Festival - 09/08/2047 -
- 09/08/2047 -
俺の望みは簡単だ。『赤井ゆのの生きられる世界の構築』だ。彼女はどの世界線でもこの一年を越えて生きられない。
彼女は確実にこの世界線でも死ぬ運命にある。彼女自身は柚木なぎさの死こそ回避すべきものと考えているだろう。その原因を取り除かなければ確実に彼女は死ぬ。『時間遡行』によって…………
ギシギシと軋む音が聞こえてくる。この音は少し苦手だが、今日明日は耐える他ない何せ…………祭りなのだから。
「祭りだ~~~~!!」
「何食べる!?」
「金魚すくいしたい~!!」
「おか~さんどこ~!?」
「ポイ破けた~!?」
「無免ライダーのお面だ!」
「一口食べる?」
「らっしゃいらっしゃい!」
耳が痛い…………。生まれつき耳の良さに自信がある私は授業中でクラスメイト全員のペンの動かす音を正確に把握できるレベルだからこそこの人混みの状況、そして祭囃子と一緒に大きく動く山車だって私にダメージを負わせてくる。
「大丈夫か?」
「えぇ。ちょっとキツイわね」
私は胸ポケットから耳栓を取り出す。この耳栓は適度に音を取り入れるように作られた特注品だ。ちなみに銃を撃つ直前には毎回している。
「ほい。かき氷でも食って休んだ方がいい」
「ありがとう。ちなみにこれは?」
「心配するなよ。奢りだ」
「ありがとう。でもそういうことじゃあなくて……何味なのかしら?」
見た目だとこれはブルーベリー? それともラムネ?
「あぁ、そのことか。ブルーハワイだな。普遍的な味付けだろ?」
「ブルーハワイね。…………そういえば知っているかしら海斗? ブルーハワイは特に何味か決まっていない味付けよ。そしてこれがあるってことは十中八九、全て同じ味ってことを」
「マジかよ。………でも、貰っておいてそれを言うのは性格悪くないか?」
「………そうね」
なぎさならばきっとこんな時は
「てへっ!」
と舌を出してあざとかわいらしくごまかしただろうが私にそんなかわいらしいのは似合わない。
「はい。お詫びと言ってはなんだけどラムネよ。食べる前に一口は飲んでおきなさい」
「ありがとな。けどなんで食べる前に飲んでおくといいんだ?」
「食べた後に頭が痛くなること経験したことがあるでしょう? 『アイスクリーム頭痛』…………元々は医学でも正式名称だった現象だったのだけど喉や口の中が急速に冷却されることによって起きる現象よ。対処法はいくつかあるけど手っ取り早いのはこうやって食べる前に冷たい飲み物であらかじめ冷やしておくことね」
私はラムネ瓶の口元に打ち込み栓を押し当ててガラス玉の栓を開封する。レモン風味? の味が喉の渇きを潤してくれる。
「なんでも知っているな。雑学王か?」
「いいえ、私は広く浅くよ。専門的知識までは達していないわ」
「それならばこれは知らないだろ。そのラムネのガラス玉は何て言うか分かるか?」
海斗が得意顔で私に尋ねてくる。ガラス玉……ビー玉ではないのだろうか? いや、このような質問をしてくるならば普通とは違う名称のはず。であれば何だろうか? ビー? アルファベットのB? であればA? エー玉ってことだろうか?
