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媚薬

 俺とシャーリーは化学室の窓をひっそりと開いて中を覗き込む。

 中には変態教師とカザリナ先輩とが向き合っている。


「こういっちゃあ、なんだがカザリナ君は美容薬なんかに興味がないと思っていたよ」

「いいえ、先生。私も女の子ですから、美容に気を使っておりますわ」


 カザリナ先輩、微妙にイラついているな。カザリナ先輩は美容に関心のある女性らしい。あとめっちゃ猫を被っている。


 変態教師は薬品金庫からピンク色の錠剤の入った瓶を取り出した。……もうピンク色っていうのがね。なんか怪しいわ。実際媚薬なわけだが。

 瓶から2錠の魔法薬を取り出すと、机の上に広げた薬包紙に乗せる。


「これは、女性の肌つやを良くする魔法薬だ。長年の研究でようやく完成したんだ。是非試してくれたまえ」

「その前に失礼します『ポイズンサーチ』」


 カザリナ先輩は目の前の魔法薬に魔法による探査を掛ける。結果は白。さて、カザリナ先輩。俺は事前にそいつは変態教師だと伝えているがどう対応する。


「カザリナ君。これでも僕は教師なんだ。生徒に毒物を飲ませるようなことはしないさ」


 結果に目を輝かせながらそんなことをいう変態教師。ポイズンサーチを掛けてもらったことがすごく嬉しいようだ。


「失礼しました。これも冒険者としての習性ですので、お許しください。……では、飲んでみます」


 ああーっと、カザリナ先輩2錠の魔法薬を飲んでしまった。いくらポイズンサーチが白といっても、事前に注意されているのだから、飲んじゃダメだって。


「あの、ディーベルド様。あの錠剤は媚薬なんですよね?」

「うん」

「なぜ、ポイズンサーチに引っかからなかったのでしょうか?」

「それが長年の研究成果の結果だと思うよ」

「なんでこの学園には変態がはびこっているのでしょうか」

「さあ」


 ここがエロゲの世界だからじゃないかな。


「それでは肌の様子は後日お知らせするということで……」

「まあ、待ちなよ。この美容薬のすごいところは数分で効果がでることなんだ。ちょっと待ってくれ」


 しばらく魔法薬の研究談議で花を咲かせる2人。しかし、次第にカザリナ先輩の呼吸が荒くなっていく。変態教師はにまにまとしながらその様子を見ている。

 やがて、自身の身体を支えられなくなったカザリナ先輩は、机にもたれかかる。しかし、その刺激ですら今のカザリナ先輩には甘美なものらしい。


「んーっ」


 と、エロい声を上げた。変態教師は言い放つ。


「そうそう、言い忘れていたね。カザリナ君この薬の仕上げは男性の精液を子宮に取り込むことなんだ。なに心配することはない。今から僕がその相手を務めてあげよう」


 変態教師は準備室から魔メラを持ってくると撮影の準備をした。何やら研究ノートに書きこんでから、変態教師の魔の手がカザリナ先輩に迫った。


「失礼しまーす」


 俺が化学室に割り込んだ。もう証拠は十分だろ。変態教師は慌てふためている。


「なんだ!君は、今は特別授業の真っ最中だ!出てい―――」

「いや、最初から見ていましたから」


 顔面にエルボーを入れたら速攻で気絶した。弱いなあ。


 俺は研究ノートを取り上げてパラパラとめくって読む。あー、マジか。マジで、精液を取り込まないと媚薬の効果が収まらないらしい。


「カザリナ先輩。カザリナ先輩」


 淫靡な顔で胸と股間を自身で刺激しているカザリナ先輩に問うた。


「どうもこの変態教師のいっていることは本当で、元の状態に戻るには男性の精液が必要なようです。意中の男性とか連れてきましょうか」

「意中の男性など……いない」


 もう、下着がぐちゃぐちゃと水音を鳴らしている。太ももを透明な雫が流れていく。


「じゃあ、どうしましょうか」


 もう結果は見えているが、俺からいい出すわけにはいかなかった。あくまでもカザリナ先輩が望んだからこそだという状況が欲しかった。


「うー。ディーベルドぉ」


 切なそうな顔をして、化学室の机の角に股間をこすりつけているカザリナ先輩。凛としたカザリナ先輩に憧れている子たちがこの様子を見たら大変だろうな。


