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下着泥棒

 月曜日の放課後、俺はカザリナと身体を重ねた後で、ゆるゆると睦み合っていたときのことだ。

 俺たちは貴族寮の俺の部屋で2人シーツにくるまっていた。


 カザリナが俺の腕の中にいて、俺の身体の輪郭をなぞるように触れている。

 俺は俺でカザリナの腰や尻を撫でていた。


 まったりとした至福の時間だった。


「ディーベルド、頼みがあるんだ」

「何だ?何でもいってみろ」


 俺はカザリナのためなら今日にでもラスボスに挑む覚悟がある。


「エールのことなんだが、どうも犯人に逃げられ続けているらしい」

「あのエール先輩とキーフィ先輩が?」


 意外な思いでそのことを聞いた。バッファーのエール先輩と格闘家のキーフィ先輩が組めば、大抵の犯人であれば捕まえられそうなものだが。


「うむ。どうも下着泥棒でな。すさまじい速さで逃げていくらしい」

「あー」


 風紀委員に関連するイベントで、そんなイベントもあった気がするな。それはともかくヒロインのエールが困っていて、カザリナの頼みであればなんとかせねばなるまい。


「任せておいてくれ」

「うむ。頼んだ」


 俺とカザリナはそっとついばむようなキスをした。


 その夜のことである。俺は風紀委員会を訪れていた。


「げっ。ディーベルドなのです」

「エールちゃん。ディーベルドさんこんばんは」

「エール先輩とキーフィ先輩、こんばんは」


 げっ。とは何事か。いい加減エール先輩には俺という存在に慣れてほしいものである。


 なんといっても今日はカザリナのお願いを聞いて風紀委員の支援にやってきたのだから、もうちょっと丁寧にもてなしてくれてもいいのに。


「さて、なんでも下着泥棒が現れたらしいですね」

「カザリナ先輩ぃ。……そうなのです。同じ時間に現れては、こちらを挑発するように走り回ったあげく、逃げて行ってしまうのです」

「はい。微力ながら協力させていただきます」

「よろしくなのです」


 時間は午後10時、辺りは真っ暗だ。俺たちは寮の付近で待機している。俺は事前に疾風(ウインドウォーカー)を唱えておいた。


「来たのです」


 目を凝らしてみてみると、身体を真っ黒な衣装に身に包んだ何者かが、各部屋へとひょいひょいと跳びあがり、女子の下着を盗んでいる。なんという大胆な犯行なんだ。見つかっても逃げられるという自信を感じさせる犯行だ。


「エール先輩こちらも確認しました。確保に向かいますので支援魔法をください」

「わかったです。移動支援(ムーブサポート)。頼むのですディーベルド」

「はい」


 俺はその何者かが、寮の外に着地する瞬間を狙って捕まえようと飛び出した。


「おっと危ない」


 ひょいと避けられる。こいつ、やるな。普通高所から飛び降りたら一瞬動けなくなりそうなものだが、そんなのを感じさせなかった。


 近くで見ると分かった。こいつは男の変態だ。パンツをマスクのように着て、ブラジャーをかぶっている。


「はっはっはっ。僕を捕まえられるかな」


 ディーベルドのダッシュ回避の性能は主人公とは一味違うぞ。


 俺は変態に並走した。変態は神速の世界に俺という異物が入ってきたことに瞠目している。


「何だとっ!お前も移動のアーティファクトを持っているのか」


 アーティファクト。現代の技術では作ることのできない傑出した装備品のことである。こいつそんなものを持っていたのか。そして、それを利用する方法が下着泥棒なのか。俺は悲しくなった。


「違う。実力と、移動魔法と支援魔法の力だ」

「ならば、負けるわけにはいかないな」


 俺たちはしばらく学園中を走り回った。移動スピードは奴の方が優れていたが、ダッシュ回避の距離と使用間隔の短いディーベルドがなんとか食らいついている感じだ。


 とはいえ、ここまでだ。


「止まってください。風紀委員のキーフィ・チアンです」


 奴が如何にスピードに優れていようとも方向を大きく変えるときは減速する。

 その黄金にも等しい一瞬を見逃さず。飛びかかった。


 確かに変態を確保した。暴れる変態はいう。


「君からも変態の波動を感じた。我々は同士だろう。見逃してくれないか」

「俺にとって下着は脱がすもので嗅ぐものではない」

「分かり合えないな……」


 俺が意識を刈り取り。変態は御用となった。


 エール先輩が追いついてきて、こいつの顔を開帳することとなった。俺はこいつが顔につけているパンツとブラをはぎ取った。


「こいつは3年生のタシギなのです。こいつの寮の部屋を捜索するです」

「そうですね。ディーベルドさん、ありがとうございました。タシギさんの身柄はこちらで預かりますので」

「はい」


 俺はこっそりと目を付けていた。こいつの靴を透明多腕魔法で奪い取った。こいつの靴だけ妙に威圧感があるのだ。恐らくこいつがアーティファクトだろう。


 後日聞いた話だが、タシギの部屋にはカラフルな下着であふれていたらしい。下着を取り戻した女子たちは、もうそんな下着は着けられないと、燃やすことにしたらしい。


 タシギは泣き叫びながら下着に勝手につけた名前を呼び続けていたらしい。今後のタシギ先輩の生活が心配される。


 俺はというと、報酬として獲得、奪ったともいう、靴を試そうと考えたが、はたと思い直した。これ、あの変態が履いていた靴なんだよな。


 俺はシャーリーに頼んで靴の洗濯をしてもらった。これであの変態の成分がなくなってくれるとよいのだが。


 次の日試してみると、羽根が生えたかのように身体が軽やかになった。走るとぐんぐんと加速していき、周りの風景が変わっていくし、跳べば校舎位なら飛び越せそうな感じがする。


 いい物を手に入れたな。靴には隼のマークが刻まれていたので隼の靴と呼ぶこととする。


 部屋に帰ると、部屋のドアノブに何かが吊るされていた。


 可愛らしい包装とメッセージカードが添えられている。


 メッセージカードに目を通した。


『ディーベルドへ

  この間は、協力してくれてありがとうなのです。

  お礼にクッキーを焼いたのでよかったら食べてください

                       エールより』


 エール先輩は律義だな。


 包装を開いて中を見ると、丸や四角のクッキーが入っていた。流石にハートマークのクッキーはなかったか。


 シャーリーに紅茶を入れてもらってクッキーを食べる。


 俺には少々甘すぎたが、これが事件解決の報酬だと思うと、この甘さもいいもののように感じた。

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