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悪役転生

「あっ……おっ……」


 目の前の丸みを帯びた尻に腰を打ち付ける。これで8回目だ。

 やがて、この部屋の扉が蹴り開かれる。赤髪のその男はこの部屋の惨状を見て、激怒した。

 俺はその激怒すら心地よいと嘲笑った。


「ディーベルド、何故だっ!」

「この平民が俺に無礼を働いたのでな、少し躾けてやったのさ」

「お前を、殺す!」

「殺す?平民の貴様が侯爵家の俺を?できるものならやってみろ」


 激情のままに剣を引き抜く赤髪の男、しかし、その剣を引き抜く前に、パチンとした音とともに身体が斜めにズレた。肩から、斜めにずり落ちた。

 俺は血を浴びながら、雑魚を笑う。


(ないわぁ。これって、蒼剣のラグセスナの最悪のイベントのひとつじゃないか。しかも、俺が悪役のディーベルドの視点って。ないわな)


 これは夢だろう。こんなに実感のある夢は初めてだけれど、こういうこともあるのか。

 俺は目を覚ました。


 目を覚ましたら、知らない天蓋があった。……天蓋付きのベッドなんて豪奢なもので寝た覚えがないぞ。一気に頭が覚醒した。どういう状況だ。ベッドの脇に水差しと杯がある。水を注いだ。呷った。


 手がやたらと白い。……まるで人種が異なるように。おいおい。部屋の中を見渡すと、姿鏡があった。目の前に行くと、金髪の整った顔立ちはしているが、どこか軽薄そうな男の姿が映し出された。くそダサい赤いガウンを着こんでいる。試しに手を振ってみる。はーい。鏡の男も手を振っている。俺だ。

 これ、ディーベルドじゃね?うん、ディーベルドだよ。これ。


「ええぇー」


 意味不明な状況に思わず声が漏れた。今が夢?

 部屋がノックされた。


「失礼します」

「どうぞ」

「え!?」


 入ってきたメイドは驚いた顔をしている。銀髪で蒼い瞳、整った顔をしているが無感情にも見える。何がそんなに驚いているのか。聞いてみるか。


「なんでそんなに驚いているの?」

「いえ、ディーベルド様がどうぞなんておっしゃるから……いつもは入れとかさっさとしろなのに……」

「ああー」


 ディーベルドならそういうだろう。そういうクズだ。さて、どうするべきか。これは夢だと決めつけるのは怖い。こんなリアルな夢を見たことはない。記憶喪失のディーベルドを演じてみるか。俺はディーベルドのことを何も知らない。血筋を鼻にかけた、悪役ってくらいだ。家族構成すら知らない。


「君?名前は?」

「……シャーリーです。大丈夫ですか?」

「ちょっと記憶が吹っ飛んでいるけど大丈夫。シャーリーそれ俺の着替えだよね。ありがとう」

「全然大丈夫じゃないです」


 俺は着替えを受け取ると、シャーリーに背中を向けて、着替える。ガウンをはだけて。制服を着こむ。なんだ?この首周りの金のひもはどうつけるの?


「失礼します」


 有能メイドがささっと、首の飾り紐をつけてくれる。それそこにつけるものなのか。


「あの、お医者様に見ていただいた方がよろしいのでは?」

「学園から帰ってきたら見てもらうようにするよ。今から学園でしょ。今日は何の日?」

「……入学式ですよ」


 入学式のイベントなら頭に入っている。攻略ヒロインの生徒会長の話を聞いて、ディーベルドに絡まれるイベントだ。ディーベルドである俺が絡むつもりもないのだから、まったく問題ない。生徒会長の話を聞くだけの日だ。


「なら、なんとかなるでしょ。ちょっといってくるわ」

「ええぇ」


 さっきからシャーリーがドン引きだけどまあ、何とかなるだろ。

 悪役のディーベルドだけど、血筋はいいし、ルートによってはラスボスになるくらい強いし、まだ問題らしい問題は、ああー、幼馴染との関係は最悪だけど、まあ、気にしないでおこう。

