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Outrange - 21/09/2047 - / 騙る者 / Aliquis mihi, quaeso, manum porrigat.

どうも、スバルちゃんです。年度末が近いからですかね? 仕事がやたらと多い!! なんですかこの仕事量は!? 来る日も来る日も教育教育また教育。こころは脅迫(観念)。健康脅威。同僚教養(不足)。私は疲れてしまいました。さっさと退職して執筆で食っていきたい!!

なんですか、仕事が終わればまた仕事って!? それも期限が2週間かけてやるものを1週間ですよ!? ふざけてますって!

みなさんも社会に憤りは多少あるかもしれませんが、強く生きてくださいね。趣味に没頭するかただ何もしない休憩をとるかが一番のメンタルヘルスになりますから……。

そんなこんなで前回から1か月程更新期間が空いた言い訳でした。言い訳していいわけないとおっしゃられる方もいるでしょうが全くもってその通りですね。すみません。

21/09/2047


 あれから数日が経った。正直、いつもの修学旅行よりも波乱万丈なものであったかと思えばゆっくりと観光をすることができたのでとても良かった。そして今日は観光ができる最後の日だ。今、私たちが居るのは第三次世界大戦後に建てられた世界最高の高さを誇る電波塔に来ている。


「高いね~。スカイツリー何本分だろう?」

「1000mを634mで割ると出てくるわよ」

「じゃあ、おおよそ1本半だね」


 他愛の無い会話をしながらタワー内部へと入ろうとする。展望デッキは第一から第三まであり、それぞれ250m、500m、800mの場所に位置している。本来は予約しないと第三デッキまで行くことができないのだが私たちはどうやら理事長が何か手回しをしていたようで第三デッキまで行くことができるようだ。


「第三デッキってどんな景色が見えるんだろう? 地球が丸く見えるのかな?」

「流石に見えないわよ。精々ヘリコプターで飛んだ時に見えるような程度ね。遠くの景色は見えるでしょうね」


 私はカジノからくすねてきたチップを指の上において何度かコイン飛ばしをしながら暇を潰していた。その間、海斗が目を丸くして驚いていたような気もするが気にせず飛ばした。


「はい、それでは第一展望デッキへ向かいますよ」


 蒼木先生が私たちをデッキへの移動を促していた。思えば私は昔、高所恐怖症でこのタワーに上らず先生と一緒に地上のラウンジで一緒に休憩していたことを思い出した。割と克服したものが多い私だが同一存在の結城希はどうなのだろうか?


「ねぇ、海斗。希って未だに高所恐怖症なのかしら?」

「え? いや、どうなんだろうな。高所恐怖症ってのはそう簡単に治るものではないからな。その恐怖心は生物の生存本能だからな。くすぐったいってのがあるだろう? あれだって本来は虫などから身を守るための生存本能だしな」

「なるほどね。確かにそうだわ」

「なるほどなるほど、ゆのをくすぐればいいのか?」

「は?」


 いきなり信也の声が聞こえてきたと思えばそんな訳わからないことを発言した。その油断がいけなかったのだと思う。


「あ、ちょっと! やめっ! あ~もう! くらえ! 十倍返し!」

「ははははっ!」


  特にくすぐったいとは感じなかったがなんか信也にやられてばかりというのは癪に障るので私は反撃に移る。

 

「何か……幸せそうだな」

「そりゃそうだ! 熱殺蜂球みたいにちっちゃいヤツがこっちに可愛らしい攻撃してくるんだ。幸せにならないわけないだろ? ってか熱殺蜂球って考えた人のセンス良くね?」

「………………」


 物凄く笑顔でそんな気持ち悪い発言をした彼に言うべき言葉は何だろうか? 普通に変態だと言っても彼にとってはご褒美になりかねない。だが、熱殺蜂球に関しては同意だ。これ以上簡単かつ明確な名称はそうないだろう。

 

「ゆのの目を見てくれ! あれはフォアグラ生産のガチョウを見るかのような目だ! 養豚場の豚を見る目どころじゃあない。あの哀れみもある目は破滅だとわかっていながら自滅していくものを見る目だ! だがもうちょっと体も引き気味でその目をしてくれないか?」