「ビー玉……
瞬間、彼の口元が少し緩む。なるほど。彼の面子を保つためにはそのまま行った方がいいだろう。
「ビー玉じゃあないの?」
「不正解だ。正解はエー玉。ラムネの栓の役割を全うするためには厳格な基準があってその基準に通った規格がA、通らなかったのがBって分けられるんだ」
「なるほどね」
「ちなみにラムネとサイダーは”現在は”容器によって名称が変わるんだ」
「味じゃあないの!?」
「あ、あぁ。昔はラムネはレモン風味でサイダーはアップル風味ってことだったんだがエー玉で栓をしているのがラムネでそれ以外がサイダーって分けられているらしいぜ」
「そうなのね……」
かなりの衝撃だったがまぁ、味云々のことについては私は日頃の食生活(栄養調整食品や服毒時の対策)で味覚はおかしくなっているかもしれないのでバカ舌呼ばわりされるよりはマシだろう。
「…………みたいに食べ比べをやってみたかったな」
全く………耳がいいのも困りものだ。海斗の呟きの最初は聞かなかったことにしよう。
「ほら、あ~ん」
「えっ!? 同じ味なんじゃ!?」
「柄でもないことやっているのよ。そんなの雰囲気でいいでしょ? ほら早く」
「あ、あ~ん」
彼の口元に私のブルーハワイのかき氷を運ぶ。全く……こんなこと聞いたらやらない方が逆に後味悪くなってしまう。それに、持ってきてはいないが毒物訓練しなくてよかった。
「うん。美味い。ほらお返しだ。あ~ん」
「あ~ん」
「割と平然とやるな」
「こういうのは照れたら負けなのよ」
味は同じでも彼から渡されたかき氷は冷たくても妙に甘く暖かく感じた。
「なぁ、あいつらが来る前にこれで一勝負しないか?」
そうだ。本来は海斗と二人で祭りを回るのではなくてなぎさと信也が一緒に回るのだが彼らは急にピロシキを食べたくなったとかで屋台にないためにコンビニを回っているとのこと。それで私たちは待っているのだが勝負は射的ねぇ……。
「いいけど勝負なら負けないわよ?」
「あぁ、望むところだ!」
銃の扱いには慣れているがそれは拳銃、それもH&K P7M13に限られる。有利も不利もない。だがそれはそれとして……
「はい、一回500円ね。5発まで、景品は完全落下のみ獲得だから。頑張ってね!」
コルク弾を詰めてからのフォアエンド動作はやめてほしい。散弾銃形式であるこの銃を私の手を目掛けて先に撃ってもう一度詰めなおす。
「あ~お客さんマジだねぇ……」
「勝負だからな」
「悪いわね」
「たはは……」
店員をお構いなしに私は標的を定める。今回のルールとして獲得した景品の体積が大きい者が勝者となる。そして目指すは家庭用ゲーム機だが現実的に見てもこれは目指したところで固定されていたりかなりの重量で動かないように工夫されているかだ。であればこまごまとしたものを狙うか? それとも外道だが棚の重心を狙って全てを狙うか? 店員を倒れさせて店員も判定に入れるか? うん。堅実に小さい物を取ろう。
「お菓子ゲットよ」
「やるな!」
私は二~三十円程度のお菓子を手に入れた。正直、こういうのはリターンを考えないのがいい。同じかは分からないがパチンコとかもその行為自体を楽しむものだろう。海斗はどうやら大物狙いのようだ。
「はい二つ目」
「や……やるな!」
「私としては着実に手に入れられるものを狙うのがオススメよ」
「いや、夢は簡単に捨てるもんじゃあない」
「そうかしら」
私は三発目を銃に込める。そういえば長篠の戦いの信長軍はこの一発一発弾丸を詰める作業をやらせていたらしいがなんで代わり番こに撃っていたのだろうか? 手渡ししてバケツリレー方式にやった方が効率がよさそうなのに……。
「実際そうだったらしいぞ。信長の三段撃ちは移動して代わる代わる撃つのは現実的じゃあないらしいからな」
「声に出てた?」
「あぁ。面白いこと考えるんだな」
「……」
恥ずかしい……今までの思考も声に出していた可能性も?
