Birthday - 16/07/2047 - / 誕生日という記念日 - 2047/07/16 -
16/07/2047
夏休みが近づくある日、私はクラスメイト達の変化を気にしていた。
「何かしら? あのストラップ」
青い青いソレはクラスメイト達の筆入れやリュックサック、財布に至るまで数々の場所に取り付けれられていた。
「あれは『アヴェンジストラップ』って言って最近流行っているらしいよ。占いの結果でアレを持っていると幸せになるって」
「アヴェンジねぇ…………」
占いなんて不確かなモノも最近流行っているのか。私はなぎさの返答からそんなことを思う。そうして彼女の方を向き直ると占いの本を彼女は持っていた。
「貴女もやるの?」
「そりゃあやるよ。私だって若者だし流行物は乗っかるもん」
若者ねぇ。私は若者って言えるのか甚だ疑問に思うが肉体的に見れば確実に若者だろう。
「やってみない? 占い?」
「そうねぇ……」
正直、やっても問題はない。かと言ってやるメリットはない。それならばやるか?
「そうね。やってみようかしら」
「そう来なくちゃ!」
「え~っとじゃあ、まずゆのちゃんの誕生月の2倍の数────」
「2倍の数に5を足して50倍して日付を足す。そして250を引くかしら?」
「なんで分かったの!?」
「それは────」
「そりゃあ、有名な計算だからな。それで? 答えは?」
海斗が会話に割り込んできた。私の回答は。
「716よ。つまり7月16日が誕生日ってことよ…………あれ? 今日ね」
「え!? 今日だったの!?」
「誕生日なんて気にしてなかったから………」
そりゃそうだ。時間遡行者なんて何度も同じ時間を経験しているし、私の場合はほぼ一年単位だ。毎回毎回同じ年齢の誕生日を祝ったところで何の意味もない。
「ダメだよ! 誕生日ってのは気にしないと! それは生きてきた足跡のチェックポイントなんだから! 今まで生きてきたこと。これから成すべきことを今一度確認しないと!」
「そうだな。確かにそれは大切だ。だがまぁ、祝うって行為も大切だ。何せ、七五三のように無事に成長したことを神様に感謝し、今後のさらなる成長を祈るってことも大切じゃあないのか?」
「そうね。だけど、私は無神論者よ?」
宗教については一種の物語として私は考えている。宗教に完全なんてない。それこそ、宗教対立なんてどの本の解釈が正しいかの争いぐらいに考えている。
「それ、海外で発言してみろ? 殺されるぞ…………いや、既にイギリスに居たんだったな……」
「気を付けるわ。そういえば貴方や信也、なぎさの誕生日はいつなのかしら?」
「私は11月11日! 私の好物のチーズの日なんだって!」
チーズの日よりは国民的棒状お菓子の日や第一次世界大戦終結の日の方が有名ではないだろうか?
「オレは10月31日…………ハロウィンだぜ!」
いつの間にか信也も会話に割り込んできた。私の周囲の人間はいつの間にか会話に割り込むことが多いな。
「俺は7月15日だな。つまり昨日だ」
「え! 昨日だったの!? 早く言ってくれればよかったのに!」
「17年前…………ってことは海の日だったから海斗って名前なのね」
「すごいな。そこまで導きだしたのか」
割と覚えていると造作の無いことだ。モジュロ演算のツェラーの公式を用いれば一発で出る。マジックとかいろいろなところで出ているような方法だ。某夏の戦争映画の冒頭でもやっていた。
「数Aの応用だから誰でも出来るわよ」
「お前、文系の癖して理系なんじゃねぇの?」
信也がそう言ってくる。正直そうなんじゃあないのかと私自身思っている。
「それにしても誕生日が一日違いってもしかしてゆのと海斗。お前たちって双子なんじゃあないのか?」
訳の分からないことを信也が言い始めた。
「違うわよ。双子だったら髪色の違いをどう説明つけるの?」
私は黒。彼は青。どう考えても同じ遺伝子では考えられない髪の色だ。どちらも染めたり変色したりした訳ではない地毛だから確実に遺伝子が違うと言える。
「まぁな…………」
