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狂騎士とお泊り

 そこは今までとは異なる場所だった。振り返っても転移門はない。

 一言でいえば荘厳。神殿のような柱、天井はステンドグラス。色とりどりの光が差し込んでいる。装備が主人公の初期装備となっている。つまりは、ショートソードとバックラー、レザーアーマーだ。目の前には漆黒の鎧と瘴気を纏う狂騎士がいた。


 さあ、始めようか。壮絶な殺し合いを。


 目の前の漆黒の狂騎士が縦回転しながら剣を叩きつけてくる。横ステップで回避して一撃を入れる。目の前の狂騎士が剣を横に構えた。合わせてバックラーを構える。相手が振るう剣に合わせてパリィを決める。瞬間振るわれた剣の延長線上が全て斬られた。パリィを決めていなかったら大ダメージだっただろう。それがもう一度逆方向から行われる。当然パリィを決める。相手はまだ態勢を崩さない。


 相手が剣を両手で地面に突き立てた。バックステップを連打する。瞬間狂騎士の周りに瘴気の嵐が吹き荒れる。嵐が止むに合わせて、近づいて二撃入れる。


 袈裟切りの構えを取る。素早い二撃、そして追撃の一撃が出される。それぞれに合わせてバックステップで回避する。


『アアアアアアアアアアア』


 叫び声を上げつつ、瘴気を纏い出す。発狂モードに入ろうとしている。近づいて、連続攻撃を繰り出す。ガラスが砕ける音とともに瘴気の膜が割れる。ダウンだ。武技の修羅一閃を繰り出す。


 敵は第2段階に入ったらしい。身に纏う瘴気の量が膨大になってもはや姿は見えない。瘴気が地面を覆う。心の中で3つ数えて大きく跳ぶ。地面の瘴気は棘のように変化して俺を突き刺そうとしていた。


 瘴気が腕の形を取る。俺は全力で近づいて、裏に回る。流石はディーベルドの身体だ。全力で避けてなお、攻撃チャンスがある。腕が先ほどまで俺がいた場所に振るわれる。その間に攻撃を重ねる。


 瘴気が鎌の形を取る。全体攻撃か。振るわれるタイミングに合わせてパリィを決めていく。1回、2回、3回と。最初からの分を合わせて、合計5回のパリィをされた狂騎士はついに態勢を崩した。近づいて、首に全力の一撃を叩きこむ。まだ倒れない。


 瘴気が空間を覆うように弾になって出現する。シューティングゲームの始まりだ。ランダムに撃たれる弾を回避し続ける。できるかぎりジャスト回避を決めていかなければならない。でないと、行動が遅れて弾を避けられなくなる。心を無にして回避を続ける。最後の一発を避けた瞬間、俺は狂騎士に突撃して連撃を入れた。


 それがトリガーとなったらしい。凶騎士の瘴気が消えた。漆黒の鎧が現れる。剣を掲げる。これから目で追うことのできない連撃剣が襲い掛かってくる。全力で距離を取る。最初の連撃を飛びながら避ける。次の連撃を相手の右脇にダッシュ回避をして避ける。最後の連撃を相手目掛けてダッシュ回避をする。そうすることで死線を超えられる。俺は技後硬直状態の狂騎士にもう一度思い切り首を斬った。


 ようやく首が落ちる。……勝ちだ。勝ちだ!


