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Revelation - 17.04.2047 -

かなり難解になっています。物語を読み進めると次第にわかるようになっておりますので理解できないところは宇宙猫状態でも読み進めていただければ幸いです。

念のために名前のところは間違えないようにルビを振っております。ルビがないと困るキャラがこの先に出てくるので前振りとして一応出しておきます。

 つまらない日常だった。高校に入学してきてから一年と半月が経ってその感情が大きくなる。そんなつまらない日常はこんな時期外れの転校をしてきた少女によって刺激的なものへと変化した。

 時は2047年、三度目の世界大戦から十数年という歳月が経ったこの年に転校してきた少女がいた。


「赤井さん、いらっしゃい~!」


 担任の蒼木和子の声によってその少女はクラスへと入室した。黒を基調とした制服なのは他の女子とは変わりないが他にも黒色の外套(マント)に加え、大戦以降減少した炭のように黒い髪に深淵の如く黒く濁って生きているのが不思議な目をしていた。その少女はやけに小柄で高校生とは思えない幼女体形だがよく見るとまるで幾度の戦場を生き延びた戦士のような絶望の奥に強い意志があるように見えた。


「では、赤井さん。自己紹介をお願いします」


 転校してきた彼女はクラスの担任である蒼木和子(あおきかずこ)先生に自己紹介を促される。そう、コレが全ての始まりであると言っても過言じゃない。


赤井(あかい)ゆのです。よろしく」


 そう簡潔で無駄のない挨拶。普通なら愛想のないヤツと思うが何故だかソイツに興味が沸いた。




17/04/2047

 

「──────ゴメンね。こんなことをさせちゃって」

「───、なんでこんなことを!」


 彼女はにへっと痛みと苦しみを我慢しつつ諭すように私に言葉を続ける。


「だめだよ。怒りに身を任せちゃあ」


 自分自身の血で塗れた手で私の頬を触れる。


「あ………」


 自分のした行動の愚かさがとてつもない後悔となって実感する。


「私が死ぬ前に一つお願いを……聞いてくれる……かな?」

「………………何かかしら?」

「──────────────────」


 弱弱しく、優しく、諭すように彼女は願いとも呪いとも言える願いを口にした。





「──────っ!」


 忘れられない記憶とともに目が覚める。嫌な一日の始まりだ。だが、これはこれである意味いいのかもしれない。これからの行動に対する決意が再び固まった。私は重い腰を上げてベッドから起きる。洗面台に向かって長く鬱陶(うっとう)しい髪を切って顔を洗ってコーヒー用にお湯を沸かすと同時に朝食のフル・イングリッシュ・ブレックファストを作り始める。私はこれ以外の朝食を作れないし、新たにレシピを覚える時間はないので飽きているがコレで我慢している。少し経つとベーコンとソーセージの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。焼きあがったそれらを皿に載せて肉の油で卵を炒める。ぐちゃぐちゃにした卵が次第に固くなり完熟のスクランブルエッグとなったと同時にトースターで焼いていた食パンの焼き上がりの合図がした。温めたベイクドビーンズと食パン、スクランブルエッグを皿の上に載せてテーブルへと運ぶ。スプーンとフォーク、ナイフを用意してコーヒーを淹れる。


「いただきます」


 手を合わせて日本人特有の食事の前の慣習を行う。人のエゴだがこの行為自体やる価値はあると思う。コーヒーを口に運びながら少し離れた正面にあるテレビに目をやる。


「次のニュースです。大規模犯罪集団『ブラックジャック』に対しての法的処置を検討していると結城希(ゆうきのぞみ)総理大臣は昨日発表しました。具体的にどのような処置がされるのか───────」


 くだらないと思いつつ最後に残ったパンの欠片を口に放り込む。時刻は午前6時半に迫っていたために私は歯を磨きながら制服に着替える。黒いブレザー制服の上に黒色の外套(マント)を纏う。今は何の改造もしていないが今日の帰宅後に改造予定だ。


「続いて天気予報です。今日の京都の天気は晴れ。降水確率は20%です。東京では晴れのち───────」


 まともに受ける気がない授業の教科書とノートに加えて丁度いいサイズの缶の入れ物に入ったカロリーマイトと学校では詳細に習わない敗戦国視点での第三次世界大戦の経緯について書かれた本を詰め込む。


