないし、冗談に決まっているだろ? 普通に気絶して起きただけのようだ。タオルは貰い物で余っているからな。実際にそうなら風潮して回るからな」
「…………クソ野郎だな」
俺は舌打ちをして目の前のコイツに対する悪感情を本人に伝える。
「言ってろ」
「行くならば連絡をくれ。可能性の分岐では観測できなかったがそこには何かがある。重要な何かが」
可能性の分岐点において何がなんでもそこに行くことだけは阻止したいように感じられた。つまり、そこは確実に組織の機密となりうる何かがあることを意味する。
「別にお前を連れて行ってもいいがお前の場合は単純な能力者との戦闘ではお荷物になるような気がするんだが?」
「言ってくれるな。確かにゆのに比べたら俺は飛行機と人みたいな差があるが、俺の能力である程度カバーできる」
それにコイツと一度戦いあったと思うのだが……?
「『IF』だったか? 死がトリガーってのは精神が持つか心配だな」
俺はそう言ってきた彼を嘲笑うかのようにハンドサインをする。
「65? 世界線を行き来しているって話だが割と少ないな」
「何言ってるんだ? 65桁の回数だってことだ」
「冗談だろ?」
「実際にはもっと多いな。俺が記憶できているのはそこまでだ。だが、時間の旅初めの意思だけは忘れていない」
「俺を復讐に囚われた愚者とするならばお前は未来を受け止められないガキかもな」
わかっている。俺がいくら足掻いたってまるでままごとのように飽きたらやり直すガキに近い行動かもしれない。
「でも、誰に何を言われようと俺の信念は変わらない。俺は世界と彼女が生きていけるような未来を切り拓く。そのためなら俺の全てを犠牲にして構わない」
「………………なるほどな」
「何がだ?」
彼が何かに納得がいったようだが俺としては彼の何もかも悟ったかのような笑みが気に食わなかった。
「いや、俺の中で合点がいっただけだ。やっぱり、俺とお前は似ている」
「似てねぇよ。何があっても俺は他者を犠牲にすることを容認できない」
「そうかぁ? それは“そういう状況”になってないだけじゃあないのか?」
ムハンマドが怪訝な顔で俺を見つめてくる。そんな態度に俺は少し腹が立ったが平静を装うためにそっぽを向く。
「一生理解したくないな」
「なら、割とすぐかもな」
………………揚げ足取りが上手いやつめ。
「俺という存在が終えるときまでだ」
「そうかよ」
05/10/2047
俺はゆの、信也、柚木なぎさ、九条、村雨と例の場所近くのキャンプ場に来ていた。俺達には保護者という名目でムハンマドと村雨の親が付いてきた。だが…………
「俺に豚の肉を食わせようなんてなんて嫌がらせだ!?」
「食べなければいいだろ?」
「同じ調理器具を使うなんて以ての外だろ!?」
この通り、ムハンマドはすこぶる機嫌が悪い。誰かに悪感情を抱くなんて俺としては珍しいが、その煩い口に酒で調理した豚肉を入れてやりたい気持ちが抑えられない。
「らしくないわね海斗。とりあえず、その手に持っているのをおいておきなさい。私自身、特定の宗教を信仰している訳ではないけどその行動は日本人の家を土足で入るような耐え難い行為のはずよ。その価値観を尊重すべきだわ」
「そうだな」
本当にらしくない行動を取ってしまった。アイツが居るからか? アイツ以外人に悪感情を抱くことなんてなかったのに……。
「こんなことは想定してなかったけど念のために新品の調理器具の予備を用意しておいたのよ。貴方はこれを使って」
「流石ッ! 用意周到だな!」
「色々経験しているからこういう用意はしておかないと安心できないのよ」
ゆのが千切ったメモ帳のページを掲げるとカセットコンロと金網、鍋などの様々な調理器具が机の上に出現した。
「おっ!? 金串じゃないか! そういえば予備が無いと思っていたらお前、用意していたのか!」
「彼用よ」
信也はゆのが取り出した調理器具を見つめて何かを思いついたようでゆのの言葉を無視して柚木なぎさたちを手招きしている。
「この串があればマシュマロ焼きができるぞ!」
「マシュマロ!?」
「おいバカ! マシュマロなんか焼けば俺が食えなくなるだろ!」
そういえば、マシュマロを構成するゼラチンは豚由来の成分がほとんどだったな。
「え、マシュマロですか!?」
「焼きマシュマロ大好物なんですよ!」
九条も村雨もマシュマロという単語に釣られてやってきた。やはり、甘味が好きみたいだ。
「ってかなんでこんなに人数を連れてきたんだよ!?」
ムハンマドが現状について苦言を呈してきた。確かにその苦言に関しては最もである。