「お前ってヤツは…………」


 うわっ………なんだコイツ。物凄くドヤ顔でそんなことを言ってくるがその顔でなかれば通報されかねないくらい気持ち悪い。いや、その顔でもその場に居合わせた全員が通報してほしい。そんなことを考えていたらやり返そうとしていたがそんな気分ではなくなった私は外套の埃を払って立ち上がる。


「全く、ふざけるのはほどほどにしてほしいものね。いきなり女子の脇をくすぐるなんて嫌われて当然な行動よ?」

「と言いつつ、そうやって注意してくれるじゃあないか」

「ゆのの優しさに感謝しとけ」

「…………こういうのは優しさじゃあなくてツンデレってヤツでは?」


 一度死なねば分からないという言葉があるが彼の場合は一度死んだところで性格は変わらない気がする。


「えっと? もうみんな行ってるんだけど……?」

「あ、すみません」


 蒼木先生に注意されてしまった。これは間違いなく信也のせいだ。そうに違いない。なんか彼が箪笥の角に小指をぶつけるような出来事が起こらないだろうか?


「なんか呪言みたいなの聞こえないか?」

「いや、聞こえないぞ?」

「幻聴じゃあないかしら?」

「冗談だろ? …………くすぐった時に”白!”っていう感じに言ってやりたかったんだが、そもそもとして見えないしアイツは常にタイツ着ているから見えないだろうな……」


 やっぱり箪笥の角に小指をぶつけるだけでなく頭にたらいが落ちてきて欲しい。




 

 第一展望デッキはかなり広い作りになっている。ちょっとした売店にどの方向に何があるかのマップ、そしてガラス張りの床、レンタル型の双眼鏡、フォトスポット。私は見飽きたものであるため、正直退屈だ。私はそばにあるかなりアバンギャルドなデザインのベンチに腰掛けて電子書籍を手に取って読み始める。本の内容は文字通り世界を敵に回してたった一人の少女を救う少年の話だった。本の内容としては多くの人を犠牲にしてたった一人を救うという行為は道徳としてはあっているが悪の行いだと評価していた。私としては彼の行いが正解だとは思わない。けれど、それが間違いだとは思えなかった。


「ひゃっ!?」

「ほら、喉乾いているだろ?」


 海斗が私の頬にキンキンに冷えたサイダーのボトルを当ててきた。


「ありがとう。助かるわ」

「あまり気負いすぎるなよ? 気楽に行こうぜ? そうでなければ救いたいものもいざというときに救えなくなる」

「コホッコホッ!!」

「どうした!? …………まさかとは思うが炭酸飲み慣れてないのか? ラムネ飲めていたのに?」

「そのまさかよ…………」

「そうか。まぁ、気を付けて飲めよ?」

「えぇ」


 しばらく、彼との間に静寂が流れた。これを機に何か彼に質問してみるのもいいかもしれない。質問したいことは色々あるが、やはり聞くべき質問はこれかもしれない。


「ねぇ、純粋な疑問があるのだけどいいかしら?」

「なんだ? 俺に答えられるものであればいくらでも答えよう」

「ありがとう。じゃあ、”貴方は一体どのくらい世界線を移動したのかしら?”」


 瞬間、彼の優しい表情が強張った。そして、顔面が白くなり滝のような汗が流れ始めた。


「えっ!? ちょ!? 大丈夫!?」

「問題ない。ただ、フラッシュバックが起きただけだ。えっと、世界線の移動の回数の質問だったっか? うっ!」

「ちょっ!? 本当に大丈夫なの!? いいわよ無理しないで。ただ、純粋に何か変わった世界線があれば聞かせてほしかったのよ。突破口になると思ってね」

「そうか、それならとっておきの世界線があるぞ」


 彼はゆっくりと姿勢を正して私に向き直る。その表情はまるで悪戯を企む子供のように思えた。

 

「とっておき?」

「あぁ、エッフェル東京タワー巨大ロボだ」


 うん? 何か悍ましい単語が聞こえた気がする。並ぶはずのない二つの建築物にロボ?