「人工衛星『やまと』によると午後4時37分11秒から関東地方には雨が降る予報ですのでお出かけの方は傘をお忘れなく」


 私はテレビを消して鞄を持って学校に向かう。もちろん、折り畳み傘は常備している。時刻は午前7時15分。余裕をもって出かけられたので幸先が良さそうだ。外に出ると隣に住んでいる九条(くじょう)かすみが居た。


「おはようございます。……赤井さん?」


 髪を切ったせいで一瞬誰だか分らなかったらしい。


「おはよう。早いわね。かすみ」

「この時間には出ないと電車に間に合わないんですよ。それとなんか、雰囲気変わりました?」

「そうかもしれないわね」


 白々しい反応をしたかもしれない。だけど仕方がない。何せ、変わった理由は誰にも言えないのだから。


「そうだ。日本橋付近に今日行く予定があるなら控えなさい。ちょっとした虫の知らせよ」

「日本橋ですか?  …………行ってもお茶の水までですので大丈夫でしょう。でも、日本橋に行く用事ができたら断りますね」

「それで十分よ。いってらっしゃい」

「いってきます」


 かすみは手を振って私のそばから離れていった。私は自分の家の鍵をかけて時間を確認する。時刻は午前7時20分。そろそろ駅に向かうバスが近くのバス停に着くはずだ。かすみの後を追うように私は早足で向かった。





 ピッという音とともにマイクロチップの定期券が読み込まれる。この路線はレトロで昔の乗車システムと同じだ。満席に近いバスの座席の中での最後の一席となったその席に腰掛ける。最奥から二番目の通路側の席。この席は壊れて暖房が夏でも足元から吹き付けるハズレ席だ。私は足元の生暖かい風からの不快感を堪えて到着を待つしかないか、もしくは席を必要そうな人に譲るのが手だ。バスが次のバス停にて停車する。残念ながら自然に席を譲れそうな人はいないようだ。私は乗車する人を観察する。三人とも全身黒い服装にサングラス、マスクといった私が言えたことではないが怪しい恰好としか言いようがない。


「動くな!」


 思った通り。先程、乗車した三人は忍ばせていた拳銃を手にして私を含めた乗客の動きを制止する。また面倒くさいことに巻き込まれたようだ。


「何? 何なの? バスジャック!?」 


 などと乗客はうろたえる。隣りに座っていた老婆までも見ず知らずの私の腕にしがみついてくる。しがみつかれると何もできないし鬱陶しいのだが……。


「目的は?」


 運転手は端的に犯人たちの要求を聞く。表情は鏡越しで分かるレベルで冷や汗をかいている。おそらく、冷静を装ってはいるが内心はびくびくしているだろう。


「要求はただ一つ。逮捕された仲間の釈放だ。お前たちはその人質とさせてもらう」

「あ……アンタ、櫛木俊介(くしきしゅんすけ)か! ってことは捕まっているのは今本孝一(いまもとこういち)だな」


 運転手はなるほどとハンドルを握っていなければ手を打っていただろう雰囲気を醸し出していた。


「黙れ!」


 櫛木と言われた男は運転手のこめかみに拳銃の銃口を突き付ける。


「わかっていると思うが妙な動きや余計な発言をすれば即刻、撃つ。だが念のためだ。動きは運転手以外封じさせてもらう」


 櫛木を除く男二人は拳銃を相手に預けて監視しながら乗客の手足首・口・視界を封じていった。そして私の番が回ってきた。


「ホラ、黒衣の外套のチビ。手ェ出せ」


 ………………あ!?


「アンタ……今なんて言った?」


 私は語気を強めてソイツに聞き返す。聞き間違えなら良しとしよう。聞き間違え出ないならば……


「手ェ出せって」

「その前!」

「黒衣の外套のチビ」

「だ~~~~~~~~れがチビだッ!!!」


 私はガムテープを持ったソイツの金的を容赦なく蹴り上げる。私に蹴り上げられたソイツは脂汗を出してその場に蹲る。その瞬間、慌てて銃を持った仲間が私に銃口を向けてくる。


「おい! 勝手なことをするな!」

「…………」


 ついカッとなってやってしまった。無関心無干渉を貫くつもりだったのだがやってしまったのならば仕方がない。言葉には出さずとも後ろからはなにやってくれたんだコイツって視線が突き刺さる。反省している。だが、何度言われてもこの言葉だけは腹が立つ。私はゆっくりと席から立ち上がる。銃口はずっと私の頭を向けたままだ。そこで撃たない時点でコイツらの実力はたかが知れている。