「まず、私と海斗は言うまでもないけど信也は貴方の下宿先だから一応連絡を入れたら行きたいって言ったのが理由ね。そうすると仲間外れにするのは気が引けるからなぎさを誘って、人数が多くなったから貴方以外の保護者が必要になったから誘うついでに村雨さんを誘ったの。かすみは準備をしていたら興味を持ったようで私が誘ったの」
「ただでさえ、警戒されているのに目立つマネなんかしてどうすんだよ……」
ムハンマドがそう苦言を呈す。だが、ゆのにはゆのなりの考えがあるようだ。
「逆よ。キャンプに来たというふうに見せつけるのが一番なのよ。念の為にって警戒はされるでしょうけど私たち3人で行くよりは警戒されないでしょうね」
「まぁ、もし何かあっても信也が守ってくれるからな」
「…………」
確かに現状、このメンバーの中で信也の能力は一番汎用性が高い上に一度、九条の誘拐時に俺たちが不在という状況で銃器を持った相手に護衛の成功しているという実力だ。汎用性が高い概念系の能力ではなく数理的処理の能力でこの実力というのは彼の能力の高さを示している。
「ってことでみんなの護衛を頼むわ。問題ないわよね?」
「問題ない……って言いたいところだが、オレが4人守んなきゃなんねぇのか?」
「…………戦力的に申し分ないと思うけど?」
「いやいやいやいや! 1人で4人ってのはキツいだろ!? お前らはできるのかよ!?」
俺を含む全員が顔を逸らした。まぁ、ムハンマドの方はアレだが俺とゆのは人一人救えていない現状だから何も言い返せない。
「わかった。何か異常があればすぐに連絡がいくような通信機と私たち用の瞬間移動の入れ替え物品を渡しておくから」
「お前、瞬間移動できるようになったのかよ?」
「…………成功率は10%ね」
ゆのは顔を逸らしてそう返答する。確かにできたとはっきり言いづらい成功率だ。
「ちゃんともしもの時は来いよ?」
「その時は俺が世界線を調整するから確実に間に合わせる」
「そうか」
信也は俺の言葉を理解している。もし、そんなことになったら…………すまない信也。
「まぁ、日が暮れてからの行動だから火の番ってことで起きていればいい」
「寝れないってことかよ!? いやちょっと待て? いいぜ!」
「言うまでもないけど、女子達の寝込みを襲うなんて行動は慎みなさいよ?」
ゆののその言葉で信也が露骨に嫌そうな顔をした。襲う気だったなオイ。
「村雨さんのお父さんに基本的に見張ってもらう感じの方がいいかしら? それまで彼は拘束した状態で夜間は過ごしてもらえば安心でしょう?」
「何が安心だ!? こっちはゆのと違って一般人だぜ? 長時間拘束されればその部分が壊死するわ!」
「私はその方が安心かな~?」
「話聞いてた!?」
割とゆのも柚木なぎさは人の心が無いよな……まぁ、理解はできるが。あと、村雨の父親は炭の火力調整しながらグッドサイン送ってきているし……。
「夜の対応どうこうよりも、調理の準備を手伝えよ。かすみちゃんもそうだがゆのも山にキャンプしに来たって恰好じゃあないだろ。比較的汚れない調理を手伝ってくれ」
確かにそうだ。ゆのは外出時はいつもマントを羽織っているからそもそもとして話に出すものではないが、九条はキャンプというよりもグランピングに来たかのような恰好…………いや、グランピングどころではない。これはどう見ても都会での格好だ。明らかに間違っている。ミニハットまでは百歩譲ってわかる。だが、フリル付きのスカートにローファーはどう考えてもおかしい。それにこの暑苦しい時期にチョーカーなんて付けていたら蒸れて痒くなるだけだろう。
「え、あ。ごめんなさい。山というものがイマイチわからなかったんです!」
「お茶の水のお嬢様だったな。そういうところの知識が無いのは仕方が無い」
箱入り娘という言葉はあるがそういうものなのだろうか? ………と思ったがゆのみたいな前例があったんだった。冗談とは思えないほどの世間知らずの少女の存在を忘れていた。
あの日の出来事を俺はつい昨日のことのように思い出せる。
「ねぇ、転校生が来るんだって! どんな子だろう?」
「この時期に? 少し遅くないか?」
「どんな子だろうかわいい子がいいな!」
そんなクラスメイト達の好き勝手な言葉が見ず知らずの転校生を待つ間に飛び交っていた。だが、俺にとってはどうでもいいことであった。この能力者のみで構成されたこの学校の中に俺の双子の妹が来るわけないし、身近の困っている人を助けることができれば俺の人生は十分だ。それ以外、一切関係ない。そう考えていた時だった。
「赤井さん~いらっしゃ~い」
