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エーデル平野

 朝になった。姿勢を意識して寝たためか身体がバキバキだ。

 シャーリーはまだ寝ているようだ。……いや、いまさっき喉が動いた。起きているらしい。

 俺はシャーリーの頭を撫でてやり、額にキスをしてやった。我慢しきれず、口の端が上がるシャーリー。


「起きているのが、バレバレだぞ」

「はい」


 ぱちりと目を覚ますシャーリー。一緒に起き上がった。

 仕事モードに切り替わったらしい。


「本日はどのようにされるおつもりですか?」

「今日はパーティーメンバーとともにダンジョンに挑み続ける予定だ」

「かしこまりました。昼食の準備は必要でしょうか?」

「ああ。3人分頼む」

「はい」


 部屋から出ていくシャーリー。俺はバキバキになった身体をほぐした。さあ、今日の始まりである。時計を見たら7時だ。時間があるな。……復習でもしておくか。


 軽く復習を終えた俺は朝食をとり、準備してもらった弁当を持って玄関に向かう。

 そこには怯えた様子のミューザとそれを庇うように立つアリエルがいた。

 全然信頼されていないな。前途多難かもしれない。


「おはよう。アリエル。ミューザ」

「おはようディーベルド」

「おはようございますぅディーベルド様」

「様はいらない。パーティーメンバーだからな」


 ここで話していても信頼は得られないだろう。ダンジョン攻略を通じて何とかしよう。早速昨日から目星をつけていたエーデル平野のダンジョンに向かうことにした。


 道中、各自の役割について説明することにした。


「俺がアタッカー兼タンクをする。アリエルはひたすら剣で攻撃、ミューザも短剣でひたすら攻撃だ。これで行こう」


 ミューザは困惑している。アリエルが怒ったようにいう。


「そんなやり方ではダンジョンでは通じないだろう。そんなだから―――」

「最初の一体でうまくいくことを見せてやる。だからついてこい」

「……分かった」


 校庭にある複数のある転移門の内、エーデル平野につながる門にたどり着いた。ここでもアリエルが苦言を呈する。


「おい。ここは中級の転移門だぞ。私たちにはまだ早い」

「最初の一体でだめだったら、逃げよう。俺達なら勝てると確信しているが」

「……」


 だめだ。全然心に響いていない。


「実際に行ってみようぜ」


 ◇


アリエル視点


 こいつは本当にろくでもない人間だ。それがディーベルドの評価だった。適当で傲岸不遜。身の丈に合っていないダンジョンに行こうとしている。とはいえ、エーデル平野なら確か出現するのはサイクロプスなどが一体ずつだ。逃げに徹すれば撤退も可能だろうと渋々認めることにした。


 転移門を抜けた先には閑散とした荒野であった。ひび割れた地面に焼け焦げたような木々がある。ここがエーデル平野。遠くには巨人が我が物顔で歩いていた。ディーベルドはその巨人に向かって歩いていく。


 どうせ、すぐに弱音を吐くだろうと考えていた。戦闘が始まるまでは。

ディーベルドはサイクロプスを見つけると一番先に攻撃してヘイトを買うと、振り回される圧倒的な威力の棍棒を、風に舞う葉のようにひょいひょいと避ける。

私とミューザがサイクロプスを攻撃しても、棍棒を避けては反撃するディーベルドからサイクロプスのヘイトを奪えない。サイクロプスは誰が一番の脅威か分かっているのだ。


 長く続く戦闘の中で、サイクロプスの棍棒が私たち3人をまとめて薙ごうとした。そのときディーベルドが盾をがっちりと構えて防御に入る。サイクロプスの剛力によって振るわれる棍棒を受け止める。ディーベルドの顔には苦痛の色はなく、余裕さえ滲ませている。


 結局サイクロプスが倒れるまでの15分間ディーベルドがほぼほぼ1人でサイクロプスをいなしてしまった。サイクロプスの視線が私たちを捕らえることは終始なかった。


 とんでもない力量の戦士だ。ノケン先生に勝ったこと、私との決闘に勝ったことから剣術は巧みだと思っていた。しかし、ダンジョンでもここまで強いとは思わなかった。


 ディーベルドはミューザに指示して、次の標的を探させる。ミューザはスカウトとして優れているらしく。まだ見えていないサイクロプスを発見した。ディーベルドはそちらに向かう。激戦の後だというのに疲れも感じさせない足取りだ。


 次のサイクロプスでは、最低限の回避は意識しつつ、武技の連撃剣などを使ってみる。現在の私に使える最大火力の技だ。それでも、サイクロプスはこちらを向かない。全力で攻撃に回ってもなおディーベルドの与えるダメージが勝っているのだ。