「何で撃たないの?」

「……は?」


 ソイツは私の言葉が理解できなかったようだ。そりゃそうだ。傍から見れば撃ってくれと言っているようなものだから。撃ってくるようであれば本当に私はよかった。だが、撃ってこないなら私は無駄働きって訳だが遅刻は免れるだろう。


『…………仕方がない。やるか』


 私は構える。手元に武器になりうるものは無くあるのは我が身ただ一つ。故に最速、最大の一撃を以て敵を倒す。


「動くな! 動くとコイツの脳天ぶちまけるぞ!」


 運転手と拳銃を持った敵の傍の乗客にそれぞれ拳銃が押し当てられていた。一瞬、右手に視線を落とす。


『やるべきか? ………いや、ここで使うわけにはいかない』


 私は覚悟を決める。事態を悪化させた手前、私は私自身にできる最善策をすべきだがこの程度はなんとかなる。私は右足で強く床を踏み込んだ。それに気づく手前の敵が引き金にかかる指に力を入れようとした。だが、一手遅い。私は拳銃を握りしめる右手を強く蹴り上げ、それに気づいた櫛木の引き金が引かれる前に拳銃を男のこめかみに押し付けた。


「…………は?」

「チェックメイト」


 常人では説明がつかない動きをやってのけた私に敵だけでなく乗客も驚いてあっけにとられていた。


「お前…………ナニモンだ…………?」

「赤井ゆの。荻川(おぎかわ)高校に通う二年生よ」


 それを言った瞬間、その場に居た全員がなんだそうだったのかという反応に変わる。今日から私が転校ってのは言ってはいないが大体そういう反応がされる学校なのは間違いない。





「間に合ったようね」


 時間はギリギリで間に合った。時刻は午前8時10分。学校が来るようにと指示されていた時間が15分。あのまま犯人たちに付き合っていたら確実に遅れていただろう。少し古くなって錆びが見えてきた下駄箱に靴を入れる。初めのころは慣れなかったが慣れたらなんともないことだ。これから私が向かうべき場所は職員室。転校生として諸々の手順を踏む必要があるからだ。私は職員室にいる先生のもとに迷わず歩を進める。


「おはようございます」

「おはよう。あら、赤井さん? 会ったのは先日の一回なのによく分かったわね」

「いえ、名前は覚えていたので職員室の座席表を確認しただけです」


 嘘だ。何度も何度も見たこの先生の顔は忘れていない。日常の象徴とも言えるこの先生の顔はよく覚えている。


「じゃあ、私たちのクラスを案内するわね。あと、言う必要はないと思うけど改めて。私の名前は蒼木和子。数学の教師だからわからない問題があったらいつでも頼ってね」

「よろしくお願いします」


 蒼木和子、私の所属する2―Bのクラス担任。明るい性格で頭脳明晰ではあるが恋愛や自分のことになるとその才を発揮できない残念な先生。いかなる時も生徒のことを優先してくれる信頼できる心強い人ってのが私の彼女に対する評価だ。


「なんか失礼なことを考えてない?」


ムスッと少し不機嫌さを私にアピールする。妙に感がいいというのも特徴だ。


「さて、これからクラスメイト達に挨拶するから合図を出したら入室してね」

「わかりました」


 私は頷く。きっと、これから下らない雑談が始まるのだろう。私は廊下で一人となった。


「おはようございます、みなさん。さて、皆さんは時間を戻すって考えたことはありますか? 時間の流れは一方向に流れ続けています。この流れを変えることは人間である我々には不可能です。物語や過去絶滅されたとされる能力とかでない限りその流れを逆らうことは出来ません。ですから、この一瞬一瞬を大切にしましょう」

「先生、なんでそんないつにも増してポエムよりの話をしたんですか?」

「恋人に振られたからに決まっているでしょうが!!」


 隣のクラスにも聞こえそうな声で叫ぶ先生の声が聞こえてきた。


「今度は二か月でしたっけ?」

「三ヶ月ですよ。犬か猫を飼おうって話で私がアレルギー持ちだって言ったら別れようってあんまりでしょう!」


 それは酷い相手だ……。


「それじゃあ赤井さん、いらっしゃい~!」


 その流れで私に振るか普通? 仕方がなく私は声に招かれクラスへと入室した。


「では、赤井さん。自己紹介をお願いします」


 自己紹介の挨拶を促される。考えてきた自己紹介の段取りがさっきの話でパアになってしまった。だからわかりやすく簡潔に……


「赤井ゆのです。よろしく」


 そう簡潔で無駄のない挨拶。全体に向かって礼をしてそれだけ? と言わんばかりの顔をする先生の止まった名前の板書をしていたペンをひったくってササッと書き上げて空いている席に向かう。


