#77 食堂での攻防戦
「じゃあじゃあ、みんなで海に行くってのは?」
「それはもう書いてある。そんな鉄板のイベント、俺が見逃すわけないだろ?」
得意げな俺に、井寄は「ふーん」と挑発的な笑みを浮かべる。
「瑠璃、トモちんも思いつかないようなすごいやつ、言ってやってよ!」
「なんで私?」
「いいからいいから! 瑠璃だって、してみたいことくらいあるでしょ?」
井寄に迫られ、九条は押し負けそうだ。俺は聞き手に回ろうと、ペンを手に取った。それを催促と取ったのか、観念した九条は口を開く。
「星……」
「星?」
「星を見にいってみたい、かな。都会じゃ見られない、満天の星空を。小学生の時、自然教室で見た星が忘れられなくて。有名な観光地ってわけじゃなかったけど、それでも綺麗だったから」
九条の案に、周囲からは静かに歓声が上がる。
「みんなで星を……うん、とてもロマンチックじゃないか」
「たしか、流れ星に願いを十回言えると叶うって話だよな」
俺が口にした迷信を、堂島は笑い飛ばす。あまりの迫力に、食堂中の視線を集めるほどだ。それから、堂島は高らかに宣言した。
「俺は星に願わずとも自分の力で叶えてみせる!」
「もう、そういう話じゃないんだって。堂島君ってば、夢がないな」
「夢ならあるぞ! 俺の夢は――」
「はい、分かったから。薫は少し黙ろうか」
騒がしさが一時の落ち着きを迎えて。同じ自然教室を経験した井寄には、九条の言う光景に心当たりがあるようだった。
「あれ、すっごい綺麗だったよね!」
「うん、せっかくなら次はみんなで見てみたい」
少し恥ずかしそうな九条の様子に、俺の胸は温まっていた。一見クールに見える彼女だが、友達への思いは本物だ。疑っていたわけではないが、言葉や行動に現れたことで確信を持つことができた。
「それならさ、みんなで宿を借りて泊まるってのはどう?」
「わぁ! 夕夏、それ天才だよ!」
六人での旅も兼ねられて、一石二鳥の計画だ。しかし、どうだろう。バイトしている井寄はまだいいとして、他の人達は金銭面で負担にならないだろうか。
熱に浮かされて旅が決定に進めば、異議を唱えづらい環境になっていく。けれど、俺だってみんなだって、多分行きたいという気持ちは同じのはずだ。それなら、俺が取るべき手段は――
「い、一旦この話は持ち越しってことにしよう! 旅行の計画なんて、昼休みの残りじゃ決められないだろ?」
「うーん、そうだね。もし話したかったら、LINEがある――」
と言いかけた明海に、俺は目配せを(できるだけ激しく、だがバレないように)する。ワケは後で話すとして、議論の場をLINE上に持っていってほしくはない。
「……けど、文字だけのやり取りだけだと行き違いがあるかもだし、とりあえずは今度の昼休みに話そうか!」
察してくれた明海が、どうにか終着点を修正してくれる。ここが誰の目にも触れない場所なら、俺はガッツポーズを決めていたところだ。
「しょうがないかー。でも楽しみだな! みんなで旅行行けるとか!」
そんな井寄の高揚と共鳴するように、チャイムが高らかに音を奏でた。
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