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水上模擬戦

 いやあ、エーデル平野はいい稼ぎ場だったな。ゲーム時の感覚にはなるが、アリエルとミューザの目標値の3分の1くらいはこなせているだろう。今週中には、次の段階のイベントを発生させることができるだろう。

 

 今日は水上模擬戦の日である。大して心配はしていないが、ここで勝利することで学内人気度の上昇が見込めるイベントだ。アリエルとミューザの件でまだまだ学内人気度が低いことが分かった俺としては、是非とも勝っておきたい行事だ。


 教室に張り出されている対戦表を見に行く。ゲームのレイドは名前があるキャラクターとランダムまたは指名して戦うことになる。ディーベルドになった今ではどうなるのだろう。俺が対戦表に近づくと、自然と人が割れた。そんなに怖がらなくても。学園に入ってからは、そんな悪さをした覚えもないというのに。


 俺の対戦相手は、マルコ・コーザだった。はあ?相手にならない上に、今のあいつは引きこもっているとか聞いたぞ。……不戦勝かな。ここで考えても埒が明かないので、水上模擬戦を観戦ができる会場に移動する。ここで先生がつけた魔メラが映し出した写真を、ここで解説されるのである。パラパラマンガとか活動写真のようなものだ。


 司会が解説して、観客を楽しませるというわけである。ぼんやりと会場を見ていると、近くにステラ、アリエルとミューザが来た。


「おはよう」

「ん、おはよう」

「おはよう」

「おはようございますぅ」


 三者三様の挨拶が返ってくる。アリエルとミューザが自ら近づいてきてくれるとは、随分と打ち解けられたな。


「ディーベルト。母が完治した。本当にありがとう。ディーベルトは私の恩人。石化の治療法についてまとめておいた。あとこの本も」

「ああ。ありがとう」


 ステラから治療法についての冊子と『石化術の使用と効果』の本を預かる。本を司書に返却してから、冊子をステラ・サファイの名前で研究機関に送っておこう。


「アリエルとミューザ、疲れは取れたか?」

「全然だ。身体が重い」

「疲れたままですぅ」

「まだまだだな」

「むしろ、なんでお前はそんなに元気なんだ」


 心の底から楽しんで戦っているからじゃないかな。ステラはアリエルとミューザのことをじーっと見ている。


「ディーベルドのパーティーメンバー?」

「そうだ。剣術の授業で一緒のアリエルと探索術の授業で一緒のミューザだ。今はパーティーを組んでいる。こっちは魔法の授業で一緒のステラだ」


 これで主人公の1年次授業のヒロインたちが揃ったことになる。中々感慨深いものがあるな。


「ディーベルト。私もパーティーメンバーに入れて」

「俺はいいぞ。他はどうだ?ステラは優秀な魔法使いだ。倒せる敵の選択肢が広くなるし、戦闘時間が短くなる。たくさん戦えるし、たくさん稼げるぞ」

「いいぞ。私もパーティーメンバーに魔法使いがいないことが気になっていた」

「いいですよぉ」


 ステラの攻略に必要な素材集めは終了しているが、こんな世界だ。身の安全のためにもステラのレベルはあげておきたい。


 そんなことを話していると、初戦が発表された。

『マルコ・コーザ VS ディーベルト・ミッドフィルド』

 俺か。俺は立ち上がって、静寂の海へつながる中庭の転移門に向かった。


「ディーベルト、頑張って」

「勝ってこい」

「頑張ってくださいぃ」


 背中にヒロインたちの声援を受けた。俄然やる気が出てきた。


 転移門の前にはホーマ先生が待っていた。頭のヘルメットに魔メラがついている。どうやら俺に同行してくれる先生のようだ。


「おはようございます。ホーマ先生。本日はよろしくお願いします」

「おはよう。ミッドフィルド君。今日は良い天気だ。よい戦いを期待しているよ」

「ははは。残念ながら相手がよほど成長していないと接戦は期待できないでしょう」

「なかなかの自信だね」

「ええ。私強いので」

「うむ。噂では聞いているよ」


 俺はホーマ先生と小舟を並べて、転移門へと入った。そこは海の中のごく小さな岩礁の上だった。俺はホーマ先生の分の小舟も持って、海へと浮かべる。


「ありがとう助かるよ」

「いえ、こちらこそ監督していただいてありがとうございます」


 俺は気がついていなかった。少なくとも意識しての結果ではない。だが、身体が勝手に反応して木剣でホーマ先生の横の空間を袈裟切りにした。


「ミッドフィルド君!?」


 驚くホーマ先生。だが木剣は獲物を確かに捕らえていた。気を失ったことで姿隠しの効果を失ったのだろう。剣を持ったノケン先生の姿が現れる。その頭には魔メラのついたヘルメットはない。

