攻略と事件発生
目が覚めると、隣にシャーリーはいなくなっていた。俺が眠った後、使用人の部屋に帰っていったのだろう。なんだか寂しい気持ちで目が覚めた。
部屋にノックの音が響いた。シャーリーだろう。
「失礼します」
「どうぞ」
シャーリーが入ってくると、扉をしっかり閉めてから悪戯な笑みをしていった。
「昨日はよい夜でした。またお願いしますね」
「……うん」
俺はシャーリーのテクニックに翻弄されっぱなしだった。かろうじてスタミナで勝利したのみだ。流石悪役、行こうと思えば何度でも戦える。
いつまでも頭の中をピンク色にしていても仕方がない。今日からガイダンスの開始だ。しっかりとしていこう。シャーリーが持ってきてくれた制服に袖を通す。金の飾り紐もつけ方はもうバッチリだ。
「変じゃないかな」
「昨日からずっと素敵ですよ」
「ありがとう」
つまりは服装もバッチリなんだろう。学園の地図を見ながら、1-Aに向かう。
扉を開くと、一斉に視線がそっぽを向いた。俺と関わり合いになりたくないのだろう。空いている席に座る。しばらくしてステラさんが来た。俺の隣に座ってくれる。空いていたからだろうが、ありがたい気持ちになった。今日を楽しみにしていてくれステラ。
続いて、主人公のレイドたち3人がやってくる。レイドとリーゼインがこのクラスに俺がいることを嫌な顔をしてみていたが、クラリスはぺこりとお辞儀をしてくれた。流石はヒロイン、いい子だ。主人公と幸せになってほしい。俺があったかい気持ちになっている先生がやってきた。
俺達を見回していった。
「さあ、みんな席に着いているな」
ノッド先生の声に皆が静かになる。これから学園についての説明があるらしい。授業概要と選択の仕方、施設の案内をされると、入学二日目は終わりだった。これから、各人カリキュラムを選択して終わったら帰っていいらしい。膨大に大きい施設だったためそれでも昼過ぎまでかかったが。
カリキュラムにはそれぞれの模範ケースが記載されている。俺のカリキュラムは主に冒険者になるためのコースで組むことにした。この優れた能力を一番生かせそうだからだ。将来領地を治める選択肢もあるらしいが、自分にその能力はないだろう。剣術に魔法学、探索術などを学べるコースだ。
早速入力を終わった俺は隣のステラに声を掛けた。
「俺の名前はディーベルド・ミッドフィルド。君の名前は?」
「……ステラ・サファイ」
「ステラさんは何の授業を選択したの」
「研究者になるためのコースから選択した」
「じゃあ、魔法学の授業は一緒だね」
「うん。それじゃあ入力が終わったからまたね」
「うん。また」
ステラは颯爽と帰っていった。ふふふ。ステラを捕まえるのはこれからだ。
俺はワイワイとカリキュラムを相談するクラスメイトを横目に教室を出て、図書室に向かった。図書室は海外の映画に出てきそうな図書室だった。壁一面の本棚。車輪付きの梯子。数多くの勉強机。二階にも本がずらりと並んでいる。しばらく放心して見た。背景ではみていたけど、現実になると圧倒的だな。
図書室の司書に話しかける。
「すみません。俺はディーベルド・ミッドフィルドです。禁書庫の―ーー」
「しっ!伺っております。静かに奥へどうぞ」
言葉が遮られた。横紙破りをしていることは間違いないからな。
奥に鉄の柵で囲まれた空間がある。その空間を真鍮の鍵で開く。
「さあ、どの本をお探しなんですか」
「著者は忘れましたが、石化術の使い方についての本ですね」
司書は眉を吊り上げた。
「石化術は禁術です。なぜそのような本が必要なのでしょうか?」
「石化を解くためにその本を探しています」
「石化を……解く?」
「ええ。そのためにその本を探しています」
「それは証明できますか」
「本を貸していただければ、1か月以内に証明して見せます」
ステラがやってくれるだろう。
「いいでしょう」
司書はすたすたと歩いていくと、ある本棚の前に立って一冊の本を取り出した。
『石化術の使用と効果』というタイトルだった。ああ。こんな名前だったか。
「証明できなかった場合は、禁術を使用したとして告発させていただきますのであしからず」
「かまいませんよ」
俺はできるかぎり自信たっぷりにいった。その方が説得力に満ちているように思ったからだ。効果があったのかは定かではないが禁書を借りることができた。
俺は図書館でステラを探した。あ、いた。勉強机の一角を陣取って、様々な呪文の本を一心に読み漁っている。俺は近づいて声を掛ける。
「ステラ」
「……なに」
気だるげに応じるステラ。母のために回復の術をさがしているので、邪魔されたと思っているのだろう。これをみたらどうかな?