担任の蒼木先生のその声でその少女は入室する。少女はこの時代に珍しい黒髪で学生かと見間違えるほどの姿をしていた。頭部の両端に結ってあるくすんだ赤い大きなリボンと血のように紅く赤い特徴的な瞳はこれからの学校生活に対して淡い期待をしているようであった。
「私の名前は赤井ゆの。アンタたち! 私の奴隷になりなさい!」
その少女はあろうことかそんな台詞を堂々と言い放った。厨二病に罹った痛い少女か、はたまた余程の世間知らずなのかは分からないが非常にまずいことが予想できる。ある程度の精神の発達が進んでいればこのくらいの言葉はさらっと受け流すことができるだろうが、このクラスメイトの多くはどうやら言葉通りの意味で捉えプライドが傷ついてしまったようで彼女に向ける視線が一気に冷酷になっていた。
「アイツ大丈夫かよ? ラノベかなんかに影響されたのか? 盛大にスベってるし……」
信也がただならぬクラスの雰囲気を感じ取り、俺に対してそう話しかけてきた。
「さぁ? 俺にもどうなるのかは分からない。だが、少なくとも平穏な生活にならないことは確定したな」
「マジかよ……」
俺はそう呟く信也に向きながら視線を少女に移す。彼女も流石に雰囲気を察したのかオロオロと自分の発言で招いた現状に慌てている。
「——————————斗、————斗! 海斗!」
俺はその言葉で意識を急激に覚醒させる。
「大丈夫? 酷くうなされていたけど?」
「あ……あぁ、大丈夫だ」
俺は目の前の黒目黒髪のゆのを視認して現実だと把握する。背中はいつの間にか寝汗でびっしょり濡れていた。
「もうすぐ夜になるわよ。仮眠程度に留めておくって言ってたのになかなか起きないから心配したのよ?」
「すまない。すぐ支度する」
「大丈夫よ。日没まで十数分あるからゆっくりでいいわよ」
彼女は少し前に淹れたのであろう珈琲を俺に渡してくれた。
「熱いけど、きっと貴方が用意し終えるくらいには丁度いい温度になっていると思う」
「なら、飲み時を逃さないようにしないとだな」
俺は珈琲の入ったマグカップをテーブルの上に置き、テントに戻り出発の準備を取り掛かった。
夜になり私たちは例の研究施設と言われている場所に向かっていた。山の奥ということでかなり人の出入りが困難なほどの獣道を進むと舗装された道が次第に現れてきた。
「元、カルト宗教の本部という話だけどかなり儲けていたようね。作られたのは古くても高級感が伝わる道のようだわ」
「重機が運び込むことが困難なこの場所にこうも綺麗かつ、経年劣化によるひび割れすらないとはな」
そんな感想はどうでもいいと言わんばかりにムハンマドはどんどん先に進んでいく。しばらく進むと施設と思われるものの門が見えた。上空写真で違和感が出ないギリギリの高さを計算して作ったであろう高い壁や門には一度破られたのを修復したような痕跡があるがその門の柵に少し錆びた鎖と南京錠が掛けられているので入ることが困難になっている。
「南京錠ね。金属鋸をアポートさせるから少し待ちなさい」
「そんなの不要だ。こうすればいい」
ムハンマドはいつの間にか手にしていたピッキング用の道具でものの数秒で開錠してしまった。
「お見事……」
「どこで身に着けたんだよそんなスキル……」
「どこでってそりゃあ、復讐には無力化の技術・隠蔽・情報工作・潜入技術などが必須だぞ?」
「言うまでもないが今回も殺人は許さないぞ」
「なら殺す前に殺さないための何かをしろ」
海斗とムハンマドは妙に何かが似ているような気がする。おそらく、ムハンマドはわかっているけど海斗はわかっていない。だからこそあの態度なのだろう。ただ、それがいい結果になるのかは私にはわからない。あえてこの関係は放置してみるのもいいかもしれないが念のために釘は刺しておくか。
「二人とも、一応忠告としてここから先はそういう対立はするなとは言わないけど注意散漫にならないように気を付けて頂戴」
「わかっているとも」
「言われなくともな。コイツと違って俺は大人だからな」
それは実際の肉体の年齢の話だけだが……そういうところで張り合うのがなんとも子供っぽい。そんなことを考えながら私たちは敷地の建物内部に潜入した。そこは床が腐食によってあちこち抜けていたり、何故か異様にこびり付いている血痕があったりいかにもゾンビ映画に出そうな場所になっていた。
「随分と寂れているな。この新聞は……15年前か。かなり前のものが放置されているな」
「こっちは14年前が賞味期限の清涼飲料ね。この商品ってこんなパッケージだったんだ……」
「古いもの探しよりもほら、ここだ。ここから地下に行ける。どうする? 地上に一人待機して異常がないかどうか確認させるか?」
「そうしたいのは山々だけど、この状況で単独行動はかなり危険なはずよ。誰か見張りを呼ぶ?」