「右足がエッフェル塔、左が東京タワーで胴体がマヤのピラミッド。そして右手がゴールデンゲートブリッジ、左がシドニー・ハーバーブリッジ。極めつけの頭部はスフィンクスだ。アヴァンギャルドすぎるものだが人によってはなかなかの評価だったな。かくゆう俺もかなり気に入っている」

「違法建築すぎない?」

「あぁ、勝手にその辺の建築物を吸収して装備を増やす性質があって最後に見たときは鎧と槍ができていたな。鎧が何でできているかはわからないが槍はスカイツリーだったぞ」

「頭痛くなってきた……」


 なんで海斗はそんなに目を輝かせて話しているのだろうか?


「ちょっとトイレに行ってくるわね」

「あぁ。荷物持ってようか?」

「お願いするわ」


 特に荷物は無かったが開栓したサイダーのボトルをトイレに持ち込みたくないので海斗に託して私はトイレに向かう。別に用を足したい気分ではなかったが急にトンキチな話を聞かされた私には少し飲み込む時間が必要だ。どう見ても嘘を吐いているような感じじゃあなかったし。




 


「おまたせ。悪かったわね。会話の途中に抜けてしまって」

「いやいいんだ」


 俺は彼女が戻ってきたことを確認する。まぁ、特にトンチキな世界線だったから無理もないかもしれない。俺だって初めて見たとき物凄くこの目を疑ったし。


「ねぇ、海斗。貴方は、怖くないの?」

「何が?」

「命を賭けた戦いっての。平凡な日常がこの繰り返される一年は無理に命を賭ける必要はない。だというのに貴方は何故そうまでして戦うの?」


 俺が何故、戦うのか。それは決まっている。ゆのみたいに誰かとの約束や贖罪という動機ではない。ただ、自分に課した制約を守るため。でも、もう引き返せない場所まできてしまった。もう後戻りができない場所まで。


「いつか話したよな。事象の確定の話について。多くの世界線で起きたことは他の世界線でも起きやすくなる。それを覆すために戦っていた」

「戦っていた?」

「あぁ。”戦っていた”だ」

「じゃあ、今は?」


 そんなの決まっている。


「戦うような身では無いからな。もう俺は戦いにはついていけなくなっている。情けない話だがお前に頼るしかなくなってる」

「貴方には情報やサポートで助けてもらっているからお互い様よ」

「すまない。俺も戦場で戦力になれれば良かったんだが」

「いいのよ。貴方は戦場で戦わなくても十分強いじゃあないの」


 強い? この俺が?


「戦場で必要なのは戦おうとする意志。それは何も直接的な戦闘だけではないのよ」

「確かにそうだな」


 戦場はそれがあれば戦い抜くことができる。事実、俺はそれで幾多の戦場を超えてきた。だというのに何故だ…………? いや、ちょっと待て?


「海斗?」

「ずっと違和感があったんだ。何かおかしい。でも、さっき明確にわかった」

「何がわかったのかしら?」

「いや、表現としては正しくはなかったかもな。でもこれだけは聞いておきたい。お前は誰だ?」


 俺はゆのの能力で持ち込めた拳銃をゆのの姿をしたソイツの眉間に当てる。この銃の威力であればきっと貫通どころかスイカ割りをしたかのように頭蓋がはじけるだろう。自分でもこんなに恐ろしいことをできているとは信じられなかった。だが、その行為ができるほど目の前の人物に怒りを抱いた。


「な、何を言っているのかしら? 私は赤井……」

「違うだろ? 赤井ゆのではない。そして同一存在でもある結城希ですらない」

「何を根拠にそんな…………」

 

 だいぶ舐められたものだ。きっとこれも希の指示ではないものだろう。こんなことするはずが無い。


「知らなかったのか? 俺の戦いはゆのに一度も見せていないんだよ。剣道の試合だろうが彼女が攫われた時だってアイツに直接的な戦闘は一度たりともな」

「部活での練習を見ていたのよ」

「部活でならば部員以外が道場に近づいたらセンサーが働くようにしてあるから必ずわかる」

「九条k……」

「九条の時はお前のみの戦闘で俺はバイクの運転だった」


 疑惑がどんどん確信に変わっていく。それと同時に目の前の人物に非常に腹が立った。

 

「そういえばムハンマドから今朝急に”欧州には変装に長けた組織の人間が居るから気を付けろ”と連絡があったな。その上でもう一度問おうか。”お前は誰だ?” そして貴様の行動は俺の逆鱗に触れる行為だということを理解しているのか?」

