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外伝『ビターシュガー・レイズデッド』2/2

 俺は教室に戻ってゆのに例の紙を手渡す。


「ほいよ。これが書いていた内容だってよ。俺には見せちゃだめってことらしいがね」

「…………嫌な感じね」

「まぁな。アイツはなんか俺としては……」

「そうじゃあなくて、なんか嫌な予感がするの。それこそ、彼女に対してだけど」


 いつになく真面目な雰囲気だ。いつも真面目な彼女だがこの目付きはいつも以上に真剣だ。


「そういうなら一度、山城深雪のことを調べてみる」

「お願いするわ」





2047/06/13


 思えば家族が仲良かったのはいつまでだっただろうか? かつての仲良かった光景を脳裏に浮かばせる。美味しいご飯を作る笑顔の母親、仕事で疲れながらも私たちの面倒をしっかり見てくれる父親、そしていつも仲良かった私の兄。今となってはそのような関係は見る影もない。だとしても…………


「それで? 私をこんなところに呼び出して決闘っていうけどどういう決闘なのかしら? 純粋な格闘? 私は集めていないけどトレンディングカードとかの遊戯? どちらでも構わないわよ」


 私が呼び出した彼女、赤井ゆのはそんな余裕綽々な態度をとっていた。私の行動などまるでハナから分かっていると言わんばかりに。だからこそ、私も同じように振る舞う。この場は決闘場。先に手札を見せるような真似をすれば挫かれるのは必然。だからこそそうするのだ。


「純粋な格闘で構いませんよ。私も別にカードを集めている訳ではないので」

「そう。なら、先に仕掛けていいわよ。先行は貴女に譲るわ」

「そうですか。ではありがたく…………」


 私は思い切り地面を蹴って彼女に急接近する。彼女は銃撃されていた教室を一人で残って生還したという話を聞いたことがある。であれば接近戦・遠距離戦において達人レベルの対処が可能ということだ。安易に近づくことは避けなければならない。でも、私の場合はある程度近づく必要がある。5m。それが私の能力の有効射程範囲だ。彼女ならばきっと一瞬で詰めれそうな距離だが問題ない。だって私の能力は………


「鎖!? この能力!」

「えぇ。私の能力です! このまま決めさせて貰いますよ!」


 彼女にまとわりついた鎖を一気に強く引く。


「くっ……苦し………」


 彼女は苦しそうに声を上げる。だってそれもそのはず、身体全体が私の鎖によって締め上げられて圧迫されているから。私が自らの手で引っ張っているわけではないがかなりの力で引っ張っているはずだ。


「チェックメイトです」


 そう言って彼女の首筋にスタンガンを押し当てそして電流を流し込んだ。十数秒の時間が経ったの後に彼女は倒れ込んだ。私は彼女に勝ったのだ。





 正直なことを言うと彼女に勝ったとはいえ、清々しい気持ちなど無かった。彼女の行動を初手で封じ込め、一方的な勝利を収めた。釈然としない感覚を覚えつつもそんなことを気にする余裕は無い。私は気絶してままの彼女をとある場所に運び込む。時刻は15:26。約束の時間まで半時間ほどある。少し休憩を取ろうか………………






「深雪………深雪……………! 深雪!」

「え?」


 気がつくと私は家のリビングのソファに座っていた。


「どうした? 具合でも悪いのか?」

「ううん。大丈夫だよ」


 兄が心配してくれる。そうだ。そうだよ。今までのはきっと夢なんだ。私はその悪夢を思い出して泣いてしまう。


「おい。本当に大丈夫か?」

「大丈夫だよ。少し怖い夢を見ちゃって………………」

「怖い夢?」

「私が超能力を発現して黒い鎖を自在に出せるようになるけどお兄ちゃんもママ、パパも私のことを次第に忘れていくの。でもテロリストにみんなが人質に取られてある人物を連れてこないとみんなを殺すって言われて………………私、私………みんなが私のことを忘れていても見捨てたくなくて……………それで………………」

「うん。うん。怖かったな………でも、安心しろ! お兄ちゃんが大事な大事な妹の深雪を忘れるワケないじゃあないか!」


 そうだよね。お兄ちゃんはこんなにも優しくて妹思いなんだ。私を忘れるワケないじゃあないか。そう。夢なんだ。悪夢。それでいい。…………でも何故か解せない。形容しがたい違和感を感じてしまう。


「深雪?」


 私はソファから立ち上がって隣接しているキッチンに向かう。私の感覚が私の本能がそう訴えている。引き出しから包丁を手に取る。


「深雪!?」

「ねぇ…………貴方、お兄ちゃんじゃあないよね? 一体誰なの?」


 私は尖先をお兄ちゃんの姿をした人物に向ける。あの胸の痛みは紛れもなく現実だ。悪夢などではない。であるのならば目の前の人物は確実におかしい。


「な………何を言っているんだ? 俺は正真正銘、お前の。山城深雪の兄だろう?」

「いいや違うよ。だって私のお兄ちゃんは私を『深雪』じゃあなくて『みっちゃん』って呼ぶんだから」


 目の前の人物が瞳孔を大きく開く。


「アンタらそういう関係かよ!?」


 その人物は化けの皮を自ら剥がして私から距離を取る。


「嘘だよ」


 私は包丁をその人物に向けて投擲する。包丁は腹部に突き刺さったものの霧のように存在が無いかのようにすり抜けた。


「なっ!?」

「コレはアンタの夢。私がアンタに、アンタが私に危害を加えても何にも意味がない。じゃあね。山城深雪。アンタのことは嫌いじゃあなかったよ」

「私は貴方のこと全然知らないけど少なくともこんな夢を見させるやな奴ね」

「ハハハッ」


 そう笑いながらソイツは去っていった。


「ハッ!?」


 ガバッと起き上がる。私は眠っていたのか?


