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外伝『分からない』

6 июня 2047 года


 私は人の心というものが分からない。分からないなりに私は色々と努力をしてきたが彼女のことがわからない。


「ねぇ、なぎさ。何を書いているのかしら?」

「これ? 小説だよ。私、小説書くのが好きなんだ」

「この世界線だとそうなのね…………」

「何か言った?」

「ううん、なんでもないわ」


 私は人の心を少しでも理解するために物書きを始めた。最初は物語の作家のキャラに惹かれて真似てみただけであった。ただの真似事。だから色々なジャンルに手を出した。第一作品目『君と別れる1ヶ月』という恋愛小説、第二作品目『スポイラーの遺言状』というミステリー、第三作品目『赤壁の真実』歴史小説、第四作品目『蒼白の笑み』アクション、第五作品目『富士樹海の怪異』ホラー、第六作品目『これから変わる日本経済』と色々と書いてみたが人の心を理解することはできなかった。でも………


「この書き方………柚木さんってもしかして『雪村凪』!?」

「えへへ………バレちゃった?」

「なぎさ………出版してたの!?」


 ゆのちゃんがそう尋ねる。私だって分からない。ネットに上げてみたらいつの間にか大ヒットしていつの間にか出版社に書いてくれって言われていつの間にか有名になっていた。


「でも………私は人の心がわからないから………」

「何なに? 新しい物語のセリフ?」

「………そうかもね」


 本来の目的は人の心を理解する。これに尽きる。だが、私はそれっぽいことを演じる・綴るだけだ。そこに私の理解は存在しない。


「ねぇ、一つ聞きたいんだけど……」

「何かしら?」


 そう聞き返してゆのちゃんが私の隣の彼女の席に腰掛ける。彼女はいつもそうだ。誰彼構わず冷たいように接しそうな雰囲気を出しておいて面倒見がすごくいい。


「もし、私が誰もいない放課後の教室で首を吊って自殺したらゆのちゃんは悲しんでくれる?」


 そう質問してみた。少しセンチメンタルな気分だったから出た何気ない質問だった。だというのに……。


「ゆのちゃん!? ねぇ、ゆのちゃん大丈夫!?」


 彼女が顔面蒼白になって過呼吸をして今にも倒れそうになっていた。彼女にとって『自殺』ということもしくは『死』そのものがトラウマなのかもしれない。


「吸って…………吐いて………………」


 私は彼女にそう促す。彼女の弱さを見るのはこれで二度目だ。文化祭・そして今日、何かと彼女には重そうな過去があるのかもしれないが私が踏み込んでいい領域なのだろうか? 私はそう思う。第一、私が彼女を友達と思っているだけで彼女からしたら何でもない存在なのではないか? 私には友と呼べる人は居なかったから……………。





 彼女は暫くすると今にも吐きそうにしていた顔がすっかり元通りになって冷静さを保っていた。彼女にとって慣れたものなのかもしれない。


「ゆのちゃん……………ごめんね」

「えぇ、いいのよ。なぎさだって悪気があったわけではないのでしょう?」

「それはそうなんだけど………」

「ならこの件はなかったことにしましょう? お互いに何も見聞きしなかったことに………ね?」

「うん………」


 私はそう頷く。でも、私は納得がいかなかった。どんなトラウマがあったのか、何がトリガーとなったのかが気になって仕方がない。だが、聞くとマズイと本能が訴える。


「…………………」


 彼女が足早に私の傍から離れていく。私はポケットから手鏡を取り出す。古いひび割れた手鏡。ロシア製で何の装飾のないもの。でも、何故かこれで自分自身の姿を見ると落ち着くのだ。これは私の最初の所有品。記憶の無くなった私が持っていた最初のもの。ひび割れた鏡面は今の私が私であることを証明してくれる。空っぽの私を物質的に肯定してくれる唯一の物。私はそれをしまい込んで目の前に立つ人物に話しかける。


「どうしたの?」


 私はある程度は見当がついているものの平然と彼、高階海斗に質問を投げかける。


「ちょっと聞きたいんだが…………ゆのが過呼吸を起こしたって聞いたんだがその時のことを教えてくれないか?」

「いいけど…………なんで?」


 何で彼はそんなことを聞いてくるのだろうか? 彼氏というわけでもないだろうに。


「少し心配になってな。アイツは少し抱え込みすぎる癖があるからな。少しでも荷を降ろしてやりたいんだよ」

「優しいんだね」

「そんなことねぇよ」


 彼はそう言った。だが、私には『かっこいいところを見せたい』『いい人でありたい』にしか思えない。あぁ、私はなんて醜い考えしかできないのだろう。


「センチメンタルな気分だったからゆのちゃんに「もし、私が誰もいない放課後の教室で首を吊って自殺したら悲しんでくれる?」って何気なく言ったらゆのちゃんが過呼吸を起こしちゃったの。ただそれだけだよ」

「原因それじゃあねぇか…………」

「何か知ってるの?」


 私は先程の理由を知れると思って聞き返す。


「悪いがこれは言えない。彼女の根幹に関わるものだ。彼女がいいと言わない限り言えないな」


 なんだ………………つまらない。


「そっか……………そうだよね。人には言いたくないことや隠したいことはあるもんね」

「そうだな。俺も柚木なぎさ、お前もな」

「─────ッ!?」


 彼は何を知っているのだろうか? 私の失った過去? 私という存在そのものを定義できるのだろうか? 少し興味が湧いてきた。


「じゃあ、俺は行くよ。人の詮索は程々にな」

「……………………人のこと言えないんじゃあないの?」


 私は誰にも聞こえない声で呟いた。

柚木なぎさは分からない



─────────────────────────────────────

ゆのが過呼吸になった原因は別の世界線でなぎさが実際にやったのを思い出したからですね。彼女にとって別に自殺・死はトラウマではありません。なぎさの死の一部がトラウマです。

EX)自らの手で殺した世界線・自殺してしまった世界線など

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