メイドたちのレベリング
俺の前には一通の手紙があった。
実家のミッドフィルド家から来た手紙だ。
そこには俺を心配する言葉と夏季休暇には顔を出して安心させてほしいということ、そしてシャーリーを俺個人のメイドにしたければ今年度の学内闘技大会で優勝することを条件とする旨が書かれていた。
学内闘技大会で優勝か、本来は周回主人公向けの条件といっていいものだが、ディーベルドの能力に加えてアルティメがある。レベリングをしっかりとしていけば何とかなるかもしれないな。
いや、何とかしなければならない。とっくにシャーリーは俺のヒロインなのだ。負けるわけにはいかないな。とはいえ、学内闘技大会は9月のイベントだ。当面はレベリングとか装備の強化をしていくしかないな。
俺は手紙を机に仕舞った。そして今週の勉強の復習を再開した。
「ディーベルド様、今よろしいでしょうか」
シャーリーか。ペンをペン立てに置く。
「大丈夫だよ。どうしたんだ」
シャーリーが扉を開くとそこにはメイド服を着たエリス・クリシャとミリス・クリシャがいた。亜麻色の髪とぱっちりとした茶色の瞳の美少女たちがメイド服に身に包んでいる。うん。かわいいな。
「今日から働き始めるのでご挨拶をと思いまして」
「エリス・クリシャです。本日からメイドとしてお世話になります。ディーベルド様、よろしくお願いします」
「ミリス・クリシャなの。本日からメイドとしてお世話になるの。ディーベルド様、よろしくお願いしますなの」
「ミリス、しゃべり方」
「いや、そのままでいいよ。俺が許可する」
ゲームでもその話し方だったし、変えてしまったらもったいない。
「シャーリー、2人はいつから編入することになったんだ?」
「明後日の月曜日からですね」
「そうか。2人には当面学業を優先させて、メイド修業はほどほどにな」
シャーリーは仕方ない子を見る目で俺を見た。
「かしこまりました」
それにしてもこの子たちが、制服を着て学園に通うのか。ミッドフィルド家の関係者だと分かるようにしても、何らかのトラブルに巻き込まれるかもしれないよな。
よし、レベリングしておくか。ゲームではクリシャ姉妹はダンジョンに連れていけなかったが、この世界の住人であるならレベルの上昇があるはずだ。
「シャーリー、エリス、ミリスの3人を今からダンジョンに連れて行こうと思う。力量を高めておきたい。何かがあってはいけないからな」
ますますシャーリーの表情が仕方なさそうにしている。しかし心配なんだから仕方ないだろ。
「かしこまりました。ミッドフィルド家の使用人の装備を身につけてまいりますので寮の前にて待ち合わせでよろしいでしょうか」
「分かった」
俺が装備を整えて、寮の前で待っているとメイド服を着たままの3人がやってきた。
「あれ?使用人の装備は」
「ご主人様これは決戦用のメイド服です。特殊な繊維で編まれておりますので、鉄のように乙女を守ってくれます」
「ミッドフィルド家は使用人に一体何を求めているんだ?」
「さあ」
本当に謎である。
それはともかくとして、本日行くダンジョンは中庭にある上級ダンジョン試練の塔である。このダンジョンの面白いところは雑魚敵がでない。ボスモンスターを倒しながら塔を登っていくのである。
つまりは、レベリングに最適であるということである。今日はここを周回するつもりだ。5回も回せば、そこらの生徒よりかは強くなるだろう。
◇
正直いってダンジョンに行くというのは怖かった。シャーリーさんとミリスは怖がっていないようだったが、命を落とすかもしれないようなところだ。怖いに決まっている。
転移門を抜けた先は、神殿の中のような場所だった。奥には絵本に出てきたようなデーモンがいる。漆黒の身体、棘のような体毛、なんでも引き裂きそうな爪。ここにいるだけで震えてしまうような迫力がある。
「ここからは俺だけが戦う。そこから動くなよ」
ディーベルド様はそういって、デーモンに向かって疾駆した。デーモンは漆黒の魔法の弾を周囲に浮かべた。
「あ―――」