「……警備要員のアホ以外の寝ているアイツらからか? 無茶だろ。人質になるだけに決まってる」
「そうね。ならば3人で行きましょう。不測の事態に備えてここにも瞬間移動用の入れ替え物品を置いておくわ」
「その場合は成功させろよ?」
ムハンマドが不安げにそう言ってきた。そんなことにならないこと自体を願いたいものだ。
「研究所という割にはかなり物が少ないわね。人気もない。廃棄された後かしら?」
「そうだな。あるのは運び出すのが容易でないボロボロになっている机や異様に多い血痕のベッドとかの家具だな。人体実験か? 何の研究をしていたんだか?」
「地図とかレポート・メモ帳に記憶媒体も見当たらないな。こういう時の言葉は骨折り損か?」
日本に来て僅か数か月程度であろうにことわざまで覚えているのか。
「拷問器具の部屋か。足りないな。ここにある道具じゃあ、十分に効果を引き出せない」
「貴方………拷問の経験でもあるの?」
「やった経験ならあるな」
「あるのかよ!?」
彼の復讐の動機はわからないが、なんとなく彼の過去自体に恨まれることがあったように感じる。
「ここは檻ね……被験者が逃げ出さないようにするためでしょうね」
「まぁ、ろくでもない研究をしていたのが想像に難くないな」
「………誰か居るぞ」
海斗は檻の中の方に指を指していた。そこには、ボロボロの服を着てあちこち痣ができている中年男性が居た。
「………………罠だな」
「罠ね」
「罠だな」
私たちは瞬時にその人物が罠だということに気が付いていた。
「服はボロボロだが明らかに人為的に開けられている上に、痣は絵具か何かでのフェイクで一部が不自然になっている。やせ細っているが栄養不足というほどではないし何より、その拘束具が長期的に着けられていた痕跡がないのに加えてコイツだけが居るのがおかしい。ここまで言えばもういいだろ? 殺すかもっと厳重に拘束したほうがいい」
ムハンマドがそう解説を入れてきた。まるで部下に上司が教えるかのように、教員か探偵かのような何故そうなるのかを一歩一歩丁寧に説明して今後の判断を促すかのような言い方だった。彼はそういう職業にかつてはついていたのかもしれない。
「……これは罠だ。あぁ、わかっている。だが、仮に本当に無関係の一般人だという可能性が僅かにでも存在するのならば俺は見て見ぬフリなんてできない!」
「海斗!?」
私が制止する前に海斗はその人物に向かって駆け出し、拘束具を解いていた。
「あ……ありがとうございます! たk……ギャァァァァ!!」
「おい!?」
その人物がいきなり隠し持っていたであろう刃物で海斗を刺そうとしていたその手をムハンマドが拳銃で吹き飛ばしていた。
「ひ……酷いじゃあないですか。いきなり撃つなんて……」
「その言葉、お前にも当てはまるが? 科学者の癖に鏡という文明の利器を知らないのか?」
「科学者!?」
「あぁ、ここに潜入する前にここで働いていたであろうメンバーの情報は全て網羅している。もちろん、そこの助けようとした正義バカもな」
「脅されていた可能性だってあるだろ。何もかも決めつけるのは良くない」
まぁ、何とも海斗らしい理由だ。彼はどうあれ性善説を突き通すタイプだ。だから罠だとわかっていてもそう行動せざるを得なかった。
「コイツの名前は責谷利久。ここの研究員・そこそこ有名な科学者だ」
「専門は脳科学です。改めて自己紹介致します。ワタシの名は責谷利久。ドクターとでも呼んでください。あと、消毒液と包帯がそこの床下にあるので取ってワタシを治療してください」
そう言って責谷もとい、ドクターは自己紹介と同時に治療を頼んできた。ドクターはつかみどころのない人物に感じられる。厚かましいようでその実、期待していないように感じる。
「まぁ、命を取るとるつもりないし血で何かされるとかのトリガーがあるかもしれないし治療するわよ」
「それを治療している本人に言わないでください」
「そうね」
私は興味なさげな声色で返答する。正直、この科学者が何かしようとしたところで害になるほどのことにはならない気がする。それこそ、別動隊などでなければ私にとって害になりえない。
「能力者っぽくはないがな。聞いてもムダな気がするがドクター、ここではどんなことを研究していたのか?」
海斗はさっき自分が攻撃されかけたことを忘れたかのように平然と優しい声色でドクターに質問していた。
「ワタシはここで人間の魂について研究していました」
「魂?」
ムハンマドが怪訝な顔をしていた。彼の宗教にその概念が無いのだろうか。それとも冒涜と考えているのだろうか?
