#74 謝罪と真相:上
結論から言うと、俺達は井寄に追いつくことができなかった。昇降口から出た時点で姿はなく、彼女がどこへ向かったかも分からない。重要な真実を聞かれたうえ、みすみす逃げられてしまった。
明海と話し合った結果、茂木に連絡を取ることにする。次は誰かに聞かれることがないよう、俺の家に場所を移した。
『今、時間あるか?』
『構わないよ』
返信はすぐにきた。俺達としても、この報告ができるだけ早くしたかったから都合がいい。
『大事な話があるから、電話する』
と送信してから、通話開始のボタンを押す。やがて、スマホから茂木の声が聞こえてくる。
明海に聞こえるようにと、音声をスピーカーモードへと変えてから俺は口を開いた。
「茂木、聞こえてるか?」
「問題ないよ。それで、大事な話っていうのは?」
仰々しい前フリとでも思っただろうか。だが、これは紛れもなく茂木にとって大事な話のはずだ。だからこそ、俺達は謝罪をしなければならない。
「最初に謝らせてくれ。茂木、悪かった。放課後、明海と話をしたんだ。その……茂木と井寄のことについて。それで、茂木は誰が好きだとかを口に出してて……それを井寄に聞かれた」
「ごめん! 誰もいないと思って気が抜けてた……」
「聞いてすぐに走っていったから、説得することもできなくて……。これからが大事な時期だったはずなのに、本当にごめん」
通話越しではあったが、話をしていると自然に頭が下がる。俺達の油断一つで、茂木の恋路が潰れるかもしれないのだ。責任を重く感じるに決まっている。
重々しい告白に、茂木はからっとした声で言った。まったくの、予想外の言葉を。
「夕夏もいたんだね。二人の仲が戻ったみたいで良かったよ」
「そんなことよりも、今は茂木の話だろ!? 井寄に全部聞かれたんだぞ? やっと、吐いた嘘を無かったことにできたのに……!」
「そのことなんだけどね」
俺の焦燥を打ち切るように、茂木は一際はっきりとした声を出す。茂木に話したいことがあると察した俺は、閉口するしかない。
「桃が向かった先は、僕の家だったんだよ」
感覚派、行動優先、そんな井寄が取りそうな選択だった。
仮に分かっていたとしても、茂木の家を知らないから止めに入ることはできなかっただろうが、もっと早く連絡をすることはできたはずだ。考えが至らなかったことを、俺は悔いる。
黙ったままの俺達に、茂木は続けた。
「知っての通り、その時の桃は僕の好きな人を聞いてきた。開口一番に、聞くつもりはなかったと謝られたんだ」
たまたま教室に戻ってきた井寄にとっては、通り魔みたいなものだっただろう。この発覚は、俺達の失態だ。
「……桃は、他になんか言ってた?」
「僕に、本当に自分のことが好きなのかって聞いてきたよ。もう好意はバレてるから、僕としても認めるしかなかったね」
「それって、告白したってことか?」
「あの回答は、そういう感じじゃなかったけど……告白はしたよ」
俺と明海に緊張が走る。あまりに前倒しのスケジュール。井寄の心がどこにあれど、もっと時間をかければ茂木にもチャンスがあったかもしれない。それなのに、こんな形で……。
どうだったか、それを聞けるほど俺も明海も図太い性格はしていなかった。
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