#76 俺から、みんなへ
「そういえば、夏祭り!」
食堂での昼食中、正面の茂木に俺は身を乗り出して言った。
なぜ、茂木が前に座っているのか。これは、明海と喧嘩をしたとかではない。ただ、グループ内に二組目のカップルができたので、席替えが行われたのだ。
俺と明海は隣に座り、その前方に茂木と井寄。堂島と九条は従来の合コンスタイルだ。もし、堂島と九条が結ばれるようなことがあれば、座り方は困難を極めるだろう(堂島のサッカーへの恋が冷めるとは思えないが)。
「忘れかけてたよ、元々はそういう話だったね」
「ちょっと、しっかりしてよ」
「うっ……ごめん……」
不甲斐ない男子陣に、明海はため息を零す。一方、井寄の方はというと。
「え、何それ!? 私聞いてないんだけど!」
頬を膨らませて、分かりやすく不服を示していた。
「井寄が告白される前、茂木の背中を押すために俺が計画してたんだ。俺と明海、茂木と井寄でダブルデートをしようって」
「へー、すっごい面白そう! あ、でも……」
輝いた顔が、一瞬で影を帯びる。その視線の先には、堂島と九条の姿があった。
六人グループのうち、四人が集まって夏祭りに行く。そんな仲間外れのような構図に、不安を覚えているようだった。
「案じてくれるのは嬉しいが、残念ながら俺は参加できそうにない。夏休みは、大会に向けての合宿があってな。チームメイトはひと夏の思い出がむさ苦しくなると嘆いてたが、俺としてはサッカー漬けは望むところだ」
拳を合わせる堂島は、すでに気合い十分といったところだ。瞳に灯る炎が、錯覚だと確信を持てないほどに。
「私も、その時期は家の手伝いがあるから。日によっては、現地で会うことにはなるかもだけど」
「瑠璃、今年も踊るの?」
「……それ、あんま大きな声で言わないでよ」
九条は、指に髪を絡ませながら、井寄をじとっと睨みつける。踊り、というと祭事に関連した手伝いなのかもしれない。
いずれにしても、幸か不幸か四人一組での夏祭りになるようだ。別の機会にまた六人全員で出かけたいものだと、俺は新たな目標を立てる。それをすかさず青春ノートに書いていると、横から明海が尋ねてきた。
「ねね、夏祭り絡みでなんか書いてあることとかないの?」
「そうだな……」
俺はパラパラとページを捲り、この機会に実現できそうなものを探す。
「『彼女に着物を着てもらう』は鉄板だとして、これとかどうだ?」
ノートを机に置き指で指すと、明海以外の面々も中身を覗き込んできた。
「『お揃いの物を身に着けたい』か。いいじゃないか、僕達もやりたいくらいだよ」
「颯斗君もそういうの興味あるんだ……!」
「何言ってるんだ。僕だって付き合い立ての男子高校生なんだから、こういう青春の一つや二つ憧れてるものさ」
茂木の言葉で、俺はハッとする。入学前、このノートは『俺の叶えたい青春』を記したものだった。もちろん、それは今も変わらない。だが、こうして友達と共有することで、青春ノートは『みんなが叶えたい青春』を記したものへと変わろうとしている。
いいじゃないか、それ。俺はペンをノートの上に乗せ、みんなに向かって言う。
「もし、みんなが叶えたいことがあるなら、このノートに書いてほしい。高校生活はまだ長い、俺だけじゃなくて、みんなの青春を叶えてみたいんだ」
カチリ、と針が前に進んだような音が聞こえた。
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