「我々の魂……意思と言ってもいいですね。それは時に人知を超えた力を発揮します。簡単な例で言うと余命宣告された人間が誤差とは思えないほどずっと長生きすることとか、火事場の馬鹿力といった追い詰められたときに発揮する科学的に有り得ないパワーの出力とかあるじゃあないですか。あれが意思の力だと仮定し、それを結晶化する研究です。ワタシの好きな錬金術漫画では賢者の石っていう表現もされますね」
「…………ロクな研究じゃあないとは思っていたけどそれだけじゃあないでしょ? 結晶化したものは何で固定するの? そもそもとしてその結晶を”何に”使うの?」
私はこの研究の断片を知っている気がする。知っていながら見て見ぬふりをしていた。まるで魚の小骨が喉の奥で刺さってしまうような妙な違和感を感じる。
「察しがいいですね。流石は我が主の同位体」
「貴方が忠誠を誓っているのはアイツってワケね。それで? 私の質問に答えて貰っていないのだけど?」
私は彼に尋ね返す。その瞬間、私の後頭部に冷たい金属が押し当てられた。
「………説明していなかったの海斗? 私とアイツが同位体って」
「すまない。ややこしくなるから説明は後回しにしていたんだ」
「どういうことだ? お前? 組織と敵対しておきながら同位体が組織に居るって」
もし、神という者がいるのならばどうしてこうもややこしい運命を私に課したのか問い詰めてやりたい気持ちになった。私と希の正体の説明でかなり時間をくってしまった。ムハンマドも納得してくれたが腑に落ちない部分があるようで少し考える素振りをしている。
「……百歩譲ってお前と組織のトップのお偉いさんが並行同位体という事実が本当だとしよう。なら、何故なぎさという少女を殺すと守るという対立が生まれている? それに、何故お前はヤツに協力しない?」
「……それについては私も不思議に思っているのよ。私は親友をみすみす殺されるのを黙ってみていることはできない。そんな行動をするのが同位体だと言っても協力なんてすることはできない。私の現段階で分かっていることの回答はこれね」
「妥当だな。復讐に走る俺から見ても違和感がない。お前の意思での回答だと感じる」
どうやら、一時かもしれないが少なからず信頼は得ることに成功したようだ。
「赤井ゆの様の疑問の答えがワタシの研究内容ですね」
「そういえば、研究内容について聞いていたのよね。何なのかしら?」
私はその言葉とともにドクターに問い詰める。彼はおもむろに服の隠しポケットから記憶媒体を取り出し、私に手渡してきた。それを受け取ると私は他に隠し持っているものがないか調べて武器になりそうなもの、何かのスイッチと思わしきものを遠ざけるか廃棄し、彼を念の為に拘束した。
「USBメモリー……海斗、ノートパソコンは持ってきているかしら?」
「もちろん。仮想環境で開くか……ンだこれ!?」
私が海斗にそれを渡すと彼が今まで見せたことのないような表情で驚いていた。私はその画面を覗き込んで見てみる。そこに書かれているのは一つの論文形式の研究内容だった。
「『人類再構築計画』? 人類から神なる存在を作り出し、今の神なる存在を殺してその地位を奪い人類を再構築することによる世界平和と恒久的な繁栄の実現? 提唱者……結城希」
「…………」
私の同位体はそんな馬鹿馬鹿しい計画を立て、そんな下らないもののためになぎさを、多くの人を殺したのか?
「まぁ、無理もないでしょう。こんな荒唐無稽と思える話を急に知るとなると。でも、安心してください。これは実現する可能性が高い素晴らしい計画です」
「素晴らしい? これが?」
「えぇ、こんなことを思いつくのは彼女くらいでしょう。人類という種そのものを愛しているのが伝わる計画です!」
「ふざけないで! これが人類という種を愛している? 素晴らしい!? いい加減にして! これは人類を悪と決めつけた上での計画よ。こんな性悪説で作られ、多くの犠牲を生むものが人類を愛しているなんてものじゃあないでしょ! こんなもののために私はッ! うっ…………うっ………」
私の目頭が熱くなるのを感じる。なんでこんな計画のためになぎさは、多くの人が何度も何度も殺されねばならなかったのか? 怒りと悲しみが同時に押し寄せ、私の中で渦となり荒れ狂う。そんな中で一つの疑問が浮上し、私の感情が一気に穏やかになった。
「何故……この計画が立案されたの?」
私はこの中で唯一、知っていそうな人物に質問する。こんな衝撃的な内容を予め知っていたかのようにあまり衝撃を受けていないような反応をしていた彼に。
「何故……か? そんなことは簡単だよ。復讐だ」
「復讐?」
「あぁ、結城希。もとい、オリジナルの赤井ゆのは柚木なぎさと親友だった。しかし、その親友は無能力者に研究を名目に殺されてしまった。だから彼女は復讐を誓った。この能力者が無能力者に虐げられる世界そのものに」
「世界そのもの?」
「あぁ。彼女は人ではなく、世界を恨んだ」
それは、復讐の相手が一人で背負うにしては大きすぎる……まさか、そのために?