危ない。そう口に出しそうになった。ディーベルド様はなんら気にせず疾駆すると、雨のように降り注ぐ魔力弾の中に突っ込んでいった。
ディーベルド様は、ときに姿が霞むほどの速度で加速し、ときには剣で魔法を切り捨てて接近する。す、すごい。その勢いのまま、デーモンの腕を切り落とした。
デーモンは叫び声を上げながら剣を召喚して薙いだ。ディーベルド様は盾ではじき返すと、今度は足を切り落とした。たまらず態勢を崩すデーモン。
ディーベルド様は、倒れこんだデーモンの角に手を掛けると、そのまま首を刎ねた。
圧倒的だ。私たちは思った以上にすごい人に仕えることになったのかもしれない。
シャーリーさんとミリスは目を輝かせてみていたが、私はちょっと怖かった。強すぎる。
デーモンを倒した途端、階層の中央に魔方陣のようなものが浮かび上がった。ディーベルド様が近づいてくる。
「ここは各階層の守護者を倒すことで次の階層への転移魔方陣が出てくるんだ。行こう」
「かしこまりました」
次の敵はエルダーリッチだった。闇を纏ったようなローブに漆黒を宿した眼窩をした骸骨。そして赤く脈動するコア。これも絵本に出てくるようなモンスターだ。
ディーベルド様は剣閃を飛ばして、浮遊しているエルダーリッチを攻撃する。
エルダーリッチはすさまじい魔法を使ってディーベルド様を狙うが、ディーベルド様はとても速く、魔法を避けていく。
エルダーリッチはどこかを傷つけられたのか、ゆっくりと落下してくる。その隙にディーベルド様はエルダーリッチのコアを斬り捨てた。
「次で敵は最後だ。行こう」
やった。次で最後なんだ。
最後の敵は腐った身体を持つドラゴンだった。名前を付けるとしたらドラゴンゾンビだろうか。ドラゴンゾンビが前脚を持ち上げて地面を叩くと、紫色の魔力の波が襲ってきた。私たちの前に立ったディーベルド様が漆黒の剣で波を切り裂いた。
ドラゴンゾンビは手でなにやら詠唱している。その前にディーベルド様が、ドラゴンゾンビの身体を切り裂いていく。詠唱が唱え終わり、ディーベルド様の周囲が爆発した。ディーベルド様!?
ディーベルド様は血にまみれながら、剣を振るっている。
鉄をも引き裂きそうな爪も、なんでも砕いてしまいそうな咬みつきディーベルド様は霞むような速さで以て避けていく。逆にドラゴンゾンビに反撃を食らわせていく。
そしてついにドラゴンゾンビの首を斬り落とす。す、すごい。ドラゴンを倒してしまうなんて。
シャーリーさんが近づくと、ディーベルド様の血を拭いた。
シャーリーさんはディーベルド様のことが本当に大切なんだなと感じる場面であった。
「それじゃあ、これを5回くらい周回するから」
えっ!……ディーベルド様は本当に5回も同じ敵たちと戦った。戦いは重ねるたびに洗練されたものになっていた。す、すさまじいです。
◇
これで、クリシャ姉妹もそこらのナンパ野郎ならのしてやることができる力量を身につけたことだろう。シャーリーに聞いたところミッドフィルド家の使用人なら護身術も必修科目らしいし。一体何なんだ。ミッドフィルド家の使用人。
流石に疲れたのでベッドで休んでいると、扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼しますなの」
意外なことにそこにいたのはミリス・クリシャだった。
「どうしたんだ?ミリス」
「お礼を言いたくて来たの」
「お礼?」
レベリングのではないだろう。無理矢理メイドにした俺にいうお礼などないと思うが。
「お姉ちゃん。学園に通うのが夢だったの。父親の借金が分かってそれどころじゃなくなって必死に働いていたけど、一番ショックだったのは学園に通えなくなったことだったかもしれないの。それをディーベルド様がなんとかしてくれたからお礼をいいにきたの」
そうだったのか。それは知らなかったな。ゲームでは語られなかったことだ。
「俺は、俺のメイドに優秀になってほしくて学園に通わせるだけだ。お礼を言われる筋合いはないな。精々ゆっくりと学んでいくといい」
ミリスがくすりと笑う。
「ディーベルド様は仕方ない人なの」
それは随分と大人びた笑みだった。




