薔薇と百合
日曜日ののどかな昼下がり、午前は勉強にダンジョン探索を行った俺は、午後はのんびりと学園内の散歩をすることにした。
思えば、先生による学校案内のみで学園の中をゆっくりと見る機会がなかったのだ。
主人公のレイドが数々のヒロインとであった聖地ともいえる学園をせっかくだから見て回ろうと思った。
おお、ここがあのイベントがあった場所かなどと考えながらあるいていると、突如「アーッ」という男の悲鳴が聞こえた。
男の悲鳴か。やる気がそがれる思いだったが、悲鳴が聞こえた普段は人気のない空き教室に向かった。
空き教室の前にがっしりした男が立っている。
「すまないが、この教室から悲鳴が聞こえた。中を改めさせてくれ」
男が答える。
「だめだ。この教室は我らが約束の地だ。限られたものしか立ち入りできない」
ゲームではこんなイベントなかったんだがな。何はともあれ入れてくれないらしい。
レベルの差で無理やり押しのけて、教室の扉を開いた。
裸の男たちが絡み合っていた。今も腰を振っている男がいる。
中の男たちがいった。
「ディーベルド・ミッドフィルド!?君も同士だったなんて!なんたる僥倖なんだ!さあ、ともに愛を深め合おう!」
「いいえ。違います」
即座に扉を閉じた。なんだただのハッテン場か。
男がいう。
「だからいったではないか。限られたものしか入れないと。ディーベルド・ミッドフィルド。もしここの場所のことをバラしたら……我々はお前の尻を狙うこととなるだろう」
俺は震えあがった。こんな恐ろしい思いをしたのはこの世界に来て初めてだった。
「あ、ああ。決して他言はしない。悲鳴もただの喘ぎ声だと確認できたことだしな。失礼した」
「ああ。お互い嫌な思いはしたくないものだな」
「ははは……」
「はっはっは」
お互いに笑いあった。解決ということにしてくれ。
俺は早々と立ち去った。まだ動悸がする。あんな世界がエロゲの世界に広がっているのか。まあ、性におおらかなのはいいことか。
俺は自分を納得させた。
俺は自分の見た光景を上書きするため売店で食べ物と飲み物を買い込んで中庭の草花を見て心をいやした。そういえば、シャーリーはワッフルが好きっていっていたな。ついでにワッフルを2つ買ってアイテム袋に仕舞っておく。
よし、シャーリーのことを考えていたら心が癒された。聖地巡礼を再開するとしようか。
校庭の体育用具室に近づいたときのことである。
「……めて……さい」
「いい……だま……また………け」
プレイの一環であれば問題ないが、穏やかな状況じゃなさそうだな。
俺は体育用具室をがらりと開くと、そこには2人の裸の女と、ズボンを脱いだおっさんがいた。
悪いのはおっさんだろ。俺は冴えた判断をして、おっさんを蹴飛ばした。一撃で気絶をする。よわっ。
俺は女たちに背中を向ける。ごそごそと衣擦れの音がする。
「あんた。もうこっちを向いていいよ」
藍色の髪をした鋭い目つきの女と茶髪の柔らかな目をした女の2人が制服を着てそこにいた。見たことないな少なくともネームドキャラじゃない。
「あたしは助けてくれなんていっちゃいないからね」
「レンナちゃん……」
「別に俺も助けたなんて思っていない。だが、事情を話してくれれば力になれるかもしれないぞ」
鋭い目つきのほう、レンナ呼ばれていた、が怪訝な顔をする。
「あの傲慢のディーベルド・ミッドフィルドがかい?」
ここでも過去の俺が邪魔をしてくるか。
「どうせ、何かの理由で脅されているんだろ。その原因を排除しなければ、お前とその女は同じ目に遭うことになるぞ」
レンナは随分と考え込んで話し始めた。
「あたしとこの子、カレンは恋仲でね。愛し合っていたところをこの男が盗撮しやがったんだ。それでこの写真をバラまかれたくなければ俺の玩具になれときたもんだ」