「初めは正攻法から世界を変革しようとした。柚木なぎさが死ぬ前にすべてをひっくり返す必要があるため、彼女は政治に参加できる最少年齢である25歳として政治家になるには時間がどうしても問題だった。だから彼女は結城希という存在を作り、2036年にタイムスリップした。代償として自身の『逆転』を失い、代わりに『時間干渉』の能力を手に入れたのは言うまでもない。そこからの彼女は戦いの日々だった。元はゆのと同じ、人付き合いがわからない少女だ。人の上に立つというのは苦難の道だったが史上最年少で初の女性内閣総理大臣にまで上り詰めた。しかし、行政を掌握して法令を出したところで人はそう簡単に変わらない。そこから彼女は裏で人を操るための非合法な組織を立ち上げた。これがお前たちの知っているブラック・ジャックだ。割と端折ったがザックリいうと紆余曲折の上にできた計画がコレだ」
「希様の苦悩と葛藤が説明されていないです。やり直し」
「本人じゃあないんだし、そんなこと知るか」
なんというか、私らしい空回りをしている気がする。……確かに私なら取りかねない選択方法だ。
「それで? 犠牲の方はどう片を付けるの? 失った命は二度と戻らないでしょう? それに、再構築の計画の理想図が見えてこないわ」
「それについてはワタシから。確かに、失った命は戻りませんが魂があればその本人と同じでしょう。その人をその人たらしめるのは肉体ではなく記憶です。その記憶そのものをそのまま新たな体とともに再構築するっていうのが犠牲になるもの、もとい礎になる者の見返りです。理想図としては簡単に言うと七つの罪の切除です」
「切除?」
「えぇ、傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲の切除です。これらは人類の罪であり、発展を閉ざす危険な感情です。ですからその感情を根本的に排除することにより、差別・殺人・強盗・誘拐・過失致死・性犯罪などの様々な罪を抑制することができ、人から争いの種を消し、恒久的な世界平和及び発展が期待できるのです」
「は?」
何を言っているのだろうか? 確かにその可能性はあるかもしれませんが、その大罪と呼ばれるものは行き過ぎた感情であってそのものを消すことそれ即ち、人類の発展どころか可能性を閉ざす未来になりかねない。
「確実に消されるな……」
「消されるって何が……?」
「世界そのものにだ。世界線を扱う者だからわかることだが、これ以上進歩の見込みのない世界線は消えて他の世界線の養分になるんだよ。そうならないように抑止力っていう裁定があるんだが、それが負けた瞬間に世界そのものが消える。抑止力は滅亡因子とほぼ同格に出力されるからそこからは世界の命運はその場に居合わせた者たちにかかっているんだ」
「つまり、世界が不要か裁定するために公平性を保たせ、それに住民の意見を聞き不要かどうかを判断するってことか?」
「概ね合っている。それで抑止力が負けたつまり、世界が不要と判断されれば消えることになる。そして、この場合は消える可能性が濃厚だ」
「要するに、世界の命運はこの計画を阻止できるかにかかっているってことね」
「それでOKだ」
イマイチ理解しきれていない部分もあるがこの計画を阻止することに変わりはない。
「ドクター、私はこの計画を破却する。だから、この計画の核となる部分を教えなさい」
私はドクターにそう命令する。かと言って素直に聞くとは思えないがしないよりかは幾分マシだ。
「お断りします。ワタシに利が無いので。それに、計画の全貌はすでに提示したその資料ですべてです」
「そう、なら読ませてもらうわよ」
計画の必要なものは…………時間干渉の能力と座標固定の能力(代案として破壊と生成の能力)、2,821,364人の魂を内包したアイフェの槍、二振りの神殺しの槍。
「二振りの神殺しの槍? 1本じゃあダメなのかしら?」
「ダメです。1本は現在、世界を統治する神を殺すために必要ですがもう一本は自我の喪失に抗うためです」
「は?」
「計画の中枢は希様です。彼女はこの神たる地位を人間性を捨てずに維持するつもりです。ですから神作りの槍であるアイフェの槍の力が暴走しないように神殺しの槍で制御するそれが計画です」
「人間性を捨てずに神になるだと? 狂気も大概にしろ! 神の地位で人間性を失わずに居座り続けるなんて拷問に等しい苦行だ! そんなものを本当にコイツの同位体が成そうとしているのか!?」
「えぇ。そういうお方ですから」
確かに、人間性を捨てずに統治するということは頑張った者への報酬などが今の世界よりもずいぶんいいと思われるが公平性に欠ける可能性や先程ムハンマドが指摘した苦行と思える行為になる可能性がある。
「だから私はあのお方に忠誠を誓ったのです。何を代償にしてでも我々の努力を報いてくれるその献身的な姿に」
「貴方の忠誠心はわかった。なら、私の言葉には揺らされないわね」
「あぁ、だから殺す方がいい」