「貴女が柚木(ゆずき)なぎさね。よろしく」


 私の隣の席で眠りこけている彼女に挨拶をする。


「あれ? 隣の席埋まったんだ。よろしくね。……そういえば私、自己紹介したっけ?」

「いいえ、先生から聞いただけよ」


 嘘だ。誰かに嘘をつくという行為は褒められたものではないが私は今日だけですでに何度も嘘をついている。


「そっか。よろしくね……え~と、名前なんだっけ?」

「赤井ゆの。ゆのでいいわ」

「ゆのちゃん。いい名前だね!」


 彼女は微笑んで手を差し伸べてくる。私はその手を取って握手を交わした。





「ゆのちゃんって帰国子女なんだ!」

「えぇ。一年前まではイギリスで生活していたの」


 記憶は大分薄れてはいるが確かに一年前まではずっとイギリスで生活していた。初めのころはそのせいであまり馴染めなかったことをよく覚えている。


「帰国子女だって!?」

「英語ペラペラなの!?」

「英語教えて!」


 クラスメイト達が休み時間になってなぎさとのちょっとした雑談で話した話題で大盛り上がりしていた。人見知りする性格をしている私にとっては正直、かなりしんどい。


「日常会話なら普通にできるわよ。あと、外套いじらないで……」


 まるで動物園に新たなパンダが誕生して初公開というレベルで珍しいものを見るかのようにわちゃわちゃと私の周りに集まってもみくちゃにされている気分になった。


「大丈夫?」


 なぎさがそんな私を一歩離れた安全な距離で心配してきた。この地獄を安全圏から見下ろすなと思う。


「えぇ。できれば、助けてくれると嬉しいのだけど……」

「一日経てばすぐ収まるよ!」

「……ちょ! なぎさぁ!」


 助けを求める私の伸ばす手を尻目に彼女は無慈悲に私の傍から離れていった。


「合法ロリ! 合法ロリ!」

「ちっちゃい言うな!!!」





 放課後になるとようやく私への興味をもったクラスメイトたちの質問攻めと授業が終わって一息をつくことができた。


「お疲れ様。質問攻めで大変だったでしょう?」


 なぎさが疲れた私に飲み物の差し入れを机の上に置いて渡してきた。


「ありがとう。気が利くのね」


 飲み物は牛乳だった。


「本当に気が利くのね……」


 そんなに小さいと思われているのかと思いつつ彼女の方を見ると同じ牛乳を飲んでいた。気にしないことにしよう。うん。


「どうしたの?」

「いえ、なんでも」


 牛乳パックにストローを突き刺して飲み干す。差し入れはありがたいが正直、牛乳ののどごしが苦手だ。だから小さいのか? ……いや、考えるのはよそう。プラシーボ効果(思い込み)のように現実がその通りになることだってある。それこそ、私みたいな存在はなおさらだ。


「それにしても意外だね。ゆのちゃんって完璧クールって雰囲気出しているのに授業中に堂々と授業と関係のない本を読むなんて」

「完璧じゃないわよ。完璧な人間はこの世には存在しないのだから」


 そう、完璧な存在だったらあんな事件は未然に防げたしここまで長引いていない。


「それもそうだね。あれ? ゆのちゃん、それ何?」


 私の下駄箱の中にあった一つの封筒に彼女が視線を向ける。どこでも買えそうな事務で用いられるような何の変哲もない手紙と便箋。ただそこには放課後、屋上に来てくださいという文が書いてあった。


