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シャバンラ

 水曜日の放課後だ。


 石化病の治療法は研究機関に送りつけておいた。

 これでこの世界で石化病に苦しんでいる人の助けになるだろう。


 俺はクラスメイトのステラとともに集合場所の玄関へと向かう。


 アリエルとミューザは早くに授業が終わっていたらしく、既に来ていた。

 そんな2人が会話している。


「それでですね。ダンジョンの中で視線を感じるっていうんですよぉ。なのに周囲を見回しても誰もいなくて。不気味だって噂になっているんですぅ」

「私たちはいまのところダンジョンでそのような気配を感じたことはないな」


 なるほど。期せずしてイベントの情報を聞いてしまった。本来であれば、学内人気度を上げて、主人公がそういった情報を仕入れることになる。しかし、ミューザの耳であれば、情報を入手しやすいのか。


 まあ、なんにせよ。今日のやるべきことは違う。俺は2人に声を掛けた。


「授業お疲れ様」

「ん。お疲れ様」

「お疲れ様ですぅ」

「ディーベルドとステラお疲れ様。早速だが、今日はどのダンジョンに向かうつもりだ?」


 アリエルの強さに対する執着は相当なものだな。会ってすぐ今日の予定を聞いてきた。もったいぶるつもりもないため、すぐにいった。


「今日はシャバンラのダンジョンに行くつもりだ」

「シャバンラ……どのようなモンスターが出るんだ?」

「シャバンラには、キマイラ、ウインドチーター、ホワイトライノサラス、バイオレントカウ。ボスモンスターとしてグリフォンが出るらしいな。注意点としては、キマイラは獅子、山羊、蛇はそれぞれヘイトが独立しているから俺の攻撃を良く見て攻撃してくれ。ウインドチーターは奇襲による一撃が怖いが、そこはミューザに任せる。ホワイトライノサスとバイオレントカウはそれぞれ集団戦闘になる。俺がまとめてヘイトを奪うから、一体一体確実に仕留めるようにしてくれ。分かったか」


 こくりと頷く3人。大丈夫そうだな。行くとするか。


 ◇


 シャバンラは赤茶けた土に背の低い木々や少しの草が生えたような光景だった。私は奇襲に気をつけて耳をそばだてた。ディーベルドがいっていたウインドチーターからの攻撃を防ぐことが今回の私にとって一番の仕事となるだろう。


「それじゃあ、キマイラが早速いるから行くか」


 ディーベルドがそういって、気軽にキマイラの方に足を向ける。キマイラなんて絵本に出てくるような怪物だ。そんな気軽に戦うようなものでもないと思うが。ディーベルドの顔に不安の色はない。


「ミューザ、ウインドチーターは戦闘中にも乱入してくる可能性がある。足音にだけは気をつけてくれ」

「分かりましたぁ」


 やはり、ディーベルドもウインドチーターを警戒しているようだ。私たちのパーティーはディーベルドを中心に回っている。ディーベルドが敵を受け持って、その隙に私たちが攻撃する形だ。そうしなければ、私たちはダンジョンで命を落とすこととなるだろう。


 それだけ危険なダンジョン攻略をしている。私には、その危険なダンジョンに挑むに足る理由がある。お金だ。危険度の高いダンジョンになればなるほど学内掲示板の依頼達成報酬が増える。このダンジョンは前に行っていたエーデル平野よりも上といっていいダンジョンだ。それだけ報酬が期待できる。


 アリエルもダンジョンを通じて目指す目的がありそうだ。攻略に積極的だ。理由は強さだろうか。


 ステラは、意外と分かりやすい。ディーベルドと一緒に居たいのだろう。


 理由が分からないのは、ディーベルドだ。恵まれた家系、優れた能力。彼ならこのような危険なダンジョン攻略をせずとも、一年後には楽勝でこのダンジョンを攻略できる力量を身につけているだろう。今の戦いは結構危険なことをしているはずだ。卓越した技量がそれを感じさせないが。まるで私たちのためにダンジョン攻略を急いでいるようだった。不思議な人である。


「蛇、山羊、獅子の順で倒す。蛇は毒の霧、山羊は広範囲魔法を持っている。十分に相手の挙動に気をつけて食らわないように立ち回ってくれ」

「ん、分かった」

「分かった」

「分かりましたぁ」


 さあ、怪物への挑戦だ。


 ディーベルドが早速とばかりに獅子の頭を斬った。苦痛の声を上げる獅子、爪で反撃した。ディーベルドは読んでいるとばかりに回避すると、獅子、山羊、蛇を斬っていく。


 3つの頭にヘイトを向けられたディーベルドは恐れることなく果敢に攻めていく。

 獅子の爪も、山羊の魔法も、蛇の毒霧もディーベルドを捕らえることができない。ディーベルドがそれだけ俊敏に立ち回っているのだ。私とアリエルはキマイラの隙を見ては、蛇身へと切り込んでいった。ステラもうねる蛇の身体を狙って火矢(ファイアアロー)を打ち込んでいる。