そういうとムハンマドが拳銃を構えてドクターの頭部に向かって発砲した。その瞬間、私は咄嗟にその銃口の延長線上に庇うように手を出した。自分でも何故手を出したのかはわからなかった。気づいたときには私の手が前に出ていた。そうして、その突き出された手は弾丸によって風穴を開けられ……なかった。弾丸は何故か私の手に触れたかと思えばあらぬ方向に同じ速度で進んでぶつかった。
「……は?」
「反射?」
海斗がそう呟く。確かに、反射という言葉で考えてみると私の手の角度と弾丸の入射角を考えると飛んで行った方向の説明がつく。そんなことを考えているとドクターが突然、笑い始めた。
「皆さん、なんてことをしてくれたんですか。この施設は崩壊します」
「何故!?」
「今の弾丸によってそのスイッチが起動しました」
「ゆの!!」
「えっ!? ごめんなさい!?」
これは想定外だ。何が何だかわからないがピタゴラ〇イッチ並みに物事が起きたようだ。私は非常事態のために、ドクターの拘束を解いて走り出す。
「走るぞ! 転移は使えるか?」
「ちょっと待って!」
私は走りながらメモ帳を開こうとするが上手くいかない。
「メモ帳いらないだろ! そのまま転移すればいいんだから!」
「あ! それもそうね」
私は転移しようする。その瞬間、後ろから突き飛ばされた。
「なっ!?」
私が体勢を整えて後ろを振り返ると瓦礫に押しつぶされていたドクターが居た。
「貴方……なんで……?」
「勘違いしないでください。ワタシは組織そのものに従っているわけではなく希様個人に従っているのです。貴方は邪魔になりうるけど希様が幸福になるには貴方が必要です」
ドクターはそう言って私達に向けて笑みを浮かべる。私と海斗はそんなドクターを救い出そうと瓦礫を退けようとするが上手くいかない。
「もう行きなさい。少し過程は異なりますがこれは予定されていたことです。そしてワタシはワタシの為すべきことをなした。貴方は貴方の為すべきことをすればいい」
そう言ってドクターは私と海斗を突き飛ばす。その瞬間、ドクターと私たちの間にはお互いを認識できないほどの大きな瓦礫が落下して隔たりを作った。私はムハンマドと海斗の手を取って準備が完了した瞬間移動によって入口へと転移する。その瞬間、入口は崩落し二度と地下へと入れなくなってしまった。
「アイツ……最後は笑っていたな……」
「そうね……」
私たちは手を伸ばせば届きそうなほどの距離で命を救えなかった。何がLEVEL9だ。人一人救えない能力なんて役立たないも同然だ。でも、彼は満足しているかのように笑っていた。何故? 何故私の周囲で命を散らす者たちはそう笑って死んでいくの? 私はその事実で悲しみや後悔よりも困惑に近い感情が支配していた。
「クソッ!」
ムハンマドも彼に対して思うことがあるようで地団太を踏んでいる。この研究所で得たものは多かった。だが、それと同時に失ったものも少なくなかった。
「それで? この計画、どう見るよ?」
俺は研究所から持ち帰った計画をとある人物に見せる。ソイツは指でサッサと計画を爆速でスクロールさせるがすぐにタブレットを俺に放り投げる。そしてキャンプの時に勝手に撮ったであろう写真を見つめながら嘲笑うかのようにフンと鼻を鳴らす。
「どう見るって……そのまんまだろ。失敗だ。それもただの失敗じゃあない。良くて周囲一帯の大爆発、悪くて星の消滅だな」
そう告げるとソイツは机の上にあったマグカップを手に取り、珈琲を啜り始めた。
「東洋のしきたりとして死者の手向けは手を合わせるんだったな」
「……そうね」
私たちは責谷家の墓を訪れていた。死者に対して私たちができることは数少ない。こうして死者を思うこと。それが唯一にして最大の行為なのだ。
「お前にとってこういう行動は珍しいんじゃあないか?」
ムハンマドはそう尋ねてくる。
「こういう行動って?」
「そりゃあ、死者を思って墓参りすることに決まっているだろ?」
確かに、私はなぎさの死を受け入れられない時間遡行者だ。でも、だからといって死を受け入れられないわけではない。
「そうね。でも、私は両親を亡くしているから毎年墓参りに来ているのよ。それはタイムリープしている時もね」
「俺の失言だった。忘れてくれ」
「別にいいわよ。でも、何度も経験してもこれは慣れないわね。誰かを失うという喪失感というものは」
「あぁ、その喪失感がソイツの存在の大きさを示してくれる。そして同時にソイツが居ないことの悲しみ・怒りその他諸々の感情が押し寄せる」
「そこで貴方は復讐者となったの?」
私はそう尋ねる。きっと今の質問は彼の琴線に触れる行為かもしれない。でも、ハッキリさせていきたいことでもあった。
「あぁ。組織に家族を奪われた。だからこそ、組織に復讐を誓ったんだがな……」
そう言ってムハンマドは去っていった。
復讐。それは劇薬であり、人生を大きく変化させるもの。恩讐の炎は目標を達成するまで絶え間なく燃え続け、自身を薪としてどこまでも突き進むことができる。希がそんな炎に囚われていると知った今、私は前と同じように彼女と対峙して戦うことができるのだろうか?
