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#73 一難去って、また一難

ユニーク1400PV、ありがとうございます。

 そうして、無事に和解した俺達は、それぞれの近況について話した。もちろん、別行動を取っていた時のことだ。

 相変わらず、放課後の教室には部活動に励む生徒達の声が届く。部活がないのに未だ校内にいるのは、俺達くらいものだろう。だが、どうにもこのまま帰ろうという雰囲気にはならなかった。


「あー、あの時の堂島君ってやっぱり無理してたんだ」


「バレてたか……」


「うん、すっごい慌てたもん」


 茂木が彼女と別れていたと聞いて、動揺したという線だってある。しかし、これまでの堂島の印象からして違和感が募るのも無理はない。俺に話を聞き、明海は確信に至ったという感じだった。


「それにしても、瑠璃が手伝ってくれたのは意外だったな」


「俺もそう思うよ。ダメ元で頼んだら、あっさり『分かった』って」


「けど、瑠璃には何も話してないんでしょ?」


「……そうだな」


 昼休み、作戦を決行した時点で、俺は茂木に関する情報を九条には一切告げていなかった。実は、九条が茂木の真実(それも隠し通していた方)に勘付いていたと俺が知るのは、その後のことだ。

 それを加味しても、俺のあやふやな頼み事に二つ返事で了承したのは驚きだった(頼んでおいて、おかしな感想だとは思うが)。


「瑠璃といえば、この前二人でどっか行ってたよね?」


 痛いところを突かれた。いやまぁ、呼び出されたところを目の前で見られていたんだから、追及は避けられないだろうとは考えていた。それにしても、仲が戻ったこのタイミングで聞かれるとは。


「その……誠に申し訳ないのですが……」


「ん?」


「何があったかについては、聞かないでいただけると……」


 あれは、茂木だけでなく九条のプライバシーに関わるものだ。明海は茂木の秘密を知っているが、九条が俺を呼び出した目的は当然知らない。


 俺を連行した九条は、俺に聞きたいことがあると言った。そして、それを他の人に聞かれたくなかったとも言っていた。おそらく、茂木に彼女がいないという事実を、俺以外は知らないと踏んでのことだろうが、その読みが外れていたら問題なので、口を閉ざすことが最善だと判断した。


「やましいことがある……って感じじゃないよね」


「もちろんだ」


 今、自分がどんな表情をしているかは分からない。けれど、正面から見ていた明海が軽く息を吐いて、「じゃあいいよ」と言ってくれたことで、俺の誠意が伝わったのだと安心する。


「もし、裏切るようなことだったら、私許さないからね」


「分かってる。嘘を吐いていないと、命を賭けてもいい」


「そこまでしなくいいってば」


 若干引いた反応をする明海。あれ、覚悟を示す時って命を賭けるものじゃないのか?


「とりあえず、俺の方はそんなところかな。そっちは結局どうなんだ? たしか、井寄は好きな人を言ってなかったと思うけど」


「それがさ……」


 明海曰く、女子だけになっても井寄は意中の相手を口にすることはなかったらしい。意外にも、ガードが固かった。

 以前の口振りからして、九条は井寄の思い人を知っているのだろう。となると、三人の中で知らないの明海だけ。


「恥ずかしいのは分かるけど、少しだけ寂しかったよね……」


 疎外感を抱いたのだと、明海は落ち込んだ様子で呟いた。俺には、その手を握ることくらいしかできなかった。


「ん、ありがと」


 僅かに和らいだ表情になった明海は、話を再開する。


「相手は分からないけど、好きな人にアタックするならどうするか。大体は、そんな話しかしてないかな」


「なんか、全然具体的じゃないな」


「そうだね、定番はこうだよねみたいな意見を共有しただけというか」


 相手が分からない以上、刺さりそうな作戦を練ることもできない。霧の中を歩くような、不安定な会話だったことは想像に難くなかった。


「たしか、中学の頃からずっと好きなんだよな。茂木もだけど、井寄も一途だよな」


「私だって一途だからね? 小学生の時から、ずっと新宮君のこと好きなんだから」


「お、おう……ありがとう」


 いきなり直球で好意をぶつけられ、俺の心を衝撃が襲う。こういうのは、事前に通知してくれないと心臓がいくつあっても足りないぞ……。


「私、ちゃんと桃の力になれてるのかな。モテ男君はさ、新宮君のおかげでずっと好きだった桃にアタックできるようになったわけだけど――」


 と、明海の言葉が中断されたのには、理由があった。開け放たれた教室の扉、その向こうから電子音が聞こえてきたのだ。それはまるで、スマホに連絡が来た時に鳴るような、軽快な音。

 決定的だったのは、直後に鳴り響いた廊下を駆ける足音だ。もしかしたら、俺達の話を聞かれていたかもしれない。


 人気がないからと油断していた。嫌な予感がした俺は、席を立ち、盗み聞きをしていた人物の正体を追おうとする。

 廊下に出た視線の先、早足で階段へと消える影――そこから伸びるピンク色のツインテールを捉えた。


「新宮君……!」


 背後から、明海が呼びかけてくる。咄嗟に俺についていこうとしたせいで、息は上がっている。


「さっきの会話を聞かれた」


「誰だったの?」


 最悪の結末。一番避けるべき事態。形容する語なら、いくらでも出てくるだろう。

 俺は歯を食いしばり、明海にもこの窮地を共有した。


「……井寄だ。井寄に、全部聞かれた」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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