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対峙

 俺はクラリスの方に手を向けた。


「クラリスはこの通りだ。中々楽しい時間を過ごしたようだぞ」

「えっ!」


 俺は魔メラを片手にそういってやった。

 クラリスは困惑したかのように声を上げた。

 しかしこれはいっておかなければならないことだ。レイドが来たのは随分と遅かった。状況が最悪だったら行為が済んだ後だっただろう。


「ディーベルドォオオオオ!」


 剣を抜いて切りかかってくるレイド。

 そうだ。主人公ならいつだって、剣で道を切り開いてこそだ。


「レイド!待って!」


 クラリスの声は届いていない。レイドの瞳には瞋恚の炎が宿っている。

 俺はこの状況が楽しくなってきた。本気になった主人公相手に戦える。ゲームでは決してなかったシチュエーションだ。


 振り下ろされる剣に、手の甲でパリィを決める。そしてみぞおちに一撃入れようとした。回避された。パリィされた瞬間、剣を手放して、ダッシュ回避をしやがった。流石主人公。


 でも逃がさない。手加減をしたダッシュ回避で主人公の前に飛び出る。主人公はもう逃げ場がない。とっさのことだろう。全力で殴りにかかってきた。……この世界の体術ははっきり言って稚拙だ。俺は振るわれる腕を巻き込むと、そのまま一本背負いをした。


「がはっ」


 受け身もできずに床に叩きつけられるレイド。そのままみぞおちを踏みつけて戦いは終わった。

 まともに呼吸もできず呻くレイド。


「お前が弱いと、平民のクラリスが狙われるぞ。この程度強さじゃあまだまだだ。さっさと冒険をしろ。そして強くなれ」


 ヒロインたちを守れるぐらいに。


「ちくしょう。ちくしょう」


 涙を流す主人公。これで主人公は必ず強くなるだろう。これで奮起して壁を乗り越えるからこその主人公なのだから。

 俺は魔メラをクラリスに手渡すと、その場から立ち去ろうとした。クラリスは複雑な顔をしている。目の前で愛する男の子が傷つけられたのだから当然だ。


「ディーベルド!」


 リーゼインがそこにいた。嫌悪感と激怒が入り混じった瞳の色をして。

 彼女にとっての幸福は俺が関わらないようにすることだろう。過去の俺が彼女にしてしまった愚かさはもう消せない。

 俺はリーゼインの隣を通り抜ける。その際に言い残す。


「いままで悪かった」


 リーゼインの困惑したような表情をしていた。今までのディーベルドであれば、レイドを貶める発言をしていた状況だ。それにディーベルドであれば、謝罪なんてするはずはないからだ。


「ふーっ」


 緊張とともに息をついた。クラリスの危機に、主人公との対決、リーゼインとの会話。中々濃い内容だった。身体のこわばりをほぐした。


 今日は残りどうするべきか。中庭の露店で買った果実水を飲みながら考える。しんどさから言ったら、今日はもうゴロゴロとしていたい気もするが、あの様子だと主人公は1週目の主人公だろう。なら俺はヒロインたちを助けて、エッチなことをするためにも攻略を急ぐべきだろう。


 なら、学内掲示板の依頼を消化して、学内人気を上げていくか。

 この学内人気が低いと発生しないイベントが多数ある。俺ことディーベルドにもこのシステムが反映されるかは不明であるが、悪評を少しでも消すためにも頑張っておくことは無駄にはならないだろう。杯を返却して、学内掲示板に向かった。


 学内掲示板は食堂の脇の壁に配置されている巨大なコルクボードだ。ぎっしりと依頼票が貼られている。ゲームではランダムに5つ表示だったけど。こんな感じなのか。放課後になってから随分と時間が経っているせいか、掲示板の前は空いていた。これ幸いとばかりに掲示板の前に立つ。


 とりあえず、妖気の森と精霊湖と貪欲の砂漠関連の納品依頼は全部こなせそうだ。戦ってきた甲斐があるというものだ。あとはと見ていると、ある依頼群が目に入った。それらにはこんな文言が書かれている。


『美容薬を作ったので試してほしい(女性限定)』

『女性用の魔道具をつくったので試してほしい(女性限定)』

『女の子同士で魔法の練習に付き合ってほしい(女性限定)』

『かわいい服を作ったので試着してほしい(女性限定)』


 いわゆるエロ系のクエストだ。女性ヒロインひとりで行かせるとエッチなCGが見られるやつだ。この時期からでも依頼自体は貼られているのか。俺もセーブ&ロードで各キャラのCGを回収したものだが。現実となった今ではダメだろ。こういうのにはシャーリーは協力してくれるのだろうか。直接聞いてみよう。俺は達成可能な依頼の報告を済ませてから、寮に戻った。都合よくシャーリーは俺の部屋のベッドメイクをしていた。