毎度のことながら後書きでやりたい放題の私です。
さて、昨日は3/14です。円周率の日とか1970年の大阪万博の開催日とか五箇条の御誓文の日とか色々ありますが、世間一般的にはホワイトデーという行事がありましたね。諸君、ちゃんとお返ししましたか? まだの人はまだ間に合うからちょっとしたのでもいいから用意しなさいな。日頃の感謝の気持ちを込めて渡すという行為こそ重要なのです。お返しにかかる値段は関係ないです。
まぁ、高いと嬉しいのが人間ですが私は吸血鬼と名乗っていますからねチョコなんぞよりも血が欲しいです。(若干の貧血気味)
関係ない話ですが、AIってどう思いますか?
私自身、割と肯定派なんですが私の作品にはリアリティを高めるためにこれって現実的にどう作用するの? って質問での検索ばかりで本文や絵には携わっていないのでAIアンチの方はご安心を。
家族で「AIの人生は〇生と表現するなら何になるのか?」という話になりまして、私が質問したのですが家族全員が寿命だとかそんなのはフィクションだとかって夢のない答えを返されました。みなさんはどう思います? 私なりの回答ですがAIは人工知能ですから知の一文字で『知生』とかどうでしょう? まぁ、作家もどきの世迷言だと思って流していただいて結構です。
皆さんの日常に対する発問と新たなアイデアの発案の手助けになれば幸いです。
雑談はここまでにして本編の話をしましょうか。
少し書き方を変えてみたんですよ。どうですか? 読みやすくなりました? それとも読みづらくなった……? 慣れないですがこちらの方が書きやすく、よりリアルに描写されるのでは? って思います。
常に成長し続ける虚弱吸血鬼系作家なのですっ!
実のところ絵美はこの作品ではそこまで出すつもりなかったんですよ。次の作品で少し関わってくるのでなるべく多く出そうかな? ってところです。
かすみはこの物語で主要人物ですのでこうやって出番を作らないと存在を忘れ去られてしまう……。本来ならかすみの服装の挿絵を入れたかったんですが、間に合いませんでした! うん。チャームポイントがいくつもあると作画コストが格段に上がるんですよ。まぁ、かすみさんの挿絵は次の章に頑張って載せますので……次は……ハロウィンの時期の物語ですね。彼女のコスチュームはネットの海で見た何のキャラかわからないイラストが元になっています。何のキャラなんでしょう? どれだけ調べても出てこないんですよ。まぁ、描くときは同じではなく多少は変えますがね。リスペクト込みのオマージュです。パクリじゃあないですよ。本来の作者に怒られたらデザイン変更します。誰かは分かりませんが……
それよりも文章自体も早く書かないと季節が真逆になったままだ~!!
え? 何故主人公のゆのや海斗の挿絵を描かないのかって? そりゃあ、ゆのは服装がシンプル故に私が描くとそのデザインで固定されてしまう恐れがあるからですね。外套を羽織っているって言いますが袖を通すのか通さないのか正直、私の中でも迷っているので……こういうのは本職の人に任せたほうがいい! 海斗はシンプルイケメンですので、私の画風だと描くのが難しいからです。あの海斗はアレなんで別ですね。
⸺ おまけ・人物紹介 ⸺
赤井ゆの/真似してはいけない主人公
安定の黒づくめ
高階海斗/読者側に警告される主人公
Theキャンプの服装
柚木なぎさ/究極の甘党
マシュマロだけじゃあ甘味が足りない!
中村信也/仮面の愚者
海斗からなんだかんだ言って全面的に信頼されている
九条かすみ/箱入り娘のお嬢様
信也に隠し撮りされた少女
村雨絵美/保護者が欲しくて誘われただけの少女
キャンプもグランピングも大好き
村雨切嗣/保護者役
オペ中に流す曲は医療ドラマのBGM
ムハンマド=ザイヤード/組織に突き立てる復讐という牙
信仰している宗教はイスラム教っぽいが別物(作者が意図しない信者としての矛盾があるかもしれないから)
結城希/アンテッド・ワークス
現在24連勤・3徹目(組織の活動除く)
武田信二/海斗の評価は風評被害ではない
仕える云々でなく好みはゆのよりも希
佐々木葵/もう一人の監督者
⇑ コイツマジか………キモッ………
責谷利久/希に忠誠を誓った者
希様のためならたとえ火の中水の中でも……
竹中昴/この物語の作者
キャンプは蝶とか蛾が出そうだから絶対したくない