「双子って言ったらゆのちゃんと信也君の方がそれっぽいよね。兄妹って言うのが正しいのかな?」
確かに見た目だけなら黒髪黒目で同じだ。まぁ、私の目は能力の影響で赤から黒になっただけだが………見た目だけなら本当に兄妹か。………いや待て。私に兄はいるが弟は聞いていない。私と彼の誕生日を考えると私が姉で彼が弟になる。
「オレにお姉ちゃん………だと………?」
「違うから」
見た目が似ているからと言って信也が弟なんて考えたくもない。弟に変態発言される姉なんて最悪な気分でしかない。
「とりあえず、誕生日パーティーをしないとな。何処でする?」
「オレの家は狭いからな」
「私はアパートに住んでいるからちょっと狭いわよ」
「私の家はちょっと……」
「ならば俺の家か」
私たちは放課後に海斗の家に集まっていた。さて、私が彼へのプレゼントとして贈るものはかなり困難を極めた。株のような経済的贈呈でもいいが口座が違うからNG。その優待にするかと考えたが正直、金持ちアピールと思われかねない。であれば、ついでに渡そうとしていた協力者としての支援のカードも今回じゃないほうがいい。ならば知識として本か? 物語、自己啓発、参考書……どれも彼に合いそうにない。そもそも彼が普段読んでいるあの本のジャンルだってわからない。筆記用具のような普段から使えるようなモノがいいだろうか? 万年筆やボールペン・シャーペンなど。────っとここまで考えて私は彼に左手デバイスがいいのではと考えた。どうやら彼はよくパソコンを使用するらしいし、ショートカットキーがあると便利だろう。そう考えたのだ。
「いらっしゃい。どうぞ上がってくれ」
「お邪魔します。あ、これ遅くなったけど誕生日プレゼント」
私は紙袋に入った彼へのプレゼントを渡す。彼は一瞬驚いたような様子を見せたがすぐにいつもの澄ましたような顔に戻った。
「ありがとうな」
「いいわよ。これくらい。いつもの礼ってことで」
私は家の奥に通される。リビングにはもう信也だけならずなぎさも来ていた。
「早いのね」
「まぁ、お祝いだからな。『主役は遅れてやってくる』を成功させるためには少し遅れた時間をお前に伝える他ないだろ?」
「色々と準備したかったからね~」
わざわざそんな面倒くさいことをやったのか。ありがたいとしか言いようがない。
「さぁ、席についてくれ。料理はできているからな」
「とりあえず手を洗わせてくれないかしら?」
海斗が用意した料理は手巻き寿司だった。日本食が得意な彼が用意したそれは箸をうまく使えない私にとっては本当にありがたい料理だった。
「すごい豪華ね」
「まぁ、お祝いだからな。両親も許可してくれたから問題はない。遠慮なく食べてくれ」
マグロにサーモン、そして何故か場違いではないかと思われるキャビアまであった。
「………これって手巻き寿司に合うのか?」
「世界三大珍味が簡単に出されてるよ!」
「お祝いだからな」
お祝いって言葉を出せば何でも納得するかと思ったら大間違いだが祝ってくれる気があるだけでありがたい。
「じゃあ、盃を持って~」
グラスでいいだろグラスで。
「海斗のは遅れたがゆの、二人の誕生日を祝って……乾杯!」
「乾杯!」
グラスを目の高さまで上げて乾杯をする。
「Cheers!」
「何その掛け声!?」
「え? 乾杯ってこうするんじゃあないの!?」
「言わないよ? あとグラスをぶつけるの」
「そうなのね……?」
「ぶつけるのはフォーマルな場ではやめた方がいいがここは割とカジュアルな場だから気にしない気にしない」
どうやら日本とイギリスでは乾杯の方法も違うらしい。私はグラスに入ったジュースを口に入れる。
「醤油はここだ。ワサビも混ぜているがワサビ嫌いなヤツはこっちを使ってくれ」
「ワサビは大丈夫よ」
「私も大丈夫」
「オレもだな」
「じゃあ、ワサビ入りにしておくぞ?」
私はネタを海苔のご飯の上に載せていく。割とバランスのいい具材を選べただろう。ワサビ醤油を小皿に入れて寿司にそれを付ける。
「うん。おいしい」
「かなり美味いな」
「チーズチーズ!」
「おい! 柚木なぎさ! チーズばっかり取るな!」
