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Shame - 25/05/2047 - / 捜索・手助け - 2047/05/25 -

25/05/2047


 小さなころに好きだった本がある。正義の味方が多くの人を救う何の変哲の無いヒーローが活躍する物語。でも、俺はその物語に魅入られた。何度も何度も読んでいたために親からまた読んでいると言われたり、本がボロボロになったりするほどだった。その物語の主人公のように俺も苦しむ人々を救うことができたならと常々考えていた。小さなことから実践しても正義の味方の大変さがよく理解できた。世界中の全ての苦しむ人たちを救うことなんてできっこない。だからこそ、目に見える人たちだけは助けたいと思うんだ。



「なぁ、赤井秀樹…………アンタは俺のことをどう見るんだ?」


 届くことのない言葉を呟く。返ってくるのは静寂と微かな反響。天井の凹凸を見つめて感傷に浸る。


「海斗………お前は正義の味方を目指すな。だが、それでも目指したいというのならば手の届く範囲だけにしておけ。でなければ何もかもを失うことになる」


 いつだったか、そう彼に言われた。しかし、この状況………身近な人を、手の届く範囲の人を手助けすれば必然的に誰彼構わず救う正義の味方を目指すことになる。ならば………俺は───。





「ごめんください~」


 私はインターホンで彼の家に到着したことを伝える。するとすぐに応答があり扉が開かれる。


「いらっしゃい。待ってたぜ。あと一応これも」

「お邪魔します。気が利くのね」


 私は靴を脱いで彼の家に入る。雨が酷くて少し濡れてしまったので海斗がさしだしてくれたタオルは凄くありがたい。まるで空想上の雲のようにもこもこの質感のタオルは私の体についた水滴を優しく拭き取ってくるれる。


「ブラックか砂糖もしくはミルクありなら何がいい?」

「そうね………じゃあ、ブラックで」

「了解」


 ありがたいことに彼はコーヒーを淹れてくれた。コーヒーに関して私はそこまで詳しくはないがとてもいい香りだ。


「香りがなんかいいわね。え~っと…………キリマンジャロ?」

「ブラジルだ。特段、香り云々言われてない豆の種類だな」


 恥ずかしい。物凄く恥ずかしい。割とキメて言ってしまったから余計恥ずかしい。特別な時にしかコーヒーを飲まないからって言い訳しても見苦しいだけだし………………恥ずかしい。


「死にたいから帰っていい?」

「死ぬなよ!? まだ要件終わってないからな!?」


 そうだった。こうして集まったのは理由がある。


「さて、本題だ。俺たちは前提条件を間違えているかもしれないということだ。だから今一度、情報の確認をしようと思う。もちろん、この家に盗聴器とか仕掛けられていないことはすでに確認済みだから安心してくれ」

「なんか……………悪いわね」


 私は少し申し訳無く思った。改めて彼に向き直る。今回話すことは、一つ目「前提条件の確認」。二つ目「私が発動したあの翼とは何だったのかの考察」。三つ目は「今後の方針の確認」だ。


「じゃあ、私が知っていることから………私の能力は───」


 瞬間、近くで落雷があった。私はすぐさま右手で音を鳴らす。





「は?」


 瞬間、ゆのが目の前から忽然と姿を消した。そして直前にあったのは落雷。じゃあ、雷・電気に関連する能力者に何かされたかそれとも…………


「まさかな?」


 頭によぎったその考えをすぐさま否定する。ゆのに限ってまさか雷が怖いなんてアホなことはないだろう。何せ百何十回も同じ年をループしているような精神年齢だ。

 そこまで考えて俺の仮説がありうる可能性を一つ思い出した。


「ゆのって背をいじられるのが大嫌いだったよな………?」


 まさか………本当にありうるのか? あのゆのだぞ? 銃弾もゾンビ化の能力も何にも恐れず立ち向かう彼女が?