 此処のボスは特殊なボスでいわゆる七大ボスだ。このボスを倒すことで最強装備の素材を手に入れることができる。今回は狂騎士の折れた魔剣がドロップしている。当然道具袋に仕舞う。他のボスは最難関のダンジョンの最奥に存在しているが、こいつだけはすぐにボス戦に入ることができる。しかも装備もレベルも初期化されて戦わなければならない。つまり腕だけが頼りになる。


 ダッシュ回避とパリィを極めて挑まなければならない。または挑戦し続ける間に極めるためプレイヤーには師匠といわれていた存在だ。ここでは、ボス的なHPも機能するか不明だったため、ノーダメで倒せて本当に良かった。


 俺は中央に現れた帰還門から堂々と帰還した。上級生の先輩は目をひん剝いていた。俺は笑ってその場を後にした。


 疲れた。ここで無茶をしたのは、あとの冒険での安全と楽のためだ。でも疲れた。

 俺は貴族寮に帰って装備を脱ぎ捨てた。用意されていたシャツとズボンを持って風呂に入る。身体をしっかりと洗ってから、ぼんやりと湯船につかる。少し疲れがほぐれた感じがする。


 俺は自室のベッドに転がる。シャーリーがベッドメイクをしてくれたベッドはいつも最高に気持ちがいい。


「失礼します」

「どうぞー」

「はい」


 シャーリーが入ってくると、目を丸くさせた。何か驚くことがあっただろうか。


「珍しいことに、お疲れですね」

「ちょっと強敵と戦ってね。脳が疲れた」

「そうですか。よっと」


 シャーリーは靴を脱ぎ捨てて、ベッドに上がると、俺の頭を持ち上げて自身の太ももの上に置いた。最高の感触に包まれる。シャーリーは優しく、繊細に俺の頭を撫でる。


「どんなダンジョンに行ってもニコニコしていたディーベルド様がこのようにお疲れになられるのですから、よほどの強敵だったのですね」

「うーん。勝つ自信はあったんだけど、もしかしたらが怖くてね」


 この身にはシャーリーとヒロインたちの幸せがかかっている。決して死ぬわけにはいかないのだ。


「そのもしかしたらで私の首が飛んでいたのですから、お仕置きです」


 頬を引っ張られる。でもすぐにやめて、頬を撫でた。優しく、愛おしそうに。

 俺は疑問に思う。俺はディーベルド・ミッドフィルドだ。この世界における悪役だ。このような扱いを受けるような人間ではない。その上、俺自身も元々年齢=彼女いない歴の男だ。モテるわけがない。


「なんでシャーリーはこんなに良くしてくれるの?入学式の日までろくな人間じゃなかったし、今もろくな人間じゃないよ」

「……そんなこといわないでください。悲しくなってしまいますから」


 シャーリーの指が俺の頬をつついた。……これで責めているつもりなのだろうか。


「私は入学式の日から朝に今日のディーベルド様は何をなさるおつもりなんだろうとか、今日はディーベルド様に何をお作りしようか考えたり、今日もディーベルド様は頑張られていたんだなって洗濯しながら考えたり、今日も可愛かったな、かっこよかったなって思えて日々が充実していますよ。私をこんなに満たしてくれる人を、大切にしたいと思っている人を、ろくでもないなんていわないでください。私が許しません」


 こんなに好きを伝えられたのは初めてかもしれない。今の俺の顔は真っ赤になっていないだろうか。


「ほら、こんなにも可愛い」


 微笑んで俺の頭を撫でることに戻るシャーリー。どうやら顔が真っ赤になっているらしい。


 気持ちが抑えきれなくなったのか、俺の額に、頬に、鼻に、順番にキスの雨を降らせるシャーリー。


 俺も愛おしさと欲望が抑えきれなくなってきていた。それに気がついたシャーリーがいう。


「今日のディーベルド様はお疲れのようですから、全て私にお任せください」


 俺はそれよりも頼みたいことがあった。


「シャーリー、今夜はこの部屋に泊まっていってくれ。朝、隣に君がいなくて寂しいから」

「あら、周りの使用人たちにバレてしまいますよ」

「とっくに好色な人間だとばれているよ。それに何か言われたら乱暴な主に襲われたとでもいえばいいよ」

「襲われたのなら仕方がないですね。今日は泊っていくことにします」

「うん」

「さ、楽になさっていてください。気持ちよくして差し上げますから」

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