「差出人はなし……それならば……」


私はその手紙を真ん中からビリビリと破り捨ててゴミ箱に放り込む。すると、なぎさが


「だめだよ。誰かはわからないけどちゃんと思いを込めて書いたんだよ?」

「思い……ねぇ……」


 私が転校して初日なのにこんな手紙を出すとは相手は相当盲目の恋をしているのか。はたまた重要な要件か。


「それに、なんかゆのちゃんにとっていい予感がするの」


 なぎさの予感というものは気まぐれに言われていい意味でも悪い意味でも外れたことがない。


「そこまで言うならば行くわ。ちょっと気になることもあるしね」


 気になることはいくつかあるがまずは行ってみる以外無い。


「悪いけど、先に帰っていてくれるかしら?」


「ううん、ここで待っているよ。結果が少し気になるからね」

「そう。ならば行ってくるわね」

「いってらっしゃ~い」





 階段に足音が響き渡る。反響で感知できるのは動く私の存在だけ。そこに誰も存在していない。何故、このタイミングで呼び出しがあったのか? 誰が呼び出したのか? 目的は? 様々な疑問を晴らすべく上り続ける。最後の段を上り終えた。屋上へと続く扉の窓から見ると奥に誰かがいることがわかる。他に誰かいる気配はない。私は安心してドアノブを回してその人に会いに行った。


「呼び出したのは貴方ね。『高階海斗(たかしなかいと)』」

「……数多の時間を繰り返し、ただ一人の運命を変える時間遡行者(タイムリーパー)……『赤井ゆの』そうだろ?」


 呼び出したそいつは読んでいた本をパタンと閉じてそんなことを問うてきた。


「……何を言うかと思えば、私が時間遡行者だって? そんなことを確認するために呼び出したの? 答えはもちろんNOよ。時間を操るなんて能力者じゃないとできないでしょ? 第一、能力者は絶滅した差別の対象。もし生き残りが居たとして「はいそうです」なんて言う訳がないでしょ?」



 能力者……2023年に初めて存在が確認されてから第三次世界大戦の引き金となった存在。所有者には強大な力をもたらす一方で力の代償や人々の嫉妬や憎悪を買った。強大な力とは言え持ち主は個人の人間。科学を味方につけている人間には能力など突破するには容易かった。嫉妬や憎悪は魔女狩りのように能力者を追い詰め、2047年現在誰一人として能力者の存在は確認されていない。そんな存在が私だと言うのは必ず否定しなければならない。



「それもそうだな。ならば信頼してもらえるように俺が能力者だという証左(しょうさ)を今、示そう」


 そう言った彼は一瞬、姿がぶれてすぐに元通りに戻った。


「『三十秒後、ここにカラスが墜落する』」

「……は?」 


 言っている意味が分からなかった。カラスなんて何処にも……そう考えていた時、カラスの群れが視界の端に映った。何の変哲もないカラスの集団。今時珍しい地上の電線の上に不気味なくらいに集まっている。


「二十……」


 カウントダウンが進む。ちょこちょこ動き回ってはいるもののこちらに来る気配はない。


「十、九、八、七」


その時、一羽のカラスがこちらに飛んできた。迎撃されるようなものではない。となれば、障害物か?


「六、五、四、三」


 カラスが近くで草野球をしていた子供たちのホームラン球にぶつかった。……そんなバカな……。


「二、一」


 カラスはバランスを崩して地面へと落下していく。私は急いで外套を脱いで落下地点を予測する。


「ゼロ」


 その言葉と同時に私の外套の中にカラスがポサッと入ってきた。


「ナイスキャッチだ」

「貴方ねぇ……」


 少し憤りを感じつつ優しく地面にカラスを放つ。カラスは助けなくても良かったのにと言わんばかりの目を向けてきた。


「貴方の力は未来予知かしら? それとも、念動力(サイコキネシス)?」

「ざっくり言うと、記憶保持だな。数多の世界線の記憶を持ち越せる。時間遡行を行っていると気づいたのもそれが関係している」


 …………………………そんなことはどうでもいい。重要なのは何故、このタイミングで見破って話しかけてきたのかだ。


「それで? その力を以て何を望むの?」

「俺は、多くの犠牲を生みたくない。だが、俺一人だと根本的な解決は不可能だ。だからこそ、その根本的なものに対処できる唯一の存在であるお前に協力を頼みたい」


 協力…………? 協力と言ったのか? この男は?