微笑ましいな。私は彼らを見つめながら黙々と寿司を口元に運ぶ。美味しい。美味しいが何か違和感が…………
俺が念のために消えかかったワサビ醤油を補充するために席を立った時だった。
「おいどうした!?」
「何があった!?」
ゆのが突然、倒れた。原因は? 状況は? 体調不良? 毒? 能力? 俺たちの中で考えられるありとあらゆる可能性を考える。彼女の様子を見ると寝ているように見える。顔は少し火照って口元は……
「酒臭い……?」
「は?」
「お酒?」
酒なんて出していないし。俺たちは精神上では年食っているが肉体的には未成年だ。もし俺が酒を出していたらゆのの飲酒は俺が犯罪者になる。警察官の親を持つ俺にとっては絶対にあり得てはならないことだ。
「なぁ、このワサビ醤油って何でで出来ているんだ?」
「そりゃあ、1:1で醤油とみりん……は? なんだそりゃ!? まさか! みりんで酔っ払ったって言うのか!?」
「…………ゆのちゃんって下戸ってこと?」
「もしそれが正しければそういうことになるな」
俺は酔いつぶれているかもしれないゆのを見つめる。幸いソファーだったから寝れるスペースがある。毛布を彼女の身体にかける。
「何はともあれ………誕生日おめでとう。ゆの」
頭が少し痛い。そして気持ち悪い感覚があるがなんとか意識ははっきりしてきた。起きるとそこには私の分だけ料理が残されていた。
「起きたか。大丈夫か?」
「………えぇ。何度も貴方には面倒をかけるわね」
「問題ないとも。だって、俺は───」
「正義の味方なんでしょ?」
「………まぁな」
私は彼の差し出された手を取って起き上がる。
「起きた? はい! これ誕生日プレゼント!」
「え!? あ、ありがとう」
「オレのもどうぞ」
「はい。俺からもだ」
「三人ともありがとう。開けていいかしら?」
「もちろんだ(よ)」
私はまず海斗のから開けてみる。それは───
「キーフォルダー?」
それは黒猫の刺繡をされたものだった。この特徴……青い瞳に黒い毛。どう見ても……。
「私の話覚えていたの?」
「まぁな」
「ありがとうね」
「おう」
私はキーホルダーを家の鍵に取り付ける。そして信也のプレゼントを開く。
「これは……万年筆?」
「お前の好きなモンが何か正直分かんないし……ってか趣味あるの?」
「そりゃそう……って! 趣味はあるわよ! えっと……機械いじり?」
「ならばスパナとかの方がよかったか?」
「いいえ。大丈夫よ」
精密ドライバーの方が私の作業にあっているが……正直趣味ではない気もする。銃器の整備を趣味と言えるのか? 大切だから毎日やるがあまり趣味と言えるものではない気がする。私は最後のなぎさのものを開けてみる。
「これは……本? しかも白紙?」
「うん。私は作家だからね。人生はまだ未確定が多いもの。書き記すのはゆのちゃん次第だよ」
「ロマンチックだな」
「どう使おうかしら……とりあえずありがとう」
「うん。扱いは任せるよ」
「ハッピバースデートゥーミーハッピバースデートゥーミー! ハッピバースデーディア私~ハッピバースデートゥーミー~おめでとう!」
「悲しいです」
「あ、居たんだ」
彼女は執務室で蝋燭を立てたショートケーキの火を吹き消しながらいつの間にか居た部下に目をやる・
「誕生日だったんですね。おめでとうございます」
「なんか思っていなそう。とりあえずありがとう」
「ボスってクリぼっちや千葉のくせに東京名乗ってるあのテーマパークも一人で行けそうですね。さっきの見ていると」
「できるけど失礼ね」
うぇっ…………どうも実家に帰省したら犬アレルギーで死にかけになってます病弱吸血鬼のスバルちゃんです。目がしょぼしょぼ鼻ずびずびという状況です。なんなんですか? 本当に。4か月振りに帰省したせいって状況はありますけど私は長期間、実家に住むことは無理ですね。
更新は遅れる可能性が高そうですね。これも昨日のうちに出したかったのに…………
宗教についての批判はゆの本人に言ってください。私は吸血鬼ですのでそもそも聖なるものは受け付けません。