「逆鱗? 貴方が? まさか自分の立場が上だと思っているの? ただのLEVEL7の能力者だっていうのに?」

「……………………」

「このLEVEL8の『模造』の能力を持った私に勝てる訳ないでしょ?」


 残念だよ。本当に。残念だ。


「『破壊』を模造した私に………………? 何で能力の効果が消えて……?」

「いつ、俺の能力がLEVEL7だと言った?」

「まさか…………同じ? いやそれ以上の? ありえざる能力? いや、権能?」


 俺はゆのよりは弱いがそれなりに戦場を生き抜いた戦士であることには間違いない。


「知らなかったのか? 『IF』の能力者の視界に入った敵はその時点で勝利はありえない。この『IF』の能力は『逆転』みたいに万能ではないがありとあらゆる可能性を観測し、最適な未来の結果を上書きする。それがこの能力。故に世界の観測者が断言しよう。”お前に勝利はありえない”」


 模造刀を持ってこれた可能性をこの世界に上書きする。その上でその剣先を相手に突きつける。こうして戦場に立つのはいつぶりだろうか。全身の感覚が研ぎ澄まされていく。周囲の人々の位置、そして相手との間合い。それらが全て自身の好都合な場所だ。相手が同じく能力で出現した剣を構える。上段の構えだ。一撃必殺の捨て身の構え。それは即ち、当たれば即死。回避すれば絶大なチャンスをものにできる。故に一撃を避けなければならない。


「受け止めるつもりだね。素早さで凌駕すると圧倒的な効果をもたらすこの構えは初撃を受けられたら後は無防備になるからね。それが正解だよ。だけどそれが通用するかなぁ!」


 剣が振り下ろされる。受け止めるだったか? いや、受け止める必要はない。この距離、この場所。全てがベストポジションだ。俺はそのまま剣を胴を打ち込むように身体を捻って回避しながら打ち込む。目指す先は能力で上書きしたあり得た可能性。ひび割れた窓のひびに一撃を叩き込む。ひび割れた硝子は衝撃によって叩き割れ、そのまま打ち込まれた技によって相手は外へ放り出される。


「舐めるなよ? 赤井ゆのを」


 俺は彼女が手配していたワイヤー銃で外に放りだされたソイツを空中で固定した。




 

「待たせたわね」


 私は海斗と合流する。何故か少し呼吸が荒くなっているが気のせいだろうか?


「何かあったのかしら? 少し周りも騒がしいし……」

「いや、何も問題ないさ。そろそろ集合時間だ。エレベーターの周辺に向かおう。みんなも集まっているはずさ」

「そうね。みんなを待たせるのは悪いわよね」


 私は海斗と一緒にエレベーターの前に向かう。すぐについたがかなりの人数が集まっていた。


「もしかして私たちが最後?」

「そのようだな」


 このエレベーターは30人とかなり多くの人数を一度に送ることができるが物が2つしかないのでかなり入口が混雑している。


「一度に上げ下げさせるシステムじゃあないだけマシね」

「そんなシステムだとしたら設計ミスだがな」


 何か忘れているような気がするが気のせいだろうか?


「何か忘れていることないかしら?」

「………サイダーか?」

「あ、そうね。ありがとう」


 私は彼からサイダーを受け取る。まだキンキンに冷えた状態だった。




 

 地上から800m地点、第三展望デッキ。ここは世界で最も天国に近い場所とも言われている。もちろん、山の建物とかを除けばの話だが見慣れていないクラスメイト達にとっては思わず感嘆の声が出る程に絶景である。もちろんだが、高所恐怖症の人にとっては恐怖でしかないが私には関係ない。


「何度見ても絶景だなこれは」

「タカイトココワイタカイトココワイ」

「あら、意外ね。馬鹿と煙は高いところへ昇るというのに苦手なのね」


 私はボソッと怖がる信也に対して呟く。


「馬鹿にすんなよ? 馬鹿と鋏は使いようっていうじゃあないか。馬鹿に見えるだけで才能を発揮できる場所をまだお前は見ていないからだ」

「弘法筆を選ばずって言葉知っているかしら?」

「それは達人の話だ!」

「なんだかんだ言って仲良いなお前ら」


 そんな風に言い合っていた私と信也を見て、まるで近所の小さな子供の喧嘩を見るかのように微笑みながら海斗はそう言ってきた。

 