「ねぇ、私の思考ってよく声に出ている?」
「いや、さっきのくらいであとは出ている記憶ないな。普段から出ていたら絶対に指摘しているし」
「ならよかった」
そんな安堵をした瞬間に海斗は恰好付けなのかはおいておいて片手で狙ったそれは見事に命中・落下し景品を獲得していた。
「えっと……それ手に入ったの?」
「みたいだな」
彼の残り弾数は二発。私は三発。であれば私も似たようなものを狙えば……。二つ目! ゲーム機を二台も手に入れていたの!?
「貴方……射的得意なの?」
「言っていなかったか? 俺の得意分野だぞ? お前には負けると思っていたが」
「……」
煽ったわね。私を煽ったのは悪手かもしれないわよ高階海斗! 私は煽られると物凄く燃えるタイプなのだから。
「なんかその態勢で大丈夫か?」
「問題ないわ」
先程の海斗と同じ態勢をとる。右手で銃を持ち、左手はズボンではなくスカートのポケットに。標的は遠山の目付で凝視ではなく全体を捉え、わずかな風、弾速、威力を計算し最も適切な角度と位置を狙う。標的はボードゲーム。アメリカの不動産ゲームということ以外よく知らない。
「ここ」
放たれた弾丸は上部スレスレの位置に当たり落下する。続けざまに私は次なる標的を見据える。ショットガンの模型。これは狙いやすいが台座もセットとのこと。だが、私からすれば造作もない。
「なっ!?」
「悪いな! 勝負は負けられないのでね!」
海斗が先に狙っていたようで私の弾丸が当たる前に落とされてしまった。これを上回るものは……無い?
「私の負けのようね」
「いくら努力の天才でも技術の天才には敵わないかっただろ?」
「自分で天才を自称するのね」
「事実だからな」
彼は私のことを努力の天才と称したが私は天才ではない。ただ場数が多いだけの凡人だ。どこまで行っても凡人。だからこそ私はこの回帰を未だ止められないし抜け出せていない。きっと私が天才ならばどこをどうすれば抜け出せるのか逆算して何が必要なのかを導き出して適切な訓練をしているだろう。そんな器用なこと私はできない。
「アイツは本物の天才だがな」
「アイツ?」
「おっ、来たぞ!」
「お~い待たせたナン!」
「ピロシキ買っていたんじゃあなくてナン買ってきたの?」
ナン単体を渡してきたのだがこれにはどういう意図があるのだろうか? 普通、ナン単体で食べないしカレーに付けて食べるだろうし、そもそもインドでカレーに付けるのはチャパティだ。
「えっとこれどういう意図?」
「ん? 普通にナン美味いだろ?」
「そうね……」
なるほどわからない。
「ゆのちゃんも要る?」
「ナンは……既にもう沢山買ったのね」
なぎさの手元には綿飴やりんご飴、今川焼、ラムネ、かき氷など多数の祭りの甘味があった。
「そういえばポッポ焼きは無いのね」
「ポッポ焼き?」
「何それ?」
「え?」
まさかポッポ焼きを知らないだと? 祭りと言えばポッポ焼きだと思っていたが違うのか?
