#75 謝罪と真相:下
俺達が沈黙に支配されると、茂木が戸惑った調子でこう言った。
「えーっと……聞かれ待ちだったんだけど、結果言ってもいいかな?」
「あ、ああ……」
「うん、お願い」
顔を見合わせて、俺と明海は腹を括った。たとえどんな結果を告げられても、それを受け入れようと。言葉を交わさずとも、同じ決意を持っていることは分かった。
スピーカーから、ノイズ混じりの咳払いが聞こえてくる。それが、結果発表の合図だった。
「桃と付き合うことになったよ」
「え……」
「ってことは……」
「うん、告白の返事はオーケーだったんだ」
俺は、明海ともう一度顔を見合わせる。一連の内容が、俺の聞き間違いじゃなかったかを確かめたかった。
キョトンとした明海の表情を見て確信する。これは、事実なのだと。
「……おめでとう」
「ありがとう。それにしては、声が暗くないか?」
「いや、どうにも現実味がなくて……なぁ?」
「う、うん……びっくりしちゃった……」
応援する、協力すると言っておいてなんだが、さすがにこれは失敗だったんじゃないかと考えていた。告白するにしても、時期尚早すぎる。井寄の好きな人も分からないまま、大して距離を詰められていない今じゃ、可能性はほとんどないというのが俺の認識だった。
考えられる勝ち筋といったら、もう――
「まさか、一緒に帰っただけでメロメロにしたのか?」
俺の想定を上回るスピードで、茂木が井寄を惚れさせていた。それなら、今回の結果にも筋が通る(ような気がする)。
「それは、ちょっとまさかすぎるかな。実はね、僕も驚いたんだけど……」
そうして、茂木は井寄が家を訪ねてきてからの一部始終を語ってくれた。茂木の好意、隠していた嘘の暴露、井寄の涙、井寄の片思い相手。
「……じゃあ、井寄がずっと好きだったのは茂木で、茂木も前から井寄が好きだったってことか」
「中学の時から、ずっと両想いだったの!?」
「そうやって聞くと、嘘吐く必要って本当になかったんだな」
「でしょ! 本当に余計なことしてくれたよね!」
幻聴かと思った。なぜなら、俺の意見に同調したのは、ここにいるはずのない声だったから。
「……井寄か?」
「そうだよ、びっくりした?」
「そりゃ、するだろ」
「桃、どうしているの?」
「え、なんか聞き方ひどくない?」
明海がそう聞いてしまうのも無理なかった。電話という相手側が見えないシチュエーション、喋っているのは茂木だけ。そんな状況で急に井寄が登場し、呆気に取られていたのだ。
「私達が付き合い始めたって教えるまで、声出しちゃダメって言われてたんだー!」
最初からいたらネタバラシになってしまう、そんな悪戯じみた配慮を感じた。
「井寄は、全部聞いてるのか? ……茂木がどうして彼女がいるって嘘吐いてたか、とか」
「もちろん! っていうか、話すまで尋問したんだよ!」
胸を張ってそうな井寄の言い振りからして、『尋問』という響きよりも可愛げがあったことを察する。
だが、そうして全てを知ってなお、茂木と井寄が同じ空間にいること。その事実に、杞憂は一つ残らず消滅した。
「随分遠回りしたみたいだけど、友哉達のおかげで僕達の恋は成就した。感謝してもしきれないよ」
「二人ともありがとね! 私達も、二人に負けないくらい幸せなカップルになるから!」
後日、俺達の時と同じようにグループ通話で報告会が行われ、事の顛末が全員に共有された。
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