「ひとまず………探すか………」


 彼女の能力で時間を止めたとしたら5秒間で動いたことになる。それはつまりそのくらいの距離だともいえる。俺は隠れられそうな場所を周囲から手当たり次第に漁っていく。机の下。ソファーの下、トイレの個室、階段下の倉庫、風呂場、書斎、クローゼット、食糧庫、両親の寝室…………残るは………。


「ココしかないよな………」


 俺はドアノブを捻って部屋を覗く。ここは俺の部屋。そして何故か………恐らくというか何というか彼女が居るであろう盛り上がったベッドにある布団。


「おい、ゆの………」


 そう呼びかけた瞬間、またも近くで落雷がおきる。


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 彼女は声にならない悲鳴を上げる。正直、聞き取れない。きっと文字に起こすならばインターネットスラングを用いた方が早いだろう。


「雷………やっぱり苦手だったのか………」

「雷だけじゃなくて蝶と蛾もムリ…………」

「oh………………」


 割と弱点多くね? 日光・雷・蝶と蛾・歌・コミュニケーション能力・協調性・常識・右目・能力のインターバル…………。そこ突かれたら終わるぞ………。俺は彼女が最近割とポンコツなのではと思ってしまう。


「大丈夫か?」

「怖い………。海斗ぉ…………」


 ゆのは涙目で包まった布団から俺の袖を弱弱しくけれど離すまいと掴む。正直言って守ってあげたくなる愛くるしさがそこにあった。守りたい、この少女。


「お前が落ち着くまでそばに居てやるよ」


 探しているうちにすっかり日が落ちてしまった。夕食の支度をしなければならないが彼女を放っておけない。俺はしばらくの間、彼女の傍で落ち着くまで本を読む。しばらくすると彼女からすーすーと寝息が聞こえてきた。落ち着いたのと疲れや寝不足からかもしれない。何にせよ、戦場ではあれほどまでに勇猛果敢な少女は日常に戻れば普通の少女にしか見えない。俺は彼女をそこまで追い込んだ運命と自身の不甲斐なさを感じて歯ぎしりした。





「あれ…………ここは………?」


 見覚えのない天井………知らない天井がそこにあった。知らないベッドに知らない毛布。そして、知らない景色の窓。直前までの記憶を想起する。私は海斗の家にお邪魔して、話をしようとして雷が近くに落ちて……それで…………。


「海斗!?」

「おう。起きたか」


 下の階から声がした。同時に焼き鮭のいい香りがする。私はそんな時間まで邪魔していたことに驚く。時刻は午後7時半。ご家族に迷惑をかけないうちに早く帰らないと。私は急いで階段を駆け下りる。


「夕食食うよな?」

「へ?」


 海斗はしゃもじを持ってそう尋ねる。テーブルの上には海斗、彼の両親分の三人分の料理の他に一人分、ご飯だけ盛られていないものがあった。


「ご飯はどれくらい食うんだ?」

「え………………悪いわよ………」

「心配はしなくていい。三人分作るのも四人分作るのも手間暇変わらないし、むしろ盛り付けたから食ってくれないと困る」

「うっ…………」


 そこまで言われたらその好意を無下にできない。


「ありがとう……じゃあ、その好意に甘えようかしら」

「おう、甘えられるときは甘えておけ。ところで、ご飯の量は結局どうするんだ?」

「そうねぇ…………」


 正直、お米は体感百年以上食べていないからどのくらいの量が適切なのかさっぱりわからない。お茶碗一杯分? それともマンガ・アニメでよくみる山盛りが正しいのかしら? 女の子らしく気持ち少な目? わかんない…………どうしようどうしよう………。


「任せるわ」

「え………じゃあ、適当に盛るぞ? 多かったら残してもいいからな?」


 彼は山盛りにしてきた。食べられるか? そもそもとして箸ってどう使えばいい? 


「一応確認するが……箸は使えるよな?」

「もちろん。…………問題ないわ」

「その間は気になるがまぁ、はい」


 海斗は私に箸を渡してくる。その箸は伝統工芸品、確か……若狭塗箸だ。貝殻が漆で塗り重ねられてまるで海底のような美しさを見せていた。それと一緒に置かれた黒猫の箸置き。蒼い瞳がこちらを見ているかのように感じた。


「ローズ……」

「薔薇?」

「以前、私が飼っていた猫の名前よ。野良猫だったのだけど何故か私に懐いちゃって飼うことになったの。初めのうちはアレルギー反応で苦しんだわ。だけど……慣れてアレルギー反応が無くなって…………そして……そして……………」