『仲良くない!』

「はいはい」


 信也と私はそんな関係じゃあないし、そう思われるのも心外だ。


「ほら、ガラス張りの床よ。せっかくだし立ってみなさいよ?」

「嘘だろ? うわっ力強っ!? 華奢な身体のどこにそんなパワーあるんだよ!? おい、やめっ! 引っ張るな~!」

「さっきのくすぐりの仕返しはまだ済んでいないわよ?」

「まだそれ根に持っていたのかよ!? 悪かったから引っ張るな!」


 私は全力で逃げようとする信也の腕を掴んで私は床に向かって引っ張っていく。


「へぶしっ!?」


 私が手を離したそのタイミングで信也は自身の逃げようとする力の勢いを殺しきれずに床に激突した。


「おい? なんだよ急に離して……」

「油断したわね…………」


 私は目の前の人物を目にしてそう呟く。目の前にいるのは信じたくないが組織のNO.3の人物。佐々木葵その人だった。


「やっ、お姉ちゃん。修学旅行楽しんでいる?」

「貴女が来るまでは楽しんでいたわ」

「怖~い。そんな怖い顔していると顔の良さも器の大きさも背の高さも小さい人になっちゃうよ?」

「言っていなさい。文化祭の時のようにまた叩きのめしてあげる」


 私は慎重に相手に悟られぬように胸ポケットに手を伸ばす。


「あれ? 怒らないの? それに、あの時はだ暴走していただけだよね?」

「私だって成長するのよ。心や能力だけじゃあなくて”背も”」

「背だけやたら強調するだけやっぱり気にしているんだぁ~」


 相手の能力は発動するだけでも厄介だ。故に能力を発動させられる前に無力化する他ない。それにここは地上800m地点の閉ざされた空間。相手にとって逃げ場がないがそれは私たちも同じ状況だ。相手の能力の発動のトリガーとなるステップを踏ませないようしながらこの盤面を少しでも有利に進めるために動かなければ……。


「目的は?」

「観光以外にここに来る必要ある?」

「私たちを襲撃しに来たという目的は?」

「無いと言えば嘘になるね」

「穏やかじゃあないわね。これじゃあ、ワルツの相手も見つからないんじゃあないかしら?」

「叩きのめすとか言っていた人には言われたくないなぁ。さっきの言葉はそっくりそのままお返しするよ」


 嫌味も効かないか……………………。


「動くな。指先一つ動かした時点でお前を気絶させる」

「徹底的に注意を向けさせていたのはこのためね。やるじゃん、お姉ちゃん」

「貴女に褒められても嬉しくないわよ」

「わ~すっご~い! 天才だね~」

「わざとらしく言わなくていいわよ」

「えへへ」


 追い詰められている自覚が無い? いや、逆にこうなることを望んでいたかのように思える。なんだ、この胸騒ぎは……? 何か取り返しのつかない事態でも起きようとしているのだろうか? 考えられる可能性としてはまずは協力者の存在。これはほぼ確実だろう。能力が強大とはいえ、無防備に敵陣に突っ込めるほど彼女の身体能力は高くない。むしろ見た目通りに低い。そして、前回持ってきていたアイフェの槍はそう簡単に持ち出せるようなものではないし、あれみたいに動きをサポートできるような道具はなさそうだ。あとは、彼女の身体能力を増強させたとて対して効果が期待できない以上は彼女の役割は体のいい囮と見るのが妥当だろう。となると問題は相手がどう動くかだが、正直どのような動きを起こすのかさっぱりわからない。


「難しい顔をしているね」

「おかげさまで」

「あははっ! 別に私は取って食うことはしないんだから……ね?」

「貴女の場合は文字通りの意味で言っているでしょ?」

「今回は言葉通りだよ」


 言葉通りということは葵から何か仕掛けてくることはないことを意味するがあくまで葵のみの可能性やブラフだという可能性も捨てきれない。


「警戒は解いてくれないんだね」

「解くと思った理由を教えて欲しいわね」

「いや、お姉ちゃんの立場なら誰だってそうする。私もそうする。あ、馬鹿と天才は違うかも」


 考え方が違うからだろう。だが、わざわざそれを言及したとてこの場で何になるのだろうか? 意識を葵に向けすぎているような気がする。注意を彼女に向けつつ、周囲の様子を確認する。問題は無さそうだが……。


「そういえば、お姉ちゃんのマントの胸内ポケットには何があったんだっけ?」

「何でそんなことを……? 入っているのはマルチツールよ。ドライバーやナイフもあるから便利なのよね。あとは……携帯に便利な小型の単眼鏡……」


 単眼鏡が何か関係あるのだろうか? かと言って私を狙撃にはここは向かないポイントだが……となればそれ以外の可能性は?


