4. ヒトは中二病を経て経験を得る
本日2話目でございます。
「じゃあなんですか、その暗い球の表面部分が何かの境目になってて、そこにあったものはスッパリいっちゃうっていうことっすか」
「いやまあ、球なのか円柱なのかもわかんないんだけどさ、あと内部と外部が違うのかどうかもわかんないからいろいろ何とも言えないんだけどさ、スッパリいっちゃうのは事実なんだよな」
「管理会社の人が駐車場壊した人がいるって騒いでたけど、そういうことだったんっすね」
やっぱりアスファルト切れてたからそりゃ管理会社は騒ぐよね。とはいえ駐車場としての機能は損なわれてなかったから、今時どういうわけか紙媒体での掲示板で『駐車場は壊さないように』、なんていう張り紙が出てただけで終わったんだけど。
「で、その暗いエリアの中にいたのが10秒なんっすね?」
「まあ、大体だけどね。で、ほぼその分だけ携帯の時間が進んでたってことでさあ」
まあ誤差だなんだってのは今は言わないですよ、なんて村主は言いつつ考え始めた。リケジョってだけじゃなく、“優秀な”っていう形容動詞が枕に付く村主は、一応は俺の部下にあたるんだけども、得意分野に関しては俺より圧倒的に優秀だし、ある種の天才っていう領域なんだと思う。あと、100人に聞けば100人が美人と答えるであろう容姿をお持ちだ。きっと人生勝ち組ルートしか知らないんだろうな。。。まあ、中身はそこそこ残念なヤツなんだが。
「じゃあその内部は時が速く進んだってことなんじゃないんです?」
「あー、周りを見回すくらいの気持ちの余裕はあったよ。ただ、その時にエリアの外にあったものが動いてたかどうかはわかんないな。あっという間だったしさ」
今にして思えばもっと冷静に観察すべきだったと後悔する。研究者あるあるなんだけど、再現が難しい実験データを見てしまうと、なんであの時もっとトレーサビリティを意識しておかなかったのかと悔やみまくるわけだ。
「やっぱり内部が別の次元で時間がとんでもなく早く流れていたとかで、境目は次元の裂け目ってやつになってマイクロブラックホール的なものが連続で存在するか、もっとシンプルに次元の裂け目そのものが微小虚無エリアになってるとか、だったら話はつながるかもっすよね」
「まあさあ、ラノベならみんな何の抵抗もなくそれを受け入れるんだろうけどもね」
「科学者たるものエビデンスもないのに突飛な話はできないっすよね。でも次元の裂け目みたいな仮定を置いたほうがシンプルに説明できるのは間違いないっすよ」
確かにそうなのだ。仮定そのものがかなり突飛なものだという、一番大きな問題を残したままではあるけど。
「じゃあさ、次元の裂け目があったとしてさ、なんでそんなものができたわけ?あ、スペキュレーションOKで」
「スペキュレーションって、そんなの当り前じゃないっすか。根拠ある答えなんて出せるわけないでしょ。とりあえずはいろんな状況から判断したら、単純な偶然っていうのが妥当なんじゃないです?」
「ほー、一番無難で一番つまんないルートに話を持っていくね」
だーってぇ、とかなんとか村主が言ってるのを横目に、実際のところ俺も偶然としか考えが行きつかなかった。
「ちなみに小川さん、内側にいたんでしょ?多分2回とも合わせたって、その内側にいた生物、少なくとも脊椎動物レベルの生物はキジの半分と小川さんだけっすよね。それ以外の生物だと、雑草が少々とおそらくは昆虫類と環境菌ですか」
「まあそういうことだよね。俺以外は10秒ズレても関係なさそうだよな」
「いや、小川さんだって10秒くらいじゃ無問題っしょ?」
「ま、そりゃそうだ」
「内部にいた高等生物で今も生存してるのが小川さんだけだとして、何か変わったこととかないです?10秒進んだ以外で」
それがまったくないんだよなあ。自分でも気になるからいろいろ見てみたわけだ。禿げてない?とか太ってない?とか、小さくなってない?とか。。。なーんも変わんないんだ。少なくともぱっと見では。
「変わんないね」
「じゃあ、ラノベっぽい何かってないんですか?魔法とか使えちゃったりとか、スキルなんてのが・・・あ、ステータスボーd」
「ないない。ってか14歳の病は表に出さない年齢になってしまってるんだから、させようとするなって」
「えー、つまんない。じゃあその球体?暗いエリアってやつと仲良くなってたりしないんです?内部にいたんだから親和性あがってるとか」
「いやいや村主さん、それってどうやって確かめるんだよ」
「そりゃもう、14歳に戻ってですね、『出でよ球体』みたいな」
「をいをい、デカい龍の神様が出てきて願いをかなえてくれる言い方じゃねーか」
と言いながら、ちょっと興味がわいてしまった俺は心の中で
“出でよ球体”
とかいろいろと唱えてみた。まあ、何も起こらないのもわかっていたんだけども。そして、10個程度のそれっぽいワードを念じた後で、14歳思考の俺が一瞬心臓を止めるくらいの衝撃を受けた。
“Connect”
それは何の前触れもなく突然目の前に現れた。直径だと30センチくらいだろうか。ほぼ完全と思われる球体で、表面が着色されているからなのか、そもそも内部が明かりのない空間ということなのか、とにかく内部は暗く見えた。そしてその球体は10秒程度でまた何の前触れもなく突然消えた。
「ちょっと、何やったんっすか?マリックさんですか?セロですか?なんですか今の?」
「ちょっと待って、俺にもわからん、けどちょっと落ち着かせて」
「あ、はい、すいません、って、そんな場合じゃないでしょ、ヤバいでしょ今の、え?」
俺自身めちゃくちゃ驚いてたよ、そりゃ。でも面白いもので、自分より慌ててる村主を見ると、なんだか落ち着きを取り戻してしまう自分がいた。それはそれで別の方向に驚いた。
「うん、まあとりあえず落ち着こうか村主さん。俺もよくわかんないけど今のは・・・」
ざっくりと村主に14歳の俺の心の叫びを説明して、少し落ち着きを取り戻した村主にちょっとだけ、ほんのちょっとだけジト目で見られながら、頭を整理することにした。
初投稿ですのでストックの加減が今一つ分からず、見切り発車的に投稿スタートしてしまったので、貯金がなくなったら1分将棋のごとく切羽詰まります。。。