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奔放大学生の洛中洛外食道楽  作者: 五十鈴 公秋
1/1

貴船納涼

猛暑いや酷暑か。


八月初旬の朝九時前。


冷房をつけているのにもかかわらず暑さで目が覚める。まさに異常である。


さて、八月初旬という学生にとって最高の時期。つまりは夏休みの真っただ中であるため本来はこの後二度寝三度寝と行きたいところではあるが今日はそうはいかない。


「さっさと飯食って着替えなきゃ、絶対に先輩を待たすわけにはいかねぇ。」


そう。同じ学部の先輩と朝から出かける用事があるからだ。


待ち合わせは京阪出町柳駅10時半そして行先は「貴船」で、目的は「納涼」だ。


この苛立ちを覚えるほどの暑さには持ってこいの外出である。というのもここ最近あまりにも暑いので、先輩に声をかけたところ快く快諾してくれた。


開けっ放しのカーテンから差し込む朝日を浴びて、重たい体をベットから剥がす。目をこすりながら冷蔵庫の中を開き冷凍のピラフを取り出してレンチンする。


「父上には感謝しないとな」


朝はどうにも自炊する気にはなれない。そんなときの仕送りの冷凍食品だ。だが自分では絶対に買わない。


A なんとなく


「じゃあ作り置きすれば?」


と突っ込みが入りそうだが個人的に煮物などを作った時を除いて、作り置きは好きではない。


レンチンしている5分強の間に、着替え、ザっと部屋に掃除機をかけて髭を剃る。朝の寝ぼけて紙がボッサボッサの自分の顔を見たくもないに見せられるのは、滑稽だ。


チーン


そうこうしている間にできたらしく、ちょっぴり皿が厚いのを我慢してテーブルに運ぶ。


「いただきます。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ごちそうさまでした。」


僅か三分足らずの朝食には部屋の片隅にもたれかかっている掃除機も驚愕だろう。


席を立ち台所に行き、昨日の夕飯の時に使った食器とともに先ほどの食器を洗う。どうも食ったらすぐに洗うという事が苦手である。


その後、歯磨きも済ませて水分を摂り現在時刻は9時半ジャスト。家から出町柳までは20分かかるため良い時間である。


「行くかぁ」


間延びした声をこぼしながらカバンを持ち上げて玄関を出る。


「うっ、あちぃ」


暑さに対する不満の声を漏らしながら扉を閉め、エントランスの扉を押し開ける。やはり暑い。自転車のサドルもさながら夏の砂浜である。


(我ながらこの暑さの中で全速力でチャリ漕ぐのは阿呆だよなぁ)


とはいえ金のない下宿大学生にとっては、易々と公共交通機関を使うという考えには至らない。数週間前に熱中症でぶっ倒れたとしてもだ。


なんて思いつつも自転車は、堀川中立売、烏丸中立売そして今出川河原町と京都の街を通り鴨川を渡る。今出川通りを烏丸通りに出るまで通らないのは、信号が多く時間がかかるからである。


鴨川を渡れば出町柳はすぐそこだ。


自転車を止めて駅まで少しだけ早歩きをして駅に到着。時刻は9時55分になったところ。


「おっけ、さて連絡するか」


先輩に電話をかけて到着したことを伝えて合流する。


「おはようございます。今日はわざわざありがとうございます。」


「おはよー。おーんいーよいーよ。」


挨拶を済まして切符を買ってホームで電車が来るのを待つ。ここで気が付いたのだが、乗る電車は「京阪」ではなく「叡山電鉄」だった。


電車が来るまで「今日は暑いね。」「やばいっすね」といった雑談をして時間をつぶす。この先輩は大学生協の仕事で、家探しを手伝っていただいたことから親しくしていただいている方で、今年三回生だ。つまり就活の最中である。


なので似たような話になると中々のリアクションをしてくる。


(とはいえちゃんとインターンとかの話はしてくれるんだよな)


実に優しい。


アナウンスがホームに響き列車が到着する。ザ・ローカル線といった電車だ。


電車に乗り込み、運よく席に座ることが出来た。窓から見える景色を見ながら、つい先日終わった期末試験やバイトのことなど先ほどと同じように雑談をして過ごす。


「次は貴船口です。」


どれくらい乗ったかは分からないが貴船に着き電車を降りる。やはり標高があるからか市内に比べて涼しい。


先輩に言ったら「そう?」と言われたが


駅からはバスに乗って行くのだがこのバスが凄かった。中は人で溢れかえっていたのに加えて、貴船神社までの山道(隣は川)を容赦なく飛ばして走行したのだ。カーブも速度を落とさなかったため、何かのアトラクションのようだった。