「下……?」

「大正解!」


 葵はいつの間にか持っていた双眼鏡を私に投げつけてきた。私はその双眼鏡でガラス床から下を見てみる。やはりというか狙撃手は居ないし、葵が双眼鏡で下を覗いている私を攻撃する様子はなさそうだった。あと見ていないのは第一と第二展望デッキの上の空間…………。


「ッ!?」

「チェックというべきかな? 少なくとも一人は死ぬに50ユーロ賭けてもいいよ」

「貴女ッ……!」


 第一展望デッキの屋根? と呼べる空間に組織の人間と思わしき人物によって拘束されたなぎさが居た。


「どうするの? 私に危害を加えようとも加えなかろうとも柚木なぎさをあそこから地面に向かって落とすつもりだけど、お姉ちゃんのお仲間は残念ながらここに集まっているから助けに行く前に彼女は死んじゃう。かと言ってお姉ちゃんの能力は強大でもまだ人をまるまる転移できるようなものじゃあないでしょ? そしてお仲間も同様にそういう移動系の能力を持ち得ていない。肝心の彼女だって移動能力があるけどその能力が使えないから逃げようがないよね? さぁ、どうするの!? お姉ちゃん!? 私を愉しませてよ!」


 まんまとしてやられたというべきか……。この場は能力者でほとんど構成された学校の関係者が多いがそんな簡単に移動の能力を持っているとは思えない。であるのならば私の取る手段は…………


「海斗! ここ開けられる!?」

「言われなくとももう準備している! あと3秒だ!」

「火焔氷結、オーバードライブ!!」


 姿がいつの間にか見えなくなっていた海斗は信也と協力して壁のガラスに穴をあけていた。海斗はいつものことだが、信也はこういう時だけは異常に頼りになる仲間だ。


「………………まるで失敗した未来を見たかのようだね」

「………………何を言っているんだ? そんな結果なんざ”ありえるはずが無い”に決まっているだろ?」

「そうしていつまでも欺き続けるんだね…………」

「お互い様だろ。紀元前からのプリテンダー?」


 海斗がそんな訳の分からない話をしているが気にする余裕が無い。


「信也、まだなの!?」

「セット。アナライズ・ディセーブル」


 その瞬間、ガラス窓に一瞬霜が走る。そしてそれとほぼ同時に、内側から赤熱したような色が一閃しガラスが崩壊する。


「あいたぞ?」

「え!? あ、ありがとう」


 私はその穴から下の様子を確認する。今にもなぎさが落とされそうな様子だった。今すぐに落とされたら間に合わないし、もちろん早ければ私が先にお陀仏だ。タイミングを合わせなければ両方死ぬもしくは大怪我だ。おおよそなぎさの居る地点まで11~12秒程度かかることを考えたら今だ!


「行ってきます」

「いってらっしゃ……ちょ!? パラシュートとかの安全装置は!?」

 

 海斗が何か言っていたが気にする余裕がない。頭を下にして加速を高める。


「もっと早く、もっと! もっと!」

 

 加速によっての全身に吹き付ける風はとても寒いが全身の血が沸騰しそうなほど熱く感じる。外套がバタバタと大きく音を立てる。あと20m、10、5……


「なぎさ!!」


 私は手を伸ばしてなぎさに掛けられている縄を掴む。タイミングが合ったのはいいことだが、ここからどう生還するかが問題だ。飛行手段は私の現在の能力の出力は不可能。ワイヤー銃ならいけるか? 私は左手を胸ポケットにある手帳に伸ばす。手帳を千切ってワイヤー銃を取り寄せる。そう思ったのだが……


「は…………?」


 一瞬、思考がフリーズする。手帳が無い? ちょっと待った。手帳はタワーに上る前はあったはずだ。私は記憶を思い返す。………アイツか………! 信也にくすぐられたときに落としたのか! それしか考えられない。



 

 

「なぁ、その手帳ってゆののヤツだよな?」


 俺は信也が持っている手帳について質問してみる。

 

「そうだな。落ちていたから拾っていたんだが……。渡す機会が無くてな」

「…………わざとか?」

「う~ん……どうだろうな?」


 白々しい反応が返ってきた。もし、ゆのが死んだら許されない行為だからなそれ!?