 涙が溢れてくる。何故だろう? もう何年も前のことなのに。この世界線でも逢えるかもしれないのに。『ローズ』と名付けたその由来を未だ叶えられていない。


「青薔薇………花言葉は『不可能』。かつて自然上に存在しなかったその植物は叶うことなき夢幻の存在として人々に認知されていた。しかし、二十一世紀初頭にとある企業が実現させてみせた。そして、現在の花言葉は『夢は叶う』。正に、俺たちが望む希望そのものだ。だからきっと…………会えるさ」

「うん………うん……」


 私はローズとの思い出を振り返る。涙は止めどなく溢れてくる。その間、海斗は何も言わずそっと背中をポンポンと泣く子をあやすようにしてくる。私は彼の子供ではないのだが何故かとても心地よかった。まるで、小さい頃に顔も名前も覚えていない兄からしてもらったように…………。





「落ち着いたようだな」

「本当に今日は醜態をさらしてばかりね」

「いや、大丈夫だ。お前にだっていろいろ言いたいこととか甘えたいこととかあるだろ? それを俺にぶつけてくれて構わない。何せ俺は…………」

「正義の味方とか言うんでしょ?」

「あはははは………バレちゃったか」

「本当に好きよね。その肩書」

「まぁな………じゃあ、冷めないうちに食おうぜ?」

「そうね」


私は一瞬、彼が曇った表情を見せたような気がした。だが、彼はもう食べる準備をしている。これ以上、話すと折角のご飯が冷めてしまうし、もし食べ終わっても気になるようであればその時に聞けばいい。そう思って私はつられるように手を合わせる。


「いただきます」

「召し上がれ」


 私は箸を左手に持つ。確か、鉛筆もといペンを持つ持ち方で合っていたはずだ。え~っと………これをこうしてこうすれば………。


「あっ………」


 私は箸を何も掴めないうちに落としてしまう。


「なぁ、もしかして………」

「待って、その先は言わないで! 大丈夫、大丈夫なはずだから」


私は彼が言いそうな言葉を静止する。ここでもまた醜態を晒したくないし、何よりも日本に体感にして百数十年もいるのに箸が使えないなんて恥ずかしいことあってたまるか。私は落ち着いて箸の先をご飯に近づける。米粒をつかもうとした瞬間にそれはポーンと飛んでいき見事に私が箸を使えないことを証明した。


「俺が骨折したときに使った補助箸? 矯正箸? があるからそれを使ってみてくれ」

「…………本当に迷惑をかけるわね……」


 私は顔面を手で覆い隠す。きっと私は恥ずかしさのあまり、かなり赤面しているだろう。


「はいよ。出来ないことは恥ずべきことではない。大事なのはそれをどうするかだ。出来ないのならば出来るようにする。もしくは別の手段を模索するとか…………な?」


 そうだ。彼はそういう人間だ。教育者のように数多の道を提示して提示した彼らに選択した道を歩めるようにサポートをする。だからこそ、私は信頼している。間違っているから正すのではなくて間違っているということを認めた上でどうするのかを選択させる。これ以上にない私の最高のパートナーだ。


「どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない」


 そう。なんでもない。私は彼に手伝ってもらいながら久々の日本食を楽しんだ。





「それで? わざわざ電気系の能力者を使って彼らの会談を潰そうとして泣きべそかきつつ、気絶した挙句、慣れない箸を使って苦戦したと?」

「貴方は人を馬鹿にするのが好きなのかしら? 組織のボス相手に?」


 長い黒髪を払って彼女は先程の話を聞いていなければクールに見えるように振る舞う。彼女にとって聞いていようがいまいが面子こそ重要だと感じているからこその行動だ。何せ、世界規模の組織のトップだ。面子こそ求心力に作用する。言語は彼女にとって然したる問題ではないものの他者からの評価は大切なものだ。


「そろそろゲームを始めましょう?」

どうもスバル君です。


さて、今回にて赤井ゆのの弱点は泳ぎ以外は全て開示されました。戦場にて完璧に見えるかもしれませんが割と前回みたいにボロボロになる場合があります。


次回、外伝…………

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