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怪物

「ヒッポカムポス!勝負をしようぜ」

『勝負と賭けの内容はなんだ。召喚主よ』

「俺は左端の小舟から落としていく。お前は右端の小舟から落としていく。どちらが先に中央の帆船にたどり着けるかだ。俺が負けたら、いつかお前が納得する宝物を精霊湖に持っていこう。俺が勝ったら、俺が生きている間は名前を呼ぶ権利をくれ」


 ヒッポカムポスはさも面白そうに、愚か者を見る目で笑う。


『海で我にそのような勝負を挑むとはな。いいだろう。面白い召喚主よ。我を納得させる財宝は中々ないだろうが』

「さあ、どうだかな」


 少なくとも俺にはいくつかは思い当たるアイテムはある。それに負けるつもりもない。


「いくぞ」

『ああ』


 俺は左端の小舟へ向けて海上を走り抜けた。


 俺が左端の船にたどり着いたときにはヒッポカムポスは既に3隻ほど沈めている。

 逆転はここからだ。海上を走ってくる俺に慌てて槍を突く私兵。前方にダッシュ回避、ありがたく利用させてもらう。発動したジャスト回避で小舟に乗っている3人の首筋を叩いた。おっと、盾を持っている奴がいる。貰っておこう。


 続く小舟には弓使いが乗っていた。矢がこちらに飛んでくる。切り払って近づく。接近する俺に慌てて次の矢をつがえる。そして放たれる矢をすり抜けるようにダッシュ回避。ジャスト回避が発動する。緩やかになった時間の中で、また3人の首筋を叩く。


 俺を目掛けて、帆船から放たれる大砲。……仲間の命は無視かよ。大砲の弾をパリィして、跳ね返した。


 小舟の攻略に戻る。次の小舟に近づくと剣を抜いた男たちがいた。剣を振り上げるのが遅い。3人の胴を抜いて、次の船に。

 次の小舟には斧使いがいた。斧使いは恐怖したのか、俺目掛けて斧を投擲した。勿論タイミングを合わせてジャスト回避、小舟の3人を強かに打った。


 さあ、これで4隻目だ。追いついたんじゃないか。ちら、とヒッポカムポスを方を見ると、海水を使った嵐を作って小舟をまとめて転覆させようとしていた。ず、ずるい。そんなんだったら俺も魔法を使わせてもらおう。透明多腕魔法使って、倒れた奴らから武器を奪った。峰や腹を使えば、運が良ければ死ぬことはないだろう。


 俺はこの勝負に勝つために本気を出した。


 ◇


 ある私兵の視点


 ガキを一人殺すだけの簡単な仕事だと聞いていた。一人殺すためにこんなに人数を揃えるなんて大げさだって仲間内では言い合っていた。けど、戦いの幕が上がって分かった。こんな数では足りないと。


 開幕後、ガキが怪物を呼び出すと、2方向に分かれた。ガキは右翼の端から、怪物は左翼の端から次々と小舟に乗った奴らを倒していく。小舟に乗った奴らの攻撃を苦にもせず、次々と制圧されていく。


 怪物が海の嵐を作って、次々と小舟を転覆させていく。私兵たちは嵐によって打ち上げられたり、溺れかけたりしつつ必死に転覆した船にしがみつく。


 ガキはそれを見て、小舟から八本の武器を奪って、宙へ浮かべる。帆船に向かって走ってきており、ついでとばかりに小舟に乗る私兵たちを縦横無尽に舞う武器が襲う。


 俺は気がついたら震えていた。がちがちと歯が鳴っている。見れば分かる。あいつらは俺達を恐れていない。敵として見ていない。この数の差を見たうえで、自身が勝つことを疑っていない。その証拠にほとんどの私兵たちは生きている。手加減をする余裕があるのだ。


 100隻はあった小舟ももう半分以上制圧されている。奴らがこの帆船に近づいてきている。


マルコ様が悲鳴のように叫ぶ。


「ディーベルト・ミッドフィルドだ!人間の方を狙え!あれは召喚された怪物だ。ディーベルトが死ねばいなくなる。もっと矢と大砲の密度を上げろ!」


 弓兵や砲兵たちは全力で矢や砲弾を放ち続けている。あいつらもこの恐怖を感じているのだろう。だが、ガキには当たらない。当たるのは味方ばかりだ。やっと当たると思っても矢は切り払われ、砲弾は盾で打ち返される。あんな化け物に勝てるはずがない。