「この本、なんだ?」
わしっと本を掴まれた。
「なんで知っているの?」
「侯爵家の情報網を甘く見ない方がいい」
「何が目的?」
「目的……俺がしたかったからかな。その本1か月しか借りられないからそれまでに俺に返して。あと、できれば、同じ病気で苦しんでいる人のために治療法をまとめてほしい」
「わかった」
彼女からすればどんな提案でも飲み込む状況だろう。
「あと、これ」
俺はマンドラゴラと精霊の涙、カラザリスセンチピードの牙を置いた。
「必要になると思うから」
「そう」
ステラがアイテム袋に3つのアイテムと本を仕舞う。
「私は帰ってこの本の研究をするから」
「頑張って。学校にはおいでよ」
「……うん」
これは学校を休んで没頭するつもりだったな。これで落第させてしまったら、彼女の母に申し訳が立たないところだった。
「それじゃあ帰る。ディーベルド、本当にありがとう」
「どういたしまして」
ヒロインのバッドエンドを回避した。このゲームはヒロインが異常に多いから1週目の主人公では全員救うことはまずむりなんだよな。そういうヒロインを救っていこう。
よしっこれで、ステラルートは完了だ。後は後日イベントがあるぐらいだ。
これでオーケーと考えつつ、適当に歩いていたときのことだ。
「やめ…く……い」
むっ!これはクラリスの声だ。沢山ゲームで声を聞いていたから間違いない。俺は声のした方向に向かった。ずいぶんと切羽詰まった声だったが、大丈夫だろうか。
どうやら声の発信源は空き教室らしい。こっそりのぞくと、ブラウスをはだけさせられて、ブラジャーを引きちぎられようとしているクラリスがいた。犯人は昨日見たマルコ・コーザとかいう雑魚ともうひとりだ。
レイドはなにやってんだよ。ヒロインのピンチだろうが。そこで活躍しないでどうするんだ。
俺は音を大きく立てて、ドアを開いた。中にいる人間が固まる。俺のことをみるとマルコはにやりとしていった。
「ディーベルド様も混ざ―――」
ヤクザキックをかました。マルコは悶絶して倒れた。もうひとりの名前の知らないやつが激情する。
「てめえ、なにーーー」
はたいた。何かを話そうとする度に平手打ちをかましていく。すぐに泣くだけの存在なった。
「失せろ。次に顔を見たら潰すから」
必死になって逃げるマルコとその仲間。俺はまだ激情を抑えられていなかった。しかし、ヒロインをフォローしないといけない。
「遅くなってすまない。本当にごめん」
「いえ。助けてくださいましたから」
ごそごそと、服を整えるクラリス。俺は上着をクラリスの方に投げた。
「ブラウス千切られていただろ。これを上に羽織れ」
「はい」
しばらく時間が経った。なんといって慰めればいいのか言葉が出ない。
「この魔メラは君自身が処分するといい」
そういって、魔メラを拾った瞬間だった。教室のドアが激しく開いた。
破れた服の上に上着を着ているクラリスと魔メラを持っている俺。
状況を勘違いしたんだろう。激情のままに声を出すレイド。
「ディーベルド。お前っ!」
けどな、怒っているのは俺も同じなんだ。お前が守らなくて誰がクラリスとリーゼインを守るというのか。言葉は激情とともに迸った。
「遅かったな。レイド」