#72 恋を知る
「え……?」
明海は、呆気に取られた声を零す。その声の意図を掴めずに、俺は明海へと向き直った。
反射的だったとはいえ、自分の行動に驚く。抱えていたものを口に出したおかげで、明海と対面することへの恐怖が薄れたのだろうか。
そうして明海を見て、知った。多分、明海は最初からずっと俺を見てくれていたのだ。向き合う形になったことで、そのことを認識する。始めから、逃げていたのは俺だけだったのかもしれない。
「えっと……ごめん、もう一回言ってもらってもいい?」
「そ、そうだよな……! 急に色々言われても混乱するよな……!」
「あ、そうじゃなくて……」
明海と目が合う。しかし、それはすぐに逸らされてしまう。視界に入った明海の耳は、心なしか赤く染まっているようだ。
「好きだって言われて、嬉しかったから……。だから、もう一回言ってほしい」
ごくりと、唾が喉を通った。潤んだ瞳で、上目遣いで見つめられ、体温が上がるの感じる。
正直、さっきは半ば勢いで口にした。気持ちを溢れさせるように言葉にした。ということもあって、改めて『もう一回』と言われると、俺としても緊張してしまう。
明海は依然として待ちの姿勢だ。おそらく、俺の決心がつくまで動く気はないのだろう。
「あ、明海……」
絞り出すように、俺は彼女の名前を呼ぶ。それに合わせて、明海の唇が引き結ばれた。俺だけじゃない、明海も緊張しているんだ。
それが分かっただけでも、一つ、俺には嬉しい事実だった。あの隔たりがあった間に、愛想を尽かされたわけじゃないと。明海がまだ、俺を好きでいてくれると知れたから。
「明海、好きだ」
自分にも浸透させていくように、ゆっくり、じっくりと好意を紡ぐ。そう、俺は明海が好きなんだ。不確かで曖昧な情動ではなく、確固たる自覚を持った意思として。
俺は、どうして明海が好きなのか。いつかの題目が蘇る。
「側にいてくれて心強かった、一緒にいて楽しかった、同じ時間を過ごして、大切にしたいと思った。明海には、俺の隣にいてほしい」
ひと息でそう言った後、俺は照れ臭くなって「きっと、これが恋ってことなんだよな」と笑う。
『感情に答えを出すのなんて、付き合ってからでも遅くないよ』
以前の茂木の発言を思い出す。ようやく、俺は自分の思いに答えを出すことができた。一時的とはいえ、別れを経験することで、俺は前に進むことができた。これが、困難が成長を呼ぶというやつなのだろうか。
「新宮君も、私に恋してくれたんだね」
「そうだな、やっと分かった気がするよ」
「うん、嬉しい。これで、本当に両想いだ」
喜びを満面に浮かべる明海に、思わず頬がほころぶ。また一歩、明海との距離を縮められた。そんな実感が、全身に広がる。
ふと、唇に柔らかい感触が伝わった。一瞬、脳の処理が遅れて何が起きたかを理解する。浮かせた腰を戻すという明海の動きが、その裏付けとなった。
「えへへ、またキスしちゃった」
はにかんだ笑みを向けられ、胸が大きく高鳴る。そして、再認識した。俺が好きになったのは、こんなにも魅力的な人なのだと。
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