 とうとうそのときが来た。蛇身が断ち切られたのだ。痛みに呻くキマイラ。ディーベルドは隙を逃さない。山羊の頭に乗ると、剣を首に突き刺して切り払った。これで山羊も倒した。これで残すは獅子のみだ。


 ディーベルドは獅子の攻撃を正面で一撃一撃緻密に回避しては反撃を入れていく。私たちは沈黙した胴体に連撃を入れていく。ディーベルドは避ける。反撃をする。攻撃を入れる。避ける。反撃する。相手の行動を手玉にとるように攻撃している。

そうして、ステラの火矢(ファイアアロー)によってキマイラは瘴気に還っていった。


 キマイラの細胞がドロップする。ディーベルドがアイテム袋に回収する。流石に激戦だった。最近ではサイクロプスやギガンテスに慣れていたから新しい敵に緊張した。


 ディーベルドの指示で改めて索敵をする。北の方から、ドスドスとした群れの足音が聞こえてくる。恐らくホワイトライノサスかバイオレントカウだろう。そう伝えると、ディーベルドは軽い足取りでそちらの方に近づいていく。


 いたのはがっちりとした体つきをした牛たちだった。あれがバイオレントカウ。さっきの足音はバイオレントカウの足音だったのか。覚えておこう。


 ディーベルドは立ち止まった。手に魔方陣を展開させている。


雷之雨サンダーレイン


 そう唱えると、雷が雨のようにバイオレントカウたちに降り注いでいく。ディーベルドは魔法も使えるのか、そういえばステラと魔法学で一緒だといっていた。


 雷に撃たれたバイオレントカウたちは、激昂して術者であるディーベルドに突撃していく。ディーベルドはひらりひらりとバイオレントカウたちの攻撃を避けては無差別に攻撃を返す。笑っている。何やらこの戦いが楽しいらしい。ディーベルドにとっても格上の相手と戦っているはずなのに……変な人だ。


 私たちはディーベルドが奪ったヘイトをこちらに向かないように気を付けつつ、一体一体片付けていく。一度、私がヘイトを向けられて、ひやりとした場面があったが、ディーベルドが間に割って入ってバイオレントカウの突撃を回避してカウンターを入れて、ヘイトを奪い返した。足を引っ張って申し訳ない気持ちになる。


 最後の一体を倒した後に、バイオレントカウの皮と肉を回収しながらディーベルドがいった。


「気にすんな。俺がなんとでもしてやる」


 いや、気にします。ディーベルドにとってはなんということではないらしいが。


 最後にまた別の群れの足音の下に案内しようとしていたときのことである。軽やかな足音が聞こえてきた。


「ディーベルド!左から何かが走って近づいてきています!」

「分かった。ウインドチーターかもしれない。全員警戒してくれ」


 ディーベルドは先頭に立つと盾を構えた。


 全身エメラルド色のチーターが風のような速さで襲い掛かってくる。

 ディーベルドは盾ではじき返すと、あっさりととどめを刺してしまう。ウインドチーターの毛皮を回収しながらいう。


「ミューザ。助かった。あいつは攻撃力が高い。パーティーの誰かがこいつに襲われると危ないからな、これからも注意してくれ」

「分かりましたぁ」


 今のウインドチーターの足音。しっかりと耳に残しておこう。ディーベルドはなんとかしてしまいそうな気配があるが、私たち3人が襲われてしまったらことだ。


 そしてシャバンラ最後のモンスター、ホワイトライノサスを発見した。真っ白で大きなサイだ。ディーベルドはここでも魔法を唱えた。


雷之雨(サンダーレイン)


 この戦いではディーベルドは今までにない戦い方をした。いつもの避けては剣でカウンターをするのではなく、避けてから魔法を唱えて「雷之雨(サンダーレイン)」を放っている。疑問に思いながらも隙を見てホワイトライノサスを攻撃したときに分かった。この子、とても硬い。まるで鎧をまとっているようだ。こちらの攻撃が通っている感じがあまりしない。


 私とアリエルは苦戦しながらこの硬い敵と戦うことになった。この戦いではステラとディーベルドの魔法が頼りだ。ゆっくりと時間をかけて倒していく。ドロップしたホワイトライノサスの皮をディーベルドが回収していった。


「今ので、このシャバンラに出現するモンスターを一通り倒したな。感覚はつかめそうか?とりあえず今日と明日はこのシャバンラを周回していこう」


 そんなことを気軽にいう。ス、スパルタですぅ。


 そんな不満も、学内掲示板の依頼達成報酬金額の大きさで消し飛んでしまった私も現金だ。


 明日も頑張ろう。

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