#95 俺に任せとけ、と言ってみたい
「ねね、食べ物買う前に遊んでこうよ!」
俺の手を引いて、夕夏は夏祭りの人波を掻き分けていく。繋いでいるこの手が離れれば、間違いなく離れ離れになる。その確信が、手に込める力を一層強くさせた。
「あっ、ポイだ!」
「テンション上がるのそっちじゃないだろ」
「でもでも! この間ぶりじゃない?」
金魚すくい屋の前で足を止めた夕夏は、メインである水中ではなく、店主の脇に積まれたポイに目を輝かせる。夕夏の反応は、さながら旧友と再会した時のようだ。
俺達が眺めている間にも、挑戦している少年のポイが水で耐久力を削がれ、金魚を逃がしてしまう。
「おっしい!」
夕夏が、本人顔負けの悔しさを滲ませる。それから、俺の服を引っ張って言った。
「友哉君、私達もやろうよ」
「そうだな」
店主に二人分のお金を払い、ポイと椀を貰う。
さて、どうすればすくい上げることができるか。
ポイの脆さを、俺達は身を以て体験していた。本当に金魚をすくえるのか、そこに疑問を抱いてしまうほどに。
大前提として、水に浸けている時間は短くするべきだろう。そして、狙うなら動きの遅い個体。暴れてポイを破られては困る。
そんな考察を念頭に置いて、俺は泳ぎ回る金魚達を凝視する。その中で、一際優雅に泳ぐ、おあつらえ向きの個体を見つけた。
「ここだ……!」
一点集中で狙いを澄ませ、水面にポイを差し込む。しかし……
「あっ……」
悠々と泳ぐ獲物の近く、邪魔者が現れる。尾びれを盛んに動かす、イキイキとした泳ぎの影響を受けて、俺のポイはあっさりとその体に穴を空けた。
「嘘だろ……」
がっくりと肩を落とし、俺は隣の夕夏の様子を見る。すると、同じように穴の空いたポイを持って、にへらと笑う夕夏と目が合った。
「いやー、難しいね。一匹くらいいけるかなって思ったんだけど」
「俺も完敗だな。取れるまでやったら、大変なことになりそうだ」
「友哉君の貯金なら大丈夫じゃない?」
「……いや、不安だ」
「そこまで!?」
練習さえすれば、上手くなるものなのだろうか。それ以前に、金魚の動きを見極めるところから始めなければならないはずだ。金魚すくい名人への道は、想像していたよりも険しいのかもしれない。
気を取り直して、次の遊戯は射的だ。銃を構えて引き金を引くだけ。さっきの金魚すくいと比べれば、繊細さや俊敏性は求められない。
こういうのは、重量の軽いやつほど倒しやすいんだろうが、よく分からないおもちゃを貰ってもな。それなら、お菓子類を狙った方が――
「友哉君、あれ見て!」
「どれだ?」
「上から二段目の右端の! あのぬいぐるみ!」
夕夏が指差した方を見ると、銃口を向けられるかもしれないというのにほんわかとした顔を浮かべた、真っ白なキャラクターが鎮座していた。
詳しくは知らないが、ゆるきゃら……とかなのだろうか。
「あのぬいぐるみ、欲しいのか?」
「えっ、取ってくれるの?」
「約束はできないけど、善処はする」
UFOキャッチャーで見栄を張るように、俺は今日射的で見栄を張ることにした。射的の神様、俺に力を貸してください! お金なら後で払いますから!
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