 振り返ると、転移門が起動できないように接続が切られていた。

 なるほど。これは、殺しにきているな。今更ながら戦場に漂う殺意に気がついた。愚鈍過ぎた。


「ホーマ先生ローブを脱いで。あと姿隠しの魔法を使ってください」

「あ、ああ」


 剣を持ったノケン先生と尋常ならざる俺の態度を見て、異常事態であることが分かったのだろう。素直に俺の指示に従ってくれるホーマ先生。


 透明多腕魔法でノケン先生の服をはぎ取り、それっぽく見えるように並べておく。服の中に石を入れて重りにしておくか。そしてノケン先生にホーマ先生のローブを着せておいた。


 ホーマ先生の姿が消える。一応風による守りの魔法。風護(ウィンドガード)をホーマ先生に掛けておく。


 水平線の向こうから大量の小舟と巨大な帆船が現れる。


「ミッドフィルド君!どういうことだと思う?」


 ホーマ先生は混乱しているようだ。


「どうもこうもマルコ・コーザとノケン先生が組んで俺を殺しに来たのでしょう。ノケン先生がこの戦いを押したのではないですか。初戦に俺とマルコ・コーザを戦わせるようにと。マルコ・コーザは事前に私兵を用意して転移門で使っておく、ノケン先生は姿隠しで待機し、転移門を切断してからホーマ先生を殺し、魔メラの中継を止めるつもりだったのでしょう。今から戦いになります。出来るだけ低い姿勢でいてください」

「あ、ああ」


 まだ、現実味がなさそうだな。ホーマ先生。完全に巻き込まれた立場だから生きて帰してあげたいものだ。そのためにも。


「『ヒッポカムポス』来てくれ」

『呼んだな、人間。我が活躍できる場所なのだろうな』


 半馬半魚の精霊がこの海に顕現した。俺は見渡す限りの敵船を指した。


「あれらが全て敵だ。好きなだけぶっ飛ばして、好きなだけ奪っていけ。どうせ海の藻屑となるものだ」

『極上の戦場ではないか。よくやったっ召喚主よ!』


 歯をひん剝いて残虐性に満ちた笑みを浮かべるヒッポカムポス。


「俺に水上歩行の加護をくれ。できるかぎり殺すな。いうことはこれだけだ」


 転移門があるこの岩礁に大砲をぶち込むことはないだろう。馬鹿が相手だからちょっと心配だけれど。


 俺の中のディーベルト・ミッドフィルド像は逆らう奴は皆殺しだといっている。しかし、ここで皆殺しにしてしまったら、仲間関係が破綻するだろう。少なくともヒロインの幾割かは攻略できなくなる。俺の良心も痛むし。


『なんだ、殺さぬのか。甘い奴よ。まあよい。我は気分がいい。聞き入れてやろう』

「ありがとう」


 俺は自身の速さを上昇させる疾風(ウィンドウォーカー)の魔法を唱えた。

 今から人と戦う。意識を切り替えるために一度深呼吸をした。


 その頃には人の輪郭をぼんやりと目視できるほどに帆船は近づいていた。他の小舟はまだ遠い……流石に帆船は速いな。帆を畳んで停止したか。

 こちらの岩礁を見ると、マルコ・コーザが拡声魔法を使っていった。舌戦がしたいのか。こちらも拡声魔法を使った。


「ノケンの奴使えねえな。俺がディーベルトを殺すとか息巻いていたくせによ。まあ、転移門の切断とホーマを殺すことはしているからよくやった方だがな」


 なんとか、ホーマ先生が生きていることは隠せたようだ。


 遠見で見ると、船上にはマルコ・コーザとクラリスに乱暴しようとしたもう1人に、魔法庭球部の奴らもいる。魔法庭球部の奴らは船が揺れるたびに喘ぎ声をあげているような口の動きをしている。……腸からの摂取ではだめだったらしい。他は顔も知らない。私兵だろう。近づいてきている小舟の分も合わせると500人いるかどうか。

 マルコ・コーザは息巻いていう。


「どうだ。お前に恨みがある奴らで集めてきた俺たちの軍勢だ!お前が大好きなご立派な家名はお前を守ってくれないぞ」


 どうもこうも雑魚の見本市にしか見えない。この程度の数で俺を殺せると思ったか?俺を殺したければ、もっと数を連れてこい。


「あははははは」


 マルコ・コーザは怪訝な顔をする。


「どうした気が狂ったか」


 俺は笑いが止まらなかった。


「なに、燦々と輝く太陽。蒼く煌めく海。穏やかな波の音が聞こえてくる。こんな場所でお前たちが無様に負けるのだと思うと笑えてきただけだ」

「てめえ、この状況で粋がれる度胸は褒めてやる。楽に死ねると思うな。この世の地獄を見せてから殺してやるぜ!」


 そうか、俺の首を獲ってみろ。そうしたら褒めてやろう。

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