 

 どうしようどうしよう。私の能力は当てにならない。翼!? いや、発動条件がわからないしそれ自体に飛行能力があるのかわからない。マズイ……打つ手なし? でも諦めることだけはしたくない。私はなぎさを見つめる。私を含めた二人の命を背負っているんだ。絶対に諦められないし諦めてはいけない。ちょっと待て……なぎさ? そうだ。なぎさが居た! なぎさの能力は『座標指定』。この状況において最善の手を打てる能力だ。能力が使えないというのならば……私が補助すればいい!


「無理をさせるわ、なぎさ」

「むうっっ!?」


 なぎさが何か言っているが猿轡を嚙まされているせいでわからないしこれ以外手段はもう無い。無茶かもしれないがやるしかない。私は能力が使えないという事実を裏返す!


『確定は、観測の怠慢なり。私達は死の運命を破却する!』


 なぎさの能力を私の能力で強制的に発動させる。目が物凄く痛い。右目からは血が出てきているのが分かる。痛い。それでもこれを止める理由にはならない。なぎさの心象世界にある能力の核になるものの輪郭を直感的に掴む。発動できる準備はできた。あとは発動して減速するだけ! あと20、15、10……地面が徐々に近づいていく。勢いを殺しきれなければ私達は高いところから落としたトマトのように潰れて死ぬだろう。


「止まって!!」


 なぎさの能力を制御しつつ着地の態勢を整える。なぎさを掴んでいる右手は使えないから左手を身体の前に出す。あとは膝を曲げて肩から回って落下のエネルギーを回転に置き換える。あとは立ち上がるだけ。


「なぎさ……大丈夫!?」


 私はなぎさの口の縛めを外して彼女の様子を伺う。大きな怪我はなさそうだが心的ショックはあるだろうし、先程の回転で少し砂がついているからそれで傷ついて箇所があるかもしれない。


「う、うん……大丈夫。それよりなんでゆのちゃん上から!?」

「えっ!? あ~うん。あまりにも綺麗な景色だったから足を滑らせてしまって……」

「気を付けてね?」

「えぇ」


 嘘とはいえなぎさには言われたくない台詞だがわざわざ反論するようなものではないし、事情を説明したところでややこしくなるし心配するのは目に見えて分かるので言わないことにした。


「縄、切るわね」

「ありがとう」


 外套の胸内ポケットのマルチツールを取り出して縄を切る。このマルチツールは単眼鏡や片手剣・拳銃などとは違い、手帳での取り寄せをができないことも想定してずっと常備していたのだ。それにしても、切れ味は思ったより良くない。買い替えるか?


「…………」


 もどっかしいな………。いっそのこと能力で捕縛対象をなぎさから私に切り替えるか? 私ならこの程度の拘束なら数秒で縄抜けできるし………。でも信也が見ていた場合、何を言われるか分かったものではない。なぎさには悪いが地道に切っていくかないか………。





 葵はあの後、ちゃんと拘束し見張っていたのだが忽然と姿を消した。だが、もしやこの結果は全てお前の想定通りなのか? ゆのから手帳を一時的に取り寄せの能力を奪って翼の能力を本人が気付いていないようだが暴走させずに発動を促したり、柚木なぎさの能力を開花させた。


「何もかもがお前の掌の上か?」

「何を言っているんだ? オレは馬鹿で変態、氷と焔を操る能力者の学級委員長。中村信也だ。そんな想像ができるなら小説家にでもなったらどうだ?」


  信也が空を見上げた横顔をそのままカメラに向かって倒したような風に後ろを向いてそう告げてくる。


「…………お前はやっぱりそうだよな」

「あぁ。分かっているだろ?」


  そうだ。だからこそ、俺は彼を親友に選んだ。他でもない彼だからこそ。親友になれると思ったし、お互いが親友と認識している。


「オランジェットいるか?」

「用意がいいな。丁度小腹が空いていたんだ」


 信也から手渡されたそれはオレンジの苦みとチョコの甘みで絶妙な調和によってできていた。だがそれは今の現状と同じく些細なことで均衡が崩れてしまうような脆いものでもある。