「なるほど」
今日はよくよく同性愛に縁がある日だな。
俺は透明多腕魔法で男が何か持っていないかを確認する。……流石に持ってきていないか。
「事情は分かった。2時間後ばかり後に、中庭に来い」
俺は男にピンク色の錠剤の媚薬を飲ませた。そして透明多腕魔法でさっきのハッテン場に引きずっていく。
がっしりした男と再会した。
「どうしたんだ。ディーベルド・ミッドフィルド。その男は?」
「女を脅して、無理やり犯そうとしていた男だ。せっかくだからこの機会に男の魅力を教えてやってほしい」
「つまりは好き放題していい悪人ということだな。この男体育教師のイクタ先生だな」
エロゲの体育教師なんてろくでもないな。
「同志たちもよろこぶぞ」
がらりと扉を開く。裸の男たちが見えた。
「おい!今日は祭りだ。女を脅す卑劣な男を好き放題していいぞ」
中から歓声が上がる。
「では、この男を頼んだ」
「うむ。祭りの素材の提供をありがとう」
「どういたしまして」
「「はっはっはっ」」
俺たちは笑顔で別れた。
俺はシャーリーの下に行くと、体育教師のイクタ先生の部屋の捜索を命じた。女を脅せそうなやつを片っ端からかっさらってきてくれと。
「かしこまりました」
1時間半後、写真の束を持ってシャーリーは戻ってきた。
「その写真の中から藍色の髪の目の鋭い女と茶髪の柔らかい目をした女が映っているのを探してくれ」
「少々お待ちください……こちらの写真ですね」
「他の写真は、処分させておけ。シャーリーはその写真を持ってついてこい」
中庭に行くと不安そうにしているレンナとカレンがいた。
気を張っていただけでやはり不安だったのか。
俺はシャーリーを連れて2人に近づく。
レンナがカレンを庇うように立ち上がった。
「シャーリー、写真を渡してやれ」
「はい」
シャーリーが例の写真をレンナに渡した。レンナは写真を見ると驚いたように目を見開いた。
「どうして、この写真が……」
「うちの使用人たちにイクタの部屋を捜索させた。これでもう脅される心配もないだろう」
「……どうしてここまでしてくれるんだい?」
「うーん。なんとなくだな」
「なんとなく」
「なんとなくだ。心に余裕があって、それができる状況にあっただからやった。なんとなくだな」
「あんた、噂のディーベルド・ミッドフィルドとは違いすぎるよ」
「入学式の日に心を入れ替えたんだ」
「そうかい。本当にありがとう」
「ありがとうございます」
2人して俺にお礼をいうレンナとカレン。どうぞお幸せに。
俺とシャーリーは中庭に取り残された。
「シャーリー、座れ」
「はい」
シャーリーをベンチに座らせる。俺も隣に座る。
「今日は存分に働いてくれた。褒美をやろう」
俺はワッフルを2つ取り出すと、1つをシャーリーに渡した。
ぽろりとシャーリーが涙を流した。えっ!どうした。
「どうした。なにかあったか?」
シャーリーはハンカチで涙を拭うと、こちらを見つめていった。
「こうして貴方とワッフルをまた食べることができたのが嬉しくてつい」
「そうか」
嬉しくて泣いたのなら、まあいいだろう。
こうなってくると、ディーベルドとシャーリーの過去がどのようなものだったのか気になるな。何とかして調べる方法はないものか。
俺とシャーリーは夕暮れの中、2人で並んでワッフルを食べた。
後日譚だが、イクタ先生は媚薬と大勢の男たちに開発されるという異常事態から男色に目覚めて、ハッテン場の管理人をすることになったという。自分も参加するときは轟音のような喘ぎ声を上げたという。
その頃には女生徒にはもう目をくれずに、被害に遭う女生徒はいなくなったらしい。
被害に遭う人はいない。本人は幸せ。万事解決である。