「勝手な話だといことは理解している。だが、過程も求めるものの先に得られるものは同じはずだ。だから──」

「もういい! それ以上の御託は不要よ! 記憶保持? 協力しろ? 何ふざけたことを言ってるの? 私が何度も何度も何度も貴方に協力を求めた。この先の未来に何が起こるのか、どれ程の人災が起こるのかちゃんと説明した! その時の貴方は何もしなかった。協力もしなかった! だというのに貴方から協力しろ? ふざけないで! そんな偽善・独りよがりの協力は願い下げよ!」


 私は踵を返して彼から逃げるように立ち去ろうとする。その時、


「お前が戦おうとしている組織は一つだけじゃない。世界そのものだ。それこそ、CIA(中央情報局)とかな…………」

「なんですって!?」


 世界そのものを相手にしている感じはした。だが、能力者嫌いな国(アメリカ合衆国)の機関が関与………? おかしい。何か裏があるはずだ。


「気が変わったわ。いいでしょう。一時的に協力するわ」

「一時的とは言え、助かる。よろしくな」


 彼は手を差し出してきた。握手。協力する以上、それはすべきだろうがまだ彼のことは信用しきれない。


「えぇ」


 返答だけして握手はしなかった。


「まだ、信用はしてくれないか……」


 ボソッと彼は呟いた。


「当たり前でしょ? 貴方はまだ開示していない情報が多すぎるのよ」

「聞こえていたのか」

「私、聴覚はかなり自信あるのよ」


 私は耳を指さして微笑む。


「お前の笑顔……初めて見た気がする……」

「貴方の前で初めて見せたからね」


 今度こそ私はその場を後にした。玄関に戻るとなぎさが本を読んでいたが私が来たと分かるとすぐに栞を入れて私の方に向いた。


「なんか良いことあった?」


 何故か親が子供を見るように彼女が温かい目で見てくる。


「いや、特にないのだけど?」


 正直、心当たりはない。


「目に光が戻ったようになんか明るくなったよ」

「私の目って死んでいるように見えていたの?」

「うん」

「そっかぁ」


 ちょっとショックだったが目に光が戻ったように私が明るくなったのならば彼には感謝しなければならないだろう。





「なぁ、わざわざ「協力しよう」なんて回りくどい言い方しなくてもよかったんじゃあないか?」

「なら他に言い方はあるのか?」


 海斗は訪ねてきた人物に聞き返す。


「普通に「好きです」とか、「俺とお前は──」って言うとかな?」

「……お前、俺がそれを言えない立場だって分かっていて言っているだろ?」

「あ、バレた?」


 その人物は舌を出してはにかむ。


「当たり前だろ馬鹿野郎。俺とお前の付き合いは何年だと思っている?」

「オレの記憶だと十五年程度なんだが……」

「そりゃそうだ」


 ニシシと二人は笑いあう。


「言っておくがお前には協力するが『赤井ゆの』には協力する気はまだないからな」

「分かっている。今はそれで十分だ」

「ああそうかい」

「嫌な相づちだな」

「花の名前だよ。『亜阿相界』、マダガスカルの原産のな」

「アアソウカイ…………ぷっ………くだらねぇな!」


 下らない話題で盛り上がる二人のところに近づく足音が聞こえてきた。


「ここに居たのか高階!」

「先生………今回の要件は何ですか?」


 息が切れそうなぐらい小走りで走って探していたような先生を前に海斗は冷静に問いかける。


「あぁ、君も居たのか。高階はすぐに私とともに私の部屋に来てくれ。君は早く屋上から離れたほうがいい。そもそも、ここは立入禁止だからな」

「ハイハイ。いい彼氏早くできるといいっすね」


 余計なことを口にしてそそくさと帰っていった。屋上には用のある二人が残されたが先生はヘタっと崩れ落ちかけそうなぐらい疲弊している。


「余計なお世話だ!」


 二・三十秒程経った後で姿の見えない彼に対して怒りを口にするが当然、彼には聞こえなかった。





 私の能力は『時間干渉(じかんかんしょう)』。右手で音を鳴らすと時間が止まり、左手で過去に遡れる。やろうとは思わないが時間の加速というものはできない。それが私の能力だ。最強レベルの能力だが、欠点がある。それは──────


「居たぞ! 捕まえろ!」

「囲め、囲め!」


 そう、持続時間が圧倒的に短いことだ。体感にして約三十秒。こうしてヤクザもとい反社会的勢力を相手にするとなるとかなり骨が折れる。クールタイムが五分だから尚更、質が悪い。時間停止を使えるキャラはもっとクールタイムが短くて使いやすいのに私の能力はイマイチだ。