 曇っていたのは私の眼だ。こんな激戦をやすやすと続けられる人間が怠惰なはずがない。才能だけならどこかで集中力が切れていただろう。これは、執念の為せる技だ。


 こんどのサイクロプスは十分ほどで倒せた。私とミューザが攻撃を激しくした結果だろう。こんなすさまじい人間が私のパーティーメンバーにいる。

 私には夢がある。そのためにも強くならなくてはならない。その強さを体現しているようなディーベルドから目を離せなくなっていた。


 ◇


 ミューザ視点


 最初は怖い人だと思っていた。私の耳は様々な人の声が聞こえる。ディーベルドいう人間の噂は多く聞いていたが、そのいずれも碌なものではなかった。時折、ダンジョンで助けられたとか依頼を達成してもらったなどの話も聞こえたが、それよりも圧倒的に悪評が多かった。


 正直にいって関わりたくない人だった。ダンジョンに誘われたときも逃げ出したいくらいに怖かったことぐらいだ。昨日から憂鬱で仕方なかった。


 しかし、いざパーティーメンバーになってみれば、理想的な仲間だった。

私はモンスターを発見することはできても敵をやっつけるのに時間がかかりすぎるし、私自身打たれ弱い。ダンジョンに向いていないとすら思った。


 ディーベルドがいるとダンジョンの在り方が違う。私が敵を見つけるたびに、圧倒的格上を翻弄して、殲滅する。凄まじい力量だ。ヘイトがこちらに向くことがないので、無差別な攻撃などに気をつければ攻撃に集中できて、私が打たれ弱いこと気にならない。まばらに敵が散らばるこのエーデル平野ではこの耳を使って索敵でパーティーに貢献できる。ダンジョンで役に立つことができる。それは私に充足感を与えてくれるものだった。


 圧倒的格上を倒すことによって得られる素材を納品したことによる報酬も山分けだとしてもいつもの十数倍は効率がいいことだろう。


 わたしにはどうしてもお金が必要だった。たくさんいる私の弟たちや妹たちのたちが住む家のためにも、この人についていってみよう。


 ◇


 最初はぎこちなかったが、すぐに慣れたようで攻撃に専念してくれている。

 圧倒的格上を倒すことによってレベルアップもしているようで、一体倒す毎に討伐のスピードが上がっている。こころなしかアリエルとミューザの態度が軟化しているように思える。やはりダンジョンが鍵だったな。

 さらに一体のギガンデス倒したところで休憩を入れることにした。


 昼食は各自用意していたみたいだったが、俺のメイドが用意したからといって、シャーリーが準備してくれた昼食をみんなで食べることにした。昼食内容は具が様々入っているサンドイッチだった。


 アリエルが聞いてくる。


「どうやってそこまでの力量を身につけたんだ?」

「ひたすらできるまで繰り返したからだ」


 そう周回前提のヘルモードではレベルマックスでも2撃か3撃で殺されてしまう。それをクリアできるようになるまでひたすら練習をした結果である。エロゲでだけど。


 ミューザがいう。


「私、ダンジョンでここまで活躍できたのは初めてですぅ」

「ミューザは敵を発見したり、早い動きで惑わせたりするのに向いていると思うよ。正面を切って戦っていたらしんどいかもね」


 食べ終わった。時計を見た。午後1時か。


「じゃあ、午後6時ぐらいまではサイクロプスとギガンテスをひたすら狩ろうか」


 2人の顔が引きつったのは勘違いだと思いたい。


「疲れたぞ。ディーベルド」

「疲れましたぁ」


 掲示板に向かいながら文句をいう2人。大分今日一日で打ち解けられたように思う。


「まあまあ、その分力量が上がっているだろうし、報酬も多いだろうから頑張ってくれ」


 サイクロプスの瞳やギガンテスの血は錬金素材としては優秀で依頼の数も多い。掲示板を見つつ、エーデル平野に関連する依頼票をはぎ取っていく。うん。それでもエーデル平野の依頼はまだまだ残っているな。明日も同じ狩場で大丈夫そうだ。


 受付に依頼票と素材を提出して処理してもらう。その際に報酬を3等分でもらうようにお願いする。しばらくして、確認が取れたらしく、報酬が渡される。ずっしりとした金袋3つだ。アリエルとミューザに渡す。アリエルはそれほど興味なさそうだったが、ミューザは感激していた。

 それはそうだ。ミューザの稼ぎに家族の家がかかっている。この額に感動もするだろう。


 そうして俺は二人の肩に手を置いていった。


「それじゃあ2人とも明日もエーデル平野で頑張ろうか」


 2人はこいつマジかみたいな顔をしていたが、マジである。

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