#93 夏でもはっきりとした温もり
ユニーク1800PV、ありがとうございます。
「ねぇ、瑠璃の出番って何時くらいなの?」
「えーっとね……」
人ごみでひしめく参道を歩く途中、井寄がスマホを手に取った。おそらく、あらかじめ九条に聞いていたのだろう。それにしても、こんな歩きづらい中でスマホを触れるとはな。ぶつからないか不安で仕方がない。
「桃、まずはこの人ごみを抜けてからだ」
「あっ、うん……!」
誘導も兼ねて、茂木は井寄の手を掴む。その行動に、井寄の瞳はときめきを宿していた。
境内へと上がっていく二人の背中を見ていると、後ろから引かれる感覚がする。
振り返った俺は、夕夏と目が合う。
この状況で何を求められているか。それが分からないほど、俺も鈍くない。
「手、繋ぐか」
「……うん」
思えば、海にいる時は動いてばかりだったから、ほとんど手は繋いでいない。だから、こうして手の温度を重ねるのは、意外にも久しぶりのことだった。
離れないようにしっかりと、互い違いに指を絡めて、俺達は茂木と井寄を追った。
「うわぁ、すごい……」
日が沈んだ暗い空を、提灯の群れがほんのり照らしている。その仄かな灯りが、温かな光景を作り出していた。
「参道の方もだけど、こっちも出店で賑わってるな」
とはいえ、空間が広い分、境内の方が開放的だ。夜風の冷たさも、蒸し暑さの残るこの時間には気持ちいい。
「一旦落ち着こうかと思ってここまで上がってきちゃったけど、どこから回ろうか」
「夕夏とトモちんは、食べたい物とかある?」
「私は、チョコバナナが食べたいかな」
「俺は焼きそばが食べたいな。さっき移動中に見つけて、美味しそうだったんだ」
「あははっ、トモちんってもしかして食いしん坊?」
「い、いいだろ! 昼から何も食べてないんだよ!」
集合時間の都合上、何かしら軽食を食べておこうという話だったのだが、どうせ出店で買うだろうと横着した結果がこれだ。
恥ずかしながら、夏祭りに来て間もないというのに、もう空腹感を覚えていた。
「ちょうどいい場所があるじゃないか」
辺りを見渡していた茂木が何かを見つけたようだ。
「二人一組で出店を巡って、ある程度物を買ったらあそこに集合っていうのはどうだい?」
茂木の視線の先、境内にテント張りの一角があった。近づいてみると、ベンチを並べた仮設の休憩スペースのようだ。付近の掲示物を見ても、飲食禁止という表示はない。
各々購入した物を持ち寄って、ここで晩餐会をするということか。
「いいんじゃないか。俺は賛成だ」
「私も私もー!」
「うん、いいと思うよ」
「それなら善は急げだ。売り切れや満席になってからじゃ遅いからね」
集合を約四十分後に定めて、俺達は再び夏祭りに赴いた。
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