「ポッポ焼きって新潟の縁日で出る黒糖蒸しパンのことらしいぞ。お前、新潟に住んでいたのか?」
「え、えぇ。千葉に来る前は新潟に居たの。イギリスから帰国してからの一年だけだけどね」
「そうなんだ。雪多いんじゃあないの?」
「多いわよ。ただ、私が過ごした一年は比較的雪が少ない年だったらしいのだけどね」
新潟にしかないのか……祭りと言えばこれだと思っていたからかなり驚いた。祭りでこれしか買わない人だっているくらいだ。
「黒糖はないけどはい、綿飴。おいしいよ?」
「ありがとう。うん。美味しい」
雲のような見た目とふわふわした触感、そして少しベトつくがとても甘くて美味しい。そういえば、あの人に連れられた時もこんな風に……
「ほら、ほっぽ焼きだけじゃあなくて綿飴もあるわよ~? だからそれ私にも欲しいな~?」
彼女は綿飴を少しちぎって私の手に持っているポッポ焼きを要求してくる。
「やだ! ポッポ焼きの方が美味しいもん!」
私は綿飴をちゃっかり食べつつ彼女に対価を渡さずにつかんだそれを自分の口に突っ込む。その時の私は彼女に向ってそんな口を利けるような関係だった。私は紙袋に入ったポッポ焼きを一つずつ取り出して口に頬張りながら屋台を見回っていた。仕事で多忙な彼女と一緒にこうやって祭り、散歩して回るのはとても珍しくて浮かれていた。
「うぇぶ!?」
「ゆの! ほらだめじゃあないの! すみません」
私は前方不注意で前を歩く人にぶつかってしまった。その衝撃でふわふわだったポッポ焼きがべちゃっと潰れてしまた。
「こちらこそごめんなさい。…………あれ!? 貴女は!?」
「すみません。プライベートですので」
彼女はそうやってはぐらかす。私がぶつかってしまった彼は優しく私に手を差し伸べて
「大丈夫かい?」
そう尋ねてくれた。
「大丈夫よ! 私は強いんだから!」
「そっか。おじさんも君みたいに強くなりたいな」
そう言って立ち去ってしまった。私はそんな私の発言に対して一瞬、表情が暗くなった彼女の顔を見逃さなかった。その時の私は彼女が暗くなった理由が分からなかったが今なら分かる。あれはきっと………
「ゆのちゃん?」
「え?」
「え? じゃあないよ。みんな花火見に行っているよ? 私たちも行こうよ!」
「そうね」
なぎさの手を取って私たちは丘の展望台へと向かう。あそこは祭りの会場から少し離れていて人が少ないので結構穴場だ。
「そういえばゆのちゃんって浴衣着ないの?」
「私が浴衣を着るのは一年後かしらね」
「浴衣無いの?」
「あるわよ?」
「じゃあ、着ようよ!」
「来年は着るから………ね?」
「わかった」
残念ながら私はこの一年は気を緩めることはできない。この服装にすることで臨戦態勢にすぐに切り替えられるが浴衣では武器や小道具を咄嗟に取り出すことができなくなってしまう。
「背中の空間は四次元なの?」
「いいえ? 普通に三次元だけど?」
私は座るための折りたたみ椅子を取り出すとなぎさがそんなことを言い出してきた。普通に三次元空間だし、私の能力は空間収納に向いているものではない。時空を歪ませてどうにか空間を広げるということは聞いたことがあるが私の能力はそんなことはできない。
「ちょっといいか?」
「いいけど何かしら?」
海斗が話しかけてきた。先程の二人でいたときに話せばよかったのではと思ったが能力関係の話だろうか?
「私の能力についてかしら?」
「あぁ。大前提を見直そうって思ってな」
大前提として私は認識を間違っているのかもしれないということを以前言われた。
「お前《私》の能力は『逆転』だよな? 《『時間干渉』よね?》」
「あれ?」
「お前一体なんて言った?」
「いやだから『時間干渉』って」
「は? お前の能力は『逆転』だろ?」
「私の能力違うの!?」
「…………合点が行った。道理で能力を基本的に時間関連しか使わない訳だ」
『逆転』……それはLEVEL9の能力の中で名称はあるものの使い方がさっぱりな能力のうちの一つ。それの使い手が私だって? じゃあ、私の時間関係の能力は一体どういう原理で?