 いざ、行かん。


 行って早速後悔しかけている。ディーベルド君の評判が非常に悪い。


「あれが傲慢の……」「し、聞こえるぞ」「服を汚したって、パーティーの場で泣かせながら謝罪させたらしい」「そんなことを」「侯爵家だぞ、敵に回すわけにはいかない」「ああ、目を付けられないようにしよう」


 泣かせるまで追い込んだらいけないでしょ。怖えよ。ディーベルド君。今は俺だけど。

 こんな針の筵に居続けないといけないのか。この入学式は自由席らしく周りがぽっかりと穴が開いている。

 まあ、この身体が行ったことのせいだ。妥協しよう。


 そんなことを考えていると、隣に青髪の女の子が座った。小さな身体。透き通るんじゃないかと思うくらい細い手足、眠たげに細められた瞳。パッケージヒロインのステラさんだ。ステラさんは我が道を行くところがあるから。あ、席が空いているラッキーって座っちゃったんだろうな。


「こんにちは」

「……こんにちは」


 おや、反応が鈍いな。本当に眠たいらしい。そうか、時期的に母親の死病の治療法を探している時期か。それで徹夜続きなのかもしれない。どうせ話を聞くだけの日だ。好きに寝かせてあげよう。

 俺はヒロインが隣にいてくれて、テンションがあがった。

 ステラはもう目を閉じて静かな寝息をたてている。


 入学式が始まる直前、入り口のドアが勢いよく開かれた。

赤いツンツン髪の男が入ってくる。続いて、茶髪の女の子と、金髪の女の子。

 大きく心臓が鼓動した。そこには俺にとって因縁深い人が二人いる。


 ひとりは金髪の女の子。金色の髪を腰まで垂らして、蒼い鋭い目つきをしている。リーゼイン。俺の幼馴染だ。俺、というかディーベルドの傲慢な性格が受け入れられず、悩んでいたところを主人公と友達になった経緯がある。


 もうひとりは、主人公。赤髪の方だ。夢で見た通り、ストーリー中では、殺したり、殺されたりする関係である。100%ディーベルドが悪い。


「よかった!間に合った」

「ぎりぎりでだよ。朝ちゃんと起こしたのに!」

「すまんすまん。日差しがあんまりにも気持ちよくてボーっとしていた」

「もうレイドはいっつもそう」


 レイドはきょろきょろと辺りを見回して開いている席を探した。俺を見つけてすっごい嫌な顔をした。すんません。結局最前列の開いている席に2人で座った。リーゼインは新入生代表の挨拶があるのだろう。舞台脇へと移動する。


 めちゃくちゃ嫌われているな俺。ディーベルドとレイドの因縁は学園の前から始まっている。幼馴染で婚約者候補のリーゼインを諦められないディーベルドとリーゼインを守ろうとするレイド。度々衝突をしている。


 しばらくして、生徒会長が壇上に上がる。ヒロインのサクラさんだ。外国から来てこの国で爵位を持った一族で、ありていに言って日本人ぽい。和風美少女のサクラさんが入学式の挨拶と歓迎の言葉を述べる。


 それを受けてリーゼインが新入生代表として挨拶をする。

 流石リーゼインそつがない。


 入学式が終わり皆が移動する。俺はステラの背中を揺すった。


「……ん」

「おーい、入学式が終わったぞ。帰ろう」

「……うん」


 ステラがぼんやりと返事をした。


 俺がディーベルドに転生した意味なんてあるのだろうか。少なくとも俺にはディーベルドらしい行動をすることができないだろう。良心が痛むだろうし。


「なら、俺は俺のやりたいように生きさせてもらおうかな」

 この話が好きだったよ。面白かったよというものがあったら、いいねを押していただけたり、感想をいただけたりしたらありがたいです。その話を参考にして今後の話の展開にも手を加えたいと思います。


また、よろしければブクマ・評価を頂けたらとっても嬉しく思います。よろしくお願いいたします。


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