「シャーリー、学内掲示板のことで協力してほしいんだ」

「はい?学内掲示板のことで手伝えることはないと思いますが」

「女性をターゲットにいやらしいことをしようとしている奴らがいるんだ。そいつらを撲滅したい。協力してくれ」

「それがディーベルド様の願いならいいですよ。ですが、ちゃんと守ってくださいね」


 上目遣いでそんなことを囁くシャーリー。えっちだなあ。


「悪いが、シャーリーを他の奴に渡すつもりはない。付き合ってくれ」

「かしこまりました」


 順序は逆にして巻きで行こう。俺は風紀委員に行った。丁度風紀委員のヒロインのひとり、カザリナ先輩がいた。カザリナ先輩はサクラ生徒会長の親戚で、艶やかな黒髪をポニーテールにした。クールな先輩だ。


「カザリナ風紀委員。少しよろしいか」

「……ディーベルド・ミッドフィルドか。噂は聞いているぞ。自首でもしに来たか」

「違います。これから女性をターゲットにした卑劣な違反者どもを捕まえに行くので、同行を願います」

「……いいだろう」


 噂に聞く、ディーベルドとこれからやろうとすることの乖離がひどいため困惑していたが、責任感が勝ったのだろう。同行してくれる。いい人である。まずは最初の『かわいい服を作ったので試着してほしい(女性限定)』から行くか。


 服飾部のところに行くと、爽やかな男性がコスプレ衣装片手に出迎えてくれた。どうやらシャーリーはお眼鏡にかなったらしい。まあ、美人さんだしな。シャーリーの着替える場所として、試着室を案内する。


 俺は先に試着室に入ると、試着室の姿見を蹴り破った。そこには複数の魔メラが配置されていた。カザリナ先輩に確認してもらって即御用である。まずは卑劣な盗撮犯を捕まえた。


 次は『女の子同士で新しい魔法の練習に付き合ってほしい(女性限定)』である。人目につかない校舎裏だった。俺とカザリナ先輩は屋上から、女性の変態とシャーリーの対峙を見守った。

 女性の変態は初手から触手の魔法を使うと、シャーリーの身体をまさぐりはじめた。衣服の中に入ろうとした瞬間を狙って、俺は屋上から飛び降りて、触手群をぶった切って、変態にヤクザキックをかました。


「やりすぎだ!」


 階段を駆け下りたカザリナ先輩は俺のヤクザキック見ていった。


「あのまま放置していたら、俺のシャーリーが犯されていたんだ。やりすぎなんてない」

「……私は見なかった」


 納得してもらえたらしい。よかった。ちなみにシャーリーに触手の感想を聞いてみた。


「ただただ気持ち悪かったです」


 とのこと。一応触手の魔法をラーニングしておいたが、使い道は無いらしい。しょぼん。


 さらに『女性用の魔道具をつくったので試してほしい(女性限定)』に行く。この依頼もシャーリーだけ先行させた。魔道具を出したら声を上げるように言い含めて送り出した。しばらくしたころ。


「ディーベルド様!」


 合図とともに部屋に乱入する。そこには椅子型の魔道具が鎮座している。小太りの男はおどおどしながら、なにもしてないと釈明する。ああ、まだ何もしていないな。

 俺は男を抱えると椅子に無理矢理座らせた。椅子は男を固定する。椅子から服を溶かす液体が飛び出ると着席者は裸になる。そこからブラシやらディルドやらが飛び出てくる。俺は股間の部分のパーツだけ力づくでへし折った。やがて男の喘ぎ声が部屋に木霊する。地獄かな。カザリナ先輩は男を心底軽蔑する目で見ると、男の応援を呼ぶと離れていった。


 シャーリーは俺にいった。


「この学園には変態しかいないのでしょうか」

「かもしれないと思っている」

「それはなんて恐ろしい」


 シャーリーは心底震えている。俺こと変態代表がシャーリーの肩を抱いていう。


「大丈夫だ。俺がシャーリーを守るから」

「ディーベルド様……」


 ちょろい。俺も変態のひとりだ。


 最後に『美容薬を作ったので試してほしい(女性限定)』の依頼か。

 カザリナ先輩がいう。


「これでは、シャーリーさんに危険が迫るばかりではないか。今度は私が被害者の振りをする」

「……やめておいたほうがいいですよ絶対」

「ダメだ。これは正義の在り方の問題だ」


 でも美容薬って媚薬のことなんだけど、大丈夫なのだろうか。

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