「万物を観測し、物理現象・概念それら全ての基準点を設定し、ひっくり返す。それがお前の能力『逆転』だ」
「ちょっと待って!? 私の能力が逆転だとしたら私の時間停止・遡行はどういう原理で動いているの!?」
彼は少し考えるそぶりをして私に向き直る。
「そもそもとしてお前のソレは本物じゃあないだろ? 時間停止を今ここで俺と一緒にやってみてくれ」
「いいけど……?」
私は彼の手を左手で握って右手で指を鳴らして時を止める。世界はモノクロになって色鮮やかな花火も白と黒の味気ないものに変わってしまう。しかし、私が止めている間はそれが変わりなく続いている。
「ありがとう。やはりお前のソレは偽物だ」
「なんで!? 私の能力でちゃんと時が止まっていたの見たでしょ!?」
「見える。それが問題だ」
「は?」
「本物の時間停止。それ即ち光の粒子さえ止める。であれば必然的に暗闇になってしまうはずだ。お前の時間停止はモノクロになっているがしっかりと世界を認識している。であればお前の能力は正確な時間停止ではない。原理はおそらくだが”時間は流れ続ける”という概念を止まるっていう認識で止めているんじゃあないか?」
「そんな無茶苦茶な方法で!?」
「現にお前の能力は『逆転』だし、お前のその時間遡行だって世界線を移動が伴うものだろ? それだって”時間は一方向にしか流れない”っての認識から逆方向にも流れるとかにしているだろうしな」
「…………」
私の能力が『逆転』だということはひとまず理解した。だが、彼はなんでそんなことを知っている? 私の能力が『逆転』であることを。
「ねぇ、海斗? なんで私の能力を知っているの?」
「そりゃあお前の……能力を解析してもらったからに決まっているじゃあないか」
「『解析』?」
「あぁ。俺たちの担任の蒼木先生の能力だ。万物を数値化して解析することができる能力だ。俺と同様に文系の能力に近いから言語化することが難しかったみたいたが出力がLEVEL9だったからそこでピッタリの能力を見つけたとのことだ」
「勝手にやっていたのね。まぁいいけど。それならば、私の翼は何なの? 文化祭の時に発現したあの翼」
先生も能力者ということ、そして勝手に能力を使われていたことに驚いたがそれよりも私のあの翼の方が私は気になった。
「それについてだが、お前の能力は二つあるのか一つだけなのかは分からないが確実に分かるのは”運命を変えた形跡があった”とのことだ」
「運命を変える……」
「そうだ。おそらく『逆転』の延長なのか他の能力なのかはおいておいてその翼は”運命を変える力”がありそうだ」
私たちの能力は機械でパッと分かるようなものではないためにこう分かるようなことはかなり珍しい。だがらここまで分かっているだけ本当にありがたい。
「それならば目標ができたわね。私は使い方の分からない『逆転』の使用を慣れること。そして運命を変えるほどの強力な力の引き出し方を見つける。この二つね」
「俺の方でもその辺を探ってみる。あと一つ、俺からのことだが終わりについて考えてみてくれ。”その時間遡行は本当に正しいのか”をな」
正しいかと言われれば間違ってはいないが正しいことではないだろう。私の行動は実質的に選択を先延ばしにする言わば逃げに近い行動だ。だから結果的にそうなっているとは言え、決して正しいものではないだろう。
「言っておくがお前の行動が成長に繋がるか云々じゃあないぞ? ………お前が物語の作者だとしよう」
「突然、何かしら?」
「いいから聞いてくれ。ただの例え話だ。お前は物語を書き上げて世に広める。すると当然読者が出てくるだろ?」
「そうね」
「だがある時、誤字脱字や物語の展開に納得が行かなくて書き直すことにした。そして出版しなおすと当然、お前の初期の読者とは全く違う物語の読者が生まれるわけだ」
「まぁ、そうね」
「これが俺のいいたいことだ」
「…………」
例え要らなかった気がするけど何となく彼の言いたいことが分かった。彼はきっと
「俺が言いたいのは”残された人々のことも考えろ”だ。お前が時間遡行したところで起こった事実は変わらない」
そうだ。私は考えなかった。考えたくもなかったあの地獄を生き続け、死ぬ運命から避けられない者たちを。町が地獄の業火のように焼かれ、人々が混乱・恐怖を抱えながら殺し合い、強盗、誘拐、放火ありとあらゆる犯罪に走る光景を見てきた。信じたくないがこのままでは確実に起こる未来。その未来を経験した私たちはその残した人々は今も続いているのかもしれない。あの地獄が続いている。そう考えたら……。
「私は…………どうすれ……ばいいの?」
私の能力では起きた事実の改変はできない。私が見捨てたと言える167の世界線はどうすれば救える?
