2. かまいたち、的な?
本日2話目でございます。
管理会社に連絡してデスクに戻った俺は、とりあえず携帯で写真を見ながらいろいろと考えてみたわけなんだが、結局のところなんの結論にも至らず。ウンウンうなりながら考えていると思いのほか時間が過ぎていたようで、せっかくの早朝出勤がパーになるくらいには、PC画面の時計表示が進んでしまっていた。
「おはざーす。って小川さん相変わらずはやいっすね」
「おはよー。村主さんもまあまあ早めじゃん。っていうかね、聞きようによってはギャル口調だけど、男っぽくもあるよね」
「あー、そういうのダメなんですよ」
「あーもう、ほんとめんどくさいな、今のご時世」
うちの職場はコンプラにもちゃんと配慮しなさいときつく指導されているので、上司と部下とかであっても呼び捨て厳禁、セクハラ回避のために苗字にさん付けだ。
とはいえ、最終的にはお互いの信頼関係ってことになるから、まあ俺がまだこの職場に転職してきて1年ほどで、充分に信頼されてないししていないということなんだろう。
そういえば登場人物の紹介がまだだったか。俺は小川勇気。頑張って体力と見た目を少しでも学生時代に寄せておきたいと足掻いている立派な30歳独身彼女無しだ。
そして今話していた相手が村主ちはる。すぐり、じゃなく、むらぬし、だ。
村長さんみたいだなって言ったらまあまあめんどくさそうな顔されたから、二度と言わないことにしている。
23歳独身彼氏は。。。聞いたことはないし聞けない。
「ところで村主さん、鳥ってさ、縦に真っ二つに切れるもの?」
「朝から何言ってるんですか。起きてますかー?いや中華包丁とかでばーんってやったら切れるんじゃないっすか?知らんけど」
「なんで最後だけエセ関西人」
「いや、朝イチの話題が鳥が切れるかって、小川さんのほうがツッコまれる側でしょーよ」
うーん、確かにそうだよな。自分でもおかしな話の展開だと思う。
だけどやっぱり気になることがあるとついそっちに思考が引っ張られるし、一人で抱えるのはよろしくないと教育されてきている。
俺は(俺も)いわゆる製薬メーカーというところの研究所というところで働いている。
一応は博士号も持っているし、関係する学会では少しは知られた研究者だ。
当然のことながら村主さんもゴリゴリのリケジョだ。
「まあそれはそうかもだけどさ、例えば強めの衝撃を受けたら縦にパカーンて割れちゃうような組織構造してたりとかって・・・ないよねえ・・・あー、そういう残念な存在を憐れむような目で見ないでくれよ」
「そりゃしょうがないっしょ。小川さん残念だから」
「こういうのってコンプラ的にはどうなの?俺結構凹んでるよ?」
「だって言われた側が嫌がらなければハラスメントには成らなくないです?」
「俺が嫌がってないって?・・・まあいいや。で、やっぱり割れないよねえ」
「そりゃそんなこと起こってたら、そこらじゅうで鳥の縦割れ死体が転がってますって。っていうかそんな種は存続できてないですって」
ほんとその通りだ。ではあるのだが、目の前にある訳の分からないことをとりあえず意識の隅に追いやって、目の前の仕事に向かえるほど悟りを開いているわけではない。
好奇心のかたまりだからこその理系男子だ。
まず縦に真っ二つに割れるメカニズムってなんだ?かまいたち的な?念のため、だが、かまいたち的といっても面白いコントをやってくれるということではないってことは宣言しておく。
いや、可能性はゼロにならないかもしれないにしても、こんなにスパッと両断されるほどのことってあるんだろうか?
じゃあなんだ?物理的に刃物が存在してた?その刃物はどこに消えたって話だ。
うーん、現実感がなさ過ぎてちょっと思い浮かばない。
そういえば今朝って明るくなるのが妙に遅かったんだよな。。。
なんか違和感というか、普通に晴れてるけど、早朝は曇ってたのか?
うーん、なんか違和感あるけどよくわからんな。。。
「小川さん?なーに難しそうな顔しちゃってんですか?」
「いや、真剣にいろいろ考えてるんだって」
「鳥真っ二つの?それなんなんです?」
俺は村主に今朝のことと、今、俺が何を考えていたのか説明した。
こう見えて(どう見えて?)村主は相当頭が切れるから、かいつまんだ話でほとんどの情報は把握してくれる。
「じゃあ要するに、あり得ない切れ味の何かですっぱりやられたキジが窓にぶつかったと。でそのとき特に何もおかしなことは起きてなくて、微妙に暗いくらいの違和感だったと」
「そゆことだね。まあ、俺の気のせいってこともあるから、違和感のほうはプライオリティ低めで置いててくれていい。客観的事実は真っ二つのキジだな」
「まあ、かまいたちってのが短絡的かつもっとも落としどころになりやすい案っすよね。かまいたちって微小な真空エリアが発生して、そこにある物体を切り刻むんですよね?」
「まあそういう説明になってるね。実体験したことはないんだけど」
「でもそれじゃその写真みたいにスパッといくには無理があると。空気がないだけなら無理ってことなら、なにもないエリアが発生したら切れるんじゃないです?」
お、やっぱり村主って頭いいな。確かにそうだ。
空気がない、実際にはまったく空気がなくなるほどにはできないだろうから、微小エリアの気圧がドカンと下がる、くらいなんだろうが、そういうので出来なさそうな現象なら、空気どころかすべての“もの”が何もない微小エリアなら可能になる現象なんじゃないか?
まあ、何もないエリアってなんだよってのはあるが。
「まあ確かにそれなら可能性あるよね。ただ、何もないエリアってなんだよ」
「まあ例えば時空のゆがみ的な?」
「一気にファンタジーになっちゃうじゃんかよ」
とはいえ、だ。ブラックホールなんかが存在すれば、その辺の真空なんてのとは比べ物にならないくらいの「微小な虚無エリア」は存在してもいいはずだ。
なんでも飲み込むブラックホールの近くで、飲み込まれていく瞬間のブラックホールの近所は何もない、に近くなってる可能性が高い。
もちろん、ブラックホールに落ちていく軌道上とブラックホール自身は真逆の状態で、物質もしくはエネルギーで溢れかえっているっていうことになるんだろうけども。
にしてもブラックホール?しかも超短時間?まあ、強引にできたブラックホールなら、自分の持つエネルギーに耐えられず、フェムト秒単位で消失しそうではあるが。
そもそもその辺に急にブラックホールが発生するなんて、それこそ科学的にはとても低い可能性だ。
「マイクロブラックホール・・・」
「シンクロトロンの群れでも用意しましょうか?」
だよなあ。何の変哲もない日本の田舎町で、ブラックホール生成実験に相当する条件なんて考えられない。
「ま、ブラックホールもしくはそれに相当するような存在が微小かつ短時間発生したら、可能性はありそうってことで、とりあえず納得しておくよ」
「おー、物わかりのいい大人の自己完結ですね」
「そうやって少年は大人になっていくのだよ」
少し、いや結構もやもやとした気分を残しながら、とりあえずは目の前の仕事に手を付けることにした。
はじめて文章を書いて初めて投稿するという貴重な経験をさせていただいております。生暖かい目でご覧くださいませ。