「随分とお疲れのようね。ちゃんと寝ているのかしら?」

「起きてたんですか。余計なお世話ですよ」

「後輩は大切にすべきでしょう?」


 そんなことを彼女、赤井ゆのが言う。私は彼女のそんな態度に少し腹が立った。


「何でそんなに落ち着いているんですか? 死ぬかもしれないんですよ?」

「あなたは怖くないからね」

「そう言いつつ、銃弾を真っ二つに斬れるあなたは怖いものなんて無いでしょうに………」

「あるよ。後、二十秒かな?」

「なんですか? そのカウントダウン?」


 十、九、八、七、六、五、四、三、ニ、一………


「ゼロ」


 彼女がそう言うとシャッターが音を立てて倒れた。


「来たわよ。私の怖いものの一つが⋯⋯」

「柄でもないが………助けに来たぜ、お姫様?」

「遅いわよ」


 そこに立っていたのは紛れもなく、彼女の協力者の高階海斗だった。


「ちょっとしたタネ明かしでもしようか」


 余裕そうな顔をしながら日本刀の尖先を私に向けてくる。タネ明かしなど言うがこの場にそういう開示するようなモノが存在するとは思えない。


「その鎖の代償は絆だ!」

「………ッ!?」


 彼は私の防御に使った鎖に向かって手を伸ばす。それに対して私はその手を躱した。


「そうだよな。鎖は見たところいくらでも出せる。だが消されることを恐れる。それは何故か、それは失いたくない大切なものが代償だからだ。そしてお前は命を必要ならばチップにしてかける性格に見える。よって代償は命ではない。それ以外で消されたら困るもの。お前が命をかけるに値するモノ。それは金か? いや違う。金なんぞ問題ではない。鎖と表現できる大切なモノ。それは絆! だから、お前は消されたときに苦虫を噛み潰した顔をした!」

「だから、なんだと言うんですか!」


 瞬間、彼の口元が緩む。


「まさか合ってるとは………ブラフだったんだが………」

「ッ!?」

 

 やられた! 私の攻撃と防御手段はこの鎖しかない。相性の悪い彼の能力を相手にすることは厳しい。であればこの場を何とか有利に………


「悪いけど、その手段は叶わない」

「なん………で………………?」


 キチンと私の鎖で拘束していたはずの彼女がいつの間にか拘束から抜け出していた。


「私は気絶していてもどんな拘束でも5分以内で拘束から抜け出せるようになっているの。貴女が拘束しているって確認したときには既に抜け出していたの。何とかバレないようにしていたんだけど私の拘束されているフリは上手かったでしょう?」

「何もかも、貴方たちの掌の上だったってことね……」


 私はそう項垂れる。その瞬間、私の腹部に衝撃が走る。


「…………え?」


 火傷したかのように痛い。熱い。血が………そうか、私は撃たれたのか。


「早くこっちに!」


 赤井ゆのがそう私を遮蔽物のある場所に誘導する。


「なんで………? 私は貴女を殺そうと………利用して人質にしようとしたのに?」

「結果的にそうなってないんだからいいじゃないの。それより止血しないと!」


 彼女はガーゼのハンカチを取り出して私の傷口に当てて止血を試みる。でも、この傷は…………


「…………………ック」

「え?」

「『ブラックジャック』それがこの事件の黒幕…………なんでだろう。貴女ならば………………きっと、このドス黒く理不尽な組織を…………なんとかできる気がするの…………」

「いいから喋らないで!」


 彼女はお人好しにも程がある。彼も彼女も危害を加えようとした私のために涙を流して救おうとしてくれる。あぁ…………なんて心地いいのだろう…………。腹部の痛みさえも今はもう感じない。


「ダメ。ダメよ! 死なないで! お願いだから生きて!」

「ごめん…………なさい…………私は…………もう…………満たされた」

「ダメ! ──────」


 大粒の涙を流して彼女は私を必死に生き永らえさせようとしてくれる。私は家族も友人も失った。代わりにと作ったアイドルという形だけの関係ではできなかったこんな優しくて温かい人達との関係。私はそれで、それだけで十分だ。





 山城深雪の葬式が行われた。彼女の知人は誰も参列せず、俺達とクラスの委員ぐらいしか参列しなかった。そして、彼女の家族は何故か喜んでいるかのように見えた。


「なぁ、ゆの。なんか……………………解せないな」

「そうね。代償が絆の能力。出した機会は見たところそこまででもなかったけど、あの鎖はかなり強固にできていた。だからきっと彼女は────」

「そうだな。なぁ、お前はどうしたい?」

「どうって?」

「彼女の最期の言葉。「『ブラックジャック』を何とかする」だったか? それをお前はどうしたい?」

「愚問ね」


 ゆのは右手で涙を拭き取ってマントを払う。


「私は組織を潰す。何があってもよ」

「そうか。そうだよな」


 俺も覚悟を決める。そうだ、この組織はそういう存在だ。平然と人の命を脅かし奪う。そんな組織はあってはならない。対立する運命であれば尚更だ。


「私はもう………………間違えない」


 彼女は瞳には強い闘う者の覚悟が見えた。

どうも、作者もとい吸血鬼の昴です。

今回及び前回ですが本編に関わっているようであまり関わっていない話ですので外伝とさせていただきました。

さて、この回の山城深雪ですが勘のいい方・歴史に詳しい方なら分かるかもしれませんがどちらも不幸艦の名前なんですよね。明るく振る舞う彼女にそんな不幸な運命…………いいですよね?

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