「そのための力だろ?」
「え?」
「お前の能力は万物をひっくり返す能力、そしてその一部か別な能力として運命を変える力があるんだ。お前はそれを以て変えてしまえばいい」
私にそんな力があるなんて考えもしなかった。だから実感もわかないしそんな大層なことができるとも未だ思えない。しかし、そんなことを考える暇なく彼は続けて言葉を紡ぐ。
「俺は、俺としてはこの世界線だけでいいとは思う」
「………!?」
私は耳を疑った。彼は正義の味方を憧れる存在。だと言うのにこの場合は見捨てる選択肢を取るというのか?
「さっきまでは”ノーリスク”でことを成した場合だ。大きな能力にはそれ相応の代償が付きまとう。よく言うだろ? 「希望と絶望は差し引きゼロ」ってな?」
「つまり、代償は………」
「あぁ、想像できないほどのものになるだろうな。命、存在だけで済むか? 何千何億もの命を救い、世界線を変える。これを”ノーリスク”で行えるのはもはや存在しない、神としか言いようがないだろう。だから、お前には手の届く範囲。救える限度を見極めてほしい。俺としても救えるなら全員救いたい。だが、お前の存在は何よりも大切だ。個人としても能力も失うだけで損失が大き過ぎる。だから、いずれ俺がこのことを話さなくても選択する機会があるだろう。救うか救わないかのラインではなく救えるか救えないかの明確な線引きをしろ。それが本当に伝えたかったことだ」
結論までは長かったが、彼は私のことを本気で心配しているのだ。私はありとあらゆることを覆せる力がある。だが、その代償が大きいとなるとその使用を選択するかと考えたら正直、迷ってしまう。きっと、強い人・優しい人であれば即答できるのだろう。でも、私はそこまでではない。いつ死んでもいいと思っていた自分でもそれ以上の代償が何かと問われれば怖気づいてしまう。その選択肢を事前に考える時間を彼はくれた。
「ありがとう。すぐにどうこう決められる程私は強くないけど、あなたの不安を払拭できる選択を私はしてみせるわ」
「そうか。なら安心だな」
彼はホッと胸を撫でおろしていた。だが、言葉ではそう言ったものの私自身は不安でいっぱいだ。きっと全てを投げ打てば最善の結果を得られる。けど、その代償が自分だけじゃあなくて彼やなぎさ、私の大切な人たちを巻き込んでしまったらと考えると胸が痛くなる。
「話は終わった?」
「冷たっ!?」
花火と耳栓のせいでよくわからなかったがすぐそばには新たにラムネを買ってきていたなぎさが居た。
「よくわからない話だったけど、私はゆのちゃんの選択を尊重するよ。それが例え、修羅の道だったとしても。私は応援することしかできないけど、私の親友・ゆのちゃんが選んだ選択肢なんだから。きっとそれが最善だよ」
「……ありがとう。なぎさ」
私はなぎさからラムネを受け取って打ち上がり続ける花火を見た。
しばらくして花火が全て打ち上がり終わったので私たちは帰ることにした。そこで私は―――――
A.みんなと帰る
B.この場に残る
C.屋台をもう一度見て回る
どうも、疲労困憊スバルちゃんです。
はい、判明しましたね。彼女の能力。とっくに知っていた方が居るでしょうが予定よりも判明が少し早くなってしまいました。彼女の身体能力も文化祭の時のみんながゾンビ化した時の解除も全部この能力で説明がつきます。スピンオフ? 番外編? で分かっていた方が居るかもしれませんね。あっち彼女は認知していますので。(あっちの更新はもう少し待ってくださいね?)