「しつこいわね……」


 ちょっと戦力の補給として銃をいくつか拝借もとい強奪しようとしただけなのにこの有様である。全く、血の気が多い集団を相手にすると疲れる。


「ここ!」


 組織内の武器庫に到着した私は部屋の外の見張りを立った状態のまま気絶させて物色する。お目当ての銃は…………コルトパイソン……違う。デザートイーグル……違うけど念のため持っていくか。RPG…………一発撃ったら終わりの武器は持っていけない。あった、H&K P7M13。これが欲しかった! シルバータイプのこの銃は『()()』ではなく『()()』の銃だが関係ない。それが私にとって一番使いやすかったのだから。


「銃四丁、余分一丁よし。弾丸よし。………上出来ね」


 あとはこの組織を死者ゼロで壊滅させるだけだ。


「どこ行った!?」

「こっちには居ません!」

「探せ、探せ!」


 どうやらまだ探し回っているようだ。その階には居ないのに………。気は乗らないが倒しに行くほかない。私はドアを蹴破って彼らに姿を見せる。


「居たぞ! あそこだ!」

「武器が銃しかないから仕方がないけど………死なないでね?」


 私はその言葉とともに足に力を込めて彼らに向かって踏み出した。



 一時間後、夕日とともにそのヤクザの建物内はたった一人の私を残して立っている者は誰一人として居なかった。


「ば……化け物め……」

「私としては躊躇なく殺気を出せる貴方達の方が化け物だと思うのだけど?」


 実際、私は誰一人として殺していないし殺気も出していない。銃弾もあまり使わずに済んでよかった。なんならもう少しもらっていこうか?


「倉庫にあった一部だけもらおうって思っていたけど、この手間を考えたらもう少しもらってもいいでしょ?」

「………………もう好きにしろ………」


 あら、折れちゃった。まぁ、それなら好きにさせてもらおう。




 地下空間に広がる通路を黒づくめのドレスを纏った少女は歩いていた。否、少女の姿をした成人女性である。


「あの暴力団、結局壊滅させてしまってよかったんですか?」


 黒いスーツの男が彼女に質問する。彼女は少しの時間思案するが


「いいのよ。あの暴力団に期待していたのは武器だけだしね」


 とあっさり返す。死者が居なかったというだけで良しとすべきなのだろうか。


「あの、ボス? 彼、『高階海斗』の扱いはどうしますか?」

「彼か……様子見かしら? 今のところ、害は無さそうだし泳がせといていいんじゃない? もしもの時は彼の心を折ればいいでしょ?」

「Yes mom」


 そう男は返事をした。





 私は何度も間違えた。同じ時を繰り返し、同じ結末を見届けた。柚木なぎさ…………私の親友。彼女はそのことを覚えていなくても私は………彼女を救う《殺す》!

ここまで読み進めていただいた貴方、大変ありがとうございます。小難しいと思うのでざっくりまとめさせていただきます。ご参考までに…………


【世界観】

第三次世界大戦を終えた2047年の日本で能力というものがかつて存在し差別の対象だった。主人公の赤井ゆのと高階海斗はどうやら絶滅したとされる能力者で能力を持っていると一般人に思われたくない。



【登場人物】

― 赤井ゆの ―

・本作の主人公

・時間干渉の能力で数多の時間を繰り返した時間遡行者らしい

・小さいこと(141cm,35kg)がコンプレックス

⇑ 彼女にとって胸の小ささ(AAA)よりも問題らしい

・化け物じみた戦闘能力を持つ

・(赤井なのに降谷の銃を使うのはビジュで選んだら偶然皮肉になった)

・血液型 AB型 RH-

・シャギーの入ったショートカットの黒髪かつ黒目

・黒い外套(マント)を羽織っている全身黒の服装


― 高階海斗 ―

・本作の第二の主人公

・記憶保持? の能力の持ち主

・謎多き人物である

・ゆのと彼はとある関係らしい(ゆのは知らず)

・血液型 A型 RH+

・青髪で青い目


― 柚木なぎさ ―

・ゆのの友達

・不思議ちゃん

・血液型 B型 RH+

・肩まで伸びた白髪で橙色の目


― ??? ―

・海斗の親友


― 九条かすみ ―

・ゆののご近所さん


― 蒼木和子 ―

・上記の登場人物(かすみ以外)のクラスの担任

・数学教師

・海斗と何か関係がある

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