精神は無事ではないが身体的に無事な状態でバスを降りる。時刻は12時前。先輩曰く、美味しいそうめんのお店があるとのことで昼食はそこで食べるという。しかしどうにも2時間くらいは待つらしく、整理券を受け取りその間に神社に参拝しようという事になった。


多くの人と車とすれ違い、送迎バスの排気ガスの熱風に殺意を抱きながらお店に着いた。


階段が畳の敷かれた川床の方へ伸びており、下では皆がそうめんを食べている。しかもただのそうめんではなく、流しそうめんだ。ありがとう先輩。


さて問題の待ち時間はというと、1時間半だった。神社を参拝してブラブラするには十分な時間だ。ついでにこの時、先にお勘定をするとのことで財布を出したのだが先輩が全額おごってくれた。ありがとう先輩。


参拝は結社、奥社、本社の順で参拝した。貴船神社は縁結びのご利益があるとのことでカップルなどが多く見受けられた。そんな縁結びの神様のおひざ元でありながら、仲睦まじくしているカップルに対し不満を募らせるといった暴挙に出た先輩をなだめるという珍事も発生した。


とはいえ神社は素晴らしく、これだけでも良いのではないか。と思うくらいに数晴らしかった。個人的には奥社が特に厳かな感じがしてよかった。


見るものは見たのでお店に戻ってきたが、しかしまだ少し時間があったため川床の休憩所で休むことにした。すぐ真下を透き通った冷たい川が流れており、とても涼しい。







休憩所で寝転がったり、雑談したりしていたら順番が回ってた。いよいよ念願の貴船の川床での食事だ。


席に着くと竹の器に入ったつゆと抹茶をまぶしたわらび餅が出てきた。


(デザートが先に出てくるスタイル。初めて見た)


しかしこれはデザートでありメインではない。眼前に鎮座する美味そうなものを美味そうだと思っているとアルバイトらしき若い男の人が合図を出す。


メインの始まりだ。


「いただきます」


いよいよそうめんが流れてくる。流れてきたそうめんは1玉1玉が大きく結構早いスピードで流れてきた。


「っと、これ結構早いっすねー」


「だねー、おっと次来るよ」


「了解っす」


的なやり取りを交わしつつ流れてくるそうめんを掬ってはすするを繰り返していく。このそうめん、そうめん自体が美味しいのは勿論だがなにより、つゆが旨いのだ。すすった瞬間に口内にカツオの風味が一気に広がり、それが鼻腔へと抜けていく。しかもテンポよく流れてくるのでずっとカツオの風味が頭に残る。


(うめーなー暑い中で食うそうめんも美味いけど、こう涼しげな場所で食うのも良いなぁ)


エアコンの涼しさとは別物、比べるのが阿保らしいほど美味い。


しかし、何事にも終わりはやってくるもんで、ついに終わりの合図の赤色のそうめんが流れてきた。赤いそうめんを逃さぬように慎重に掬い上げ、口に入れる。


(ん?なんだろこの味......しそ?)


驚いた。失礼ながら食紅で赤くしただけだろうと思っていたのだ。しかし食べてみるとしその風味がした。


(しそとそうめんって相性いいんだ、初めて知ったけどこれ美味しいな)


思わず少しばかり笑みがこぼれたのが自分でもわかった。


食後のわらび餅を食べながら目の前の川を眺める。だがこのままゆっくりして居るわけにはいかない。後ろにもこのご馳走を食べるために多くの人が待っているのだ。


「ごちそうさまでした」


店を出るときに店員さんに挨拶をして一息つく。


「いやぁ、すごくおいしかったです。ごちそうさまでした。」


「おいしかったねぇ、この後どこか寄りたいところはある?」


「そうですね......いえ、特には」


「おっけ、じゃあ帰ろう」


「そうしましょう」


少し日が傾きつつある午後3時ごろ、人の少なくなった貴船の下り坂を男二人が下っていく。

















読んでくださりありがとうございます。この話は京都に住む大学一年生のリアルな食を通しての日常をお送りいたします。

今後ともよろしくお願いいたします。

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