「そうだ。私はディーベルドを改心させるためにこの身体を使うんだ」


 そう自分を納得させるのか。俺としても想定していなかった事態である。ゲームではこんなカザリナ先輩の攻略の仕方はなかった。


「ディーベルド、頼む。抱いてくれ」

「分かりました。先輩を抱かせていただきます」


 もう前戯は必要ないだろう。俺はカザリナ先輩を後ろから抱き留めて、胸と下の方を弄りながら、唇を奪う。壮絶な快感が襲ってきているらしく。何度も身体を震わすカザリナ先輩。


「シャーリーは化学室に誰も入らないように見張っていてくれ」

「かしこまりました」


 俺はカザリナ先輩のしとどに濡れた下着に手を触れた。


 ◇


カザリナ先輩は化学室の机の上で疲れ果てたようにして倒れこんでいる。


「ディーベルド、お前はひどいやつだ。媚薬の効果は一回でいいのに、よがる私に対して何度も何度も……」

「すみません。こちらの収まりがつかなくて、つい」

「まあいい。私はすでにこの身の全てをお前に捧げているのだ。好きにすればいいさ」


 重い。現代人の倫理観としてもこの世界の倫理観としても初めての相手だから全てを捧げるというのは異常だと思う。


「薬による効果でしたし無かったことにしてはいかがですか?」

「それはできない。私自身が大切にしていた家訓だ」

「じゃあ、カザリナ先輩が生涯を捧げてよかったと思えるくらい大成しますよ。俺は」

「それはやりがいがあるというものだ。あと、私のことはカザリナと呼べ。私はもうお前の女なのだから」

「分かったよカザリナ」


 俺は気だるげな雰囲気の中、なんとなくカザリナの手の甲を撫でる。すべすべでいい手だ。するとカザリナは俺の手を掴み、指にひとつひとつのキスをする。


「それはなにか意味があるの?」

「なんとなく、この指が私をいじめていたと思うと憎くてな」


 憎いときの反応ではない。むしろ愛おしそうに見える。


「そういえば、なんで媚薬を飲んでしまったんですか?私あいつは変態教師だと伝えていましたよね」

「ああ。ディーベルドは評判が悪いからな最後の最後で私のことをだまそうとしていたんだと思ったんだ。結果、私が教師に騙されたがな」


 なるほど。俺の悪評のせいで物語に変化が起こったのか。


「この化学教師は今後大変でしょうね」

「だろうな。ポイズンサーチを抜ける媚薬を作ったともなれば、一大事だ。一生表には出てこられないだろうな」


 ポイズンサーチはこの世界において、毒見代わりとして用いられている魔法だ。それを越えて、女性を発情させて、治療には男性の精液を必要とするなんて、無理やり相手を手籠めにするには適した薬だ。薬は接収され、薬を作ったこの男も生涯監禁されて研究を行うこととなるだろう。それを思えば、この変態教師のことが可哀そうに……別に思わないな。


 俺はぼんやりと天井を眺めているカザリナの目を盗んで、媚薬を何割か盗んでおいた。いつかこれが役立つ日もくることだろう。


 さて、いつまでもここに居続けることもできない。外にはシャーリーが、中には気絶したままの変態教師がいるし。俺はティッシュを取り出した。カザリナを綺麗にした。


「んーっ!もっと丁寧にやれ」

「はーい」


 カザリナは下着を履くとき、濡れているため嫌な顔をした。


「カザリナ、この教師は俺が見ているから、一度寮に帰ってシャワーを浴びて、着替えてくるといい。見る人が見たら、カザリナに何があったのかわかるから」

「……そうする」


 カザリナは素直にそういって、寮に帰っていった。

 代わりにシャーリーが化学室に入ってきた。


「掃除が甘いので、私がします」

「すまん。頼む」

「はい」

「……シャーリー的には俺が他の女を抱くのはどうなの?」

「私としては、ディーベルド様がどこまでできるのか興味がでてきました。傍でお仕えさせていただければ満足です」

「そう」


 随分と都合のいいこといってくれる。


「でも。私の相手もきちんとしてくれなくちゃ、いやですよ」

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