退行のレアラ
私がアリエルとミューザと手を繋いだ瞬間、見たこともないダンジョンへと転移させられた。
ダンジョンへの強制転移。そんなことができるなんて、邪教徒たちは思った以上にダンジョンへの理解が深いのかもしれない。
何はともあれ、このダンジョンから脱出しなければならない。
私たちはアイテム袋から装備を出すと、身につけた。
「第一にダンジョンの入り口を目指す。きっと皆も転移門を目指しているはず。運が良ければ合流ができるはず」
「そうだな。明らかに高位のダンジョンだ。出来るだけ敵は避けて行こう」
「分かりましたぁ」
ダンジョンの入り口に向かっていますようにと、願いながら探索を開始した。
しばらく細い道を歩いていると、道の先に巨石の赤子のようなゴーレムがいた。頭が、手を合わせたような形になっており不気味だ。
明らかに格上の存在、しかし、倒さなければ先には進めそうにない。
私たちは頷き合うと、私は石柱を放った。いくつもの石柱が岩の赤子に突き刺さる。しかし、岩の赤子は気にした様子もない。私に向かって這ってくるのをアリエルが剣を振るって止めようとしている。私は後退しながら火矢を放っていく。ミューザも必死になって岩の赤子に斬りかかっている。
アリエルが岩の赤子のヘイトを取った。アリエルは回避を中心に立ち回り、隙を見ては、反撃を繰り出している。2発アリエルが被弾してしまったが、なんとか、岩の赤子を倒すことができた。一体に10分ほどかかったか。やはり格上の存在だったか。アリエルがポーションで回復する。
ディーベルドが装備の更新を提案してくれていなかったら今の岩の赤子で死んでいたかもしれない。そう思うとぞっとする。ディーベルドはときどき未来が見えているんじゃないかと思わせるような行動をする。
戦力の面でも、精神の面でも早くディーベルドと合流したい。それに、あのとき教室にいた他の3人も心配だ。こんな高位のダンジョン、死人が出てもおかしくない。
次に出てきたのは天使の輪っかのようなものがついた、赤子だ。
まだこちらに気がついていない。私がゆっくりと石柱を唱えるとぐしゃりとつぶれた。防御力が低いのか。こんなダンジョンだ。その分を補うなにかを持っているはずだ。油断はできない。
そのなにかが分かったのはすぐのことだった。
もう一体の輪っかつきの赤子が角から顔を出したのだ。
激しい雨のような光弾を撃ちだしてくる。アリエルが必死に横へ回避しつつ、その首を刎ねた。
「今の装備を更新していなかったら、身体を貫かれていたかもしれないな」
アリエルがポーションで回復しながらいった。
「ん。ディーベルドのお陰」
「すいません。浮いているからか音が聞こえませんでしたぁ」
「ん。気にしない」
無音で移動するような敵だ。ミューザの耳でも捉えることはできなくて仕方がない。
そうやって慎重に敵を倒しながら進んでいると、ミューザの耳がピンと立った。
「皆さん、誰かが戦っている音がしますぅ」
「急いで合流しよう。その誰かがモンスターにやられてしまってはいけない」
「ん」
ミューザの案内で、戦っている人の下へ急ぐ。
だんだんと私たちの耳にも剣戟の響きが聞こえてきた。
岩の赤子と必死になって渡り合っているのは、レイドだった。
私は石柱を放ってヘイトを奪う。その隙にアリエルとミューザ、それにレイドが攻撃を重ねて、倒した。
血が出ているレイドにポーションを渡す。
「ん。回復して」
「あ、ああ。ありがとう。それに援護してくれて助かったよ」
「騎士を目指すものとして当然のことだ。気にするな」
「ん。当然」
「どういたしましてぇ」
レイドを加えた4人パーティーでダンジョンを探索していく。
途中、レイドが我慢できなくなったかのように聞いてきた。
「君たちはディーベルドとどんな関係なんだ?」
「ん。ディーベルドは私たちの恩人でパーティーメンバー」
「ディーベルドが恩人か。君たちから見てディーベルドはいい奴か?」
なんでこんなことを聞くのだろうか。