 そうしてとうとう、その時がきた。海面を飛んだガキが甲板に足を踏み入れた。俺は必死になって槍を突きだした。瞬間意識が―――。


 ◇


 海面を跳躍して、甲板に降り立つ。降り立った瞬間を狙って槍を突きだしてきた私兵がいたのでジャスト回避を利用して、周囲の私兵たちを巻き込んで倒した。


「っしゃ!見たか。ヒッポカムポス!俺の勝ちだ!」

『ずるいぞ!召喚主。我は倒した奴らから武具やお宝を回収しておった。召喚主はまるで無視しておったではないか』

「そんなの俺の勝手だろ。勝ったのは俺だ。名前を呼ぶ権利はもらうからな」

『いいだろう。だが、我が活躍できる戦場でのみ召喚するのだぞ!我は主が拾わなかったものを拾ってくる。その帆船は主ひとりで片付けるのだな!』


 怒ったようにして、海中に潜っていくヒッポカムポス。怒っていても主と呼んでくれるあたり、義理堅いというか約束に対して厳格な奴だ。


 ヒッポカムポスとそんな話をしていると、俺の周囲は私兵に囲まれて剣の檻と化していた。一斉に切りかかろうとしている。俺は目の前に走って距離を潰す。焦って振り下ろされた剣に対して後ろにダッシュ回避をした。ジャスト回避発動。目の前の3人を木剣で殴りつけた。


 囲みから抜け出て、片っ端から殴りつけていく。相手から出される攻撃を避けて、弾き、ときには受けて対応する。そうやって四半刻……30分が過ぎた頃には私兵を全員昏倒させた。


 まず、甲板の端っこに固まっている魔法庭球部どもに近づいていく。

 何も言わずに殴りつけた。


「「「「「お゛」」」」」


 汚い喘ぎ声をあげて倒れる。


 後部高甲板への階段を上っていく。上がった途端、クラリスに乱暴をしようとした、名前の知らない方が切りかかってくる。遅すぎる。パリィをしてヤクザキックをかます。ゲロを吐いて倒れこんだところに後頭部を踏みつけた。……どうやら意識を失っているらしい。これで死なれてもどうかと思うので、横向きになるように蹴り飛ばした。


 さて、残るはマルコ・コーザだけか。


 あれだけ威勢がよかったマルコ・コーザはもう命乞いしかしない。


「た、助けてください。何でもします。何でもしますから」


 股を濡らして必死に俺から離れようとする姿は滑稽だ。


「もう二度とお前に逆らわない。何でも言うことを聞く。だから許してください」

「ふーん」


 こいつはもう貴族として終わっている。許すも許さないもない。


「そ、そうだ。リーゼイン・レシフィスだ。あの女をモノにするために俺も協力する」


 俺は全身を燃やす怒りを抑えるのに必死だった。ヒロインの幸せを邪魔するといっているのだ。こいつは。


「そう」


 無表情に返答する俺に手ごたえを感じたのか、ペラペラとしゃべり続ける。


「そうだ。薬をつかってもいいし、人を使って無理やりものに―――」

「お前、もう喋るな」


 手がすべって殺しそうになる。さっさと木剣で意識を刈り取った。


 俺が船上でぼんやりしていると、海上にヒッポカムポスがひょいと顔を出す。


『この度の戦い。良き蹂躙。良き収穫であったぞ。また会おうぞ!』


 そう言い残して帰還していった。ヒッポカムポスと話していると脱力してきた。俺は海上歩行の加護が切れる前に転移門のある岩礁に帰る。


「ホーマ先生!無事ですか」

「ミッドフィルド君!君こそ無事か!?」


 姿隠しを解除して、姿を現すホーマ先生。無事でよかった。


「俺はちょっと怪我をした程度ですよ。ホーマ先生の方は大丈夫でしたか?」

「一度矢が飛んできたが、君の風護が弾いてくれたよ。ありがとう」

「いえ。お互い無事で何よりです。敵は制圧しました。転移門の修復は可能ですか?」

「あちら側からもしていると思うが、こっちからもつなぎ直してみよう」


 転移門の修復作業に取り掛かるホーマ先生。そうするとすぐに転移門が起動した。起動した途端、警察が駆け込んできた。ことは侯爵家次男の暗殺未遂だからな。警察の介入を拒否できなかったのだろう。


 ◇


 観客席で見ていた人々は思った。怪物だ。


 何百もの敵を相手に大した怪我もなく、容易く制圧してしまった。戦いの規模に対して死んでいるであろう人の数が異常に少ない。終始ディーベルト・ミッドフィルドは手加減を行っていたからだ。その余裕があったのだ。


 実力が違いすぎる。英雄なんて華のある戦い方ではなかった。淡々と敵兵を処理していく様は、まさしく怪物のようだった。あれがディーベルト・ミッドフィルドの本質であるのならば、怠惰なままでいてほしかった。


 観客席の、特にこの学園の生徒たちは願った。どうかディーベルト・ミッドフィルドに目をつけられませんように。

 願っている生徒たちは気づかなかった。怪物のように戦う姿に目を輝かせている者たちがいたことを。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほま先生もヒロインになって主人公ハーレムの仲間入りをしましょう。
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