「この均衡を崩すことだけは絶対にできないな……」


 俺は希望も兼ねてそう呟いた。




 

「それで? これ何?」


 私はバディから手渡されたアタッシュケースを見つめる。どうやら磁気を近づけるといけないもののようだ。ペースメーカーかのような機械だろうか?


「これ? これはあの赤井ゆのがカジノで勝った時にあまりにも綺麗に勝ちすぎたからそのオマケ」

「オマケって……囮役にそんな大勝させて止めなかったんですか!? 恨まれるのも目に見えて解るのに!?」

 

 ペースメーカーというよりも見た目が心臓そのものだ。ただ機械でできているものだが充電式という訳ではなさそうだ。


「この心臓……どうするんですか?」

「調べて?」

「は?」

「いや、赤井ゆのが心臓悪いってことで貰ったらしいんだけど敵対組織から貰ったものをそう簡単に体内に。それも心臓そのものを入れ替えるなんてできないからね。だから私たちに解析の依頼が来たの」

「いや、『解析』の能力者が彼女の担任に居るじゃあないですか!?」

「心配かけたくないってさ」

「はぁ~………………」


 私は大きな溜息が思わず出てしまう。確かにこういう解析ができる設備を用意できるのはウチしかないが人使いが荒くないだろうか?


「わかりました。2日程時間下さい。その間で体内に入れて・生涯を通して使う際に問題ないかをチェックします」

「頼りにしているよ~」


 バディは鼻歌交じりに私の部屋から出て行った。上機嫌な彼女に対して、私は彼女が持ってきた仕事のせいで2徹が確定した憂鬱な気分になった。そんな気分を乗り切るために机の下に設置してある冷蔵庫の中からエナジードリンクを取り出して上層部に解析所の使用許可を取るのだった。

この作品のタイトル『繰re返ス者』ですが、何を繰り返すのか明言していませんでしたが恐らくご察しの通り様々な繰り返す要素があります。まず、時間・失敗・挑戦などの様々なものが含まれています。でも、この章のタイトルにも含まれている騙る者。つまり、プリテンダーはこの作品でかなりの人数が居ます。明確に言うとゆのだけがこのプリテンダーには含まれませんね。(希は除く)……あとは天才もこの作品でかなり描写されています。努力・センス・知能と様々な天才が居ますね。


話は変わりますが、最近某青春物語でとあるキャラの実装でインターネットの話題をかっさらいましたね。登場した当初は落ち着いたキャラかと思えば周囲に振り回され、そして感情豊かな表情を見せる可愛らしいキャラでしたね。滅茶苦茶好みです。ぶっちゃけ、初登場時点から好きだったキャラなんでやっとか……って気持ちが強いですね。あと、よく私が後書きで話す某英雄ゲーム。トラウマキャラの実装で話題沸騰中ですね。それと貴女、槍兵なんです? 魔術師ちゃうんですか? 固定サポのクラスで変化したとか? もう一度トラウマクエストやりたいですね。今なら4ターンキルできそう……。


無駄話はおいておき、いつものコーナーに行きましょうか。


⸺ おまけ・人物紹介 ⸺



赤井ゆの/パルクール上級者

内心かなり焦っていた


高階海斗/能力抜きなら作中最強

剣道の試合は毎回、風邪で出れないが全国出場レベル


柚木なぎさ/ヒロインムーブできたヒロイン

海斗たちが持っているオランジェットを食べたい


中村信也/変態な学級委員長

オレはバカな学級委員長だぜ?


緋山みなみ/2徹確定

残業反対ッ!!


石越明子/赤井ゆのの最高のパートナー(自称)

カジノからチップくすねたの返しなさいよ


蒼木和子/職業柄のプリテンダー

仕事増やさないでくれ


佐々木葵/紀元前からのプリテンダー

シナリオ通りに上手くいかないのも案外楽しい?


竹中昴/この物語の作者

元高所恐怖症だった

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