「ん。いい人。誰かのために頑張れる人」
「そうか。やっぱり変わったんだな」
以前のディーベルドは違ったのだろうか。まあ、私の知っているのは今のディーベルドだ。
そんなことを話していると大広間のような場所についた。
輪っかつきの赤子が2体、巨石の赤子が2体いる。山場だ。そう感じた。
「輪っかつきの赤子は私の魔法で何とかする。3人で巨石のほうをよろしく」
私が見つかる前に石柱を詠唱する。まずはこれで一体を削る。それから、もう一体だ。
発動した魔法で輪っかつきの赤子がぐしゃりとつぶれた。もう一体。詠唱をしようとしても、光弾が放たれてうまく詠唱の隙ができない。ひたすら回避に徹する。ようやく柱に隠れて、石柱を詠唱する。もう一体の輪っかつきの赤子を倒せた。
巨石の赤子は鈍重だが、強靭で攻撃力が高い。レイドとアリエルが徐々に壁際に追いやられている。このままじゃあの手のひらのような頭に捕まってしまう。どちらを助けるべきだ。一瞬迷いが生まれる。その瞬間。
「ステラ。アリエルを頼む!」
ディーベルドがやってきた。私は言われたようにアリエルを援護するべく石柱を詠唱する。
ディーベルドが疾風のように巨石の赤子に近づくと剣で連撃を加えてヘイトを奪ってしまった。流石だ。
発動した石柱が巨石の赤子に突き刺さる。ヘイトをこちらが取った。ディーベルドが一体の巨石の赤子の攻撃を舞うように避けては反撃をしていく。私たちはヘイトをうまいこと奪い合って、壁際に追い込まれないように戦う。
そのうち、ディーベルドが巨石の赤子を倒して、こちらに援護に入ってくれた。
「皆、無事でよかった。レイド、クラリスとリーゼインは転移門のところに待機している。転移門のところへ行こう」
「あ、ああ。クラリスとリーゼインはそっちと合流していたのか」
「ああ。あべこべだな」
ディーベルドとレイドの間には何かあるのかもしれない。会話がぎこちない。
いくつもの広間を抜けて、転移門へとたどり着いた。これだけの広間をディーベルドは一人で駆け抜けてきたのか、相変わらずの実力だ。
◇
転移門のところに戻ると、クラリスとリーゼインがほっとしたような表情をしていた。君たちのヒーローは無事だったよ。俺のヒロインたちも無事だったので本当に良かった。
「あれ、転移門が復旧しているね」
「はい、先ほど回復したみたいです」
「じゃあ、いつまでもこんなダンジョンにいるのもどうかと思うし、さっさとでようか」
「はい」
クラリスとは気軽に話せるようになったな。その様子をリーゼインとレイドが怪訝そうに見ている。当然だろうな。
転移門から外に出た瞬間のことだ。
そこが、死地になったのが分かった。
そこにはノッド先生が自分の喉を斬って倒れていた。
ダンジョンの入り口が答えるように割れそうになっている。
そこから退行のレアラが出現して来ている。おいおいこんなイベント本当に知らないぞ。ボスモンスターが現実に出てくるなんて有りかよ。
それと同時にラッキーという気持ちがあった。ここはダンジョンの外だ。レアラが出現した同時にアイテム袋からボタン付きの箱を取り出した。
脳裏に説明書きが浮かぶ。
『時間停止ボタンレベル1―――所有者は1週間に1回、10分だけ自分と触れている者以外の時間を止められるぞ!※ダンジョン内使用不可』
俺は詠唱しようとするレアラを前にボタンを押した。
10分間ひたすら退行のレアラを一方的に攻撃する。とっくに瘴気に還っているだろうダメージ量だろうが、万が一もあってはならない。ひたすら連撃を重ねる。
そうして、10分後、瘴気に還る退行のレアラ。
俺のヒロインたちに手を出そうとしたんだ。当然の結果だ。
7大ボスだろうが、なんだろうが、かかってくるがいい。
俺こそがこのゲームの悪役なのだから。
申し訳ありませんが、このお話はこれで完結です。
ひとえに人気を出せなかった私の実力不足が原因です。
楽しんで読んでくださっている方もいるのに申し訳ありません。




